病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?

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第六十七話 三股ぐらいは許される

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『うわぁ~、凄い!』

 地図を頼りに灰竜山にやって来た。
 まだまだ距離があるはずなのに山がデカすぎる。
 頂上なんて雲を突き抜けて全然見えない。
 もう地図見るのが馬鹿らしいぐらいだ。

『あぁ~、あれかな』

 山近くの空を豆粒みたいな何かが飛び回っている。
 多分、あれが灰色ドラゴンだ。

『う~~ん、どうしよう?』

 ピィーちゃん倒したし、もうドラゴンの血飲まなくてもいい気がしてきた。
 一対一なら倒せる自信あるけど、どう見ても一対多数になるのが目に見えている。

 でもだ。ピィーちゃん倒したなんて誰にも言えない。
 いくら強くてもピィーちゃんは小鳥だ。
『僕、小鳥倒したんだぜ』なんて得意げに言ったら、小動物をイジメるクソ野朗確定だ。
 誰かに自慢したいなら、最強と呼ばれるドラゴンを倒したい。
 爪か鱗か、とにかく身体の一部を冒険者ギルドに持っていけば、倒したと言い張るだけのピィーちゃんを超えられる。

 最強の男、いや、最強のおじ様かな? なんてカッコいい響きなんだ。
 これなら隣村の女の子にまで僕の武勇伝が広がって、モテモテ間違いなしだ。
 三股ぐらいなら許されるぞ。

『何だありゃ? 今度の鳥はデカいな』
『いや、あれは人間だな。飛べる人間とは珍しい。【魔族】か?』

 気づかれたみたいだ。しかも、人間の言葉で話している。
 これなら話し合いで僕に有利な戦いが出来るかも。

『この中で一番弱いドラゴン出てこい! 俺と腕試ししろ!』

 僕を見ているドラゴン達の前まで飛んでいって止まると、堂々と言った。
 ドラゴンはドラゴンだ。
 わざわざ一番強いドラゴンと戦う必要はない。
 一番弱いドラゴン倒すに決まっている。

『一番弱い奴だと……?』
『そうだ! 一番弱い奴出てこい!』

 僕を睨んでドラゴンが、深く確かめるように聞いてきた。
 もちろん聞き間違いじゃない。一番強い奴は出てこなくていい。

『この中で一番弱いのは、セドリックだな』
『はあ? 何言ってんだ、テメェーの方が弱いだろうが!』
『ゔゔあ! やんのか、コラッー!』

『弱いって言ったら、雑用のルビトじゃねえか?』
『いや、俺は最下層の巣穴に住んでいる木こりのホポホポだと思うな』
『下に住んでいるから弱いってわけねえよ。地竜様は地中に住んでるんだぞ』

 あれ? なんかめっちゃ揉め始めた。
 プライドの高いドラゴンに弱いは禁句だった。誰も出てこない。
 こうなったら僕が決めるしかない。
 ドラゴンの中から弱そうな奴を見つけて指差した。

『おい、お前でいい! かかって来い!』

 身体がちょっと小さいし、目も弱々しいし、右翼の先が少し折れ曲がっている。
 僕の目に狂いは……

『あのガキ死んだな。よりによって狂竜のジャスコを選びやがった』
『ブラックドラゴンの中でも十本の指に入る猛者だぞ』

 めちゃくちゃ狂ってた! 弱いのじゃなくて、強いの選んじゃった!

『いや、あのガキ、最初から強いドラゴンと戦うつもりだったんだ。弱いドラゴンを出せと言えば、強いドラゴンを見つけやすくなる』
『なるほど。そういう狙いだったのか』

 全然違います。本当に弱いドラゴンと戦いたいだけです。
 でも、それももう無理みたいだ。僕が指差したドラゴンが近づいてきた。

『先に死んだ方が負け。それでいいな?』
 
 狂ってる。腕試しの意味が分かってない。
 腕試しって遊びと一緒だ。
 本気になったら遊びじゃなくなる。

『まずは挨拶代わりだ』

 そう言うとドラゴンが大きく息を吸い込んだ。
 次に何をするのか、ピィーちゃんの話で知っている。

『”ヘルブレス地獄の息”』

 ドラゴンの身体と同じぐらいの大きな炎の息が吹いてきた。
 確かに地獄だ。めちゃ臭そうだ。こんなの喰らっていられない。
 吹雪とクリスタルシールドの二重の盾を発動させた。

『ふぅー……この程度は耐えるか』
『し、死ぬかと思った!』

 炎の嵐が通りすぎていった。
 ヤバかった。吹雪は消えて、クリスタルシールドは溶けて雨漏りしている。
 炎を氷で防ぐのは危なすぎる。防御よりも攻撃だ。
 ピィーちゃんには見せる必要もなかった、僕の本気を見せる時だ。
 右手を空に向けるとドラゴンに向かって振り下ろした。

『降り注げ”クリスタルレインボウ不可視の雨矢”』

 僕にも見えない氷の矢だ。避けられるものなら避けてみろ。

『ぐがぁ……⁉︎』

 当たったか分からないけど、ドラゴンの反応は当たっている。
 痛たたた、とハチの群れに刺されている程度には痛がっている。

『今のは挨拶代わりだ。取っときな』

 これぞ、おじ様対応だ。
 しっかり武勇伝で語ってやる。

『……なるほど、氷魔法か? クッククク。ヒョウを降らせる程度では我は倒せぬぞ』
『くっ』

 やっぱりハチ程度の攻撃だと倒せない。ドラゴンが笑っている。
 ちょっと痛い雨が降ってきたとしても、雨は雨だ。
 雨に打たれ続けたとしても、大木が折れるなんてことはない。
 右手を握り締めると作り出した。

『”断絶の氷刃アイシクルソード”』

 直接氷の剣を突き刺して、血の一滴も残さず凍らせてやる。
 いくらドラゴンでもこれなら倒せる。剣を両手で持つと突撃した。

『愚かな』
『うわぁー!』

 簡単に近づかせてくれないらしい。ドラゴンが翼や尻尾を振り回してきた。
 当たれば吹き飛ばされる巨大な一撃だ。しかも、動きがめちゃくちゃだ。
 デタラメに振り回しているから、動きを予想して避けられない。

『くっ、こうなったら……』

 覚悟を決めると左手で分厚い氷の盾を作って突っ込んだ。
 今さら後悔しても遅いけど、もっと色々と魔法の練習しておけばよかった。

『焦ったな。”ヘルブレス”』

 盾を構えて突撃する僕に、ドラゴンが空中に停止すると炎の息を吐き出した。
 翼に吹き飛ばされてもいい、捨て身の突撃だったのに、チャンスに変わった。
 身体から全力で吹雪を出して、炎の息に正面から飛び込んだ。

『ぐぅぅぅ!』

 耐えればモテモテ。耐えられなければ死ぬ。
 僕の人生はこの戦いから始まる。
 熱い戦いだ。熱すぎるぐらいだ。
 でも、喉元過ぎれば熱さも忘れるさ!

『うがあああ!』

 炎を突き抜けて、ドラゴンの喉元に出た。
 あとは魔力比べで勝つだけだ。
 太い首に氷の剣を突き刺した。

『ぐぐっ……!』

 さあ、勝負だ。
 お前の首の中で炎の息と氷の吹雪、どっちが勝つか決めてやる。
 両手で氷剣の柄を持つと、ドラゴンの首に吹雪を送り込んだ。

『行けええええ!』
『ぐがあああっ‼︎』

 勝負は一瞬で決まった。太い首が凍りついた。
 飛ぶのをやめたドラゴンが落下を開始した。
 剣から手を離して、ドラゴンの最後を見届けた。
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