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第二話

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「この度は我が社が開発中の最新フルダイブ型ゲーム『セカンドワールド』のテストプレイヤーにご協力していただき、大変ありがとうございます」
「あ、ああ、これはどうも」

 土下座姿勢で頭を下げたまま、いかにも社長とか専務といった感じのおじさんに言われたら、こっちの方が萎縮してしまう。すぐに俺も床に座って頭を下げた。

「それで早速で申し訳ないのですが、ログアウトを選択していただけないでしょうか?」
「ああ、はい。それは構いませんが……ログアウトすればいいんですね?」
「恐縮です」

 なんか知らんが、偉い人に頼まれたら逆らえないのが平の悲しい宿命だ。
 メニュー画面を開いて、ログアウトを指でタッチした。
 はい、いいえ、の選択が出てきたので、はいをタッチした。

「ん?」

 反応がないので、もう一度タッチした。

「ん?」

 反応がないので、もう一度タッチした。

「すみません。ログアウト出来ないですけど……」
「大変申し訳ありません‼︎ ログアウト出来ないんです‼︎」
「えええてええええええええ‼︎」

 社長に理由を聞こうとしたら、神速のログアウト返し謝罪されてしまった。
 ログアウト出来ないゲームなんて聞いた事がない。こりゃービックリだ。

「い、一時的にですよね!」
「一時的と言いますか、意識と五感のログインは可能になったのですが、逆がまだ開発中というか、ごにょごにょ、実験中でして……」

 聞かない方がよかった。社長さんが言い難そうに出来ないと言っている。

「つまり今すぐログアウトは出来ないんですよね? どのぐらいかかるんですか?」

 でも、時間があればログアウト出来るはずだ。何時間ぐらいかかるか聞いてみた。

「それが……まだ一人の成功者もいないんです」
「……一人もですか」
「はい、一人もです」
「「…………」」

 社長が真剣な顔で答えた。俺もつい真剣な顔で社長と見つめ合ってしまう。
 一人の成功者もいないという事はつまりそういう事だ。
 ログインは出来ても、ログアウトは出来ないという事だ。

「ごくり……いつかは出来るんですよね?」
「諦めなければ……」
「そうですか……」

 この社長の目は諦めた者の目じゃない。多分、そうだ。そのはずだ。
 諦めた人間なら、まず謝罪に来ない。

「分かりました。信じて待ちます。それで俺の身体と仕事なんですが……」

 出られないなら仕方ない。ここは妥協するしかない。
 だけど、俺は一人暮らしの平社員だ。
 つまり部屋で倒れている俺本体の面倒を見てくれる人間がいない。
 ログアウトが可能になる前に俺本体が死んだら、別の意味で強制ログアウトだ。

「ご心配なく。その辺りは我が社が責任を持って対応させていただきます。そして、佐藤様にはテストプレイヤーとして、このゲームをプレイしていただきたい、その期間に応じて報酬をお支払いさせていただきます。一ヶ月100万円でよろしいでしょうか?」
「謹んでお引き受けさせていただきます」

 ゲームで遊んで、100万貰って喜ばない男はいない。
 歌舞伎の襲名披露みたいに恭しく社長に頭を下げて感謝した。

「さて、村にでも行くか」

 社長のアバターが現実世界に帰っていった。
 テストプレイヤーと言っていたが、実際は監視なしの放置プレイヤーだ。
 つまり何をやっても止められる心配はない。
 現実世界で日頃できないような事を沢山やりまくるチャンスだ。

 まずは『セーブクリスタル』を探そうと思う。
 攻略本通りなら北に少し進めば村がある。

 セーブクリスタルとは、セーブとロードの二つが出来る青色の大きな水晶だ。
 セーブしていれば、死んだ時にセーブしたクリスタルの前で生き返る事が出来る。
 ロードはどんな場所からでも、セーブした時のクリスタルの前に戻る事が出来る機能だ。
 つまりセーブした後にめちゃくちゃ悪い事しても、ロードすれば全て元通りというわけだ。

「えっと、主人公とヒロインがいるのか」

 攻略本を読みながら、村の情報収集だ。
 これから向かう村には、このゲームのメインキャラクターが二人住んでいる。
 一人は男猟師、もう一人は女農民だ。

 男猟師に興味はないが、女農民はもちろん有り有りだ。
 格闘術を使う元気美少女で、年齢17歳、身長161センチ、B83・W58・H84だ。
 これはもうパンティを拝ませてもらうしかない。

 いやいや、待て待て。パンティだけで我慢する必要あるか? 
 ここはゲームだぞ。警察もいなければ、被害者も所詮は人工物だ。
 人間の姿をした動く人形と言ってもいい。しかも、ロード機能有りだ。
 襲ったとしても無かった事に出来る。これはもう襲う以外の選択肢はない。

「あれが村か」

 確かに村にしか見えない。
 固められた薄茶色の道を進んでいくと、村の入り口が見えた。
 牧場などで使われる木の柵に囲まれている。
 円形の家は赤茶色の屋根に白壁で作られた、土建築とでも呼ぶべき異国風の建物だ。
 平屋はもちろん、二階建てや三階建てもある。
 主人公が住む辺境の村という設定のわりには、そこそこ発展している。

「ああ、あれだな」

 そんな村の入り口近くに青い大きな水晶が立っている。
 道に宝石が落ちているようなものだが、誰も盗まないみたいだ。
 村の中を動き回る村人達は見向きもしていない。

 まあ、俺にとっては好都合なので早速セーブだ。
 まずはセーブ出来るか確認しないと何も出来ない。
 もしもセーブもロードも出来ないなら、悪い事したら牢屋でログアウトを待つ事になる。
 それはもうほとんど現実世界以上の過酷な刑務所で服役しているようなものだ。
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