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第1章 告白編

第3話 (明日香パート)

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「今日も来てるよ。ほら、あそこ」

 私はチームメンバーに教えられた方向をチラッと見た。応援席の最後尾に隠れている薫の姿が見えた。帽子に伊達眼鏡で変装しているつもりらしい。いくら何でも従姉弟なら分かってしまう。

(あっはは…今日もバレバレだよ)

 馬鹿な従姉弟の姿を見て少しだけ元気になった。中学3年生最後のバスケットボールの大会。運良く3回戦まで進出する事は出来た。この試合に勝てれば初めての準々決勝進出になる。この大会がお父さんにとっても最後の大会になるかもしれない。見っともない結果は見せられない。

「よぉーーーし! 行くよ!」

『おお!』

 1年生から3年生、マネージャーまで加わりバスケ部員全員で大きな円陣を組むと、私は掛け声を上げた。皆んなの元気な声が直ぐに返ってくる。今までで一番勝ちたいと思う自分がそこにはいた。けれども、待っていたのはいつもと同じ結果でした。

「皆んな、よく頑張った。3年にとっては最後の試合だったが、今までで一番良い試合だったと思う。今は悔しい気持ちで一杯かもしれない。けれども、高校受験はすぐそこに迫っている。この悔しい思いをもう一度味わいたくないのなら、しっかりと頑張るんだぞ」

『はい!』

 3年間お世話になった安藤コーチからの最後の指導も全然頭に入って来ない。悔しくて悔しくて涙が溢れ出てくる。拭っても拭っても止まってくれない。こんな見っともない姿をお父さんには見せられない。こんな姿を見せれば心配させてしまうだけだ。

「あゔぁっっっ~~‼︎」

 チームメンバーと気が済むまで泣いて叫んだ。もしかしたら薫には見られてしまったかもしれない。小学校から一緒なのに、学校では他人のフリをし続けている変わった奴だ。だから私も同じように他人のフリをし続けている。

 ❇︎

 試合が終わった数日後に、お父さんが入院している病室にお見舞いに行く事にした。やっと気持ちが落ち着いた。落ち着いて話しが出来るようになったと思う。

「大丈夫、お父さん?」

 日に日に弱って行く父親を見るのは正直言って辛い。けれども、まだ見れるのだ。まだ見て、触れて、会話する事が出来る。私は贅沢な我儘を言っているだけでしかない。

「ああっ、今日は良い方だ。それよりも母さんから聞いたが高校には進学しないそうだな。もしもお金の事を心配しているのならその必要はないぞ。父さんが死んでも保険金と貯蓄があるんだから大学までは安心して進んでいいんだぞ」

「お父さん……何冗談言ってんのよ。お父さんが簡単に死ぬ訳ないでしょう。あと1年もすれば私の結婚式にも出られるんだから」

「ごぉほっ…ごぉほっ……それはまだ早過ぎる!」

「ちょっとお父さん! 興奮したら駄目じゃない。冗談に決まっているでしょう。私まだ15なのよ」

「いいか、そんなに早く結婚する必要はないぞ。お前は父さんの事に縛られずに好きな人生を歩んで欲しいと思っているだけなんだ。結婚は絶対に認めないからな!」

「分かったから……結婚はまだしないから落ち着いてよ。まったく…」

 お父さんが本当に見たいのなら、私は誰かと結婚式をしてもいいと本気で思っていた。流石に孫を見せるのは無理でも結婚式ごっこぐらいは出来るはずだ。だってお父さんはもう助からないのは知っていた。良くて私が高校の制服を見せてあげられるまでしか生きられないらしい。あと数ヶ月の命で出来る限りの親孝行をしたかった。

 





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