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第三十七話 ジャングル探検開始

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 新しい技を覚えたピーちゃんが無事に大地の裂け目にたどり着いた。
 何もない荒野のど真ん中に巨大なヒビ割れがある。
 地中深くまで続く大地のヒビ割れは広いところでは四百メートル以上もある。
 向こう側の大地に行くには飛んでいくしかない。

『ここかな?』

 裂け目の側にポツンと立ていた立て札を見つけた。
 立て札には【Dダンジョン】と【下に向かって矢印】が書かれていた。
 ここの下に行けばダンジョンがあるらしい。

 もちろん裂け目の底は真っ暗で見えない。
 飛び降りた瞬間、飛べない人は死亡確定だ。
 でも、ピーちゃんは鳥なので、なんの問題もない。
 普通に飛んで降りていく。一分、二分と降りていく。
 ちょっと深すぎるよね。

『あっ、底だ』

 やっぱり通りすぎたんだね。裂け目の底に到着してしまった。
 岩の地面には服を着た白い骨がたくさん落ちていた。
 飛び降りた人か落ちてしまった人だ。

『これも集めよ』

 これも何かの縁ということで落ちてる物を集めていく。

『収納袋見つけた。レナスにあげよ』
 
 僕に渡した収納袋は買わずに死体から盗ってきたものだったんだね。
 ピーちゃん、他にも良さそうな物、何かなかったの?
 財布とか武器とか魔物とか入ってなかったの?

『ふぅー、これでタダ働きじゃなくなった』

 ダンジョン探さずに落ちてる物いっぱい探して疲れたそうだ。地面に座って休憩だ。
 僕ならここで帰るけど、ピーちゃんはどうしたんだろう。

『よし、ダンジョン探そ』

 だよね。ピーちゃんの目的はこれじゃない。レベルアップだ。
 今度は崖から少し離れて、広範囲の壁を見ながら上に飛んでいく。

『見つけた』

 やっぱり見落としていたみたいだ。
 壁に不自然に開いている綺麗なアーチ型のトンネルを見つけた。
 その穴にピーちゃんは飛び込んだ。しばらく進んでいくと外に出た。
 外には大きな森【ジャングル】が広がっていた。

 ピーちゃんが出てきたのは高い壁の上の方にある穴だ。
 森を上空から見下ろしている。緑色のジュウタンのように樹木の葉っぱが広がっている。
 ところどころに背の高い木がポツンと立っている。その木に大きな鳥が止まっている。

 地上と天井までの距離は七百メートルぐらい離れている。
 天井は茶色い岩盤で塞がれていて、上に飛んで逃げることは出来ない。
 出口は壁のトンネルだけだ。

『よし、皆殺しにしてやる』

 もちろんピーちゃんは逃げるつもりはない。
 収納袋からバードスペシャルを取り出した。
 脚で掴んで、ジャングル探検開始だ。

 森の中は樹木の太い幹や植物のツルが飛ぶのを邪魔するようにぶら下がっている。
 色鮮やかな花が咲いていて、羽根のような形の雑草がたくさん生えている。

『ん? 水の音がする……』

 チョロチョロと水の流れる音が聞こえた。
 音の方に向かうと小さな滝があった。
 ちょっと飲んでみたけど、温くて美味しくなかったそうだ。

 ガサガサ。

『‼︎』

 葉っぱが何かに擦れるような音が聞こえて、音の方に素早く振り向いた。
 クチバシにバターナイフを咥えて警戒して待っていると、人間よりも大きな猫が現れた。
 黄色い身体に黒い斑点模様のある猫で、顔に白い骨のような仮面をかぶっている。
 頬の左右にはムチのように長く太い黄色いヒゲが一本ずつ伸びている。
 そのヒゲがクネクネと触手のように動いている。
 
『ね、ね、猫だ……』

 鳥の天敵だね。ピーちゃんは怖くてちょっと後退りした。
 でも、ちょっとだ。すぐに言ってやったそうだ。

『おもしれい。ちょうど雑魚ばかりで退屈していたところだ』

 そう言うとすぐに飛んできたそうだ。

『ピィー!』

 素早いヒゲの突きにピーちゃんが弾き飛ばされた。地面を転がされていく。
 ムチ猫が素早く前に移動すると同時に右ヒゲを槍のように突き出してきた。
 予想外の攻撃に、見えたけど躱せなかったそうだ。

『うぐぐっ……』

 ヨロヨロと立ち上がると頭上から振り下ろされるムチが見えた。

『‼︎』

 驚くと反射的に超加速で横に飛んで回避した。
 その直後にパシンと地面がムチで叩かれる音が鳴り響いた。

『し、死ぬところだった!』

 死を回避して安心したけど、ピンチはまだ続いている。
 ムチ猫が追いかけてきた。それも風のように速い動きでだ。
 樹木を踏み台に飛び回り、ヒゲを手のように使って、幹やツルを掴んで迫ってくる。

『シャー!』

 今度は左前脚が空を飛ぶピーちゃんに振り下ろされた。
 それを躱すとヒゲが飛んできた。さらに躱すともう一本のヒゲが飛んできた。
 躱して、躱して、躱して逃げ回る。
 空に逃げたいけど、逃げられないように上は塞がれてしまう。
 頭のいい猫だ。逃げれない絶体絶命のピンチにピーちゃんは使った。

『”ピィーー”』

 仲間を呼んだ。変わった鳴き声に一瞬だけムチ猫の動きが止まった。
 でも、すぐに再開してきた。ムチ、前脚、身体、尻尾を使った全身攻撃が止まらない。
 ピーちゃんは逃げ回るだけで精一杯だ。
 そんなピーちゃんの頭上にたくさんの鳥が現れた。
 上空をピーちゃんを追いかけるように飛び回っている。

『ハァハァ、た、助かった』

 良かったね。
 でも、安心しているピーちゃんに向かって、空から一羽の鳥が槍のように降ってきた。

『ひゃーあ!』

 危機一髪、ピーちゃんは何とか鋭いクチバシの突きを回避した。

『うるせいぞ、雑魚が!』

 ドラゴンのように硬く大きな翼、頭にも小さな翼が生えている。
 金色と緑色が混ざった羽根だ。クチバシは槍のように鋭い。

『あのチビが呼んだのか。ブチ殺してやる』
『上下関係ってやつを死ぬ前に教えてやるか』
『…………』

 ピーちゃん、敵呼んじゃったみたいだね。
 一気に一対五十ぐらいになったけど大丈夫なの?
 全方位囲まれちゃっているよね。
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