病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?

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第四十一話 決着を付けに来た

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 果物狩りを成功させたピーちゃんは冒険者ギルドには向かわずに、そのまま灰竜山を目指した。
 何か理由があると思ったら、単純な理由だった。

『果物とドラゴン両方持っていく』

 お姉さんを驚かせたいだけだった。
 それに単純だから、ドラゴン大きすぎて収納袋に丸ごと入らないのも忘れている。
 鱗の一枚でも取って、ボロボロのミイラピーちゃんになって倒してきたって言いなよ。
 みんな優しい目で信じてくれるよ。多分ね。

『決着を付けに来た』

 空を飛び回る灰色ドラゴンを見上げて、ピーちゃんはカッコよく言った。
 でも、距離が五百メートルぐらい離れているから誰にも聞こえてない。

『よし、今のうちだ……』

 ううん、聞こえないのを確認したみたいだ。
 そして、信じられないことを始めた。身体に泥を塗り始めた。
 ピーちゃん! それ一番最初に使って失敗した手だよね!

『これで大丈夫。巣の中で待ち伏せして、寝たところを倒してやる』

 何故だろう。作戦はすごく良いのに失敗する姿しか見えない。
 狭い巣穴で一対一の戦いを繰り広げる姿が想像できない。

『風の指輪。僕に力を貸して』

 だけど、その姿は僕にしか見えない残像だった。
 ピーちゃんが両脚の風の指輪に願った。
 身体に風の膜が張られて、泥が身体から剥がれないように固定した。

『いつの話してるんだ?』とピーちゃんに怒られた。

 そうだった。昔の可愛いピーちゃんはもうどこにもいない。
 今のピーちゃんは強気で生意気な自称勇者だ。

 地上スレスレを飛んでいき、山の壁ギリギリを上に向かって飛んでいく。
 あっちこっちで逃げ回っているから、飛行技術も急上昇している。

 目的の巣穴が見えてきた。
 下付近の穴は雑魚ドラゴンの巣穴だから入らない。
 入るなら一番上か上付近の巣穴だ。もちろんピーちゃんの個人的な意見だ。
 実際は下の方が強いドラゴンの巣穴の可能性もある。

『ここにしよ』

 頂上までまだまだあるけど、家が入るような大きな巣穴に飛び込んだ。
 見つかる前に手頃な巣穴で妥協した。

 ピーちゃんにとっては三度目の挑戦だ。
 今日のピーちゃんは負けるつもりも油断もまったくない。
 巣穴の奥まで行くとバターナイフを咥えて床に待機した。
 卑怯者だと言われてもいい。今日のピーちゃんは勇者じゃなくて暗殺者だ。

『ん?』

 獲物がやってくるのを気配を消して待っていると、翼を力強く羽ばたかせる音が近づいてきた。
 でも、その音がやけに多い。まるで一匹ではなくて、数十匹いるような感じだ。

『おい、鳥。久しぶりだな。お前が来るのを待ってたぜ』
『‼︎』

 灰色ドラゴンの喜んでいるような声が巣穴の奥に向かって飛んできた。
 見つかってるみたいだね。どの辺からか知らないけどモロバレだよ。

『だ、大丈夫、入ってきたところをやってやる!』

 バターナイフ咥えているクチバシが震えているよ。
 本当に大丈夫なの? ナイフ落としたりするんじゃないの。

『おい、鳥。出て来いよ。それともこのまま焼き鳥になるか? こっちは焼きでも、ミンチでもどっちでもいいんだぜ』

 巣穴の入り口に真っ赤に燃える炎が見えた。
 灰色ドラゴンが口を開けて、炎を吐き出そうとしている。

『だ、だ、大丈夫、入ってきたところを……』
『焼け死ね——”ファイヤーブレス”』
『ピィ~~‼︎』

 ピーちゃ~~ん‼︎ 巨大な炎の息が解き放たれた。
 巣穴の中を炎が隙間なくおおい潰した。
 逃げ場のない密室で青い小鳥は炎に包まれた。

『”バードストライク”』

 違った。炎の中からピーちゃんが飛び出してきた。
 焼き鳥にはならなかった。いや、焼き鳥にはなりたくなかった。

『し、死ぬかと思った!』

 ミンチになりたいみたいだ。
 巣穴の外に灰色ドラゴン達が待ち構えていた。

『ああ、その通りだ。今日は逃さないぜ——”ドラゴンクロー”』
『‼︎』

 巣穴から飛び出した直後のピーちゃんに、真っ赤に燃える右前脚の三本爪が振り下ろされた。
 慌てて超加速を使用して、何とか回避したけれど、他のドラゴンが大きな身体で立ち塞がった。

『通行止めだ』
『ピィ⁉︎』
『こっちも通行止めだ』
『こっちもな』

 動揺するピーちゃんをあっという間にドラゴン達が取り囲んだ。
 巨大な肉の壁に閉じ込めたつもりだとしたら甘すぎる。
 ピーちゃんなら、わずかな隙間さえあれば通り抜けられる。

『ま、真っ暗になった!』

 あっ、ないみたいだ。
 灰色ドラゴン三匹が外の光が入らないぐらい身体を密着させている。
 完全に閉じ込められてしまった。

『このままペシャンコミンチにしてやる』

 でも、ピンチのチャンスだ。
 視界は暗くても目の前にドラゴンの肉がある。
 今こそレベルアップした力の見せどころだ。

『見えないならもういい』

 迫ってくる肉壁に怯えるのをやめた。
 目を閉じるとピーちゃんは、クチバシに咥えるバターナイフに全神経を集中させた。
 超加速もバードストライクもまともに使えないぐらいの超接近戦だ。
 その状態でナイフを振り回す首だけを超加速させた。

『”超加速”』
『ぐがぁ……!』

 ドラゴンの肉を切り裂いた。切られた痛みで肉壁の密着がゆるんだ。

『ミンチになるのは誰だって?』

 スッと目を開けると、腹から赤い血を流すドラゴンに向かってピーちゃんが言った。
 もう勝利まで見えているようだ。
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