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第六十一話 青いのは未熟な証拠

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『あっ、いいこと思いついた!』

 氷魔法を使ったお手軽料理だ。
 まずは収納袋から宝箱の木皿を取り出した。
 その上に氷を出して細かく砕いて山盛りにした。
 最後の仕上げに大鳥の血をかけた。
 カキ氷の完成だ。

『う~ん、美味ピィ~!』

 スプーンがないので、皿を持ち上げて、頂上からパクッと食べた。
 冷たくて甘いから、思わず鳥になってしまった。

『よし、真面目にやろう』

 カキ氷を食べ終わったので、木皿を収納袋にしまった。
 遊びは終わりだ。カキ氷で倒せる魔物はいない。

 まずはピィーちゃんの話で聞いた魔法を使ってみようと思う。
 炎の球を発射する技だ。何十発も連続で発射することが出来るらしい。
 氷の盾で出来たんだから、同じようにやればいいだけだ。

『えっと……』

 技名考えてなかった。とりあえず技名は後にして、撃てるか確認だ。
 右手の手の平を木に向けると、手の平に硬い氷の石を想像した。
 ゴツゴツした青白い氷石が手の平の前に現れたので、加速斬りの要領で発射した。

 ゴガン

『うむ。出来ましたね』

 出来ると思っていたから、そこまで喜ばない。
 バードストライクみたいに氷石が飛んでいって、木にぶつかって砕け散った。
 威力は少しはあるけど、ヒゲ猫や大鳥を倒すには何十発も当てる必要がありそうだ。
 もっと威力のある形に変えた方がいい。

『う~~ん、ここは【矢】かな?』

 小さくて飛ばしやすい矢尻なら、魔力も節約できるし、撃つ想像も簡単だ。
 弦を引いて狙って撃つだ。
 でも、指で矢を摘んで引っ張って撃つなら、飛ぼうとする矢を指で止めていることになる。
 飛ばしたいのか、止めたいのか、訳が分からない。

 うん、矢は却下しよう。
 とりあえず氷石を素早く作って、撃てるようになろう。
 だとしたら的は大鳥だ。飛んでいる鳥に当てられるようになれば達人だ。

『あっ……』

 大鳥を探そうと背中から黒い翼を出してみた。でも、まだ折れていた。
 血飲んでもそんなにすぐに治らないみたいだ。
 仕方ないから氷の翼を使おう。魔法使う練習だと思って頑張るぞ。

『見つけた』

 さっきは襲われたから、今度はこっちが襲う番だ。
 空を適当に飛び回って、デカイ鳥がいないか探してみた。
 少し離れた所に三匹飛んでいるのが見えた。
 こっちにはまだ気づいてないみたいだ。
 だったら気づかせてやる。両手の手の平を遠くの三匹に向けた。

『”全弾発射フルバースト”』
 
 出せるだけの氷石を出して、全力で大鳥達に向けて発射した。
 五十近くの氷石が手の平の前方に現れると真っ直ぐ飛んでいった。

『‼︎』
『あっ、当たった』

 当たればいいかな? ぐらいの気持ちだったのに、なんか一匹落ちている。
 いや、大丈夫みたいだ。ちょっと落ちただけですぐに上がってきた。

『ヒィギャアア!』

 それに向かってきた。それもめちゃくちゃ怒っている。
 こっちとしては大助かりだ。手の平を向けて、もう一度全弾発射した。

 だけど、今度は当たらなかった。
 大鳥達が氷石を上下に大きく飛んで回避した。
 たくさん撃てば当たるというわけじゃない。
 やっぱり飛んでいる相手に当てるのは難しい。
 だけど……

『面白い。避けれるものなら避けてみろ』

 氷属性なのに燃えてきた。
 広範囲にたくさん撃つよりも、一発ずつ正確に撃ってやる。

『喰らえ』

 氷石は左に避けられて躱された。

『なかなかやるな。こいつはどうだ?』

 氷石は右に避けられて躱された。

『何発もつか楽しみだ』

 氷石は右に上に斜め右下に避けられて躱された。

『…………”アイシクルソード断絶の氷刃”』

 遊びは終わりだ。開いた右手を握り締め、青白いオーラを放つ剣を作り出した。

『僕をここまで追い込んだのは、お前達が初めてだ』

 右手で剣をしっかり持つと大鳥の一匹に加速した。
 まずはぶつかって動きを止める。
 左手で氷の盾を出して、大鳥と正面衝突した。

『キュ……!』

 盾に直撃したクチバシが横に滑り、大鳥の頬が盾に激突した。
 一匹ぐらいなら軽い体当たりだ。
 盾でしっかり受け止めると、隙だらけの身体に剣を振り下ろした。

『‼︎』
『まずは一匹』

 胴体を斜めに切り裂かれた大鳥が地上に落ちていく。
 残りは二匹だ。仲間がやられて、さらに怒っているのか速度を落とさず向かってくる。
 悪いけど、カタキを取らせるつもりはない。
 二匹が僕の目の前まで迫ってきたので、剣を持った右手を空に向けて振り下ろした。

『避けてみろ。”アイシクルレイン氷の雨粒”』
『ガァァッ……!』

 頭上から降ってきた数十の氷石が、二匹の背中と翼に直撃した。
 僕ばかり見ているからそうなる。上もしっかり見ないと駄目だよ。

『よし、落ちた』

 しっかり二匹が地上まで落ちるのを確認した。確認は大事だ。
 地上に降りると翼の曲がった大鳥を見つけた。
 これは完全に死んでいる。
 収納袋に入る大きさに氷の剣で切って、袋の中に詰め込んだ。

『ふむ……』

 回収が終わったので反省会だ。
 最初の一発と最後の一発だけが当たった。
 つまりは不意打ちなら当てられるわけだ。

 だったらやることは一つしかない。
 全ての攻撃を不意打ちにすればいい。

『う~~ん、ようするに見えなければいいんだよね』

 見えない、もしくは、分からないだ。
 攻撃が見えなくて、分からなければ避けようがない。
 そりゃそうだ。それが出来れば誰も苦労しない。
 透明人間になれるものならなりたいよ。

『ん?』

 でも、透明人間は無理でも透明は出来るかもしれない。
 氷は透明だ。なんか青白い氷になっているけど、意識すれば透明に出来るかもしれない。
 それもあるのか分からないぐらいの透明に出来れば完璧だ。

 とにかく考えるよりもやってみた方が早い。
 右手の手の平の上に氷の石を作ってみた。色は青白かった。
 前と一緒だ。これだと避けられる。

 僕の心のように透き通らないと駄目だ。
 氷石から汚れを抜かないといけない。

『消えろ! 消えろ! 消えろ!』

 とりあえず右手の氷石に向かって、左手で念じてみた。
 うん、分かっていた。そう簡単に透明にはならないって。
 青白いままだ。

『うん、まだ早かったみたいだね』

 さっき覚えたばかりの魔法だ。きっとまだ使い慣れてないだけだ。
 大鳥とヒゲ猫を倒しまくって、死ぬほど練習してやる。
 そうすれば透明になるはずだ。僕の心みたいに。
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