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第一章 平凡高校生vs不良集団

第5話 ライバル登場

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「はぁー」

 教室の窓から校庭を眺めて、小さなため息を吐いた。昨日は夢のような一日だった。
 藤原さんを助けて、藤原さんの家に行って、藤原さんに消毒液で手当てしてもらった。
 その後に警察の人に事情を聞かれて、どうしてあんな所にいたのか聞かれたけど、合格祈願で押し通した。

(どうしようかなぁ……迷惑かもなぁ……)

 神社は車が入れない裏道にある。パトカーでの見回りは難しいそうだ。
 巡回の回数を増やして、動画の犯人を探すそうだ。大丈夫だと思うけど、捕まるまで心配だ。
 民家が近くに少しあるから、助かりたいなら民家に逃げ込むしかない。
 出来れば藤原さんを学校から家まで毎日送り迎えしたい。

 でも、「どうして?」とか藤原さんに聞かれたら返事に困る。
 好きだからとは言えない。言ったら気持ち悪いし、絶対に断られる。

「何たそがれてんだよ。女子がお前を呼んでるぞ」
「えっ、女子? おあっ!」

(ふ、藤原さん!)

 ボッーとしていると同級生がやって来て、廊下を指差して教えてくれた。
 指先の先には、右手を小さく振っている藤原さんがいた。
 急いで意識を取り戻して、急いで藤原さんの元に向かった。

「ど、どうしたの藤原さん?」
「おはよう、神村君。昨日はありがとう」

 心臓がドキドキする。平常心にならないと好きだと気づかれてしまう。
 中学の授業中に話した事はあるけど、こんな風に呼び出されたのは初めてだ。

「あんなの大した事ないよ。毎日やってもいいぐらいだよ」
「駄目だよ。毎日やったら大変だよ。怪我は大丈夫? まだ痛い?」

 心配してくれるのは嬉しいけど、凄く恥ずかしい。
 クラスメイトの視線が集まっている気がする。

「本当に大丈夫だって。男の勲章だって、父さんにも母さんにも褒められたんだよ。男として当たり前の事をしただけなんだから」

 父さんに褒められたのは本当だ。
 母さんには「高校を退学になったらどうするの!」とめちゃくちゃ怒られた。
 他人の心配よりも、まずは自分の将来を心配した方がいいそうだ。

「本当にありがとう。神村君がいなかったら、大変な目に遭っていたと思う。神村君は私の命の恩人だよ」
「そんなぁー、あっ、そうだ! 良かったら、犯人が捕まるまで送り迎えしようか? 一人だと危ないよ」

 自分で自分を褒めてあげたい。自然な流れで登下校を誘ってしまった。

「あっ、その事で神村君に話があったんだ。友達に話したら、空手部の人を紹介してもらったの。朝はお父さんが送ってくれるから大丈夫だよ」
「そ、そうなんだ……」

 だけど、満面の笑みで断られてしまった。確かに空手部の方が頼りになると思う。

「うん! だから、神村君は心配しなくても大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。昨日も本当にありがとうね。じゃあ、またね」
「うん、また……」

 死ぬ程の勇気を出したお陰で、藤原さんにたくさんお礼を言われたけど、もう見ているだけは嫌だ。
 遠くで隠れて見るよりも、近くで見て話したい。あの笑顔を独り占めしたい。

 授業をほとんど上の空で聞いて、あっという間に放課後になった。
 二つ隣の藤原さんの教室に急いで向かうと、もう教室にはいなかった。
 急いで校門まで走ると、藤原さんがガッチリした身体の男と歩いていた。

「藤原さんぁー! ちょっと待って!」

 空手部の集団が守ってくれると思っていたのに、たった一人しかいない。

「神村君、どうしたの?」
「はぁ、はぁ、やっぱり心配だから一緒にいいかな?」

 余計なお世話だと分かっているけど、もう止まらない。

「お前が神村か? 安心しろ、不良なんて俺の拳で一撃だ! 任せておけ!」
「えーっと……」

 少し伸びた丸刈りの男が堂々とした声で話してきた。空手部というよりも柔道部のような身体だ。
 身長は180センチ近くあるから、強そうなのは分かるけど、誰なのか分からない。

「神村君、空手部の太田おおた先輩だよ。同じ中学校だから家が近所なんだって」

 戸惑っていると、藤原さんが気を利かせてくれた。
 中学校で見た記憶はないけど居たんだろう。

「そうなんですね。神村遥です、よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。まあ、ここまで来たんだ。帰れと言われても心配だろう。必要ないが、それでもいいなら付いて来な」
「は、はい、そうします」

 太田先輩が警護の責任者らしい。良い顔で勝手に許可されてしまった。
 断られた場合は、隠れて付いて行くつもりだったから別にいいけど。

「俺だったら逃さずに捕まえて、警察に引き渡していたな。運の良い奴らだ」
「そ、そうですね。先輩なら余裕で出来そうですね」
「当たり前だ。機会があれば初段の腕前を披露してやるよ」

 帰り道を藤原さんと楽しく会話できると思ったのに、太田先輩の話を聞かされる。
 背中をバンバン叩かれて、一人で笑いながら、こうする、ああすると自信満々だ。

「太田先輩、ここです」

 昨日の今日だから、不良は現れなかった。
 太田先輩の左半身しか見れずに、藤原さんの家に着いてしまった。

「綺麗な家だな。二階建てなら五人家族か?」

 藤原さんの家を見上げながら、太田先輩が聞いた。
 白い壁に赤い屋根、洗濯物が干せるベランダには窓ガラスが付いてある。

「三人家族です。太田先輩、神村君、今日はありがとうございました」
「気にするな。困った時の何とかだ。念の為に連絡先を交換しておいた方がいいな」
「あ、はい」

 こういう時に体育会系の人は羨ましい。
 躊躇なくスマホを取り出して、連絡先を交換している。
 俺も交換したい……

「神村君も交換しよう」
「えっ? あっ、うん、そうだね!」

 そう思っていると、藤原さんの白いスマホが目の前に現れた。
 急いで上着のポケットから取り出して、連絡先を交換した。

「ふふっ。神村君が襲われそうな時は、すぐに連絡してね。今度は私が助けるね」
「う、うん、絶対に連絡するよ。藤原さんも連絡してね」

 藤原さんが天使のように微笑んで可愛いのに、頭の中のエッチな想像が止まらない。
 白いスマホを見て、白が好きなんだと思ってしまった。
 白い下着姿の藤原さんを想像してしまう。

「何を言っている。危ない時は警察にすぐに連絡しろ」
「そ、そうですね。そっちの方が安全ですよね」

 そんなエッチな想像を太田先輩が正論で掻き消した。
 その通りなんだけど、それは皆んな知っている。

「さようなら、気をつけて帰ってね」
「……なかなか可愛いな。今度は部屋の中まで入れてもらうか」
「先輩、そんな気持ちで守っていたんですか!」

 手を振る藤原さんが家の中に入ると、太田先輩がいやらしい笑みを浮かべて言った。

「当たり前だろうが。ドブスの女を無料で守るか。お前だって、可愛いから付いて来たんだろ? お前じゃ無理だ、さっさと諦めろ。明日から来なくていいからな」
「なっ!」

 少しでも良い先輩だと思ってしまった自分が恥ずかしい。
 こんなスケベな奴に藤原さんは任せられない。明日も絶対に付いて行く。
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