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第五章 鬼畜高校生vs復讐鬼

第54話 白大虎と老師

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「はぁ、はぁ……」

 美鈴に薫、父さんに母さん、藤原さんの家族を無人島に連れて来た。
 真っ暗な闇の中、ランプの明かりを頼りに、地面をスコップで掘り続ける。

 この死んだ身体を冷凍保存しても意味がないそうだ。
 魂がこの身体に戻っても、すぐに死んでしまう。
 魂が戻せるのなら、新しい身体を作って、その身体に戻すしかない。

「お休み、少しだけ待ってて」

 二つの家族を二つの穴の中に、川の字に並べた。家族一緒なら寂しくないはずだ。
 お墓じゃないから、手は合わせずにキャンピングカーに戻った。

「まずは賽銭箱の情報を集めよう」

 やる事は決まっている。処女の純潔よりも賽銭箱を手に入れる方が難しい。
 賽銭箱を手に入れる方法は、賽銭箱に選ばれるか、賽銭箱を持っている人から継承するか、この二つだ。
 特殊な力を隠し続ける事は無理だ。必ず不思議な現象として報告されている。

「一人で探すのは効率的じゃないな。賽銭箱探しは総理に頼もう」

 手段は選んでいられない。使えるものは全部使う。

 そして、次は絶対にエミリに負けない。
 単純計算で俺が与えた強化薬、複数の賽銭箱の力を使ったエミリの強さは俺の三倍だ。
 家族を生き返らせても、また殺されたら意味がない。邪魔する人間は排除する。

「どんな難しい試練でもいい。俺を強くしてくれ」
『その願いを叶える事は出来る。願いを叶えたければ、難しい試練を乗り越えろ』

 強くなければ大切な人も守れないなら、誰よりも強くなるだけだ。
 賽銭箱に吸い込まれて、放り出された。

『ここは虎山こざんだ。多数の大虎の住処であり、武器は使えない。己の肉体のみを使い、大虎の中に一頭だけいる白い大虎を倒せ。四時間以内に倒す事が出来れば、お前を強くしてやろう。さあ、難しい試練を乗り越えろ』

 神爺の説明が終わった。周囲をどこまでも続く竹林に囲まれている。
 空は青く、空気は少し寒い。武器が使えないのはちょうどいい。
 偽総理もエミリも格闘術が得意だった。
 大虎を倒せるぐらいに強くならないと、また手も足も出せずに負けてしまう。
 ここで強くなるしかない。
 
「黄色か……」

 薄緑色の竹林の中を真っ直ぐに歩いていく。緑色の中に黄色い塊が揺らいでいるのが見えた。
 大虎というだけあって、大きさは象ぐらいはありそうだ。
 普通の人間では勝てない相手だが、二メートルのゴブリンは倒した事がある。
 頭の天辺の高さが三メートルぐらいなら、絶対に倒せない相手じゃない。

「グガァーッ!」
「正面からは無理だな」

 黄色い大虎がひと吠えすると向かってきた。
 近くの竹に飛び着いて、上に向かって素早く登っていく。

「ぐっ!」

 登っている途中で竹が大虎にへし折られた。
 竹が地面に向かって折れていくが、その前に別の竹に飛び移った。
 意味のない無駄な戦いをするつもりはない。獲物は白い大虎だけだ。

「やっと行ったか」

 大虎が俺を見失って諦めたようだ。竹の天辺近くで離れていく大虎を見送った。
 危険だが、竹をしならせて、別の竹に飛び移って進んだ方が安全そうだ。
 崖登りで高い場所は慣れている。失敗しても、次は失敗しないように気をつける。

「くっ、くそ……!」

 キャンピングカーのベッドに戻された。
 何度も失敗して、ようやく見つけた白い大虎に敗れた。刀や銃に頼り過ぎた所為だ。
 渾身の足蹴りでも、身体を少し動かせる程度だった。

 ステータスはもう限界まで上げている。ステータス強化薬は俺には効果はない。
 残る方法は、エミリのように元の肉体を地道に鍛えるしかない。
 だけど、そんな何ヶ月もかかる事をするつもりはない。

「もう一度だ!」

 五円玉なら、全部の一万円を両替して何万枚でも用意できる。
 試練を失敗するたびに、少しずつ強くなっていると信じて続けるしかない。

 ♢

「セィッ! セィッ!」

 大木に青色の分厚いマットがロープで縛り付けられている。
 そこに向かって、ひたすらに拳や蹴りを打ち続ける。

 総理に賽銭箱探しを頼むと、賽銭箱に剣術と格闘術を教えて欲しいと願った。
 まだ白い大虎は倒せていない。肉体だけじゃ倒せない。技術も磨かないと勝てない。
 制限時間がない試練で、小林寺の境内で老師と二人っきりの修業を繰り返す。

「強さに限界はないが、人間には限界がある。だが、人間の欲には限界はない。人間の欲が生み出した偽りの強さ……それが武器であり技だ。偽りの力では何も手には入らない。強さとは手に掴む事の出来ない空気だ。だが、過酷な修業の先に空気を掴む者が現れるのも事実だ。実体なきもののこつを掴み取れ。偽りを手に掴め」

 背後に立つ老師が武術の真髄を語りかけてくる。意味は分からない。強くなった実感もない。
 今はその骨というものがあると信じて、掴み取るまで修業を続けるしかない。

「セィッ! セィッ!」

 老師の世話をしながら、修業を続け、三年の月日が過ぎた。悲しみを癒すには十分な時間だ。
 それなのにまだ武術の骨は掴めていない。

「うむ。そろそろいいな。遥、やめよ」
「はっ。なんでしょうか?」

 背後の老師に言われて、大木を殴る修業をやめた。

「武術の基本はすでに出来ている。あとは目的を果たすのみだ。最後の修業を言い渡す。お前を破門する。目的を果たすまで戻る事を禁ずる」
「ですが、まだ骨が掴めていません! あと一年だけお願いします!」

 破門を言われても、まだ強くなった自信がない。
 もっと強くならないと絶対的な自信が持てない。

「無駄だ。ここにお前が掴みたいものはない。そして、幻の世界で掴めるものもない。現実に戻る時だ」
「うっ……!」

 老師の右目だけが銀色に光ったと思ったら、視界が歪んで地面に倒れてしまった。
 そのまま意識を失うと、キャンピングカーのベッドの上に戻されていた。

「ぐぅぅ、強制退場されるとは思わなかった」

 久し振りに現実に戻った所為か、三年間の大量の情報が頭に流し込まれているようで、クラクラする。
 アップデートされていると思うしかない。頭の痛みが治るのを待って、白大虎の試練に挑んだ。
 これで倒せないなら、老師のクソ野郎と罵って、便所に頭から突き落としてやる。

「グガァーッ!」

(動きが軽い)

 遭遇した黄色の大虎の前足による攻撃を、飛び上がって躱して、左肩を左手で鷲掴みにした。
 振り落とされないように、肉に指を突き刺して、右拳で左肩の一点を激しく連打する。
 十二撃の連撃で、大虎の骨が砕ける手応えを感じた。

 修業をする前の拳は振り回していただけだ。今はキチンと打ち込めている。
 当たればいいだけのデタラメなパンチじゃない。狙った場所だけを破壊する凶器だ。
 背中を両手で掴んで、首の後ろまで移動すると、今度は首の骨を破壊するまで殴り続ける。

「やっと倒せたか」

 首骨を粉砕して、首の肉を指で抉り取り、やっと大虎が地面に力尽きた。
 両手が血に染まっている。気分は良くも悪くもない。まだ目的を何も果たしていない。
 当たり前の事が出来ただけだ。喜びも達成感も感じる資格は俺にはない。
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