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第四章:商人編

第162話 毒の国

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 砂漠から換金所に移動した。
 ジジイ達を探したくても、町には入れない。
 換金所の店番に頼んで、迷子のジジイを探してもらおう。

「すみません。入ります」

 扉を叩いて換金所に入ると、カウンターには茶髪のステイの兄貴がいた。
 今日は当たりの日だ。青髪のザックス以外は全員当たりだ。

「来たか、お前の連れから伝言を頼まれている。三日後の昼に迎えに来て欲しいそうだ」
「あっ、そうですか。分かりました……」

 ステイが俺達の顔を見ると、すぐに言ってきた。ジジイ達は町観光に夢中のようだ。
 こんな小さな町のどこに見る価値があるのか知らないが、そういうつもりなら仕方ない。
 こっちも好きにやらせてもらう。

「すみません。呪解師さんに頼んだ、私の薬はまだ出来ないんですか?」
「こら、メル。帰るぞ」

 帰ろうとすると、メルが聞いてしまった。薬の話は二度とするなと言っている。
 コイツら偽金作りの詐欺師だから、期待するだけ無駄だ。

「完成したら、ここに届く。まだ届いてないから、完成していないという事だ」
「そうですか……」

 ほら、永遠に出来ないんだから行くぞ。
 残念がっているメルを連れて帰ろうとした。
 だけど、兄貴に呼び止められた。

「ちょっと待て。その肩掛けマントはどこで手に入れた? 売ったとは聞いてない」
「盗んでませんよ。さっき祭壇で手に入れたんです」

 泥棒扱いされて、メルが正直に答えてしまった。
 魔人は祭壇使用禁止とか聞いてないから、今回だけは見逃してほしい。

「そうか……思ったよりは強いようだが、次はやめた方がいい。次は木の精霊が支配する毒の世界だ。定期的に毒抜き注射器を使わないと死んでしまう」
「毒なら平気です! 問題ないです!」
「フッ。確かにお前達には毒は効かないな。行きたいなら止めはしない。死なないように気をつけろ」

 自信満々に毒は効かないと、メルが応えると笑われた。確かに余計なお世話だった。
 魔人も祭壇を使っていいようだから、遠慮なく使わせてもらおう。

「さてと、どうしようか……」

 換金所を出ると、毒の国に行くか考えてみた。
 兄貴に聞いたら、『セカンド』という町があるそうだ。
 当然、魔人はお断りだから、近づくだけで攻撃されてしまう。

 ゾンビなら毒は効かないから、毒の国は自由に探索できる。
 戦闘経験の少ないティルは教会に置いて、他の戦力を集めるとしよう。
 魔人村の住民も毒が効かないのが多い。

 ♢

 魔人村……

「俺の家に入ったのは誰だぁー‼︎」
「何も盗まれた物が無いならいいだろう」
「空気が汚れるんだよ! 汚い菌が中に入るんだよ!」

 祭壇で手に入れた物を自宅に置きに来た。
 毒鉄蜘蛛が騒いで、オークが話を聞いている。
 普段は無口なクモさんが、今日は元気みたいだ。
 部屋に荷物を置いたら、話があるから犯人探しも手伝ってやろう。

 取っ手も鍵穴も無い四角い扉に手を触れて、大きな岩塊を操って外に引き出した。
 俺も家の中には誰も入れたくないタイプだ。

「面倒だから冷凍庫でいいな」

 帰ってきた後にまた素材が増えそうだ。
 小船の岩箱を操って、氷剣を突き刺しただけの大型冷凍庫に、食べ物と道具を入れていく。
 毒抜き注射器はすぐに使うから、これだけは取り出しておいた。

 収納鞄に着替えの服を三着入れて、食糧用の魔石も入れた。
 これで魔剣を使って血塗れになっても、服には困らない。
 次は注射器で毒抜き出来るか試してみる。
 矢毒ガエルの毒皮と魔石を用意した。

 まずは魔石を毒肉に変えて、注射器の針を突き刺した。
 注射器は筒の中に、上下に移動させられる筒がもう一つ入っている。
 筒を上下に動かす事で、毒を吸引したり、注入したり出来る。

 筒を上に引っ張って、透明な筒の中に紫色の液体を溜めていく。
 代わりに黒い肉の色が、鮮やかな赤色に変わり始めた。
 毒が吸い出されているようだ。

【矢毒ガエルの毒無し肉】——食べても毒にならない。

 どうやら、成功のようだ。
 ついでに吸い出した毒を、他の物に注入できるか試してみた。
 水リスの肉に毒液を注入すると、水リスの毒有り肉に変化した。
 毒有り肉の毒も吸引できるから、毒有り毒無しは自由に変更可能だ。

「あとは毒の処分が問題だな」

 毒皮の方は毒を抜いても、皮の色は変わらなかった。
 吸い出した毒は、岩瓶に保管すれば問題ないだろう。
 俺の家には誰も入らない。

 出発の準備を終わらせると、家から出た。
 毒鉄蜘蛛は騒ぐのをやめて、家の奥に引っ込んだようだ。静かになっている。
 もう少し落ち着いてから、お花畑観光に誘ってみるか。

「スイさん、アイさん、キイさん、こんにちは。ちょっとお願いがあるんですけどいいですか?」

 水色の長男スイ、赤色の次男アイ、黄色の長女キイのウッドエルフ三兄妹に挨拶した。
 売れ残りの服を買ってくれる村一番の常連だ。
 ちなみに三兄妹に血の繋がりはない。赤の他人だ。

「ドクタの家に入ったのは、お前だろう? この村に他人の家に無断で入る奴は、お前しかいない」
「やめてよ、お兄ちゃん。証拠もないのに疑うなんて酷いよ」

 早速、長男が犯人呼ばわりしてきた。
 長女が俺を庇ってくれているけど、長男が正しいぞ。

「何だ、お前? コイツの事が好きなのか?」
「ちょっ、ちょっとやめてよ⁉︎ こんな奴、好きでも何でもないんだからねぇ!」
「おいおい、顔が真っ赤だぞ。燃えないように気をつけろよ」
「もぉー、やめてよぉ!」

 次男に揶揄われて、長女が恥ずかしがっている。
 器用に黄色い蔓で、女らしい長い髪や胸の膨らみまで作っている。
 兄妹仲良くて羨ましいが、服着た色付きマネキン達の芝居を見るつもりはない。
 
「これから毒の国に行くんですけど、一緒に行きませんか? 花畑が綺麗なんですよ」
「おいおい、デートに誘われているぞ。どうするんだ、キイ?」
「えぇー、お花とか興味ないけど……どうしてって言うなら別にいいわよ?」

 素直になれないお年頃なのか、指に蔓髪を巻き付けながら、キイは行くと答えている。
 悪いけど、デートじゃないからお兄さん達にも来てもらう。
 妹が危険な目に遭わないか心配だろう。

 ♢

 メル、グレッグ、ウッドエルフ三兄妹と一緒に毒の国にやって来た。
 毒鉄蜘蛛のドクタは、船に乗せるのが面倒だから置いてきた。
 多分、誘っても来ない。

「わぁー、綺麗なお花畑! 凄ぉーい!」

 本当のお花好きは花を踏みつけない。
 キイは花畑を走り回って、お花達を踏み殺している。
 ピンクと白色の六枚の花弁を持つ、八センチ程の花が一面に咲き誇っている。
 毒の国という物騒な名前と違って、青空と清々しい空気が満ちている。

 だけど、危険なモンスターはいる。
 花畑の海を泳ぐように赤、白、青、黄色の動く花がやって来た。
 ツボミの形の大きな頭、緑色の葉っぱの両手、黄色い胴体は角笛のような形をしている。
 頑張って見れば、変わった鳥のようにも見えそうだ。

【名前:フラワードッグ 種族:植物系 体長90センチ】——鋭い牙が生えた二枚花の頭部を持つ。

「ヘッ、俺の出番だな。焼き殺してやるよ」
「モンスターがいっぱいです。焼き払います」

 アイが弓矢を出すと、拡散する炎の矢を発射して、花犬の頭を貫いていく。
 メルは両手から黒炎の柱を噴き出して、近づいてくる花犬を焼き殺していく。
 俺の出番はまだまだ先のようだ。

 四十匹以上の花犬が倒されると、お花畑の一部が焼け野原に変わってしまった。
 メルの黒火炎放射は威力だけ高くて、美しくない。無駄が多すぎる。
 もっと範囲を絞らないと、魔力の垂れ流しと同じだ。
 
「接近戦なら、炎の短剣を作ればいいんじゃないのか? そっちの方が素早さを活かせるだろう」
「えぇー、嫌です。やりたいなら、隊長がやればいいじゃないですか」
「俺はいいんだよ、強いんだから。短剣を突き刺して、内部から一気に焼くんだ。簡単だろう?」

 落ちている赤い魔石と、角笛のような茎を集めて小船に入れていく。
 効率的な戦闘方法をメルに教えているのに、ちょっと強くなって聞く耳持たない。
 調子に乗っていると大怪我するが、それを言うと、怪我する所には行きたくないと言われてしまう。

「そんなのいいから、この魔石戻してください。きっと美味しい果物が出ます」
「はぁ……」

 最近はすっかり反抗期だ。赤い魔石を受け取ると、復元を使ってやった。
 魔石は緑色の大きな『イヌイチゴ』に変わった。
 ほら、間違えている。イチゴは果物じゃない。野菜だぞ。
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