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第2章・異世界調査編

第18話・亜紀斗死亡

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「ありがとう。小夜さん、ハナさん、その勇気と優しさに感謝する。亜紀斗は死にたくないんだな?だったら、今からこの2人をお前が殴り殺せ。2人が変身出来なくても、殺す事が出来たなら使えるこまとして生かしてやる。変身させる事が出来るなら、拷問するのも、犯すのもお前の好きな方法でやっていい。だが、5分以内に変身させる事も殺す事も出来なければ3人とも殺す。よーい、始め。」

「ちょっと待ってくれよ!そんなの出来ねぇよ!」(何で俺がこんな事しないといけないんだよ。他の奴でいいだろう。)

 どうやら銅の短剣は最初から使うつもりがなかったようです。亜紀斗、小夜、ハナは人間のままです。人間同士の問題は人間同士で解決されるようです。源造がこんな非情な男だとは誰も思いませんでした。若い頃の彼はとにかく手がつけられない札付きの悪でした。

「チッ。どうしたんだい?さっさと殴らないのかい?こっちは待ってんだよ。るなら早くやりな!亜紀斗!」(覚悟がない人間はやっぱり駄目だね。肝心な時に心も身体も動いてくれないよ。まあ、人の事は言えないけどね。)

 亜紀斗はその場からまったく動こうとしません。車椅子に座った状態のハナが殴れと強い口調で言っても、顔色を青くするだけで効果はないようです。

「な、なぁ、やめようぜ。この冗談つまらねぇよ。全然笑えねぇよ。アッハハハハ~~♪」

「亜紀斗、20秒経過したぞ。遊んでていいのか?早く殺れよ。」(コイツは駄目だな。)

「げ、源さん、あんた正気かよ!これは人殺しなんだぞ!絶対にやったら駄目なんだ!馬鹿じゃねぇのか。ハチも鉄男も弦音も黙ってないで、源さんを止めようぜ!」

 源造の腕時計が正確に針を進めます。源造はもう亜紀斗が使えない駒だと確信したようです。このままだと別の方法を探すしかなさそうです。

「俺も源さんと同じ意見だ。さっさとるんだ。にわとりの首を斧で切り落とすのと同じで、慣れれば何とも思わねぇよ。」

「何言ってんだよー。鶏じゃねぇよ。婆さん達は人間なんだよ!人間が人間を殺せる訳ねぇだろって話してんだよ!俺は絶対にやらねぇからな!」

 生まれた時代が違うのか、それとも覚悟の違いなのか、鉄男は家で飼っていた鶏の頭を何羽も切り落として食べていました。それと同じ事を言っているようです。亜紀斗は今すぐにでも逃げ出したい気持ちでしたが、源造が銅の短剣を持って背後に立っています。自分が殺るか、殺られるかです!結局は亜紀斗が殺らなくても、他の人が殺るだけです。最後まで自分の手を汚したくない潔癖のヒーローなんか、この世界には必要ありません。

「ハァ~~、分かった。残り3分だ。お前が変身出来たら2人は殺さないでおこう。変身出来なかったら、小夜さん、ハナさん、2人が亜紀斗を拷問して変身させるんだ。お前が変身出来るまで毎日拷問する。さあ、亜紀斗。変身しろ。」(やはり時間の無駄か。攻守を替えてみるか。)

「出来ねぇよ………気持ち一つで変われる程、俺は器用じゃねぇんだよ!お前らとは違うんだよ!何にも出来ねぇんだよ。」

『ブチィ‼︎』「今も昔も世の中ちぃっとも変わってねぇ。出来ない奴は死ぬだけだ!ハチ、鉄男。亜紀斗を車椅子に座らせて押さえていろ。確か小夜さんの裁縫道具箱にハサミがあったよな。まずは耳から切り落としてやる。安心しろ。ヌイグルミに変身出来れば、くっ付ける事も簡単だろうよ。」

 子供の我儘わがままに付き合っている暇はありません。ルミルミが物グルミン化したのは送迎車と濡れていた服だけです。小夜を車椅子から下ろすと、そこに亜紀斗を座らせて、ハチと鉄男の2人で両手を押さえ付けました。源造は小夜の裁縫道具箱から糸切りバサミを取り出すと亜紀斗に向かって行きました。

「やめろ!やめろよ!やめろぉー!俺に近づくにじゃねぇよ!やめ、やめてくれ、頼むやめ!」

『ジョキン!ジョキン!ジョキン!』「ギャア~~!アッアア~~!!」

『ジョキン!ジョキン!』「しっかり押さえておけよ。手元が狂うと危ねぇからな。次は右耳だ。その次は鼻。嫌なら早く変身するんだな。」(チッ。服が血で汚れたじゃねぇか。)

「マスターズ!マスターズ!」(痛い!痛い!痛い!)

 残念ながら亜紀斗の覚悟は足りないようです。変身の言葉を叫んでも、変身出来ません。源造はジョキン、ジョキンと力を入れて赤い液体の付いたハサミを動かします。左耳が終わると今度は右耳を切り始めました。亜紀斗の叫び声が街の方まで聞こえていました。

 ❇︎

「アイツら何を騒いでいるんだルミ?本当に日本人は何処でも馬鹿騒ぎするんだルミ。さっさと戻って注意するんだルミ。」

「あんたも大変ゲロ。僕だったら獣グルミンの所に連れて行って食べて貰うんだゲロ。」

「それは駄目ルミ。精霊王様が言ってたルミ。選ばれし7人の職人達がこの世界を救うんだルミ。亜人五人衆のようにただ強い戦士じゃ駄目なんだルミ。」

「文明レベルが低い異世界人じゃどうかと思うゲロ。残りの3人は亜人から選ぶのが絶対に良いゲロ。ルミルミには頑張って欲しいゲロ。」

「考えておくんだルミ。じゃあ、僕はそろそろ戻るんだルミ。マスターズが来たら、作業場はしっかりと使わせるんだルミ。」

「分かったゲロ。異世界人のお手並み拝見ゲロ。」

 ルミルミは左翼の治療が終わると、街の職人達を回って、作業場を貸してくれるようにお願いしていました。最後に訪れたのは料理人のカエル亜人でした。何とか全ての作業場を使う許可を職人達から貰う事が出来たようです。確かにどう考えてもマスターズ達が作業場を1から作れるはずがありませんし、やろうとしても非効率的です。日本人が気に入らないという理由だけで協力を拒否したら、精霊王への叛逆行為ととらえられてしまいます。

「やれやれ、これだけ僕が頑張っているルミ。そろそろ、材料は集め終わった頃ルミね。」『バサバサ…バサバサ…』

 ルミルミは歩くよりも飛ぶ方が速いです。それに左翼の治療が上手く出来ているのか確認する必要があります。バサバサと翼を羽ばたかせて、風のようにマスターズの元に向かって行きました。

 ❇︎

「どうだ?」(結局駄目だったか。)

「脈も呼吸も止まっています。多分死んでいると思います。」(本当に殺すなんて……。)

「そうか。残念だが仕方ないな。次に行こう。」(残りの2人も駄目そうだな。)

 血塗れの車椅子から動かなくなった亜紀斗を下ろすと、次は小夜か、ハナの番です。ハナは死んでいいと前から言っているので、拷問に効果があるとは思えません。少しぐらいはやってみる価値はあるかも知れませんが、次はハナではなく、小夜です。仲間が減るのは嫌ですが遅かれ早かれこの世界に適応出来なければ死に行く運命が待っているだけです。元の世界で孤独に死ぬか、こっちの世界で獣グルミンに殺されるか、死に方にも色々ありますが、綺麗な死に方などありません。亜紀斗の死を無駄にしないように、これからどう生きるかが、残された者達にとって重要な課題になっていくのです。

 ◆次回に続く◆
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