病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?

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第五十五話 最強の魔法は何か

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 三日後の冒険者ギルド。火・水・風・地の魔法で、ダンジョンに一つだけ持っていけるなら、どれを持っていくかという馬鹿な話でおじさん達が盛り上がっている。

「だから、一番使える魔法は【地】なんだよ。寝る時は家、敵の攻撃を防ぐ壁、石の短剣を作れば他の奴も使うことが出来る。まさに究極の万能型だ。何が起こるか分からないダンジョン探索には地魔法以外ありえない」

 何だか自信満々に角刈りマッチョが言っている。表でレンガ作って積み上げてろ。

「くだらねえ。【火】が最強に決まってる。家はテント、壁は盾、石の短剣とか何言ってんのか分かんねえ。武器持って行かねえ冒険者がいるかって話だ」
「その通りだ。【火魔法】は身体能力を高めることも出来る。寒い場所はもちろん、暑い場所でも常に適温を保つことが出来る。まさに戦闘と探索の達人が持つべき魔法だ」

 二人のハゲおじさんが協力して火魔法が凄いと言ってる。
 火魔法使い過ぎて、髪燃えちゃったの? 羽根一本あげようか?
 もちろん一本ずつね。

「探索の達人ですか? 笑わせてくれますね」
「何だと?」

 槍を持った髪の長いお兄さんが参加してきた。
 壁に背中を預けて立っていたのに三人が座るテーブルに近づいていく。

「【水魔法】をお忘れじゃないですか? 水魔法を極めれば、身体能力の向上はもちろん、解毒や止血などの治療、水分補給も可能です。さらに魔物の体内の血を操ることも、液体毒物を体内に注入することも容易に可能です。火が剛の魔法ならば、水は柔の魔法です。力で遥かにまさる魔物に、力勝負して勝てると思っているとは脳筋は愚かですね」
「はぁっ? 誰が脳筋だって? 表出ろや! そのロン毛、パーマにしてやるよ!」
「おや? 髪の毛に詳しいとは意外ですね。脳みそと一緒でツルツルだと思ってましたよ」
「いい度胸だ。表出ろや!」

 愚かなのはお前も一緒だろ。最強の風魔法を忘れてるぞ。
 全員まとめて表に吹き飛ばされたいの?

「……黙って聞いていましたが、もう限界ですね。皆さん、何か忘れているものがあるんじゃないですか?」

 そうそう忘れているのがある。最強の風魔法を忘れている。
 なんか眼鏡をかけた賢そうな金髪お兄さんが僕の代わりに教えてあげるみたいだ。
 四人に近づいていく。

「魔法に優劣はありません。火、水、風、地は【四つで一つ】です。別物だと考えるのがおかしいのです。農業で考えてください。地魔法で土を耕し、風魔法で種を広範囲に蒔き、水魔法で広範囲に素早く水を撒き、火魔法で温度調節をする。どれか一つでも欠けると野菜は育ちません。さあ、言い争いはやめて手を取り合いましょう。私達に必要なのは言い争いではなく、助け合いです」
「……失せろ」

 期待ハズレだった。眼鏡が両手を四人に伸ばして、仲良く握手しようとした。
 みんなで手を繋いで輪になって、馬鹿踊りしたいらしい。
 その馬鹿に向かって、僕の代わりにハゲおじさんが扉の方を親指で指している。
 馬鹿でも分かるように出口を教えている。
 これでも分からないようなら僕が叩き出してやる。

「やれやれ言葉の通じない猿でしたか。では、失礼します」

 お前がな。あの馬鹿眼鏡、全然話聞いてなかった。
 四つの中で一つだけ持っていけるならだ。
 全部持っていけるなら最初から言い争いにはならない。

 ガァン。

「ぶぐっ……!」

 馬鹿眼鏡が外に出ようと扉に手を伸ばすと、扉が勢いよく開いた。
 眼鏡が破壊されて、鼻が潰された。誰だか知らないけど、良い仕事したぞ。

「あっ、ごめんなさい」

 アイツだった。すぐに謝っている。

「き、気にしなくていい。よくあることだから……」

 絶対にない。あるとしたら殴られているだけだ。
 眼鏡が破壊されて、ただの馬鹿になって外に出ていった。

「みんな、聞いてくれ! 凄い人に会ったんだ! Aランク冒険者に会ったんだよ!」

 馬鹿をしっかりお見送りすると、アイツが大喜びで言ってきた。
 盛り上がっているのはお前一人だけだから、お前も失せていいよ。

「Aランク冒険者っていたか? 最高ランクはCだろ」
「だな。このギルドでもDが最高だしな。また騙されてやがる」

 やっぱり盛り上がってない。おじさん達が誰も信じていない。
 あの野朗、大嘘ついて構ってほしいみたいだ。
 小銅貨一枚やるから、三回回ってニャーって言え。
 みんな可哀想な目で見てくれるぞ。

「本当なんだって! ダンジョンで白髪のおじ様に会ったんだって!」
『…………何だって?』

 まさかアイツの口からおじ様が出てくるとは思わなかった。
 可哀想な目をやめて、信じられない目でアイツを見た。

『本当だろうな? 嘘だったらハンマーだからな』

 端の方のテーブルで最高級ミルクを飲むのをやめると、アイツの近くにあるテーブルに飛んだ。
 僕の午後のミルクタイムを中断させておいて、今さら嘘でしたじゃすまされない。

「嘘じゃねえよ。てかっ、お前の飼い主だろ? ほら、この剣も返してもらったんだ」
『ピィ⁉︎ お前、盗みやがったな!』

 収納袋から平然と、僕が預かっていた剣を取り出して見せてきた。
 あの剣はレナスの部屋に置いていたから、コイツが盗んだのは確定だ。

「盗んでねえよ。だから、おじ様から返してもらったって言ってるだろ」
『なに開き直ってんだよ、大嘘つき野朗。さっさと土下座で謝れ。みんな可哀想な目で待ってるぞ』
「だから盗んでねえって! お前の飼い主のおじ様から話し聞けよ!」
『おじ様なんて飼い主いないよぉー!』

 嘘ばかりで犯行を認めないからブチ切れた。
 おじ様、おじ様、おじ様って何度言われても、そんなおじ様知らない。
 一度も会ったことないし、誰にも飼われていない。

「まあまあまあ。二人とも落ち着いて話しましょう」

 バードストライクで床を舐めさせる前に受付のお姉さんが間に入って止めた。
 命拾いしたと思っているなら、大間違いだ。帰り道には気をつけろよ。
 床が地面に変わっただけだからな。

「まずはアトラス君はどこのダンジョンでおじ様に会ったのかな?」
「あっ、えっ、えっとですね」

 微笑むお姉さんに聞かれて、アイツがなんか動揺して答えない。
 イライラするから先に言った。

『さっさと答えろよ、嘘つき野朗』
「ピーちゃんは黙ってて」
『ピィ~~』

 何故か僕の方が怒られた。だから、黙って鳴いた。

「その鳥が見つけた新生ダンジョンです。剣の試し斬りに来たと言ってました」
「あら、それはおかしいわね。あのダンジョンの場所はまだ一般には公表されてないのよ」
「それは鳥の飼い主だからじゃないですか。おい、鳥。誰かに話したことあるだろ?」
『ピィ~~』

 黙ってて言われたので、聞かれても黙って鳴いた。
 でも、誰かに話したことはたくさんある。
 この冒険者ギルドでも話したし、鳥仲間にも話したことがある。
 多分、三十人と四十羽ぐらいには話したと思う。

「……預けていた剣に、非公表のダンジョン。そして、白髪のおじ様。間違いないわね。ピーちゃんの探している子供とおじ様は同一人物よ」
『ピィ! それ本当⁉︎』

 まさかの事実に黙っていられなくなった。
 つい、お姉さんに聞いてしまった。
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