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第三章 最強高校生vs内閣総理大臣
第36話 土砂降りの雨
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トイレの隠し扉を通って、国会議事堂の中に入った。
短い発砲音が聞こえてくる。投降よりも抵抗を選んだようだ。
『こちら大和、会議中の偽総理が消えた。繰り返す、会議中の偽総理が消えた』
隊員の無線機から嫌な連絡が聞こえてきた。予想していた最悪の事態だ。
「くっ、国外に逃げられたか!」
『こちら丹後、偽総理を議事堂の正面広場で発見した。繰り返す……』
逃げられたと総理が悔しそうな顔をしていると、すぐに別の連絡がやって来た。
「正面入り口か……済まないが彼を頼む。君は付いて来てくれ。急いで向かうとしよう」
「はっ!」
偽総理が何を考えているのか分からないけど、こちらは追うしか選択肢がない。
肩を貸していた総理が隊員と代わると、隊員を一人だけ連れて走っていった。
「あの……二人も行っていいですよ」
俺よりも総理の方を護衛するべきだ。隊員二人に行くように勧めた。
「いえ、負傷した民間人を置いていく事は出来ません。我々の仕事は国民を守る事ですから」
「そうですよね。すみません」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
上官でもないのに堅苦しい態度と言葉遣いだ。
狼の仮面を着けた俺の顔色は見えないんだから、気にせずに行ってほしい。
「きゃああああ!」
「ここは危険です! すぐに避難してください!」
「両手を上げろ! 早く両手を上げるんだ!」
国会議事堂の正面広場に到着した。
間に合ったようだ。悲鳴を上げて一般人が走って逃げている。
偽総理と偽議員三人が、十二人程の隊員に包囲されている。
銃口を向ける隊員の声を無視して、偽総理が空を見上げている。
「やっと役者が揃ったか。二兎を追う者は一兎をも得ず、お前だけでも殺しておけば良かった」
偽総理が急にこっちを見て話し出した。
俺に向かって言っている気がするけど、俺の前にいる総理だと思おう。
「後悔も懺悔も後で死ぬ程聞いてやる。私の大切な国民を傷つける者には、私は容赦しない!」
(総理……)
総理がハンドガンを両手で構えて、偽総理に向けて言った。
凄くカッコイイけど、銃の射程は意外と短い。
撃っても当たらないと思うけど、脅しの効果は十分みたいだ。
偽総理が観念したのか両手を上げた。
「ふっ。大切ならキチンと守ればいいだけの話だ。守っていないから傷つけられる」
「私の知っている国民は国民同士で傷つけ合う真似はしない。お前は駆除するべき危険な外来種だ」
「総理としては失言だな。その外来種と戦争したいのか? 大切な国民が虫ケラのように殺されるぞ」
「来るなら来い。一匹残らず駆除するだけだ!」
「ふふっ。強気だな。宣戦布告として受け取っておこう。我要你在半径50米范围内下一场大雨」
「んっ?」
投降するのか抵抗するのか黙って見ていたけど、偽総理が急に分からない言葉を喋り出した。
偽議員三人に命令したのかと思ったら、偽総理のスーツから威厳を感じる爺さんの声が聞こえてきた。
『这个愿望是可以实现的。如果你想实现你的愿望、克服困难的考验』
「消えた! どこだ⁉︎」
偽総理が突然消えて、自衛隊員が混乱している。
偽総理が立っていた場所に黄金の賽銭箱が落ちている。
間違いない。願いを言って賽銭箱の中に入った。
「地面の賽銭箱の中だ。すぐに出てくる」
「えっ?」
肩を貸してくれている隊員二人に注意した。
どんな願いを言ったのか分からないけど、出てきた時に何かするつもりだ。
「う、動くな! 次は指一本でも動かせば射殺する!」
予想通りに賽銭箱から偽総理が出てきた。手には何も持ってない。
最後に一人だけの時間を過ごしていただけかもしれない。
「くくっ。了解だ。私は指一本も動かさないと約束しよう」
「んっ、雨……?」
だけど、その考えは間違いだった。偽総理が両手を上げて軽く笑った。
青空なのに土砂降りの雨が急に降ってきた。
小石のように硬そうな雨粒の所為で、前がほとんど見えない。
「うわぁっ!」
「ぐああっ!」
「撃てぇー! 攻撃開始!」
「一体何が起きているんだ?」
大雨を避ける為に、建物の中から見ているしか出来ない。
電柱程の太さがある水柱が、隊員達の頭上に次々に落ちている。
水柱に押し潰された隊員が悲鳴を上げて、地面に倒れて動かない。
明らかに自然現象じゃない。雨音と銃撃の音が絶え間なく聞こえてくる。
(有り得ない。賽銭箱の願いで直接人を傷つけられないんじゃなかったのか?)
「これは……?」
一分程度で土砂降りの雨は止んだ。
水浸しの地面には、ずぶ濡れの偽総理しか立っていない。
偽議員は血を流して倒れている。総理と自衛隊員は倒れて動かない。
「まさか人口一億程度の下等民族が、私に勝てるとでも思ったのか?」
偽総理が顔から眼鏡を取って、濡れたネクタイで水滴を拭き取っている。
言っている意味は分かるけど、何がしたいのか分からない。
「こ、このぉ……ぐがぁ!」
「雑魚が、そのまま寝ていろ」
倒れていた隊員が立ち上がろうとすると、水浸しの地面を水蛇のようなものが走った。
隊員の腹部に大蛇が激突して、吹き飛ばされて地面を転がっていく。
「待たせたな。すぐに殺してやる」
「くっ、やるしかないか」
眼鏡を掛け直した偽総理がこっちに向かってきた。
隊員二人の肩から降りると、賽銭箱から刀とどこでも瞬間移動を二本取り出した。
隙を見つけて一撃で仕留める。無理なら逃げる。
「すみません、アイツの注意を少し引き付けてください。俺が仕留めます」
残った隊員二人にお願いした。ろくに動けない俺では攻撃は躱せない。
「分かりました。応援がすぐに来ます。危ないと思ったら、我々に構わずに避難してください」
「大丈夫です。すぐに終わらせます」
刀を鞘から抜くと正面に構えた。首を一撃で斬り落とす。
偽総理が骨折を治せる薬を持っていたとしても、斬り落とされた首から身体は生やせない。
「うおおおーッッ!」
「無駄な事を」
二丁のマシンガンに撃たれているのに、偽総理は平然と歩き続ける。
絶対防御は不可能な試練だった。攻撃が効かないはずがない。
「邪魔だ」
「ぐがぁ!」
囮役の隊員二人が水蛇の体当たりに吹き飛ばされた。偽総理は俺から一度も目を離さなかった。
隙は一度もなかったけどやるしかない。瞬間移動のボタンを押して背後を取った。
濡れた地面に両足でしっかり立って、首に向かって刀を全力で振り抜いた。
「ウラッ!」
偽総理の首を刃が滑っていく。髭剃りで肌を撫でたような手応えだ。
斬ったのに切れていない。痛みを堪えて、続けて背中に刃を斜めに振り落とした。
濡れたスーツを無慈悲に刃が滑り落ちていく。
「無駄だ」
「あがっ! ぐぅぅぅ!」
素早く振り返った偽総理に、左頬に左手の裏拳をブチ込まれた。
殴り飛ばされて濡れた地面を滑らされる。
「日本人は馬鹿なのか? いつまでそんな金属の棒を武器だと信じている。武器とはこういうものを言う」
立ち上がろうと四つん這いになっていると、右腹に水蛇が激突した。
偽総理に向かって地面を滑らされ、偽総理の右足が胸に振り落とされた。
「ぐあああーッッ!」
肋骨が折れた音が聞こえた。手足が痛みで痙攣して止まらない。
「お前は知らないようだな。賽銭箱を持つ使徒は超能力を使える。私の超能力は『水』だ」
「あぐっ、あっ、ああーッッ!」
胸を足裏で踏み躙りながら、偽総理が地面の水をシャボン玉のように浮かせ始めた。
身体の表面に水の膜のようなものが見えた。水のバリアで刃と銃弾が防がれている。
短い発砲音が聞こえてくる。投降よりも抵抗を選んだようだ。
『こちら大和、会議中の偽総理が消えた。繰り返す、会議中の偽総理が消えた』
隊員の無線機から嫌な連絡が聞こえてきた。予想していた最悪の事態だ。
「くっ、国外に逃げられたか!」
『こちら丹後、偽総理を議事堂の正面広場で発見した。繰り返す……』
逃げられたと総理が悔しそうな顔をしていると、すぐに別の連絡がやって来た。
「正面入り口か……済まないが彼を頼む。君は付いて来てくれ。急いで向かうとしよう」
「はっ!」
偽総理が何を考えているのか分からないけど、こちらは追うしか選択肢がない。
肩を貸していた総理が隊員と代わると、隊員を一人だけ連れて走っていった。
「あの……二人も行っていいですよ」
俺よりも総理の方を護衛するべきだ。隊員二人に行くように勧めた。
「いえ、負傷した民間人を置いていく事は出来ません。我々の仕事は国民を守る事ですから」
「そうですよね。すみません」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
上官でもないのに堅苦しい態度と言葉遣いだ。
狼の仮面を着けた俺の顔色は見えないんだから、気にせずに行ってほしい。
「きゃああああ!」
「ここは危険です! すぐに避難してください!」
「両手を上げろ! 早く両手を上げるんだ!」
国会議事堂の正面広場に到着した。
間に合ったようだ。悲鳴を上げて一般人が走って逃げている。
偽総理と偽議員三人が、十二人程の隊員に包囲されている。
銃口を向ける隊員の声を無視して、偽総理が空を見上げている。
「やっと役者が揃ったか。二兎を追う者は一兎をも得ず、お前だけでも殺しておけば良かった」
偽総理が急にこっちを見て話し出した。
俺に向かって言っている気がするけど、俺の前にいる総理だと思おう。
「後悔も懺悔も後で死ぬ程聞いてやる。私の大切な国民を傷つける者には、私は容赦しない!」
(総理……)
総理がハンドガンを両手で構えて、偽総理に向けて言った。
凄くカッコイイけど、銃の射程は意外と短い。
撃っても当たらないと思うけど、脅しの効果は十分みたいだ。
偽総理が観念したのか両手を上げた。
「ふっ。大切ならキチンと守ればいいだけの話だ。守っていないから傷つけられる」
「私の知っている国民は国民同士で傷つけ合う真似はしない。お前は駆除するべき危険な外来種だ」
「総理としては失言だな。その外来種と戦争したいのか? 大切な国民が虫ケラのように殺されるぞ」
「来るなら来い。一匹残らず駆除するだけだ!」
「ふふっ。強気だな。宣戦布告として受け取っておこう。我要你在半径50米范围内下一场大雨」
「んっ?」
投降するのか抵抗するのか黙って見ていたけど、偽総理が急に分からない言葉を喋り出した。
偽議員三人に命令したのかと思ったら、偽総理のスーツから威厳を感じる爺さんの声が聞こえてきた。
『这个愿望是可以实现的。如果你想实现你的愿望、克服困难的考验』
「消えた! どこだ⁉︎」
偽総理が突然消えて、自衛隊員が混乱している。
偽総理が立っていた場所に黄金の賽銭箱が落ちている。
間違いない。願いを言って賽銭箱の中に入った。
「地面の賽銭箱の中だ。すぐに出てくる」
「えっ?」
肩を貸してくれている隊員二人に注意した。
どんな願いを言ったのか分からないけど、出てきた時に何かするつもりだ。
「う、動くな! 次は指一本でも動かせば射殺する!」
予想通りに賽銭箱から偽総理が出てきた。手には何も持ってない。
最後に一人だけの時間を過ごしていただけかもしれない。
「くくっ。了解だ。私は指一本も動かさないと約束しよう」
「んっ、雨……?」
だけど、その考えは間違いだった。偽総理が両手を上げて軽く笑った。
青空なのに土砂降りの雨が急に降ってきた。
小石のように硬そうな雨粒の所為で、前がほとんど見えない。
「うわぁっ!」
「ぐああっ!」
「撃てぇー! 攻撃開始!」
「一体何が起きているんだ?」
大雨を避ける為に、建物の中から見ているしか出来ない。
電柱程の太さがある水柱が、隊員達の頭上に次々に落ちている。
水柱に押し潰された隊員が悲鳴を上げて、地面に倒れて動かない。
明らかに自然現象じゃない。雨音と銃撃の音が絶え間なく聞こえてくる。
(有り得ない。賽銭箱の願いで直接人を傷つけられないんじゃなかったのか?)
「これは……?」
一分程度で土砂降りの雨は止んだ。
水浸しの地面には、ずぶ濡れの偽総理しか立っていない。
偽議員は血を流して倒れている。総理と自衛隊員は倒れて動かない。
「まさか人口一億程度の下等民族が、私に勝てるとでも思ったのか?」
偽総理が顔から眼鏡を取って、濡れたネクタイで水滴を拭き取っている。
言っている意味は分かるけど、何がしたいのか分からない。
「こ、このぉ……ぐがぁ!」
「雑魚が、そのまま寝ていろ」
倒れていた隊員が立ち上がろうとすると、水浸しの地面を水蛇のようなものが走った。
隊員の腹部に大蛇が激突して、吹き飛ばされて地面を転がっていく。
「待たせたな。すぐに殺してやる」
「くっ、やるしかないか」
眼鏡を掛け直した偽総理がこっちに向かってきた。
隊員二人の肩から降りると、賽銭箱から刀とどこでも瞬間移動を二本取り出した。
隙を見つけて一撃で仕留める。無理なら逃げる。
「すみません、アイツの注意を少し引き付けてください。俺が仕留めます」
残った隊員二人にお願いした。ろくに動けない俺では攻撃は躱せない。
「分かりました。応援がすぐに来ます。危ないと思ったら、我々に構わずに避難してください」
「大丈夫です。すぐに終わらせます」
刀を鞘から抜くと正面に構えた。首を一撃で斬り落とす。
偽総理が骨折を治せる薬を持っていたとしても、斬り落とされた首から身体は生やせない。
「うおおおーッッ!」
「無駄な事を」
二丁のマシンガンに撃たれているのに、偽総理は平然と歩き続ける。
絶対防御は不可能な試練だった。攻撃が効かないはずがない。
「邪魔だ」
「ぐがぁ!」
囮役の隊員二人が水蛇の体当たりに吹き飛ばされた。偽総理は俺から一度も目を離さなかった。
隙は一度もなかったけどやるしかない。瞬間移動のボタンを押して背後を取った。
濡れた地面に両足でしっかり立って、首に向かって刀を全力で振り抜いた。
「ウラッ!」
偽総理の首を刃が滑っていく。髭剃りで肌を撫でたような手応えだ。
斬ったのに切れていない。痛みを堪えて、続けて背中に刃を斜めに振り落とした。
濡れたスーツを無慈悲に刃が滑り落ちていく。
「無駄だ」
「あがっ! ぐぅぅぅ!」
素早く振り返った偽総理に、左頬に左手の裏拳をブチ込まれた。
殴り飛ばされて濡れた地面を滑らされる。
「日本人は馬鹿なのか? いつまでそんな金属の棒を武器だと信じている。武器とはこういうものを言う」
立ち上がろうと四つん這いになっていると、右腹に水蛇が激突した。
偽総理に向かって地面を滑らされ、偽総理の右足が胸に振り落とされた。
「ぐあああーッッ!」
肋骨が折れた音が聞こえた。手足が痛みで痙攣して止まらない。
「お前は知らないようだな。賽銭箱を持つ使徒は超能力を使える。私の超能力は『水』だ」
「あぐっ、あっ、ああーッッ!」
胸を足裏で踏み躙りながら、偽総理が地面の水をシャボン玉のように浮かせ始めた。
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