病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?

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第六十三話 短い鳥生だった

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『は、話が違うぞ!』

 焼き鳥になりたくないから痛くても走るしかない。
 騙された。魔法使えるなんて聞いてない。
 コウモリが血飲んで、ちょっと強くなったって聞いた。
 全然話が違う。

『ハァハァ、ハァハァ、もう駄目ぇ……』

 走り疲れて倒れてしまった。これ以上は一歩も走れない。
 翼を使って地面を這って移動して、茂みの中に隠れた。
 ここなら見つからない。

『あの野朗、今度会ったら手加減しないからな』

 コウモリに操られていたとしても、レナスの意識が少しはあるはずだ。
 コウモリが僕に土下座しろなんて言うはずない。

 収納袋から竜薬草を取り出して食べた。
 まずは回復だ。飛べるようにならないと街に帰れない。
 帰ってしっかり文句言ってやる。
 あんな化け物、僕が倒せるわけない。

 ♢♢♢

『起きろ……起きろ……』
『んんっ……?』

 ぐっすり寝ていると声が聞こえた。
 目を開けてみると大鳥達に囲まれていた。

『ピィ‼︎』

 しかも、さっきの茂みじゃない。
 大きな木の中みたいな、別の場所に運ばれている。
 焼き鳥にはならなくていいみたいだけど、踏みつけられてミンチにされてしまう。
 短い鳥生だった。ホロリと涙が出てきた。

『安心しろ。我らに敵意はない』
『ほ、本当?』

 信じていいの? 嘘じゃないの? 騙そうとしてない?
 つぶらな瞳で僕を囲む二十以上の大鳥を見た。

『我らの敵はあの【悪魔】だ。あれを放置しておけば世界が滅ぶ』
『う、うん、そうだね』

 襲われないように話を合わせるしかない。
 悪魔って、多分、レナスのことだ。でも、世界を滅ぼすのは無理だと思う。
 強かったけど、そこまで強くなかった。アクアドラゴンの方が強かった。

『ゆえにお主には我ら鳥族の代表として、あれの討伐をやってもらう』
『……はい?』

 何言ってるのか分からない。
 僕、さっきやられたばかりだよ。
 死にそうになったら、なんか変な力が覚醒なんてしないよ。

『もしも断るというのなら、この場でお主を八つ裂きにする。返事はいなか!』
『…………』

 なんか答えを迫ってきた。
 断ったら殺されるなら引き受けるに決まってる。
 引き受けたフリして逃げるに決まっている。

『やります』
『うむ。流石は小さき身で我らに戦いを挑んだ勇者だ。お主を我らの新しい【ボス】として認めよう』

 引き受けたらボスにされてしまった。
 一匹狼の僕に群れを率いるなんて無理だ。
 ボスになったら自由に日向ぼっこも出来なくなる。

『えっと、ボスはいいかな?』

 怒らせたくないから、フリだけど遠慮しつつ断ってみた。

『なん、だと……?』

 すると、大鳥達の空気が変わった。
 ピリピリした緊張感のある嫌な空気だ。

『どうします、長老? コイツ、ボスになる修行を受けないと言ってますぜ』
『腰抜けの鳥は殺せ! 腰抜けの鳥は殺せ!』

 血気盛んな下っ端大鳥達が僕を殺そうと動き出した。

『まあ、待て。殺すのはいつでも出来る。もう一度聞くとしよう。ボスに……』

 ボスにならなければ殺されるなら、なるに決まっている。
 大鳥長老に聞かれる前に言った。

『なります! 前からボスに憧れてました!』
『ほれ、誠意を持って願えば通じるものじゃ。では、さっそく百羽組み手を始めるとしようか』
『…………』

 百羽組み手? それ、なぁ~に?
 よく分からないけど、不吉な予感しかしない。
 組み手という暴力が始まる前に聞いてみた。

『ど、どうして僕がボスなんですか! もっと強い鳥はたくさんいると思うんですけど!』

 そう、僕よりも組み手に相応しい鳥が周りにたくさんいる。
 それに大鳥達のボスなら、大鳥の中から選ぶのが一番だ。

『確かにその通りだ。だが、お主でないとあの小さなトンネルは通れない。すでに悪魔はトンネルを抜けて外に出ている。さあ、始めようか』

 長老が僕が選ばれた小さな理由を教えてくれた。
 だけど、レナスがもうジャングルにいないなら、僕も帰りたいに決まっている。
 組み手なんてやりたくない。

『それは大変だ! 早く追いかけないと!』

 まだ身体が痛いけど、ギリ飛べる。
 組み手の後だと飛べる気がしない。
 追いかけるフリで逃げてやる。

『問題ない。奴はドラゴンを倒しに行くと言っていた。それに今のお主が追いかけたところで返り討ちに遭うだけじゃ。今ははやる気持ちは抑えて、力を付けることに精進しなさい』

 ……なに、この大鳥長老様?
 僕、このジャングルの生まれじゃないよ。
 それなのに悪魔に仲間がやられて、復讐に燃える村鳥A対応だ。
 知り合って数分の浅い仲だよ。見ず知らずの鳥の為に命かける深い仲じゃないよ。
 なんでお説教されないといけないの?

『はい、長老様』

 もちろん、そんな失礼なことを長老様に言ったら組み手が処刑に変わってしまう。
 素直に言うこと聞いているフリしてやる。

『分かればよい、ピィー助よ。見事、悪魔を倒したあかつきには、お主に【アレ】を授けよう』
『?』

 なんか勝手にピィー助にされると、長老が翼で何か指した。
 翼の先を目で追っていくと大鳥達がサッと避けて、その先に赤い宝箱が一個置いてあった。

『あれはこのジャングルが誕生した時からある神聖な宝箱だ。あれを代々守護してきたのが我らガルーダ一族だ』

 うん、間違いない。一番宝箱だ。
 ボスも組み手も嫌だけど、宝箱の中身があればレナスを倒せるかもしれない。
 組み手はやらずに、あれだけ貰おう。

『長老様、あれを先にいただけないでしょうか? 悪魔を倒せる武器が入っていると思うんです』

 長老様に土下座で丁寧に頼んでみた。

『ならぬ。あれを開けられるのは世界を救った者だけだ』
『長老様、世界を救うにはあれが必要なんです! 開けさせてください!』
『ならぬ、ならぬ! ならぬぞ、ピィー助!』

 駄目だ。首を横には振るのに、縦には振る気配がない。
 こうなったら勝手に宝箱開けて、持ち逃げしてやる。
 長老の説得を諦めると土下座姿勢のまま、宝箱の方を向いた。

『”超加速”』
『……始めよ』

 MAXの力で素早く開けて、素早く逃げる。
 誰にも僕は捕まえられない。

『ぐふっ……!』

 なんか殴られた。僕、怪我しているのに殴られた。

『駄目だって言ってだろうが』
『ペェッ。駄目だって言われたら、やりたくなるんだよ!』

 大鳥が倒れている僕の目の前まで歩いてくると言ってきた。
 下っ端風情が殴りやがった。ボスに翼を出したことを後悔させてやる。
 クチバシから赤い血を吐き捨てると、もう一度宝箱に突撃した。
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