3 / 34
第1章 告白編
第3話 (明日香パート)
しおりを挟む
「今日も来てるよ。ほら、あそこ」
私はチームメンバーに教えられた方向をチラッと見た。応援席の最後尾に隠れている薫の姿が見えた。帽子に伊達眼鏡で変装しているつもりらしい。いくら何でも従姉弟なら分かってしまう。
(あっはは…今日もバレバレだよ)
馬鹿な従姉弟の姿を見て少しだけ元気になった。中学3年生最後のバスケットボールの大会。運良く3回戦まで進出する事は出来た。この試合に勝てれば初めての準々決勝進出になる。この大会がお父さんにとっても最後の大会になるかもしれない。見っともない結果は見せられない。
「よぉーーーし! 行くよ!」
『おお!』
1年生から3年生、マネージャーまで加わりバスケ部員全員で大きな円陣を組むと、私は掛け声を上げた。皆んなの元気な声が直ぐに返ってくる。今までで一番勝ちたいと思う自分がそこにはいた。けれども、待っていたのはいつもと同じ結果でした。
「皆んな、よく頑張った。3年にとっては最後の試合だったが、今までで一番良い試合だったと思う。今は悔しい気持ちで一杯かもしれない。けれども、高校受験はすぐそこに迫っている。この悔しい思いをもう一度味わいたくないのなら、しっかりと頑張るんだぞ」
『はい!』
3年間お世話になった安藤コーチからの最後の指導も全然頭に入って来ない。悔しくて悔しくて涙が溢れ出てくる。拭っても拭っても止まってくれない。こんな見っともない姿をお父さんには見せられない。こんな姿を見せれば心配させてしまうだけだ。
「あゔぁっっっ~~‼︎」
チームメンバーと気が済むまで泣いて叫んだ。もしかしたら薫には見られてしまったかもしれない。小学校から一緒なのに、学校では他人のフリをし続けている変わった奴だ。だから私も同じように他人のフリをし続けている。
❇︎
試合が終わった数日後に、お父さんが入院している病室にお見舞いに行く事にした。やっと気持ちが落ち着いた。落ち着いて話しが出来るようになったと思う。
「大丈夫、お父さん?」
日に日に弱って行く父親を見るのは正直言って辛い。けれども、まだ見れるのだ。まだ見て、触れて、会話する事が出来る。私は贅沢な我儘を言っているだけでしかない。
「ああっ、今日は良い方だ。それよりも母さんから聞いたが高校には進学しないそうだな。もしもお金の事を心配しているのならその必要はないぞ。父さんが死んでも保険金と貯蓄があるんだから大学までは安心して進んでいいんだぞ」
「お父さん……何冗談言ってんのよ。お父さんが簡単に死ぬ訳ないでしょう。あと1年もすれば私の結婚式にも出られるんだから」
「ごぉほっ…ごぉほっ……それはまだ早過ぎる!」
「ちょっとお父さん! 興奮したら駄目じゃない。冗談に決まっているでしょう。私まだ15なのよ」
「いいか、そんなに早く結婚する必要はないぞ。お前は父さんの事に縛られずに好きな人生を歩んで欲しいと思っているだけなんだ。結婚は絶対に認めないからな!」
「分かったから……結婚はまだしないから落ち着いてよ。まったく…」
お父さんが本当に見たいのなら、私は誰かと結婚式をしてもいいと本気で思っていた。流石に孫を見せるのは無理でも結婚式ごっこぐらいは出来るはずだ。だってお父さんはもう助からないのは知っていた。良くて私が高校の制服を見せてあげられるまでしか生きられないらしい。あと数ヶ月の命で出来る限りの親孝行をしたかった。
私はチームメンバーに教えられた方向をチラッと見た。応援席の最後尾に隠れている薫の姿が見えた。帽子に伊達眼鏡で変装しているつもりらしい。いくら何でも従姉弟なら分かってしまう。
(あっはは…今日もバレバレだよ)
馬鹿な従姉弟の姿を見て少しだけ元気になった。中学3年生最後のバスケットボールの大会。運良く3回戦まで進出する事は出来た。この試合に勝てれば初めての準々決勝進出になる。この大会がお父さんにとっても最後の大会になるかもしれない。見っともない結果は見せられない。
「よぉーーーし! 行くよ!」
『おお!』
1年生から3年生、マネージャーまで加わりバスケ部員全員で大きな円陣を組むと、私は掛け声を上げた。皆んなの元気な声が直ぐに返ってくる。今までで一番勝ちたいと思う自分がそこにはいた。けれども、待っていたのはいつもと同じ結果でした。
「皆んな、よく頑張った。3年にとっては最後の試合だったが、今までで一番良い試合だったと思う。今は悔しい気持ちで一杯かもしれない。けれども、高校受験はすぐそこに迫っている。この悔しい思いをもう一度味わいたくないのなら、しっかりと頑張るんだぞ」
『はい!』
3年間お世話になった安藤コーチからの最後の指導も全然頭に入って来ない。悔しくて悔しくて涙が溢れ出てくる。拭っても拭っても止まってくれない。こんな見っともない姿をお父さんには見せられない。こんな姿を見せれば心配させてしまうだけだ。
「あゔぁっっっ~~‼︎」
チームメンバーと気が済むまで泣いて叫んだ。もしかしたら薫には見られてしまったかもしれない。小学校から一緒なのに、学校では他人のフリをし続けている変わった奴だ。だから私も同じように他人のフリをし続けている。
❇︎
試合が終わった数日後に、お父さんが入院している病室にお見舞いに行く事にした。やっと気持ちが落ち着いた。落ち着いて話しが出来るようになったと思う。
「大丈夫、お父さん?」
日に日に弱って行く父親を見るのは正直言って辛い。けれども、まだ見れるのだ。まだ見て、触れて、会話する事が出来る。私は贅沢な我儘を言っているだけでしかない。
「ああっ、今日は良い方だ。それよりも母さんから聞いたが高校には進学しないそうだな。もしもお金の事を心配しているのならその必要はないぞ。父さんが死んでも保険金と貯蓄があるんだから大学までは安心して進んでいいんだぞ」
「お父さん……何冗談言ってんのよ。お父さんが簡単に死ぬ訳ないでしょう。あと1年もすれば私の結婚式にも出られるんだから」
「ごぉほっ…ごぉほっ……それはまだ早過ぎる!」
「ちょっとお父さん! 興奮したら駄目じゃない。冗談に決まっているでしょう。私まだ15なのよ」
「いいか、そんなに早く結婚する必要はないぞ。お前は父さんの事に縛られずに好きな人生を歩んで欲しいと思っているだけなんだ。結婚は絶対に認めないからな!」
「分かったから……結婚はまだしないから落ち着いてよ。まったく…」
お父さんが本当に見たいのなら、私は誰かと結婚式をしてもいいと本気で思っていた。流石に孫を見せるのは無理でも結婚式ごっこぐらいは出来るはずだ。だってお父さんはもう助からないのは知っていた。良くて私が高校の制服を見せてあげられるまでしか生きられないらしい。あと数ヶ月の命で出来る限りの親孝行をしたかった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる