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エピソード1最終話 ファントムとレナス

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 地上に急降下するとレナスの顔横に着地した。

『ごふっ、がふっ……!』
『傷は浅いぞ! しっかりしろ!』

 なんか口からも血を吐き出しているけど、きっと大丈夫だ。
 大丈夫じゃないと僕がママに殺される。

『ははっ、まさか、ピィーちゃんに殺されるとは思わなかったよ……』
『死ぬなんて簡単に言うな! 諦めるのはまだ早いぞ!』
『ははっ、病気の余命よりも早く死んじゃうなんて、頑張ったのにおかしいねぇ……』
『何もおかしくない! まだまだ頑張れ!』

 なんか大怪我して笑っているし、もう死ぬ寸前だけど、きっと大丈夫だ。
 収納袋からお父さんに渡された壺を取り出した。
 この血を飲めば病気も怪我も治る。治るはずだ。

『ははっ、きっと罰が当たったんだよ。調子に乗って、悪いこといっぱいしちゃったから。僕みたいな悪い子は死んだ方がいいんだよ……』
『死んでいい人間なんていない! それにどんなに悪い人間でも良いことは出来る! 生きていっぱい良いことして償うんだ!』
『うん、そうだね、僕に出来るかな……』
『出来るか出来ないかじゃなくて、やるんだよ!』

 弱気なことばっか言いやがって。励ます方も大変なんだぞ。
 もう面倒だからこの壺の中に頭突っ込んでやる。

『よくやってくれた、我が友よ。これで我らを脅かす存在は消えた』
『消えねえよ!』

 僕を助けてくれたのは感謝するけど、それとこれとは話は別だ。
 地上に降りてきた一匹のドラゴンにキレると、レナスの頭を両脚で掴んだ。

『何をするつもりか知らんが、もう手遅れだ。その傷では生きられん』
『ぐぐぐっ、テメェーが決めるんじゃねえよ!』

 少し重いけど持ち上げられそうだ。
 自称友達のドラゴンが邪魔してくるけど、気にせずにレナスの頭を壺に突っ込んだ。

『飲め飲め飲め!』
『ごぶっ、げぼぉ……!』

 頭を血の中に沈めて強要する。
 殺すつもりはない。生かすつもりだ。

『愚かな。気持ちは分かるが……何だと?』

 よし、間に合った。レナスの髪の色が青色から金色に変わり始めた。
 胸の方に視線を向けると穴も塞がり始めている。

『一体何をしたんだ?』
『親の愛情だ。コイツはもらって行くぞ』

 信じられないといった感じにドラゴンが聞いてきた。
 素直に聖竜の血を飲ませたなんて言えない。なんか怒られそうな気がする。
 だから、さっさと帰ってやる。頭を掴んだまま飛ぼうとした。

『ぐぐぐっ、お、重い!』

 だけど、頭は出来たのに身体を浮かせるのは無理そうだ。
 仕方ないから収納袋に突っ込んで運んでやる。
 あれなら入れれば重さは関係ない。

 ♢♢♢

 スッと意識が戻ってきた。
 目を開けてみると、いつもの僕の部屋だった。

『んっ、あれ、僕……生きてる?』

 ベッドに寝ていた。長い夢を見ていたんだろうか。

『ようやく起きたか。ヒヤヒヤさせやがって』

 夢じゃなかった。窓枠にピィーちゃんが立っていた。

『ピィーちゃん、どうして僕生きてるの?』

 確か胸に穴が空いて死にかけていた。
 そこから生きていられるはずがない。

『生きてるのに理由がいるのか? 死にたいなら、いっぱい生きてから死んどけ』
『うん、そうだね。そうするよ』

 全然答えになってないけど、確かに生きるのに理由なんていらない。
 生きたいと思って、生きられるなら、こんなに幸せなことはない。

『分かったんなら、これからは真面目に生きるんだな』
『うん、もう三股しようなんて思わないよ。真面目に仕事するよ』
『ガキが調子に乗るな。先は長いぞ。コレやるから木でも切ってろ』

 そう言うとピィーちゃんが窓枠に置いてあるバードスペシャルをクチバシで指した。

『いいよ。それはピィーちゃんの大切な物でしょ』
『大切だったけど、もう使えないからいい。僕だと思って使ってろ』
『僕だと思ってって……』

 なんかお別れするみたいな言い方だ。
 やっぱりあんなことしたから、僕のこと嫌いになったのかな。

『あれ、ピィーちゃんの身体透けてない?』

 でも、よく見ると陽の光を浴びているピィーちゃんが透けていた。

『やっと気づいたか。何もかも遅すぎるな』
『どういうこと? 何で身体が透けているの』

 ベッドから起き上がると窓枠に近づいた。
 見間違いかと思ったけど、やっぱり透けている。
 手で触れようとしたら、手がピィーちゃんをすり抜けた。

『何で、どうして……』
『質問ばかりだな。考えて分かんないのか? 死んだんだよ』
『ピィー、ピィーちゃん、死んでるの⁉︎ い、いつから⁉︎』

 知らなかった。ピィーちゃんが死んでいたなんて。
 でも、一体いつから死んでいたのか分からない。
 ご飯食べていたし、寝てたし、話も出来ていたのに。

『そんな時間はない。もう逝く時間だ』
『待って! 待ってよ、ピィーちゃん!』

 ピィーちゃんの身体が溶けて消え始めた。
 両手で消えないように包んだけど止まらない。

『ピィーピィー泣くんじゃねえよ。男が泣いていいのは……』
『……ピィーちゃん?』

 大切なことを教えてくれる前に消えてしまった。
 男が泣いていいのは、大切な友達が死んだ時も駄目なの。
 男って大変なんだね、ピィーちゃん。

『ぐすっ、ピィーちゃん、天国で元気でね』

 涙をバードスペシャルを握った手の甲で拭き取った。もう泣かないって決めた。
 ピィーちゃんの分まで頑張って生きるよ。

『約束するよ、ピィーちゃん。立派なお墓建ててあげるからね。立派な木工職人になって建ててあげるからね。う、う、うわあああん‼︎』

 だから、今日だけは許してほしい。
 男が泣いていい日は自分で決める。
 大切な友達が死んだ時、そんな時ぐらいは好きなだけ泣いてやる。
 さよなら、ピィーちゃん。

【種族:竜血鬼 レベル60 筋力82 耐久60 敏捷MAX 器用55 知力40 魔力MAX 運35 残りポイント85 『吸血習得』『超加速習得』『氷魔法習得』『聖魔法習得』】

 ♢♢♢

『うわあああん‼︎ ピィーちゃん、愛してるよぉー‼︎ って号泣して言ってた』
「おいおい酷え鳥だな。友達にすることじゃねえぞ」

 冒険者ギルドのテーブルでミルク飲みながら、おじさん達に仕入れてきたばかりの話を聞かせてあげた。
 みんな、レナスの涙に大爆笑している。愛してるよぉー、は言ってないけど、こっちの方が面白い。

『やられたらやり返す。それが常識。それに覚えた技は使いたくなるから仕方ない』

 レナスを倒したら、レベルが55まで一気に上がった。
【残像・改習得】——超加速以外でも残像を作り出すことが出来る。
 それでコレを覚えた。約束通りに涙の海で溺れさせてやった。

「まあ、その気持ちは分かるな。新しい武器買ったら使いたくなるもんな。でも、いいのか? 生きているってバレたらやり返されるぞ」
『問題ない。薬で超雑魚に戻ったから怖くない』
「そりゃあ良かったな。そういえば、ジャングルの宝箱はどうすんだ?」
『ん、宝箱……?』
「ほら、悪魔倒したら貰える宝箱だよ。ガルーダが言ってただろ」
『あっ、忘れてた! あれ、貰えるんだった! 生き返らないと!』

 僕としたことがうっかりしてた。おじさんに言われて思い出した。
 でも、倒したって言うだけじゃドラゴンと同じで誰も信じてくれない。
 仕方ない。収納袋でレナスを誘拐して連れていこ。
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感想 13

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みんなの感想(13件)

こまくま
2024.11.27 こまくま

まさかのママン最強説浮上

解除
まりっか
2024.10.29 まりっか

受付の人、やっぱり人生経験豊富で
手玉に取られてるピーちゃん

解除
MRK
2024.10.27 MRK

エリクサーとか世界樹の実で治れば良いなぁ
ってベタに思っていた。
吸血鬼は、、、びっくり。
楽しく拝読していましたが、お気に入りも外しちゃいました。

解除

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