2 / 111
第一章 平凡高校生vs不良集団
第2話 願いを叶える賽銭箱
しおりを挟む
学校が終わると神社に先回りして、藤原さんの帰り道の見守りを無事に終わらせた。
「はぁー、今日も可愛かったなぁー」
家に帰ると、部屋のベッドに倒れ込んだ。スマホの画面には今日の藤原さんが映っている。
ボッキーのお菓子の空箱を使ったり、空き缶を使ったりして、自然の藤原さんを撮影している。
スマホを隠す入れ物は、軽くて手に持っていても怪しまれない物が良い。
直に手に持ったり、胸ポケットからスマホの出すのは論外だ。捕まってしまう。
「そういえば、あの賽銭箱は誰が置いたんだろう?」
幸せで胸が一杯だったから忘れていた。本棚の賽銭箱の事を思い出した。
誰も置いた人間がいないなら、知らない人間が夜中に部屋に侵入した事になる。
流石にそれは不気味を通り越して危険だ。今すぐに警察に通報した方がいい。
賽銭箱を持って一階に下りると、夕飯を作っていた母さんに聞いてみた。
「ねぇ、母さん。この賽銭箱、父さんが買ってきたの?」
「えっ、賽銭箱?」
長い茶髪を首の位置で縛って、ポニーテールにしている母さんが料理をやめて振り返った。
後ろ姿だけなら藤原さんに少し似ている。俺が持っている賽銭箱をジッと見ている。
「お母さんは知らないわよ。お父さんも昨日は何も買って来なかったから、薫じゃないの?」
「薫かぁー、うん、分かった。帰って来たら聞いてみるよ」
賽銭箱を置いたのは、母さんでも父さんでもないらしい。
薫が夜中に部屋に入ってきて、賽銭箱を置くとも思えない。
余計な事は言わずに二階の部屋に戻った。
だったら、家族以外の誰かが部屋に入った事になる。
でも、それを考えるのは怖すぎる。
「お前、賽銭箱の妖怪か?」
机の上に賽銭箱を置いて話しかけた。返事は返ってこない。
何度も神社に行ったから、神社の賽銭箱に魂が宿って、付喪神になったのかもしれない。
だけど、今日も神社の賽銭箱にお金を入れてきた。その時は何も聞こえなかった。
まさか、もっとお金を入れろと、家まで催促に来たわけじゃないだろう。
三年で総額五千円以上も寄付している。チリも積もれば樋口一葉だ。
「お願いします。神社に帰ってください」
手を合わせて、賽銭箱にお願いした。
「……やっぱりお金を入れないと駄目か」
予想通りに返事はなかった。声に反応するわけじゃないようだ。
お金を入れたら、朝みたいに神声で返事するのかもしれない。
試しに五円入れて、手を合わせてお願いしてみた。
「お願いします。神社に帰ってください」
『その願いを叶える事は出来る。だが、帰るのは一つ願いを叶えた後だ』
「おお! 朝とは違うパターンだ」
五円入れたら賽銭箱が喋り出した。
やっぱりお金に反応するみたいだ。でも、願いを叶えるまで帰らないそうだ。
だったら、七つの玉を集めた時の定番の願いを言うしかない。
「藤原さんのパンティください」
『その願いを叶える事は出来ない』
「くっ!」
分かっていた、分かっていたけど、やっぱり容易い願いじゃなかった。
半分は冗談だったけど、半分は本気だった。かなりショックだ。
「じゃあ、俺の五円返してください」
どうせパンティを貰っても、藤原さんの物なのか分からない。
本当に一番簡単そうなお願いを言ってみた。
「……んっ?」
だけど、今度は反応しなかった。
願いを拒否られると、またお金を入れる暗黙のルールがあるみたいだ。
仕方ないから、五円入れて同じ願いを言ってみた。
「お願いします。俺の五円返してください」
『その願いを叶える事は出来ない』
「何だよ、これ? この賽銭箱壊れているよ」
流石にちょっと冷静になってきた。
母さんは知らないフリをしていたけど、本当は知っているのかもしれない。
このイタズラ賽銭箱に、いくらお金を入れるか試したいんだろう。
「分かったよ。簡単な願いを考えればいいんだろ?」
賽銭箱に聞いたけど、返事は返ってこない。でも、ルールは分かった。
藤原さんを幸せには出来ない。俺のお金は戻って来ない。藤原さんの物を手に入れる事は出来ない。
つまりこれ以外の願いを言えばいい。
「あぁー、駄目だ。全然分からない」
だけど、考えても分からない事はある。だったら、聞き方を変えるしかない。
五円入れると賽銭箱に聞いた。
「どんな願いなら叶えられるか教えて欲しい」
『その願いを叶える事は出来る。直接誰かを幸せにする事は出来ないが、誰かを幸せに出来る力と物をお前に与える事は出来る。直接他人の物を盗んだり、他人を傷つけたり、金を作る事は出来ないが、お前が欲しい物を作る事は出来る。お前の願いは叶えた。約束通りに神社に帰るとしよう』
「えっ?」
こんなに長々とAI搭載型の賽銭箱でも喋るはずがない。
叶えられる願いを教えてもらっただけで帰られたら、人生最大の後悔の始まりだ。
宙に浮かび上がった賽銭箱を両手で掴んで引き止めた。
「ちょっと待って待って! まだ帰らないで!」
『分かった。お前の願いを叶えよう』
「はぁ、はぁ、危なかったぁー」
間一髪だったけど、空飛ぶ賽銭箱が机に戻ってくれた。
信じられないけど、この賽銭箱は間違いなく普通じゃない。
本当に願いを叶えてくれるかもしれない。
節約の為に財布から一円玉を出して、賽銭箱に入れて願いを言った。
「透明人間になれる薬が欲しい」
だけど、一円だと駄目みたいだ。賽銭箱は何も喋らない。追加で四枚入れても無反応だ。
最低でも五円玉を入れないと、駄目みたいだ。五円入れるともう一度願いを言った。
「透明人間になれる薬が欲しい」
『その願いを叶える事は出来る。叶えたければ、絶対不可能な試練を乗り越えろ』
「えっ? 嘘ッッ⁉︎」
叶える事が出来ると聞いて、一瞬だけ喜んでしまった。だけど、それも一瞬だけだった。
賽銭箱が唸り声を上げて、掃除機のように俺を賽銭箱の中に吸い込んだ。
「はぁー、今日も可愛かったなぁー」
家に帰ると、部屋のベッドに倒れ込んだ。スマホの画面には今日の藤原さんが映っている。
ボッキーのお菓子の空箱を使ったり、空き缶を使ったりして、自然の藤原さんを撮影している。
スマホを隠す入れ物は、軽くて手に持っていても怪しまれない物が良い。
直に手に持ったり、胸ポケットからスマホの出すのは論外だ。捕まってしまう。
「そういえば、あの賽銭箱は誰が置いたんだろう?」
幸せで胸が一杯だったから忘れていた。本棚の賽銭箱の事を思い出した。
誰も置いた人間がいないなら、知らない人間が夜中に部屋に侵入した事になる。
流石にそれは不気味を通り越して危険だ。今すぐに警察に通報した方がいい。
賽銭箱を持って一階に下りると、夕飯を作っていた母さんに聞いてみた。
「ねぇ、母さん。この賽銭箱、父さんが買ってきたの?」
「えっ、賽銭箱?」
長い茶髪を首の位置で縛って、ポニーテールにしている母さんが料理をやめて振り返った。
後ろ姿だけなら藤原さんに少し似ている。俺が持っている賽銭箱をジッと見ている。
「お母さんは知らないわよ。お父さんも昨日は何も買って来なかったから、薫じゃないの?」
「薫かぁー、うん、分かった。帰って来たら聞いてみるよ」
賽銭箱を置いたのは、母さんでも父さんでもないらしい。
薫が夜中に部屋に入ってきて、賽銭箱を置くとも思えない。
余計な事は言わずに二階の部屋に戻った。
だったら、家族以外の誰かが部屋に入った事になる。
でも、それを考えるのは怖すぎる。
「お前、賽銭箱の妖怪か?」
机の上に賽銭箱を置いて話しかけた。返事は返ってこない。
何度も神社に行ったから、神社の賽銭箱に魂が宿って、付喪神になったのかもしれない。
だけど、今日も神社の賽銭箱にお金を入れてきた。その時は何も聞こえなかった。
まさか、もっとお金を入れろと、家まで催促に来たわけじゃないだろう。
三年で総額五千円以上も寄付している。チリも積もれば樋口一葉だ。
「お願いします。神社に帰ってください」
手を合わせて、賽銭箱にお願いした。
「……やっぱりお金を入れないと駄目か」
予想通りに返事はなかった。声に反応するわけじゃないようだ。
お金を入れたら、朝みたいに神声で返事するのかもしれない。
試しに五円入れて、手を合わせてお願いしてみた。
「お願いします。神社に帰ってください」
『その願いを叶える事は出来る。だが、帰るのは一つ願いを叶えた後だ』
「おお! 朝とは違うパターンだ」
五円入れたら賽銭箱が喋り出した。
やっぱりお金に反応するみたいだ。でも、願いを叶えるまで帰らないそうだ。
だったら、七つの玉を集めた時の定番の願いを言うしかない。
「藤原さんのパンティください」
『その願いを叶える事は出来ない』
「くっ!」
分かっていた、分かっていたけど、やっぱり容易い願いじゃなかった。
半分は冗談だったけど、半分は本気だった。かなりショックだ。
「じゃあ、俺の五円返してください」
どうせパンティを貰っても、藤原さんの物なのか分からない。
本当に一番簡単そうなお願いを言ってみた。
「……んっ?」
だけど、今度は反応しなかった。
願いを拒否られると、またお金を入れる暗黙のルールがあるみたいだ。
仕方ないから、五円入れて同じ願いを言ってみた。
「お願いします。俺の五円返してください」
『その願いを叶える事は出来ない』
「何だよ、これ? この賽銭箱壊れているよ」
流石にちょっと冷静になってきた。
母さんは知らないフリをしていたけど、本当は知っているのかもしれない。
このイタズラ賽銭箱に、いくらお金を入れるか試したいんだろう。
「分かったよ。簡単な願いを考えればいいんだろ?」
賽銭箱に聞いたけど、返事は返ってこない。でも、ルールは分かった。
藤原さんを幸せには出来ない。俺のお金は戻って来ない。藤原さんの物を手に入れる事は出来ない。
つまりこれ以外の願いを言えばいい。
「あぁー、駄目だ。全然分からない」
だけど、考えても分からない事はある。だったら、聞き方を変えるしかない。
五円入れると賽銭箱に聞いた。
「どんな願いなら叶えられるか教えて欲しい」
『その願いを叶える事は出来る。直接誰かを幸せにする事は出来ないが、誰かを幸せに出来る力と物をお前に与える事は出来る。直接他人の物を盗んだり、他人を傷つけたり、金を作る事は出来ないが、お前が欲しい物を作る事は出来る。お前の願いは叶えた。約束通りに神社に帰るとしよう』
「えっ?」
こんなに長々とAI搭載型の賽銭箱でも喋るはずがない。
叶えられる願いを教えてもらっただけで帰られたら、人生最大の後悔の始まりだ。
宙に浮かび上がった賽銭箱を両手で掴んで引き止めた。
「ちょっと待って待って! まだ帰らないで!」
『分かった。お前の願いを叶えよう』
「はぁ、はぁ、危なかったぁー」
間一髪だったけど、空飛ぶ賽銭箱が机に戻ってくれた。
信じられないけど、この賽銭箱は間違いなく普通じゃない。
本当に願いを叶えてくれるかもしれない。
節約の為に財布から一円玉を出して、賽銭箱に入れて願いを言った。
「透明人間になれる薬が欲しい」
だけど、一円だと駄目みたいだ。賽銭箱は何も喋らない。追加で四枚入れても無反応だ。
最低でも五円玉を入れないと、駄目みたいだ。五円入れるともう一度願いを言った。
「透明人間になれる薬が欲しい」
『その願いを叶える事は出来る。叶えたければ、絶対不可能な試練を乗り越えろ』
「えっ? 嘘ッッ⁉︎」
叶える事が出来ると聞いて、一瞬だけ喜んでしまった。だけど、それも一瞬だけだった。
賽銭箱が唸り声を上げて、掃除機のように俺を賽銭箱の中に吸い込んだ。
1
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる