55 / 111
第五章 鬼畜高校生vs復讐鬼
第55話 賽銭箱と空っぽの愛
しおりを挟む
白大虎を倒すと、装備の強化を始めた。
ゲーム世界の魔法効果が付いた装備は作れなかった。
斬撃耐性や打撃耐性を諦めると、普通に合金製の刀と頑丈な服を作った。
必要な物は強さだけだ。それ以外は作る価値がないゴミだ。
「そろそろ時間か」
時計を見ると総理と会う約束の時間になった。
瞬間移動のボタンを押して、国会議事堂にある独房に向かった。
「すみません。お待たせしました」
指定された独房の前に到着すると、短い黒髪と眼鏡をかけた総理が待っていた。
偽総理が死んだ影響で、今は事件の後処理に多忙な日々を送っている。
特に記憶が戻った少女達の心のケアが大変だと言っていた。
「私も今来たところだ。顔色がだいぶん良くなっている。これなら渡しても問題なさそうだ」
総理がA4サイズの大きな茶封筒を渡してきた。
口を開けて見ると、かなりの枚数の書類が入っていた。
「国内の怪しい団体、企業、個人の一覧だ」
「こんなにあるんですか?」
数日で調べてくれたのは感謝するけど、流石に多すぎる。
一人で調べるのは苦労しそうだ。
「おそらく氷山の一角だ。骨董品の贋作や製造元不明の銃器、未知の危険ドラッグなど、扱っている品物は幅広いが、いくら調べても入手先が不明だった」
「賽銭箱で作った可能性があるという事ですか」
どうやら少しは調べる価値はありそうだ。
賽銭箱で代表者や側近の居場所を、教えて欲しいと願えばいい。
願いを拒否されたら、賽銭箱を持っている可能性大だ。
「ありがとうございます、早速調べてみます」
「ちょっと待ってほしい」
「はい?」
お礼を言って帰ろうとすると、総理に呼び止められた。
「その中でも一番怪しいのが、宗教法人『八卦会』だ。捕まえた偽議員の証言で、偽総理が何度も訪れている事が分かった。調べるのならば、十分に注意した方がいい」
「八卦会ですか……分かりました、また何かあったらよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。支援は惜しまない」
偽総理が関係しているのなら、ちょうどいい。
その八卦会が悪ならば、遠慮なく潰させてもらう。
エミリも多少は不快になるだろう。
キャンピングカーに戻ると、書類の怪しい人物を願いで調べていく。
願いを拒否されなかった人物は崖を登らすに、ギブアップして除外していく。
「やはりハズレが多い」
名前の横にバツ印が増えていく。
賽銭箱で作った商品を販売するだけの、下請けのような存在なんだろう。
一人捕まえて脅していけば、賽銭箱を持つボスに辿り着けるかもしれない。
「たったの三人だけか」
書類に書かれた全員を調べ終わった。賽銭箱を持つ人間は、五百八十九中三人しかいなかった。
一人は総理が注意するように言っていた、八卦会の宗主『天嶌蘭瞳』だ。
残り二人は古美術商と宝石商の男だった。本物のコピーを賽銭箱で作って販売しているようだ。
「メインディッシュは最後に取っておくか」
まずは小物二人を狙う。大物は最後だ。住所を調べて、瞬間移動を使った。
贋作販売は廃業してもらう。
♢
「これでいいんだろ?」
二人を殺して賽銭箱を手に入れた。
ベッドの上のボロ賽銭箱の前に、濃い茶色の賽銭箱を二つ並べた。
殺されると思わなかったのか、二人とも普通の人間みたいに弱かった。
死体は別の無人島に捨てて来た。
『どちらも特定の願いしか叶えられない最下級の賽銭箱のようだ』
「使えないのか?」
心配で聞いてみた。使えないなら殺す前に言ってほしい。
『無いよりはマシだ。三つの賽銭箱にお金入れて、三つの賽銭箱よ、一つになれと願え。それで終わりだ』
「それは簡単だな」
問題はなさそうだが、期待は出来そうにない。
五円玉を三つの賽銭箱に入れて願いを言った。
「三つの賽銭箱よ、一つになれ」
『その願いを叶えよう』
「んっ?」
三つの異なる声が同時に聞こえると、ボロ賽銭箱に二つの賽銭箱が吸い込まれ。
何か変化が起こるかと思ったのに、ボロ賽銭箱のままだった。
「これで終わりか? 変わったようには見えないな」
『無いよりはマシだと言った。それに処女の純潔がまだ足りない。力を得たいのならば、集める事だ』
「それはあまり気が乗らない。他の賽銭箱を集めるだけじゃ駄目なのか?」
藤原さんと薫が死んでいるのに、他の女と楽しくエッチなんか出来るはずがない。
それに大切な人が出来てしまって、その人がまた殺されてしまったら耐え切れない。
『それは無理だ。お前が力を得るのに必要なものだ。死人を救いたければ、手段は選ばない事だ』
「分かっているよ。でも、今はそういう気分にはなれないんだ」
『遅かれ早かれやらなければならない事だ。誰も運命からは逃げられない』
「……」
俺が望んだ運命じゃない。俺が望んだのは幸せな日々だ。
こんな車の中で、一人で食事を食べる日々じゃない。
父さんに会いたい、母さんに会いたい、薫に会いたい、家族で食事したい。
『それともお前は助ける事を放棄するのか? この先、誰も愛さずに一人で居続けるのか? だとしたらお前には失望した。不可能を叶える資格はない。この島で死ぬまで墓守りでもする事だ』
「お前には感情がないのか? 家族が殺されて、恋人が殺されて、そんな状態で出来る人間なんていない」
人の気持ちを無視して、賽銭箱が無茶苦茶な事を言ってくる。
今の俺には誰かを愛したいと思える気持ちがない。
空っぽの愛で、それでも精一杯頑張って、皆んなを助ける為に動いている。
これ以上頑張るなんて無理だ。
『お前が感情を語るか。お前は恐れているだけだ。自分に関わる人間が死ぬ事を、そして、死んだ人間を生き返らす事は出来ないと諦めている。お前の家族は二回殺された。最初は女に、次はお前だ。諦めるという事はそういう事だ』
「諦めていない。勝手な事を言うな」
諦めた瞬間なんて一秒もない。俺に出来るか信じられないだけだ。
『思うだけでは願いは叶わない。助けたいと思っているなら、助ける為の行動をしろ』
「ぐっ! いちいち言われなくても、そんなの分かっているよ! お前に俺の何が分かるんだよ!」
我慢できなかった。賽銭箱を掴んで壁に投げつけた。
上から目線で俺の事を全部分かっているフリをされるのは、もうウンザリだ。
『……お前の事は分からなくても、人間の事は分かる。愛の無い人間は生きられない。お前が誰かを愛する事は出来なくても、誰かから愛される事は出来る。藤原美鈴の友人が神社にお参りした。何があったのか教えて欲しいそうだ。教えるついでに純潔を奪えばいい。彼女は処女だ』
「俺に愛される資格なんてない」
藤原さんの友人とは、多分、成宮玲奈の事だろう。
藤原さんと連絡が付かないから心配しているんだ。
俺の家族と藤原さんの家族は行方不明ではなく、総理の提案で家族の急な仕事で留守になっている。
いつまでも持たない嘘だけど、総理は何とかすると言っていた。
『それを決めるのはお前ではない。彼女だ。大切な友人を救う為に、自分の大切なものを捧げる行為も愛だ』
「愛か……」
ベッドから降りると賽銭箱を拾った。
純潔はどうでもいい。誰かと藤原さんの話がしたい。
賽銭箱から手鏡を取り出して、隠しカメラで玲奈が自宅にいるか確認した。
白い半袖シャツと青色の長いジーンズを履いて、少し散らかった部屋でスマホの画面を見ている。
瞬間移動を二本取り出して、自宅からキャンピングカーに連れ去った。
ゲーム世界の魔法効果が付いた装備は作れなかった。
斬撃耐性や打撃耐性を諦めると、普通に合金製の刀と頑丈な服を作った。
必要な物は強さだけだ。それ以外は作る価値がないゴミだ。
「そろそろ時間か」
時計を見ると総理と会う約束の時間になった。
瞬間移動のボタンを押して、国会議事堂にある独房に向かった。
「すみません。お待たせしました」
指定された独房の前に到着すると、短い黒髪と眼鏡をかけた総理が待っていた。
偽総理が死んだ影響で、今は事件の後処理に多忙な日々を送っている。
特に記憶が戻った少女達の心のケアが大変だと言っていた。
「私も今来たところだ。顔色がだいぶん良くなっている。これなら渡しても問題なさそうだ」
総理がA4サイズの大きな茶封筒を渡してきた。
口を開けて見ると、かなりの枚数の書類が入っていた。
「国内の怪しい団体、企業、個人の一覧だ」
「こんなにあるんですか?」
数日で調べてくれたのは感謝するけど、流石に多すぎる。
一人で調べるのは苦労しそうだ。
「おそらく氷山の一角だ。骨董品の贋作や製造元不明の銃器、未知の危険ドラッグなど、扱っている品物は幅広いが、いくら調べても入手先が不明だった」
「賽銭箱で作った可能性があるという事ですか」
どうやら少しは調べる価値はありそうだ。
賽銭箱で代表者や側近の居場所を、教えて欲しいと願えばいい。
願いを拒否されたら、賽銭箱を持っている可能性大だ。
「ありがとうございます、早速調べてみます」
「ちょっと待ってほしい」
「はい?」
お礼を言って帰ろうとすると、総理に呼び止められた。
「その中でも一番怪しいのが、宗教法人『八卦会』だ。捕まえた偽議員の証言で、偽総理が何度も訪れている事が分かった。調べるのならば、十分に注意した方がいい」
「八卦会ですか……分かりました、また何かあったらよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。支援は惜しまない」
偽総理が関係しているのなら、ちょうどいい。
その八卦会が悪ならば、遠慮なく潰させてもらう。
エミリも多少は不快になるだろう。
キャンピングカーに戻ると、書類の怪しい人物を願いで調べていく。
願いを拒否されなかった人物は崖を登らすに、ギブアップして除外していく。
「やはりハズレが多い」
名前の横にバツ印が増えていく。
賽銭箱で作った商品を販売するだけの、下請けのような存在なんだろう。
一人捕まえて脅していけば、賽銭箱を持つボスに辿り着けるかもしれない。
「たったの三人だけか」
書類に書かれた全員を調べ終わった。賽銭箱を持つ人間は、五百八十九中三人しかいなかった。
一人は総理が注意するように言っていた、八卦会の宗主『天嶌蘭瞳』だ。
残り二人は古美術商と宝石商の男だった。本物のコピーを賽銭箱で作って販売しているようだ。
「メインディッシュは最後に取っておくか」
まずは小物二人を狙う。大物は最後だ。住所を調べて、瞬間移動を使った。
贋作販売は廃業してもらう。
♢
「これでいいんだろ?」
二人を殺して賽銭箱を手に入れた。
ベッドの上のボロ賽銭箱の前に、濃い茶色の賽銭箱を二つ並べた。
殺されると思わなかったのか、二人とも普通の人間みたいに弱かった。
死体は別の無人島に捨てて来た。
『どちらも特定の願いしか叶えられない最下級の賽銭箱のようだ』
「使えないのか?」
心配で聞いてみた。使えないなら殺す前に言ってほしい。
『無いよりはマシだ。三つの賽銭箱にお金入れて、三つの賽銭箱よ、一つになれと願え。それで終わりだ』
「それは簡単だな」
問題はなさそうだが、期待は出来そうにない。
五円玉を三つの賽銭箱に入れて願いを言った。
「三つの賽銭箱よ、一つになれ」
『その願いを叶えよう』
「んっ?」
三つの異なる声が同時に聞こえると、ボロ賽銭箱に二つの賽銭箱が吸い込まれ。
何か変化が起こるかと思ったのに、ボロ賽銭箱のままだった。
「これで終わりか? 変わったようには見えないな」
『無いよりはマシだと言った。それに処女の純潔がまだ足りない。力を得たいのならば、集める事だ』
「それはあまり気が乗らない。他の賽銭箱を集めるだけじゃ駄目なのか?」
藤原さんと薫が死んでいるのに、他の女と楽しくエッチなんか出来るはずがない。
それに大切な人が出来てしまって、その人がまた殺されてしまったら耐え切れない。
『それは無理だ。お前が力を得るのに必要なものだ。死人を救いたければ、手段は選ばない事だ』
「分かっているよ。でも、今はそういう気分にはなれないんだ」
『遅かれ早かれやらなければならない事だ。誰も運命からは逃げられない』
「……」
俺が望んだ運命じゃない。俺が望んだのは幸せな日々だ。
こんな車の中で、一人で食事を食べる日々じゃない。
父さんに会いたい、母さんに会いたい、薫に会いたい、家族で食事したい。
『それともお前は助ける事を放棄するのか? この先、誰も愛さずに一人で居続けるのか? だとしたらお前には失望した。不可能を叶える資格はない。この島で死ぬまで墓守りでもする事だ』
「お前には感情がないのか? 家族が殺されて、恋人が殺されて、そんな状態で出来る人間なんていない」
人の気持ちを無視して、賽銭箱が無茶苦茶な事を言ってくる。
今の俺には誰かを愛したいと思える気持ちがない。
空っぽの愛で、それでも精一杯頑張って、皆んなを助ける為に動いている。
これ以上頑張るなんて無理だ。
『お前が感情を語るか。お前は恐れているだけだ。自分に関わる人間が死ぬ事を、そして、死んだ人間を生き返らす事は出来ないと諦めている。お前の家族は二回殺された。最初は女に、次はお前だ。諦めるという事はそういう事だ』
「諦めていない。勝手な事を言うな」
諦めた瞬間なんて一秒もない。俺に出来るか信じられないだけだ。
『思うだけでは願いは叶わない。助けたいと思っているなら、助ける為の行動をしろ』
「ぐっ! いちいち言われなくても、そんなの分かっているよ! お前に俺の何が分かるんだよ!」
我慢できなかった。賽銭箱を掴んで壁に投げつけた。
上から目線で俺の事を全部分かっているフリをされるのは、もうウンザリだ。
『……お前の事は分からなくても、人間の事は分かる。愛の無い人間は生きられない。お前が誰かを愛する事は出来なくても、誰かから愛される事は出来る。藤原美鈴の友人が神社にお参りした。何があったのか教えて欲しいそうだ。教えるついでに純潔を奪えばいい。彼女は処女だ』
「俺に愛される資格なんてない」
藤原さんの友人とは、多分、成宮玲奈の事だろう。
藤原さんと連絡が付かないから心配しているんだ。
俺の家族と藤原さんの家族は行方不明ではなく、総理の提案で家族の急な仕事で留守になっている。
いつまでも持たない嘘だけど、総理は何とかすると言っていた。
『それを決めるのはお前ではない。彼女だ。大切な友人を救う為に、自分の大切なものを捧げる行為も愛だ』
「愛か……」
ベッドから降りると賽銭箱を拾った。
純潔はどうでもいい。誰かと藤原さんの話がしたい。
賽銭箱から手鏡を取り出して、隠しカメラで玲奈が自宅にいるか確認した。
白い半袖シャツと青色の長いジーンズを履いて、少し散らかった部屋でスマホの画面を見ている。
瞬間移動を二本取り出して、自宅からキャンピングカーに連れ去った。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる