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第四章 最低高校生vs美少女三人

第41話 本命と愛人の修羅場

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 記憶を消せる薬があるんだ。記憶を入れ替える道具があってもおかしくない。
 この状況は非常にマズイ。藤原さんに妹との肉体関係と浮気がバレた。

「薫、家に帰るぞ」
「えっ、学校は?」

 賽銭箱からどこでも瞬間移動を出すと、薫の手を握った。
 本物の藤原さんが気になる。体調が悪いと言って、学校を休もうとしていた。

「すぐに終わるから、その後に行けばいい」
「……お兄ちゃんのエッチ」

 お前が考えている事を家でやるつもりはない。薫の部屋をイメージして、ボタンを押した。
 景色が一瞬でピンクに変わった。部屋に置かれている物にピンクが異常に多い。
 ベッド、カーテン、ソファーまで薄いピンク色だ。

「ふわぁ! ど、どうして、私の部屋にいるの⁉︎」

 薫が瞬間移動に驚いている。
 それはお兄ちゃんが危機的状況で力を手に入れたからだ。

「藤原さん、起きている? 全然気づかなくて、ごめん」
「……」

 薫を無視して、藤原さんの背中に話しかけた。返事はない。
 ピンクの部屋のベッドに、ピンクの服を着たまま横向きで寝ている。

「お兄ちゃん! わ、わ、私が寝ているよ!」
「っ……お兄ちゃん」

 薫の驚いた声に藤原さんが反応した。
 寝返りを打って、こっちをジッーと見ている。

「その……おはよう、藤原……」
「兄妹なのに仲良いんだね。手なんか繋いで」
「あっ、えっ、こ、これは違うから!」

 赤く腫れた目で藤原さんが睨んでいる。
 凄く怒っているのが分かるから、慌てて薫の手を離した。

「別にいいよ。神村君がどこで、誰と、何をしようと私には関係ないんだから。早く元に戻して」
「うん、ごめん」

 藤原さんがゴミ虫を見るみたいに冷たい。あとで死ぬ程謝っても、絶対に許してくれない。
 二人を戻したら、記憶を消す薬を飲んでもらおう。忘れていた方が幸せな事はたくさんある。
 ……特に俺にとっては。

「藤原さんと薫の精神を入れ替える道具が欲しい」
『その願いを叶える事は出来ない』

 床に正座すると賽銭箱に五円入れてお願いした。言い方が悪かったようだ。断られてしまった。
 直接的な願いが駄目なのは知っている。記憶を消して、が駄目でも、記憶を消す薬はOKだ。

「藤原さんと薫の記憶を入れ替える薬が欲しい」
『その願いを叶える事は出来ない』
「うっ、このままだとラチが明かないよ」

 少し考えて言ったのに、また断られてしまった。言葉遊びに付き合うつもりはない。
 二人を入れ替えて早く学校に戻らないと、薫に二年生の授業を受けてもらう事になる。
 そんな馬鹿な真似は出来ない。

 藤原さんの学力が高校生二年生なら、薫の学力は中学二年生だ。
 藤原さんに薫のフリは出来ても、薫に藤原さんのフリは絶対に無理だ。
 同じ高校生でも、俺と同じで天と地程の差がある。

「藤原さんと薫の人格を元に戻す方法を教えて欲しい」

 自分で考えるよりも賽銭箱に聞いた方が早い。すぐに賽銭箱が喋り出した。

『二人を戻したければ、真に愛する者を一人選択せよ。心を愛するか、肉体を愛するか、選択も運命もお前次第だ』
「えーっと、どういう事だと思う?」

 だけど、聞いてもよく分からなかった。
 ベッドに座っている藤原さんと、床に座っている薫に聞いた。

「お兄ちゃんが好きな方を選べばいいんじゃない? この身体が好きなのか、私の身体が好きなのか、だよ」
「いや、それは……」

 薫が藤原さんの胸を揉んで、ベッドの自分の身体を指差して言った。
 心の綺麗な人が好きだと答えたいけど、人は見た目も大事だと思う。

「早く決めて。神村君はこっちの身体と、あっちの身体のどっちが好きなの?」
「いや、俺が好きなのは藤原さんだよ。でも、藤原さんの心と身体が別々だと、決められないというか……」

 不機嫌な藤原さんが薫と同じように、自分と薫の身体を指差して、強い口調で聞いてきた。
 そんなの決められるわけがない。藤原さんは美人なモデル体型で、薫は可愛いアイドル体型だ。
 モデルとアイドルのどちらか片方なんて選べない。

「ふぅーん、心だって即答しないんだ。妹ともエッチする神村君にはピッタリだね。寝れる女の子なら誰でもいいんでしょ」
「ち、違うよ! 誤解だよ! 薫とは仕方なくしただけで、自分から誘った事は一度もないから!」
「えっー! お兄ちゃん、嫌々、私とエッチしてたの! いつもいっぱいするから……」
「薫! お願いだから、今は静かにしてなさい!」
「むぅー!」

 これ以上藤原さんを怒らせたらいけない。余計な事を言おうとした薫を素早く叱った。
 薫とは三回しかしていない。たったの三回だけだ。一日の回数が少し多いだけだ。
 ケーキ屋には二十一回行ったけど、一日一回計算で数えれば、たったの三回だ。

「あれ? お兄ちゃんがこの人が好きで、エッチしたって事は……えっ! もしかして、お兄ちゃんの彼女⁉︎」
「違います。もう彼女じゃないです。別れました」
「うぅぅ……」

 叱られて膨れていた薫が、ようやく重大な事実に気づいたようだ。
 凄く驚いているけど、素早く藤原さんに否定されてしまった。

 薫、頼むから、お兄ちゃんの心をこれ以上傷つけないでほしい。
 お兄ちゃんが悪い事をして、自業自得で当然の報いだと分かっているけど、心が痛い。

「とにかく神村君がどっちか決めれば、元に戻れるんだよね? 私と妹、どっちが良いか決めて」
「そんなの藤原さんに決まっているよ」
「じゃあ、賽銭箱に早く言って」
「は、はい……」

 記憶を消したら、もう絶対に藤原さんを怒らせないようにしよう。
 ビシィ、ビシィと自分や薫、賽銭箱を指差して急かされる。

「藤原さんの心が好きです。優しくて可愛くて、普段は子供っぽいのに、いざという時に頼りになるところが好きです。押しに弱くて、エッチの時もお願いしたら、何でもしてくれるところが好きです。この前も右の生クリームぱいと、左のチョコレートぱいを食べながら……」
「へ、変態さんだ」
「んゔゔゔっ~!」

 お金を入れると賽銭箱に向かって話し始めた。
 プルプル震えて、真っ赤な顔の藤原さんが怒っている。
 謝っても怒らせるだけなら、もう褒めて褒めて褒めまくるしかない。
 
「……なところが好きです」
『……』

 とりあえず思い付く限りの好きなところを言った。それなのに賽銭箱は無反応だ。
 まだ俺の心が真の愛を分かってないみたいだ。万策尽きてしまった。
 これ以上は新しい思い出を作らないと無理だ。

「えーっと、あっはは……駄目みたいだね。どうしようか?」
「もういい。神村君を信じた私が馬鹿だったよ。顔を変えられる薬は作れないの? 私と薫ちゃんの視覚を眼鏡で共有して、イヤホン型の無線機で情報交換できないの? そうすれば問題なく生活できるよね? 考えれば色々と誤魔化せる方法はあるんだから、神村君もちょっとは考えてよ」
「はい、ごめんなさい。すぐやります」

 万策尽きただけでなく、藤原さんに愛想まで尽きられてしまった。
 顔を変える薬は拒否られたけど、テレビ眼鏡とイヤホン無線機は作れた。

「もぉー、神村君の所為で一時間目は遅刻だよ!」
「お兄ちゃん、さっきので学校に送って。帰りもお願いね」
「はい、すみません。すぐにお送りします」

 眼鏡をかけた二人に次々に言われる。
 薫、言っておくけど、お前が帰る家は藤原さんの家だからな。
 お兄ちゃんは藤原さんと一つ屋根の下で、仲直りの同棲生活を始めるから邪魔するなよ。
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