病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
上 下
35 / 70

第三十五話 両腕に二匹飼ってるのね

しおりを挟む
 お母さんが言うには花壇の竜薬草は誰かに食い荒らされていたそうだ。
 だから、ピーちゃんには必要ないそうだ。
 花壇の土には犯人、いや、犯鳥の特徴的な足跡が残っていた。

 僕はピーちゃんのこと信じているから、早く元気になってね。
 ううん、ゆっくり元気になってね。早く元気になったら駄目だよ。
 犯人にされちゃうからね。

『お腹空いた。これ、食べていい?』

 ピーちゃんが起きてそうそう、鍋の中を泳いでいる小さな魚達を見て言ってきた。
 地獄の猛特訓でたくさん捕まえられるようになった。
 コップ水槽から鍋水槽にレベルアップして、今では十二匹の大家族だ。

『駄目だよ。それは観賞用だから』
『そんなこと言っていいの? 僕にお願いしたの忘れたの?』
『くぅっ! た、食べていいよ』

 断ったのに脅してきた。
 もう一度断ったら何するか分からない。
 ここは我慢するしかない。
 ごめん、君達のことは忘れないからね。

『生は無理。焼いてきて』
『‼︎』

 何だって⁉︎ 僕に焼き殺して来いだって⁉︎
 ピーちゃん、自分が何を言っているのか分かっているの⁉︎

『わ、分かった。すぐに焼いてくるから待ってて……』

 だけど、断るわけにはいかない。
 大きな力を手に入れるには、同じぐらいの大きな代償が必要なんだ。
 鍋を持って部屋から出ると台所に向かった。
 コンロのつまみを回すと真っ赤な炎がボッと噴き出した。

『…………』

 もしかしたらピーちゃん、小魚達に嫉妬したのかもしれない。
 僕が焼き殺したんじゃない。嫉妬の炎が焼き殺したんだ。

 フライパンに油をひくと、タオルで水気を取った小魚達を投入した。
 強火だと焦げてしまう。弱火にして生焼けぐらいの気持ちで焼いていく。
 二分ほど焼くと小皿に移した。味付けは素材の持ち味を引き出す為に塩だけだ。
 少量だけ指で摘んで振りかけた。

 でも、このままだと彩りが寂しい。
 ニンジン、キュウリ、ダイコンを小指の先ぐらいの大きさに切ったものを一個ずつ用意した。
 あとは細かくみじん切りする。これに塩を振りかけて混ぜ合わせる。
 混ぜ合わせたら、焼いた小魚達の上に乗せて完成だ。

『魚、美味しい』
『そ、そう、それは良かったね』

 小魚達が次々とピーちゃんのクチバシの中に消えていく。
 これからはピーちゃんのこと、悪魔って呼ぶね。

『それでピーちゃん、どうだったの?』

 ピーちゃんの代わりに手を合わせて、ごちそうさますると聞いてみた。
 これで木材だけなら今日の晩ご飯は唐揚げだ。

『誰に聞いてんだ?』
『ピーちゃんにだよ』

 なぜか怒った感じに聞き返してきたので、素早く答えた。
 ピーちゃんって言ったんだから、ピーちゃんしかいないでしょ。

『ピーちゃんじゃない。ピーちゃん様だろ!』
『ご、ごめん、ピーちゃん様!』

 ピーちゃんじゃなくて、ピーちゃん様だった。
 クチバシで咥えた小皿を投げつけられた。

 ♢♢♢

 家から旅立ったピーちゃん様、ううん、面倒くさいからやめよう。
 ピーちゃんが最初に向かったのは冒険者ギルドだった。
 受付に止まるとお姉さんに聞いてみた。

『子供の時になる、病気を治す薬ある?』

 なにそれ? 僕の病気は治っているよ。
 もしかして、僕の知らない子供の病気を治そうとしているの?

「ん~~、そういうのはお医者さんに相談してほしいんだけど。どんな病気か名前は分かる?」
『名前は分からない。なんか変なことするようになった』
「変なことって、どんなこと?」
『魚と話したり、木を剣で切ったり、血飲んだりしてた。僕も殺されそうになった』

 そいつヤバイ奴だよ。関わり合いになったら駄目だよ。

「あぁ~~、それね。その病気は厄介よ。下手したら死ぬまで治らないから」

 ごめん、ヤバイ奴じゃなくて病気だったんだね。
 僕は知らないけど、お姉さんが知っていた。

『それ、治す薬あるの?』

 ピーちゃんが聞いた。薬で治せるなら早く治した方がいい。

「ないわね。時間が解決するのを待つしかないわ」

 でも、駄目だった。僕と同じで治療薬がない病気だった。
 僕が噛んで吸血鬼になれるなら、噛むけど、それで治るとは思えない。
 
『そんなにヤバイ病気だったんだね。どうしよう』
「その子、怪我してないのに腕とかに包帯巻いてない?」
『巻いてない。でも、最近両手をプルプル震わせている』
「両腕に二匹飼ってるのね。かなりヤバイわよ、その子。闇の力に手を出そうとしているわ』
『闇の力……そういえば部屋真っ暗にしてた。朝から夜までずっと』
「それは両腕の封印を解こうとしてるわね。封印が解かれたら世界が滅ぶかもしれないわ」
『‼︎』

 ただの病気かと思ったら、どうも違うみたいだ。お姉さんが深刻な顔で話している。
 両腕に二匹、闇の力、封印、世界が滅ぶと危険な言葉が次々に出てくる。

『ど、ど、どうしたらいいの⁉︎』

 世界の危機にピーちゃんが激しく動揺している。
 僕も世界を滅ぼす二匹の怪物が解き放たれると思うと、ドラゴンの血なんか飲んでいる場合じゃない。

「落ち着いて、ピーちゃん。その子はまだ初期段階だから大丈夫よ」
『そうなの? 初期段階なら大丈夫なの?』
「大丈夫じゃないけど大丈夫よ。その子は弱い相手をイジメて、自分が強いと優越感に浸るクソ野朗タイプだから。弱い魚、動かない木、小鳥のピーちゃんと弱そうな相手にしか手を出してないでしょ」
『本当だ。クソ野朗だ』

 どう聞いても大丈夫じゃないでしょ。
 弱い者イジメが大好きなクソ野郎だ。
 病気だとしても、そんな奴許したら駄目だ。
 僕の前に現れたら、一発ぶん殴ってやる。

『あっ、でも僕、クソ野郎倒したよ』

 ピーちゃん、ナイスだよ。
 しかも、ピーちゃんに負けるクソ雑魚野朗だ。

「でかしたわよ、ピーちゃん! このタイプは自分よりも強い相手には素直に言うことを聞くのよ。倒した後に変化はなかった?」
『そういえば、あった。ピーちゃん様って言って、手を合わせてお願いしてきた。ドラゴンの血が欲しいって』

 僕と同じ物を欲しがるなんて、ちょっと気分が悪いな。
 ピーちゃん、そんなクソ雑魚野朗のお願い聞かなくてもいいからね。

「それが封印を解く鍵ね」

 お姉さんが言った。ドラゴンの血は封印の鍵にもなるらしい。
 もう料理の調味料にでも使えそうな気がしてきたぞ。

『じゃあ、ドラゴンの血は持っていったら駄目だね』
「いいえ、あえて持っていきましょう。現実を教えてやるのが本当の優しさよ。ドラゴンの血を使っても封印は解けないから」
『⁇』

 僕もピーちゃんと一緒だ。⁇だ。
 お姉さんが何を言っているのか分からなくなった。
 封印を解く鍵なのに、封印が解けないってどういうことなんだ?
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

処理中です...