上 下
171 / 172
第四章:商人編

第171話 詐欺師二回目

しおりを挟む
「隊長、大丈夫なんですか?」

 この召喚女の利用方法を考えていると、避難しているメルが聞いてきた。
 まだ信用できないから、近づけさせない方がいい。

「大丈夫だ。しばらく待機していろ」
「はぁーい!」

 他の誰かが召喚している場合や一人で複数人数を召喚できるのか気になる。
 町の住民はドリュアスの使用人を雇っているんじゃないだろうか?
 だから家の扉を固く閉ざして、如何わしい現場を見られたくないんだろう。

「ご主人様、ご用がなければ、杖に戻ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいぞ」

 ドリュアスが聞いてきたから、帰る事を許可した。
 試してみたい事はあるが、俺も人には見られたくない。

「かしこまりました。またお会い出来る日を楽しみにしております」

 丁寧にお辞儀してから、ドリュアスは黄緑色の杖に戻った。
 杖は地面に突き刺さってないから、倒れてきたけど壊すつもりはない。
 都合の良い召喚女が壊れないように、優しく受け止めた。

「とりあえず自宅に連れて行かないとな」

 大事な杖なので、魔人村に置いておく事にしよう。
 出来る事の検証はゆっくりやればいい。

 村に帰る前に、念の為に扉を通って、一階と二階の両方を調べてグレッグを探してみた。
 メルのモンスター探知にも反応がないから、俺への八つ当たりに殺されたかもしれない。
 あの三兄妹ならやりそうな気がする。

 村の自宅に帰ると村長に冒険者カードを返して、自宅に在庫品を保管した。
 召喚女にベッドでマッサージを頼むと、嫌な顔一つせずにやってくれた。
 前回の記憶はないみたいだから、学習能力を期待したいなら常に召喚し続けるしかない。

「もう帰っていいぞ」
「かしこまりました。またお会い出来る日を楽しみにしております」

 肩、腰、足裏の全身マッサージを終わらせると、ドリュアスを杖に戻した。
 プロレベルを期待していたけど、普通にトントン、モミモミされただけだった。
 やはり普通の使い方をした方が良さそうだ。

 ドリュアスは植物を育てる能力を持っている。
 手に入れた大根の種を一個渡すと、二分程度の短時間で成熟した大根に変えられる。
 植物ならば繁殖も可能なので、薬草と毒草も作り放題になる。
 もうティルは教会勤務でいいだろう。
 
 ♢

 小船を飛ばして、村から町に向かった。もう待てないからジジイ達を迎えに行く。
 ついでに武器屋の女店員に木の書を見せて、結婚までのカウントダウンを教えてやる。
 次の炎の書を手に入れたら、泣いてなかった事にして欲しいと頼んでくるはずだ。
 その時に大量の結婚指輪だけを要求させてもらう。
 
「炎なら水が効果的だな。大量の人魚がいれば楽勝だろう」

 炎の門番の倒し方は、俺の優れた頭脳が答えを導き出している。
 自宅に保管している人魚の銀魔石と鱗を全て使えば、五十人匹の人魚を召喚できる。
 人魚達が円形闘技場を水中闘技場に変えるまで、俺は炎の門番の攻撃を防げばいい。

 あとは水の中で、炎の門番が人魚達に撃沈されるのを待てばいい。
 村長からAランクの武器を借りて、人魚達に渡せば攻撃力も問題ない。
 まさに完璧で容赦ない作戦だ。

「絶対にやめた方がいいです。前も楽勝だと言って死にそうだったんですよね」

 勝利は約束されているのに、メルが水を差すような事を言ってきた。
 自分が行きたくないから、俺を不安にさせたいようだ。
 もうお前は戦力外だから、お願いされても連れて行かない。

「あれはお前が逃げたからだ。今度は来なくていいからな。絶対に役に立たない」
「むぅー! 炎耐性は私の方が高いのに!」

 安全な場所に待機命令を出してやったのに、いつものように怒っている。
 だが、良い事を教えてくれた。確かに炎耐性を上げていた方が安心だ。
 黒炎で攻撃してもらって、炎耐性をLV6ぐらいまで上げておこう。
 それぐらいの役には立つだろう。

 町の外側に着陸すると、いつものように換金所を訪れた。
 ジジイ達が前のように、伝言を預けているかもしれない。

「すみません。入ります」

 扉を軽く叩いて、換金所に入った。
 今日の店番はハズレだ。青髪のザックスがカウンターにいた。

「遅いぞ、ウスノロ。薬が完成したそうだ。これでお前達が人間なのかハッキリするな」
「はい?」

 約束もしてないのに、いきなり文句を言ってきた。
 薬が何なのか思い出そうするけど、何の事か分からない。
 俺の代わりに心当たりがあるのか、メルがザックスに聞いた。

「薬って、人間に戻れる薬ですか?」
「当たり前だろう。それ以外に注文した薬があるのか? 案内してやるから付いて来い」

 例の人間に戻れる薬が完成したそうだ。
 予定よりも少し早いけど、多分、効果がない水を飲まされるだけだ。
 そして、追加の金を要求されるのが、一般的な詐欺の流れになる。

「人間に戻れたら、町で暮らしてもいいんですよね?」
「知らねえよ。冒険者用の宿屋を使うんだな」
「それなら、おば様達の家に帰りたいです。隊長、送ってください」
「ああ、戻れたら送ってやるよ」
「わぁーい! 約束ですよ」

 呪解師の家に向かうザックスの後を歩きながら、メルが楽しそうに予定を話す。
 残念ながら、その予定は予定で終わるだけだ。
 
「逃げようとか考えるなよ。嫌でも無理矢理飲ませてやる」

 毒薬でも飲ませる言い方だけど、呪解師の店に到着した。
 見張りの人数が四人も増えているから、明らかに疑っているのは分かっている。
 毒薬に怖気づいて逃げ出すと、魔人として野蛮な住民達に殺害されてしまう。

「マナミ、例のゾンビを連れて来たぞ」

 扉を開けて店の中に入ると、黒の上着とロングスカートを着た黒髪の女が立っていた。
 今日はお茶ではなく、仕事中のようだ。黄色い煙を上げる小鍋で何かを作っている。
 
「マナミさんでしょ。私はあなたのお姉さんじゃないのよ」
「ほとんど血縁者なんだから、遠い親戚だろ。それよりも早く正体を暴いてくれよ」

 小鍋に蓋をすると、年下の無礼者をマナミが叱りつけた。
 だけど、無礼者は無礼者のままだ。
 ザックスは早く俺達を魔人だと断定して、六人で袋叩きにしたいらしい。

「それじゃあ、そっちの女の子だけ来てちょうだい。男の方からはお金は貰ってないわ」
「私しか戻れないんですね。ごめんなさい、隊長」
「別にいい。遠慮せずにさっさと戻れ」

 お金を払ったのは俺なのに、頼んだ方が優先されるようだ。
 詐欺師に一人だけ呼ばれて、メルが申し訳なさそうに謝ってきた。
 信じる者は救われるそうだが、信じるのは神様だけにしろ。
 世の中には信じる価値がない人間はたくさんいる。

「それじゃあ、薬の説明をするわ。まずはこの呪い薬で魔人の力を弱体化させて、ゾンビに戻してあげる。ゾンビに戻れば、聖水で人間に戻れるはずよ」

 それっぽい薬瓶を二本持ってきて、マナミが人間に戻れる方法を話し始めた。
 二種類の薬を使用して、魔人からゾンビにして、ゾンビから人間にするそうだ。
 確かにゾンビならば、治療できる方法がある。面白い方法だとは思う。
 問題はそれが可能かどうかだ。

「モンスターで実験したけど、100%の安全は保証できないわよ。それでもいいならやってみる?」

 俺としては何%の確率で戻れるのか知りたいが、敵地でそんな無礼な事は聞けない。
 例え1%でも戻れる確率があれば、その薬には料金を払わなければならない。

「お姉さんの事を信じているから大丈夫です。やってください」
「フフッ。度胸のある女は嫌いじゃないわ。安心しなさい。死ぬような副作用はないから」

 マナミの説明を聞いても、メルの決心は変わらないようだ。
 危険を覚悟で、薬瓶の青黒い液体を飲み干した。

「ふぅー、お酒よりは甘かったです」
「薬が効き始めるまで時間がかかるわよ。ザック、リビィ、ゾンビになったら暴れるから、この子をベッドに押さえてちょうだい」

 メルが甘い薬を飲み終わると、マナミが見張り二人を呼んでお願いした。
 確かに今のメルがゾンビに戻れば、俺が使役しているゾンビじゃないから暴れるはずだ。

「マナミさん、一応俺達も忙しいんですよ。何分ぐらいかかるか教えてくれませんか?」

 名前を呼ばれた一人が予定があるのか、拘束時間を聞いている。
 俺も時間がかかるようなら、グレッグを探して、水の書を回収して人魚を大量に作りたい。

「さあ、分からないわ。普通は重度のゾンビ化なら六時間ぐらいが平均ね」
「マジですか……交代で見張るしかないな」
「あっ、俺が岩塊で閉じ込めますよ」
「テメェーは黙っていろ」
「はい……」

 皆んな忙しいようだから、気を利かせたつもりなのに怒られた。
 マナミが薬の経過観察をしたいそうだから、メルを連れ帰るのは駄目らしい。
 俺は逃亡の恐れがあるから、村の自宅で家庭菜園も許されない。

「うぐっ」
「よし、これでいいな。大人しくしていろよ」

 絶対に拘束する人間を間違えている。話し合いの結果、どうするのか決定した。
 何故か俺が両手足を金属製の枷で拘束されてしまった。

「じゃあ、一時間交代だ。逃すなよ」
「こんな雑魚、誰も逃さねえよ」

 見張りは三人だけになったけど、最初から逃げるつもりはない。
 ベッドに寝ているメルは、ゾンビにならずに暇そうにしている。
 これは本格的に偽薬を使った、高度なイジメの可能性が出てきたな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~

きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ 追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。 ♢長めあらすじ 100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。 ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。 ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。 主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。 しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。 しかし。その無能スキルは無能スキルではない。 それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。 ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

処理中です...