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第一章 平凡高校生vs不良集団
第2話 願いを叶える賽銭箱
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学校が終わると神社に先回りして、藤原さんの帰り道の見守りを無事に終わらせた。
「はぁー、今日も可愛かったなぁー」
家に帰ると、部屋のベッドに倒れ込んだ。スマホの画面には今日の藤原さんが映っている。
ボッキーのお菓子の空箱を使ったり、空き缶を使ったりして、自然の藤原さんを撮影している。
スマホを隠す入れ物は、軽くて手に持っていても怪しまれない物が良い。
直に手に持ったり、胸ポケットからスマホの出すのは論外だ。捕まってしまう。
「そういえば、あの賽銭箱は誰が置いたんだろう?」
幸せで胸が一杯だったから忘れていた。本棚の賽銭箱の事を思い出した。
誰も置いた人間がいないなら、知らない人間が夜中に部屋に侵入した事になる。
流石にそれは不気味を通り越して危険だ。今すぐに警察に通報した方がいい。
賽銭箱を持って一階に下りると、夕飯を作っていた母さんに聞いてみた。
「ねぇ、母さん。この賽銭箱、父さんが買ってきたの?」
「えっ、賽銭箱?」
長い茶髪を首の位置で縛って、ポニーテールにしている母さんが料理をやめて振り返った。
後ろ姿だけなら藤原さんに少し似ている。俺が持っている賽銭箱をジッと見ている。
「お母さんは知らないわよ。お父さんも昨日は何も買って来なかったから、薫じゃないの?」
「薫かぁー、うん、分かった。帰って来たら聞いてみるよ」
賽銭箱を置いたのは、母さんでも父さんでもないらしい。
薫が夜中に部屋に入ってきて、賽銭箱を置くとも思えない。
余計な事は言わずに二階の部屋に戻った。
だったら、家族以外の誰かが部屋に入った事になる。
でも、それを考えるのは怖すぎる。
「お前、賽銭箱の妖怪か?」
机の上に賽銭箱を置いて話しかけた。返事は返ってこない。
何度も神社に行ったから、神社の賽銭箱に魂が宿って、付喪神になったのかもしれない。
だけど、今日も神社の賽銭箱にお金を入れてきた。その時は何も聞こえなかった。
まさか、もっとお金を入れろと、家まで催促に来たわけじゃないだろう。
三年で総額五千円以上も寄付している。チリも積もれば樋口一葉だ。
「お願いします。神社に帰ってください」
手を合わせて、賽銭箱にお願いした。
「……やっぱりお金を入れないと駄目か」
予想通りに返事はなかった。声に反応するわけじゃないようだ。
お金を入れたら、朝みたいに神声で返事するのかもしれない。
試しに五円入れて、手を合わせてお願いしてみた。
「お願いします。神社に帰ってください」
『その願いを叶える事は出来る。だが、帰るのは一つ願いを叶えた後だ』
「おお! 朝とは違うパターンだ」
五円入れたら賽銭箱が喋り出した。
やっぱりお金に反応するみたいだ。でも、願いを叶えるまで帰らないそうだ。
だったら、七つの玉を集めた時の定番の願いを言うしかない。
「藤原さんのパンティください」
『その願いを叶える事は出来ない』
「くっ!」
分かっていた、分かっていたけど、やっぱり容易い願いじゃなかった。
半分は冗談だったけど、半分は本気だった。かなりショックだ。
「じゃあ、俺の五円返してください」
どうせパンティを貰っても、藤原さんの物なのか分からない。
本当に一番簡単そうなお願いを言ってみた。
「……んっ?」
だけど、今度は反応しなかった。
願いを拒否られると、またお金を入れる暗黙のルールがあるみたいだ。
仕方ないから、五円入れて同じ願いを言ってみた。
「お願いします。俺の五円返してください」
『その願いを叶える事は出来ない』
「何だよ、これ? この賽銭箱壊れているよ」
流石にちょっと冷静になってきた。
母さんは知らないフリをしていたけど、本当は知っているのかもしれない。
このイタズラ賽銭箱に、いくらお金を入れるか試したいんだろう。
「分かったよ。簡単な願いを考えればいいんだろ?」
賽銭箱に聞いたけど、返事は返ってこない。でも、ルールは分かった。
藤原さんを幸せには出来ない。俺のお金は戻って来ない。藤原さんの物を手に入れる事は出来ない。
つまりこれ以外の願いを言えばいい。
「あぁー、駄目だ。全然分からない」
だけど、考えても分からない事はある。だったら、聞き方を変えるしかない。
五円入れると賽銭箱に聞いた。
「どんな願いなら叶えられるか教えて欲しい」
『その願いを叶える事は出来る。直接誰かを幸せにする事は出来ないが、誰かを幸せに出来る力と物をお前に与える事は出来る。直接他人の物を盗んだり、他人を傷つけたり、金を作る事は出来ないが、お前が欲しい物を作る事は出来る。お前の願いは叶えた。約束通りに神社に帰るとしよう』
「えっ?」
こんなに長々とAI搭載型の賽銭箱でも喋るはずがない。
叶えられる願いを教えてもらっただけで帰られたら、人生最大の後悔の始まりだ。
宙に浮かび上がった賽銭箱を両手で掴んで引き止めた。
「ちょっと待って待って! まだ帰らないで!」
『分かった。お前の願いを叶えよう』
「はぁ、はぁ、危なかったぁー」
間一髪だったけど、空飛ぶ賽銭箱が机に戻ってくれた。
信じられないけど、この賽銭箱は間違いなく普通じゃない。
本当に願いを叶えてくれるかもしれない。
節約の為に財布から一円玉を出して、賽銭箱に入れて願いを言った。
「透明人間になれる薬が欲しい」
だけど、一円だと駄目みたいだ。賽銭箱は何も喋らない。追加で四枚入れても無反応だ。
最低でも五円玉を入れないと、駄目みたいだ。五円入れるともう一度願いを言った。
「透明人間になれる薬が欲しい」
『その願いを叶える事は出来る。叶えたければ、絶対不可能な試練を乗り越えろ』
「えっ? 嘘ッッ⁉︎」
叶える事が出来ると聞いて、一瞬だけ喜んでしまった。だけど、それも一瞬だけだった。
賽銭箱が唸り声を上げて、掃除機のように俺を賽銭箱の中に吸い込んだ。
「はぁー、今日も可愛かったなぁー」
家に帰ると、部屋のベッドに倒れ込んだ。スマホの画面には今日の藤原さんが映っている。
ボッキーのお菓子の空箱を使ったり、空き缶を使ったりして、自然の藤原さんを撮影している。
スマホを隠す入れ物は、軽くて手に持っていても怪しまれない物が良い。
直に手に持ったり、胸ポケットからスマホの出すのは論外だ。捕まってしまう。
「そういえば、あの賽銭箱は誰が置いたんだろう?」
幸せで胸が一杯だったから忘れていた。本棚の賽銭箱の事を思い出した。
誰も置いた人間がいないなら、知らない人間が夜中に部屋に侵入した事になる。
流石にそれは不気味を通り越して危険だ。今すぐに警察に通報した方がいい。
賽銭箱を持って一階に下りると、夕飯を作っていた母さんに聞いてみた。
「ねぇ、母さん。この賽銭箱、父さんが買ってきたの?」
「えっ、賽銭箱?」
長い茶髪を首の位置で縛って、ポニーテールにしている母さんが料理をやめて振り返った。
後ろ姿だけなら藤原さんに少し似ている。俺が持っている賽銭箱をジッと見ている。
「お母さんは知らないわよ。お父さんも昨日は何も買って来なかったから、薫じゃないの?」
「薫かぁー、うん、分かった。帰って来たら聞いてみるよ」
賽銭箱を置いたのは、母さんでも父さんでもないらしい。
薫が夜中に部屋に入ってきて、賽銭箱を置くとも思えない。
余計な事は言わずに二階の部屋に戻った。
だったら、家族以外の誰かが部屋に入った事になる。
でも、それを考えるのは怖すぎる。
「お前、賽銭箱の妖怪か?」
机の上に賽銭箱を置いて話しかけた。返事は返ってこない。
何度も神社に行ったから、神社の賽銭箱に魂が宿って、付喪神になったのかもしれない。
だけど、今日も神社の賽銭箱にお金を入れてきた。その時は何も聞こえなかった。
まさか、もっとお金を入れろと、家まで催促に来たわけじゃないだろう。
三年で総額五千円以上も寄付している。チリも積もれば樋口一葉だ。
「お願いします。神社に帰ってください」
手を合わせて、賽銭箱にお願いした。
「……やっぱりお金を入れないと駄目か」
予想通りに返事はなかった。声に反応するわけじゃないようだ。
お金を入れたら、朝みたいに神声で返事するのかもしれない。
試しに五円入れて、手を合わせてお願いしてみた。
「お願いします。神社に帰ってください」
『その願いを叶える事は出来る。だが、帰るのは一つ願いを叶えた後だ』
「おお! 朝とは違うパターンだ」
五円入れたら賽銭箱が喋り出した。
やっぱりお金に反応するみたいだ。でも、願いを叶えるまで帰らないそうだ。
だったら、七つの玉を集めた時の定番の願いを言うしかない。
「藤原さんのパンティください」
『その願いを叶える事は出来ない』
「くっ!」
分かっていた、分かっていたけど、やっぱり容易い願いじゃなかった。
半分は冗談だったけど、半分は本気だった。かなりショックだ。
「じゃあ、俺の五円返してください」
どうせパンティを貰っても、藤原さんの物なのか分からない。
本当に一番簡単そうなお願いを言ってみた。
「……んっ?」
だけど、今度は反応しなかった。
願いを拒否られると、またお金を入れる暗黙のルールがあるみたいだ。
仕方ないから、五円入れて同じ願いを言ってみた。
「お願いします。俺の五円返してください」
『その願いを叶える事は出来ない』
「何だよ、これ? この賽銭箱壊れているよ」
流石にちょっと冷静になってきた。
母さんは知らないフリをしていたけど、本当は知っているのかもしれない。
このイタズラ賽銭箱に、いくらお金を入れるか試したいんだろう。
「分かったよ。簡単な願いを考えればいいんだろ?」
賽銭箱に聞いたけど、返事は返ってこない。でも、ルールは分かった。
藤原さんを幸せには出来ない。俺のお金は戻って来ない。藤原さんの物を手に入れる事は出来ない。
つまりこれ以外の願いを言えばいい。
「あぁー、駄目だ。全然分からない」
だけど、考えても分からない事はある。だったら、聞き方を変えるしかない。
五円入れると賽銭箱に聞いた。
「どんな願いなら叶えられるか教えて欲しい」
『その願いを叶える事は出来る。直接誰かを幸せにする事は出来ないが、誰かを幸せに出来る力と物をお前に与える事は出来る。直接他人の物を盗んだり、他人を傷つけたり、金を作る事は出来ないが、お前が欲しい物を作る事は出来る。お前の願いは叶えた。約束通りに神社に帰るとしよう』
「えっ?」
こんなに長々とAI搭載型の賽銭箱でも喋るはずがない。
叶えられる願いを教えてもらっただけで帰られたら、人生最大の後悔の始まりだ。
宙に浮かび上がった賽銭箱を両手で掴んで引き止めた。
「ちょっと待って待って! まだ帰らないで!」
『分かった。お前の願いを叶えよう』
「はぁ、はぁ、危なかったぁー」
間一髪だったけど、空飛ぶ賽銭箱が机に戻ってくれた。
信じられないけど、この賽銭箱は間違いなく普通じゃない。
本当に願いを叶えてくれるかもしれない。
節約の為に財布から一円玉を出して、賽銭箱に入れて願いを言った。
「透明人間になれる薬が欲しい」
だけど、一円だと駄目みたいだ。賽銭箱は何も喋らない。追加で四枚入れても無反応だ。
最低でも五円玉を入れないと、駄目みたいだ。五円入れるともう一度願いを言った。
「透明人間になれる薬が欲しい」
『その願いを叶える事は出来る。叶えたければ、絶対不可能な試練を乗り越えろ』
「えっ? 嘘ッッ⁉︎」
叶える事が出来ると聞いて、一瞬だけ喜んでしまった。だけど、それも一瞬だけだった。
賽銭箱が唸り声を上げて、掃除機のように俺を賽銭箱の中に吸い込んだ。
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