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第四章 最低高校生vs美少女三人

第47話 第一の女vs第三の女

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 コン、コン……

「うっ!」

 エミリのステータスを上げる為に薬を作っていると、扉から不吉な音が聞こえてきた。
 誰なのか冷たい気配で分かっているけど、この状況は非常にマズイ。
 掛けたはずの鍵が勝手に開こうと動いている。藤原さんが帰って来た!

「お兄ちゃん、女の人の声が聞こえたけど、誰か来ているの?」

 合鍵で部屋の鍵を開けて、藤原さんが微笑みを浮かべて入ってきた。
 家族の前だけ作り笑いを浮かべて、お兄ちゃんと呼んでくれる。

「えーっと、うん! クラスメイトの蒼桜エミリさん。日本の家に興味があるから見学に来たんだ」
「へぇー、そうなんだぁー。初めまして、妹の薫です。お兄ちゃんの彼女ですか?」

 藤原さんの瞳孔が床の賽銭箱を見て、恐ろしく開いたけど、ケーキ屋には行ってません。
 藤原さんがいない間に、部屋に女の子を連れ込んで変な事はしません。

「no。彼女じゃなくて、助手でぇす。エッチな事はしませぇん。おっぱいまでの関係でぇす」
「へぇー、そうなんですかぁー。おっぱい大きいから、羨ましいなぁー。私の小ちゃくなっちゃったから……誰かさんの所為で」
「うっ!」

 藤原さんが制服越しに胸を触った後に、何故か俺の方を見てきて言った。
 俺も程々に大きい方が好きだから、小さくなって欲しいとは一度も思った事ないです。
 俺の所為じゃないです。俺は無実です。

「大丈夫ですねぇ。大きくなる揉み方ありまぁす。揉み揉みしましょうかぁ?」
「いえ、いいです。ちょっとお兄ちゃんを借りてもいいですか?」

 女の子同士の触り合いを見たかったけど、藤原さんが素早く断った。
 しかも、俺を人気の無い場所に連れて行くつもりだ。

「ok。どうぞでぇす」
「お兄ちゃん、私の部屋に行こうか?」
「はい……」

 嫌と言える空気じゃない。断った瞬間に殺される。
 藤原さんが微笑みを浮かべて命令してきた。素直に従うしかない。
 賽銭箱を持って、項垂れて一緒に部屋を出て、隣の部屋に入った。

「……神村君、あの女、誰?」

 扉の鍵が閉められると、藤原さんの声が一段と冷たくなった。
 さっき紹介した通りのただのクラスメイトです。
 ……では、絶対に納得してくれない。

「実は二人を戻す方法を相談してたんだ。海外目線の意見も聞こうと思って……」
「おっぱい揉みながら、相談なんて出来ないよね? もう新しい女を見つけて来たの?」

 藤原さんがベッドに座り、俺はその前で項垂れて報告する。
 藤原さんが俺をどう思っているのか分かったけど、俺はそこまでの節操無しの変態じゃない。
 もう何日も何もしていない。藤原さん以外の女の子とは、もう寝ないと決めている。

「違うよ、藤原さん。俺が好きなのは藤原さんだけなんだ。エミリはただの友達だよ」
「じゃあ、私がこの部屋に同級生の男の子と二人っきりでいたら、神村君はどう思う? 私が言いたい事分かるよね?」
「は、はい、軽率な行動を取りました。すぐに帰らせます」
「そうして」

 駄目だ。どんなに好きだと言っても信じてくれない。
 今は藤原さんを怒らせないように、素直に言う事を聞き続けるしかない。
 静かに歩いて、鍵を開けて、扉を開けた。

「あっ」

 扉を開けると、廊下にエミリが立っていた。盗み聞きしていたようだ。
 俺を押し退けると、そのまま部屋の中に入ってしまった。

「ちょっといいですかぁ?」
「あっ、はい!」

 エミリが藤原さんの前で立ち止まると、藤原さんが慌てて立ち上がった。
 薫の身体は身長百五十三センチだ。
 身長差が十センチ以上もあるから、エミリに藤原さんは見下ろされてしまう。

「一年生になったら、日本では友達百人作るそうですねぇ。その友達は全員同性じゃないと駄目なんですかぁ?」
「えーっと、それは……」

 よく分からないけど、何かの例え話をするつもりみたいだ。
 ほとんど知らない女に変な質問をされて、藤原さんが困っている。

「エミリが女だから、遥と仲良くするのは駄目なんですよねぇ。でも、遥はエミリのタイプじゃないでぇす。あれとキスするぐらいなら、その辺のカエルとした方がマシでぇす」
「お兄ちゃんの顔はそこまで酷くないです」
「ふぅー、哀れな身内びいきですねぇ。可哀想ですけど、遥は下の中です」

 両手を左右に広げて、お得意の信じられないポーズをしている。最低でも下の上はある。
 イケメン集団の中に一人だけ俺を入れなければ、絶対に中の中はある。

「……中の上はあるもん」
「what? 何か言いましたかぁ? とにかくエミリ達の邪魔しないでくださぁい。いいですねぇ!」
「あん!」

 藤原さんが何も言い返せずに、一方的にエミリが喋りまくっている。
 どう見ても俺を庇うつもりはない。俺の悪口を言っているだけだ。
 失礼にも、藤原さんの胸を人差し指で小突いている。

(うぅぅ……藤原さん、ありがとう)

 小声で藤原さんが言ったけど、俺には聞こえていた。幻聴ではない。
 中の上だと藤原さんが言ってくれて嬉しいけど、上ではないんだね。
 うん、分かっている。自分でも分かっているから、もう何も言わないで……。

「ふっ。遥、部屋に戻りますよぉ」
「このぉ……!」

 廊下に棒立ちになっている俺に向かって、部屋から出て来たエミリが親指を立てて笑った。
 生意気な妹を懲らしめましたよ、みたいな気分なんだろうけど、最悪のお節介だ。
 藤原さんが言い返せずに、めちゃくちゃ悔しがっている。あとで俺がめちゃくちゃ怒られる。

「ああいう束縛系の彼氏になると大変ですよぉ。アメリカでは同時に複数と付き合うのが基本でぇす。一対一じゃ、ハズレと付き合っても分かりませぇん。きっと自分がハズレだとバレるのが怖いんですねぇ」

 ……まだ言うか!
 部屋に戻ってもエミリの暴言が止まらない。あっちの常識はこっちの非常識だ。
 二股したら怒られるし、俺も藤原さんが他の男と寝るのは許せない。

「さっきは二股したら、怒っていたのに都合が良すぎだね」
「はいぃ? さっきの話は二股じゃないでぇす! 姉や妹に手を出す鬼畜野朗の話でぇす! 一緒にしないでくださぁい!」
「ご、ごめんなさい!」

(お、おっしゃる通りです!)

 余計な一言にエミリがブチ切れた。素早く両手を合わせて謝った。
 海外でも妹に手を出す男は、鬼畜野朗として共通認識されているようだ。

 ♢

「あぁー、疲れた」

 ステータス強化薬を作り終えると、エミリに便利な道具を考える課題を与えて、家に送って来た。
 相談してもほとんど参考にならなかったけど、一つだけ仲直りの可能性を見つけた。
 俺が整形してイケメンになれば、藤原さんがもう一度惚れ直すかもしれない。

 イチモツと同じで、顔は男の第二の武器だ。女と同じで顔が良ければ、ある程度は許される。
 世界のイケメンをスマホで調べて、五円整形に挑戦した。

『本当にそれでいいのか?』
「えっ?」

 イケメンにして欲しいと願ったら、部屋が真っ暗になり、賽銭箱が質問してきた。

『姿形を変えるという事は、別人になるという事だ。お前ではない、他の人間を好きにさせるという事だ。それは諦めたのと同じ事だ』
「いや、諦めてないよ。顔が変わっても、俺は俺だよ」

 賽銭箱にまで偉そうに説教されたくない。
 お前は黙って試練を出して、整形できる薬を俺に与えればいいんだ。

『この世に不変のものは存在しない。年を取れば姿は変わる、心も変わる。お前が愛した女は過去にしかいない。お前が愛した女はもうこの世にはいない。お前が知っているお前がこの世にいないように』

 でも、まだ話は続くみたいだ。賽銭箱が喋ってくる。

「俺はここにいる。藤原さんも隣にいる」
『心が入れ替わったと思い込んでいるだけかもしれない。本当にお前が思っている者が隣にいると言えるのか?』
「くっ! 何が言いたいんだよ!」

 可能性は無限にある。違うと言われたら、そうかもしれないと思ってしまう。
 いい加減に何を俺に伝えたいのか教えてほしい。

『選択までの残り時間は僅かだ。異なる精神と肉体は共存できない。精神は壊れ、肉体は肉の塊に変わる。お前の大切な者が二人死ぬ。お前が思う偽り無き真の愛を一つ選択せよ』
「なっ⁉︎ ちょっと待てよ! 話は終わってないぞ!」

 伝えたい事を全部伝えたみたいだ。真っ暗だった部屋が元に戻った。
 俺はまだ聞きたい事がある。賽銭箱に五円入れた。
 でも、何を言ってもお願いしても、何も反応しなくなってしまった。
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