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第2章・異世界調査編

第17話・命懸け

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 ハチと源造が街の道具屋に出掛けた後、残りの5人は送迎車の中を片付けていました。濡れた服や靴、お菓子や緑茶のペットボトル飲料と結構食べ物もありますが、1日で消費されてしまう程度の量です。

『ガサゴソ』「何とかこの中で寝る事が出来ると思いますが、長時間はさすがに体調を悪くすると思います。ヌイグルミの身体なら大丈夫かも知れませんが、3人はやめた方がいいですね。」

「あの2人は地面に寝た方が良さそうだな。草綿でも沢山集めればベッドでも作れそうなんだがな。」(俺は獣と虫に襲われたくないから車だな。)

 予期せぬ自然災害で家が倒壊していまい、長期間の自動車の中での車中泊を余儀なくされる場合があります。そんな時にエコノミークラス症候群を発症して死亡するケースもあるぐらいです。とくに高齢者の2人には寝るだけでも命がけになります。

「私、思うんです。普段から情熱を持って生きていれば、苦労せずに変身出来たかもしれません。格差社会や高齢者の孤独死とか、いつも暗い事を考えてないで明るい事を考えるべきなんです。学歴とか才能とか年齢とそんな些細な事は忘れて、夢や希望を持ち続ける事が大切なんです。今からでも遅くありません!さぁ、夢を語り合いましょう。」

「夢ねぇー、例えば?」(何言ってんのこの若いのは?)

「へぇっ?えっ~~と、アレです。えっ~~と、アレですよぉ~♪そう、アレです!」

「アレって、何ぃー‼︎」(適当に生きてんはあんただよ!)

 アレでは誰も分かりません。弦音は回復したハナの逆鱗げきりんに触れてしまいます。キラキラした目で夢を語り合いましょうと言いながら、語れる夢の1つもないようです。夢とか希望とか適当な事を言ってないで、畑で取って来たニンジンでも料理してください。

「ニンジンですかぁ~?生で良さそうですね。あっ!でも、3人は綿ニンジンは食べれませんよね。ルミルミさんに頼まないといけませんね!」

『ムグムグ…ムグムグ…ゴックン』「何とか押し込めば食えるな。味もニンジンで間違いねぇ。でも、食感はやっぱり綿だな。」

「へぇ~、私も食べてみますね!」『ムグムグ…ゴックン』「やっぱり生でも食べれますね。」

 鉄男と弦音の口の中で綿ニンジンは溶けているようです。ヌイグルミ人間はただの化け物です。この5人の中でまともに料理が出来そうなのは小夜とハナの2人ぐらいでしょう。このまま鉄男と弦音の2人を放って置いたら、そのうち羊の生肉が料理として出されてしまいそうです。せめて焼く、煮るぐらいは出来るように教えないといけません。

「まったくあんた達は料理もロクに出来ないなんて……ハァ~~、どうせスーパーかコンビニの弁当でも毎日食べてるんでしょう?どっちか1人、街に行って調味料がないか調べて来たらどうなのよ。あったら少しでもいいから貰って来るのよ。」

「単独行動は駄目だって源さんに言われただろう。行くなら鉄男と弦音の2人しかいないし、源さん達が戻るまでココで待機した方が絶対に良いって!」(駄目だ。2人も抜けたら俺が1人でババア2人を守る事になるだろう。それは嫌だ。)

「いいや、調味料よりも料理するなら火が必要だろう。この街にはガスコンロもIHコンロもなさそうだし、どうやって火を使っているのか調べるのを優先しようぜ。まずはこっちの世界の生活様式を知る必要があると思う。」

「そうですよね。調味料に、火に、本当に調べる事がいっぱいですね。あとでルミルミさんが来た時に聞きたい事が聞けるように、聞きたい事リストでも作っておきましょう。」

 ハナ、亜紀斗、鉄男の主張する事は一致しません。『あれをした方がいい。これをした方がいい。』と考える事がバラバラです。弦音は弦音で作業着のような上着の胸ポケットから、ポケットサイズのメモ帳とボールペンを取り出しました。早速聞きたい事リストを書き始めています。弦音がメモを取るだけで満足して終わるタイプじゃないといいですが、彼女の場合はかなり怪しいです。

 ❇︎

 ハチと源造が道具屋から帰って来ました。源造はちょっとだけ精神的に疲れているようですが、やる事は山積みです。まずは街の様子を残っていた5人に話始めました。

「さてと、ちょっと街の中に入っただけだったが、どうやら日本人はそこまで好かれていないらしい。道具屋の店主は中国人とカンフーが好きで、黒猫の亜人はオカマ猫だった。ここは敵地ではないが、それに近いと言ってもいい。」(やはり変身は出来ていないようだな。)

「何で日本人はそんなに嫌われているのでしょうか?私達以外の日本人が何か悪い事でもしたのでしょうか?」

「ここの住民はNHKのテレビ番組を見ているようだが、あれに日本人を嫌いにさせるものが映っているとは思えないんだがな。」(国会放送か、ニュース番組の悲惨な事件とかか?)

 確かに最近のニュースは児童虐待や学校内や職場でのイジメ、高齢者を騙す若者、若者を騙すブラック企業、国民を騙す政治家ととにかく日本人は傷つけ傷つけられ、騙し騙されたりと大忙しです。

「そういえば最初から気になっていたんですが、NHKを見ているのなら受信料は払っているのでしょうか?」

 弦音さん、それはどうでもいい事です。それよりもこの世界は日本と電波で繋がっているようです。きっと何処かに通路があるはずです。調べてみる価値はあると思います。

「源さん、電波が日本からこの世界に届いているんなら道がある証拠だぜ。ルミルミは帰れないと言ってたが、もしかすると日本に帰る事も可能なんじゃねぇのか?」(テレビを見てるなら受信料はキチンと払わねぇとな。あとで俺が徴収しないとな。)

「あぁ、そうかもしれねぇな。だとしたらやる事は1つだ!生き抜いて日本に帰る方法を探す。悪いとは思うが小夜さん、ハナさん、亜紀斗、その身体じゃこの世界で生き残る事は難しい。命令だ、今すぐにマスターズに変身しろ。出来なければこの短剣でお前達の喉を掻き切る!いいな?」

 まるで戦時中の日本軍人のようです。源造は布と綿で出来た銅の短剣を木箱から取り出して、3人に見せつけました。この短剣で喉を掻き切る事が出来るか分かりませんが、3人を殺す事は可能でしょう。戦地で戦う事の出来なくなった負傷兵は切り捨てるしかないのです。

「ハッ、ハッハハハ♪おいおい、冗談やめようぜ。そんなマジな顔してたら本気だと思うじゃねぇかよ。なあ、婆さん達もそう思うよな?」(何かいつもの源さんと違って怖えよ。冗談だよな?)

「………源さん、その眼は本気のようね。分かったわ。私も皆んなの足手纏あしでまといになりたくわないわ。変身出来なければ遠慮なく殺してちょうだい。ハナちゃんもいいわね。」(あの眼は堅気の人の眼じゃないわ。本気でる気ね。)

「私は最初から死ぬつもりよ。こんなに早く死ねて嬉しい限りよ。さっさと殺してちょうだい。」(出来ればネズミを殺したかったわね。)

 小夜とハナの2人は覚悟が出来ているようです。どっちにしてもこのまま変身出来なければ死ぬ運命は決まっています。命をかける時が来ただけです。

「何言ってんだよ!こんなの馬鹿げている。何で死なないといけないんだよ!俺達、仲間だろう?助け合って日本に帰ろうぜ!なぁ、ハチもその方がいいだろう?弦音もそう思うよなぁ?」

「「………………」」

(誰か反対しろよ!)

 亜紀斗の質問にハチと弦音の2人は何も返事をしません。役に立つとか、立たないとか、そんなレベルの話をしていません。この世界で誰かの手を日常的に借りなければ生きていけない人間はお荷物なのです。日本での当たり前の助け合って生活する考え方は、当たり前のようであって、当たり前じゃないのです。安全で平和であるから出来る事なのです。

「亜紀斗、民主主義で行こう。6対1だ。さぁ、始めようか。」

 実際に世界的な暴動や戦争が起きた時に呑気のんきに買い物する人よりも、店の商品を金も払わずに根こそぎ1人で奪って行く人の方が助かる可能性は高いはずです。ここは異世界の戦地です。日本での助け合い精神は通用しません。考え方をチェンジしなければ助かりません。変わるか、死ぬか………さぁ、選ばなければいけません。

 ◆次回に続く◆
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