50 / 70
第五十話 どこかで聞いたことのある名前
しおりを挟む
お風呂から上がると台所でお母さんに食事を食べさせられた。
ハシぐらい自分で持てると言ったのに、無理矢理に口に料理を詰め込まれた。
『うっぷっ……もう無理』
いくら血を飲んでもお腹は破裂しそうにならなかったのに、料理は別腹みたいだ。
お腹パンパンで真っ直ぐ歩けない。ヨタヨタと本当に赤ん坊みたいに歩いてしまう。
今日はこのままベッドで寝よう。
最初から眠いし、お腹いっぱいになって余計に眠くなった。
『あぁ~、これだよこれ!』
フカフカのベッドに仰向けに倒れ込んだ。
屋根や崖、魔物の家とは大違いだ。これこそ人間が眠る場所だ。
「レナス。あら、もう寝たの?」
……何で来たの? ご飯食べたでしょ?
ベッドで寝ているとノックもせずにお母さんが入ってきた。
寝たフリしているとベッドに座って、僕の髪を撫でてきた。
「この髪だとお爺ちゃんね。お父さんに頼んで白髪染め買ってきてもらわないと」
『…………』
駄目だ。【母の愛が重すぎる】寝心地は良いのに、居心地が悪るすぎる。
今日、ゆっくり寝たら明日旅に出よう。
おじ様になるつもりなのに、このままだと赤ちゃんになってしまう。
♢♢♢
『旅に出ます。疲れたら帰ります』という書き置きを残して旅に出た。
打倒ピーちゃんの僕の旅はまだ始まったばかりだ。
『Eランクならあそこでいいかも』
わざわざ冒険者ギルドに聞きに行かなくても、ピーちゃんが見つけた旧新生ダンジョンがEだ。
オオトカゲの尻尾が美味しかったから、トカゲを自分の力で倒して、血を飲んでやる。
ついでに宝箱探しだ。僕も宝箱を見つけて開けてみたい。
目的のダンジョンは森の中にある。
近くにもう一つダンジョンがあるらしいから、ついでにそっちにも行ってみる。
方位磁石と飛んだ時間、地図に描かれた山や川や森、村や町の位置で大体の現在地は分かる。
どこかの鳥みたいに適当に飛んだら、全然知らないダンジョンに到着だ。
僕はそんな失敗はしない。
『あっ! あった!』
ちょっと苦労したけど、夜になる前にダンジョンを見つけた。
なんか白い煙が上がっていたから、気になって様子を見に来て正解だった。
ダンジョンのトンネルの前で一人の多分、冒険者が座って焚き火していた。
『う~~ん』
このまま翼出したまま降りると攻撃されそうだ。
でも、いなくなるのを待つのも面倒だ。
トイレに離れた隙にダンジョンに入れそうだけど……
やっぱりそれも面倒なので、見られないように離れた場所に降りるとダンジョンに向かった。
「誰だ!」
ガサゴソと物音を立てて近づいていくと、焚き火していた男が長い木の棒を持って立ち上がった。
棒だと思ったら、炭のような色をした木剣だった。その剣の切っ先を僕の方に向けている。
『冒険者だ。そこのダンジョンに用がある』
頭からフードを取ると、サッパリした赤い髪の若い男にそう答えた。
僕よりも三、四歳は年上に見える。十四歳ぐらいだろうか。
「冒険者? どう見ても子供じゃないか。危ないから帰れ」
『子供じゃない。三十三だ』
「三、三十三⁉︎ その見た目で⁉︎」
僕の年齢に驚いている男にさらに言ってやった。
『子供が帰るなら、お前が帰るんだな』
「待ってくれ! 俺が悪かった。ははっ……見た目で判断するなんて全然成長してねえな」
『…………』
なんか知らないけど男が急に謝ってきた。
頭を下げると頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。
『別にいい。この身長だ。子供扱いされるのは慣れている。それよりも一人か? ここは難易度Eと聞いているぞ』
心配するフリして、Eダンジョンなのかさりげなく聞いてみた。
「はい、一人で修行中です。負けたくない奴がいるんで」
『ほぉー、奇遇だな。俺も負けたくない奴が一人いる』
「じゃあ、あなたも修行に来たんですね」
『違う。コイツの試し斬りだ』
勝手に修行仲間が出来たと喜んでいるけど、キッパリ否定した。
素敵なおじ様に汗臭い修行は似合わない。収納袋から新品の剣を取り出して言った。
試し斬りという名の修行だ。
「凄い。剣の試し斬りにEダンジョンに来るなんて。俺なら安全にGに行くのに」
『安全が欲しいなら家にこもってろ。ダンジョンは生きるか死ぬかの世界だ』
「かっ、かっけえー」
少年が尊敬の眼差しで僕を見ている。
やはりおじ様とは素敵な存在らしい。
「あっ、俺、アトラスって言います」
『アトラス……?』
少年が名前を言ってきた。どっかで聞いたことがある気がする。
でも、こんな場所で修行する人なんて知らない。
「すみません。それでお願いがあるんですけど……」
『なんだ?』
思い出そうとしていたら、アトラスがちょっと遠慮がちに言ってきた。
「試し斬りを見学させてもらってもいいですか? 達人の剣技を知りたいんです」
『…………』
達人? 誰が?
「駄目ですか?」
ああ、僕か。僕しかいないよね。
アトラスが落ち込んだ犬みたいな目で聞いてきた。
断るのは簡単だけど、素敵なおじ様なら少年の期待を裏切るわけにはいかない。
『構わない。好きにしろ』
「あ、ありがとうございます!」
大きく頭を下げて感謝してきた。
これでもう逃げられない。
カッコいい試し斬りで魔物を倒さなくてはいけなくなった。
ハシぐらい自分で持てると言ったのに、無理矢理に口に料理を詰め込まれた。
『うっぷっ……もう無理』
いくら血を飲んでもお腹は破裂しそうにならなかったのに、料理は別腹みたいだ。
お腹パンパンで真っ直ぐ歩けない。ヨタヨタと本当に赤ん坊みたいに歩いてしまう。
今日はこのままベッドで寝よう。
最初から眠いし、お腹いっぱいになって余計に眠くなった。
『あぁ~、これだよこれ!』
フカフカのベッドに仰向けに倒れ込んだ。
屋根や崖、魔物の家とは大違いだ。これこそ人間が眠る場所だ。
「レナス。あら、もう寝たの?」
……何で来たの? ご飯食べたでしょ?
ベッドで寝ているとノックもせずにお母さんが入ってきた。
寝たフリしているとベッドに座って、僕の髪を撫でてきた。
「この髪だとお爺ちゃんね。お父さんに頼んで白髪染め買ってきてもらわないと」
『…………』
駄目だ。【母の愛が重すぎる】寝心地は良いのに、居心地が悪るすぎる。
今日、ゆっくり寝たら明日旅に出よう。
おじ様になるつもりなのに、このままだと赤ちゃんになってしまう。
♢♢♢
『旅に出ます。疲れたら帰ります』という書き置きを残して旅に出た。
打倒ピーちゃんの僕の旅はまだ始まったばかりだ。
『Eランクならあそこでいいかも』
わざわざ冒険者ギルドに聞きに行かなくても、ピーちゃんが見つけた旧新生ダンジョンがEだ。
オオトカゲの尻尾が美味しかったから、トカゲを自分の力で倒して、血を飲んでやる。
ついでに宝箱探しだ。僕も宝箱を見つけて開けてみたい。
目的のダンジョンは森の中にある。
近くにもう一つダンジョンがあるらしいから、ついでにそっちにも行ってみる。
方位磁石と飛んだ時間、地図に描かれた山や川や森、村や町の位置で大体の現在地は分かる。
どこかの鳥みたいに適当に飛んだら、全然知らないダンジョンに到着だ。
僕はそんな失敗はしない。
『あっ! あった!』
ちょっと苦労したけど、夜になる前にダンジョンを見つけた。
なんか白い煙が上がっていたから、気になって様子を見に来て正解だった。
ダンジョンのトンネルの前で一人の多分、冒険者が座って焚き火していた。
『う~~ん』
このまま翼出したまま降りると攻撃されそうだ。
でも、いなくなるのを待つのも面倒だ。
トイレに離れた隙にダンジョンに入れそうだけど……
やっぱりそれも面倒なので、見られないように離れた場所に降りるとダンジョンに向かった。
「誰だ!」
ガサゴソと物音を立てて近づいていくと、焚き火していた男が長い木の棒を持って立ち上がった。
棒だと思ったら、炭のような色をした木剣だった。その剣の切っ先を僕の方に向けている。
『冒険者だ。そこのダンジョンに用がある』
頭からフードを取ると、サッパリした赤い髪の若い男にそう答えた。
僕よりも三、四歳は年上に見える。十四歳ぐらいだろうか。
「冒険者? どう見ても子供じゃないか。危ないから帰れ」
『子供じゃない。三十三だ』
「三、三十三⁉︎ その見た目で⁉︎」
僕の年齢に驚いている男にさらに言ってやった。
『子供が帰るなら、お前が帰るんだな』
「待ってくれ! 俺が悪かった。ははっ……見た目で判断するなんて全然成長してねえな」
『…………』
なんか知らないけど男が急に謝ってきた。
頭を下げると頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。
『別にいい。この身長だ。子供扱いされるのは慣れている。それよりも一人か? ここは難易度Eと聞いているぞ』
心配するフリして、Eダンジョンなのかさりげなく聞いてみた。
「はい、一人で修行中です。負けたくない奴がいるんで」
『ほぉー、奇遇だな。俺も負けたくない奴が一人いる』
「じゃあ、あなたも修行に来たんですね」
『違う。コイツの試し斬りだ』
勝手に修行仲間が出来たと喜んでいるけど、キッパリ否定した。
素敵なおじ様に汗臭い修行は似合わない。収納袋から新品の剣を取り出して言った。
試し斬りという名の修行だ。
「凄い。剣の試し斬りにEダンジョンに来るなんて。俺なら安全にGに行くのに」
『安全が欲しいなら家にこもってろ。ダンジョンは生きるか死ぬかの世界だ』
「かっ、かっけえー」
少年が尊敬の眼差しで僕を見ている。
やはりおじ様とは素敵な存在らしい。
「あっ、俺、アトラスって言います」
『アトラス……?』
少年が名前を言ってきた。どっかで聞いたことがある気がする。
でも、こんな場所で修行する人なんて知らない。
「すみません。それでお願いがあるんですけど……」
『なんだ?』
思い出そうとしていたら、アトラスがちょっと遠慮がちに言ってきた。
「試し斬りを見学させてもらってもいいですか? 達人の剣技を知りたいんです」
『…………』
達人? 誰が?
「駄目ですか?」
ああ、僕か。僕しかいないよね。
アトラスが落ち込んだ犬みたいな目で聞いてきた。
断るのは簡単だけど、素敵なおじ様なら少年の期待を裏切るわけにはいかない。
『構わない。好きにしろ』
「あ、ありがとうございます!」
大きく頭を下げて感謝してきた。
これでもう逃げられない。
カッコいい試し斬りで魔物を倒さなくてはいけなくなった。
124
お気に入りに追加
1,303
あなたにおすすめの小説

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
ファンタジー
冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長
ハーーナ殿下
ファンタジー
貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。
しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。
これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件
シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。
旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる