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第三十三話 魔物の血を飲んでみた
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どんな魔物を倒してきたのか聞き終えると、ピーちゃんから収納袋をもらった。
この中に倒した魔物がたくさん入っている。
『じゃあ、ピーちゃん。ゆっくり休むんだよ。僕はちょっとお風呂に入ってくるね。覗いちゃ駄目だよ』
『頼まれたって覗かない』
窓枠に寝転んでいるピーちゃんに言うと部屋から出た。
僕の部屋を血だらけにするわけにはいかない。
脱衣所で服を脱ぐとお風呂場に入った。
『クククッ。ようやく手に入った』
収納袋に右手を入れると鎧ウサギを掴んで取り出した。
収納袋の口は頑張れば、一メートルぐらいは広げられる。
鎧ウサギぐらいの大きさなら丸ごと入れられる。
『うっ、このままはキツイかも』
初ちゅーちゅーだ。目を開けたままだと気持ち悪くて出来ない。
生肉を噛むのも気持ち悪そうなのに、死体を噛むなんてもっと気持ち悪い。
『あ、あ、あ……!』
目を閉じると首だと思う場所に口を近づけていく。
勇気を出すとフサフサの毛深い首を咥えた。あとは牙を突き立て噛むだけだ。
『ぐぅっ!』
毛深い大根だと思って噛み付いた。
口の中にドロっとしたものが流れ込んできた。
口の中に血が溜まるのを我慢していたのに、牙の方が血を飲み始めた。
これだと血を一気に飲み込めない。
『うぐっ……‼︎』
ピーマンみたいにすごく苦い。舌で舐めていないのに味を感じる。
牙に味覚があるみたいだ。
『マ、マズすぎる……』
でも、こんなの迷惑だ。ずっと苦い味が続いている。
血を飲むたびにこれを我慢しないといけないなら最悪だ。
『うぇええ』とようやく飲み終わった。お腹は膨れなかった。
これだと味さえ我慢すれば、いくらでも飲めてしまう。
『うぐっ、次はオオカミだ』
ウサギのおかわりはたくさんあるけど、不味いので次はオオカミだ。
収納袋から角の生えたオオカミを取り出した。
こっちは美味しいかもしれない。今度は目を閉じないで背中を噛んだ。
『うぷっ……!』
こっちもピーマンだった。マズイ、不味すぎる。
こんなの頑張っても一週間に一回だ。それ以上は飲みたくない。
『うええええ!』
吐きそうだ。もしかしたら新鮮な血じゃないから不味いのかも。
倒したての魔物の血なら美味しいのかも。
そう思わないとやってられない。
『うぐっ、つ、次だ!』
だけど、この程度で終われない。
地獄ならとうに体験している。
筋肉痛の痛みに比べれば、この程度なんでもない。
収納袋に右手を入れた。
袋に入れられなかったからと、頭と尻尾だけ切って持ってきたそうだ。
もちろん飲むのは尻尾の方だ。トカゲの生首なんて噛む勇気はない。
『はむっ! むむっ⁉︎』
トカゲの尻尾に噛み付いた。ピーマンじゃなかった。苦くない。
ほんのりと甘い。これならいくらでも飲める。
『ふぅー、甘いのもあるんだ』
ちょっと希望が出てきた。強い魔物の血は美味しいのかもしれない。
確かめるにはコウモリの血を飲むしかない。
収納袋から取り出すと頭は無理なので、お腹に噛み付いた。
『ふぐぅっ!』
ピーマンだった。同じダンジョンの魔物なのにこっちは不味い。
強さは関係なかった。不味い血の魔物と美味しい血の魔物がいる。
飲むなら美味しい血に決まっている。
ガタッ。
『誰っ⁉︎』
すぐ近くで物音が聞こえた。ヤバイ、この姿を見られた。
お風呂の扉を開けて脱衣所を見た。誰もいなかった。
お風呂場の窓も開けて外も見た。
『熱いっ!』
こっちも誰もいなかった。というか太陽の光を浴びてちょっと火傷した。
『……気のせいか?』
血を飲んだからか、感覚が敏感になっているのかもしれない。
なんだか身体から力が溢れてくる。一角オオカミを両手で掴んで持ち上げてみた。
『うぐぐぐっ!』
さっきは両手で持ち上げようとしても無理だったのに、今はなんとか持てる。
やっぱり間違いない。魔物の血を飲んで強くなっている。
『ハァハァ、ハァハァ! クククッ、ククッ』
両腕が疲れてきたので、一角オオカミを床に下ろした。
ピーちゃん、どうやら僕はとんでもない力を手に入れてしまったようだ。
君のお陰でね。でも、まだちょっと足りないかな。火傷しちゃったよ。
ベッドの上で次の魔物を楽しみに待ってるね。
♢♢♢
「くっ、まさかあんな恐ろしいことをするなんて……」
家を出たふりをして、心配で、ずっとレナスの様子を観察していた。
お風呂場で魔物の血を飲む息子を見て、私は自分の愚かさを改めて理解した。
息子の余命を延ばす為とはいえ、化け物に変えてしまった。
もう残された時間に怯える必要はない。
何としても息子を人間に戻す方法を見つけてやる。
『ふぅー、ヤバイの覗いてしまった』
「あれは……」
家から離れようとしていたら、レナスの部屋から青い小鳥が出てきた。
ピーちゃんだ。吸血鬼に払うお金を用意してくれた我が家の大恩人だ。
二度と焼き鳥と卵料理は食べないと決めている。
「やあ、ピーちゃん」
『あっ、レナスのおじさんだ』
近づくと右手を上げて挨拶した。
もしかするとピーちゃんなら見つけてくれるかもしれない。
レナスに魔物を持ってきたのもピーちゃんだ。
私よりも頼りになるのは間違いない。
「ピーちゃん、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
『なに?』
「レナスのことなんだけど、病気を治す方法を一緒に探してくれないか? お礼なら私に出来ることなら何でもするから」
ピーちゃんに頼むことじゃないのは分かっている。
それでも恥を承知で頼んだ。
『……やっぱり病気だったんだね。僕、知っているよ。人間が子供の時にかかる悪い病気があるって』
「ピーちゃん、知ってたんだね」
『うん、前にからまれたから、腹パンで黙らせた。荒治療のつもりだったけど、まだ治ってなかった。取ってきた魔物で何するかと思ったら、お風呂で変な儀式してた。かなりヤバかった』
「そうなんだよ! ヤバイんだよ!」
ピーちゃんもレナスが吸血鬼になったのを知っていたようだ。
しかもすでに治そうとしていた。やっぱり我が家の大恩人だ。
「じゃあ、ピーちゃん。頼んだよ!」
『うん、分かった。どっちが早く治せるか勝負する』
「ああ、負けないよ」
これは男としても父親としても負けられないな。
ピーちゃんに頼むと今度こそ出発した。
この中に倒した魔物がたくさん入っている。
『じゃあ、ピーちゃん。ゆっくり休むんだよ。僕はちょっとお風呂に入ってくるね。覗いちゃ駄目だよ』
『頼まれたって覗かない』
窓枠に寝転んでいるピーちゃんに言うと部屋から出た。
僕の部屋を血だらけにするわけにはいかない。
脱衣所で服を脱ぐとお風呂場に入った。
『クククッ。ようやく手に入った』
収納袋に右手を入れると鎧ウサギを掴んで取り出した。
収納袋の口は頑張れば、一メートルぐらいは広げられる。
鎧ウサギぐらいの大きさなら丸ごと入れられる。
『うっ、このままはキツイかも』
初ちゅーちゅーだ。目を開けたままだと気持ち悪くて出来ない。
生肉を噛むのも気持ち悪そうなのに、死体を噛むなんてもっと気持ち悪い。
『あ、あ、あ……!』
目を閉じると首だと思う場所に口を近づけていく。
勇気を出すとフサフサの毛深い首を咥えた。あとは牙を突き立て噛むだけだ。
『ぐぅっ!』
毛深い大根だと思って噛み付いた。
口の中にドロっとしたものが流れ込んできた。
口の中に血が溜まるのを我慢していたのに、牙の方が血を飲み始めた。
これだと血を一気に飲み込めない。
『うぐっ……‼︎』
ピーマンみたいにすごく苦い。舌で舐めていないのに味を感じる。
牙に味覚があるみたいだ。
『マ、マズすぎる……』
でも、こんなの迷惑だ。ずっと苦い味が続いている。
血を飲むたびにこれを我慢しないといけないなら最悪だ。
『うぇええ』とようやく飲み終わった。お腹は膨れなかった。
これだと味さえ我慢すれば、いくらでも飲めてしまう。
『うぐっ、次はオオカミだ』
ウサギのおかわりはたくさんあるけど、不味いので次はオオカミだ。
収納袋から角の生えたオオカミを取り出した。
こっちは美味しいかもしれない。今度は目を閉じないで背中を噛んだ。
『うぷっ……!』
こっちもピーマンだった。マズイ、不味すぎる。
こんなの頑張っても一週間に一回だ。それ以上は飲みたくない。
『うええええ!』
吐きそうだ。もしかしたら新鮮な血じゃないから不味いのかも。
倒したての魔物の血なら美味しいのかも。
そう思わないとやってられない。
『うぐっ、つ、次だ!』
だけど、この程度で終われない。
地獄ならとうに体験している。
筋肉痛の痛みに比べれば、この程度なんでもない。
収納袋に右手を入れた。
袋に入れられなかったからと、頭と尻尾だけ切って持ってきたそうだ。
もちろん飲むのは尻尾の方だ。トカゲの生首なんて噛む勇気はない。
『はむっ! むむっ⁉︎』
トカゲの尻尾に噛み付いた。ピーマンじゃなかった。苦くない。
ほんのりと甘い。これならいくらでも飲める。
『ふぅー、甘いのもあるんだ』
ちょっと希望が出てきた。強い魔物の血は美味しいのかもしれない。
確かめるにはコウモリの血を飲むしかない。
収納袋から取り出すと頭は無理なので、お腹に噛み付いた。
『ふぐぅっ!』
ピーマンだった。同じダンジョンの魔物なのにこっちは不味い。
強さは関係なかった。不味い血の魔物と美味しい血の魔物がいる。
飲むなら美味しい血に決まっている。
ガタッ。
『誰っ⁉︎』
すぐ近くで物音が聞こえた。ヤバイ、この姿を見られた。
お風呂の扉を開けて脱衣所を見た。誰もいなかった。
お風呂場の窓も開けて外も見た。
『熱いっ!』
こっちも誰もいなかった。というか太陽の光を浴びてちょっと火傷した。
『……気のせいか?』
血を飲んだからか、感覚が敏感になっているのかもしれない。
なんだか身体から力が溢れてくる。一角オオカミを両手で掴んで持ち上げてみた。
『うぐぐぐっ!』
さっきは両手で持ち上げようとしても無理だったのに、今はなんとか持てる。
やっぱり間違いない。魔物の血を飲んで強くなっている。
『ハァハァ、ハァハァ! クククッ、ククッ』
両腕が疲れてきたので、一角オオカミを床に下ろした。
ピーちゃん、どうやら僕はとんでもない力を手に入れてしまったようだ。
君のお陰でね。でも、まだちょっと足りないかな。火傷しちゃったよ。
ベッドの上で次の魔物を楽しみに待ってるね。
♢♢♢
「くっ、まさかあんな恐ろしいことをするなんて……」
家を出たふりをして、心配で、ずっとレナスの様子を観察していた。
お風呂場で魔物の血を飲む息子を見て、私は自分の愚かさを改めて理解した。
息子の余命を延ばす為とはいえ、化け物に変えてしまった。
もう残された時間に怯える必要はない。
何としても息子を人間に戻す方法を見つけてやる。
『ふぅー、ヤバイの覗いてしまった』
「あれは……」
家から離れようとしていたら、レナスの部屋から青い小鳥が出てきた。
ピーちゃんだ。吸血鬼に払うお金を用意してくれた我が家の大恩人だ。
二度と焼き鳥と卵料理は食べないと決めている。
「やあ、ピーちゃん」
『あっ、レナスのおじさんだ』
近づくと右手を上げて挨拶した。
もしかするとピーちゃんなら見つけてくれるかもしれない。
レナスに魔物を持ってきたのもピーちゃんだ。
私よりも頼りになるのは間違いない。
「ピーちゃん、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
『なに?』
「レナスのことなんだけど、病気を治す方法を一緒に探してくれないか? お礼なら私に出来ることなら何でもするから」
ピーちゃんに頼むことじゃないのは分かっている。
それでも恥を承知で頼んだ。
『……やっぱり病気だったんだね。僕、知っているよ。人間が子供の時にかかる悪い病気があるって』
「ピーちゃん、知ってたんだね」
『うん、前にからまれたから、腹パンで黙らせた。荒治療のつもりだったけど、まだ治ってなかった。取ってきた魔物で何するかと思ったら、お風呂で変な儀式してた。かなりヤバかった』
「そうなんだよ! ヤバイんだよ!」
ピーちゃんもレナスが吸血鬼になったのを知っていたようだ。
しかもすでに治そうとしていた。やっぱり我が家の大恩人だ。
「じゃあ、ピーちゃん。頼んだよ!」
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