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第四章:商人編

第156話 修道女

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「ハァッ! ヤァッ!」
「神父様ですか? 張り紙を見て来たんですけど……」

『修道女募集。元気な子供達のお世話をお願いします』……
 と書かれた張り紙を持って、長い金髪の若い女が教会の中に入ってきた。
 子供達に黒岩剣を振り回させて、訓練中だったが相手しないといけない。

 色々な町を回って、二十人の選ばれし子供達を集めてきた。
 逃げ出さないように監視する人間が必要だから、外の町ベルンで募集した。
 魔人には非協力的でも、やっぱり罪のない子供達は特別らしい。
 協力的な住民がやって来た。

「はい、私が神父のカナンです。何のご用でしょうか?」

 剣を二本持って武装しているが、一応黒の長ズボンと白の長袖上着を着ている。
 心の目で見れば、神父の服に見えなくもない。
 
「修道女に興味があって来たんですが……これは何をやっているんですか?」

 綺麗に修繕された教会の中心で、剣を振り回している子供達を指差して聞いてきた。
 見れば分かるだろうと言いたいけど、見てわからないようだ。

「健全な心は強い身体に宿ります。祈るだけでは強くならない部分を鍛えているのです」
「そ、そうですか……教会の使用許可は町で取りましたか?」
「私が神父です。私の許可があれば、それだけで十分ではないですか?」
「は、はぁ……?」

 二十一歳で見た目は綺麗だが、頭の中身は悪そうだ。世間知らずのお嬢様タイプだろう。
 可愛い子供達のお世話に来たつもりなら、三日で逃げ出す。適当に話して諦めさせてやるか。

「ララさんは剣を持った事はありますか?」
「えっ? どうして、私の名前を?」

 修道女希望の女の名前を言って、黒岩剣を作って差し出した。
 名前を当てられて困惑しているが、識別眼を使っただけだ。
 子供を騙すのに効果的だったが、大人にも通用するとは思わなかった。

「神には全てが見えています。あなたが私を疑っているのも見えていますよ」
「はっ! 失礼しました!」
「構いません。見えないものを信じられないのは、あなただけではありません」

 本心を見破られたと思って、ララは頭を下げて謝ってきた。
 気にしてないフリをしたが、予想通り、俺の事を嘘臭いと思っていた。
 これは神罰を与えるしかないですね。

「この教会の修道女になりたいのなら、この剣で私に一撃当ててください」
「そんな事できません! 危ないです!」
「残念ですが、もう始まっています。あなたが出来ないのならば、怪我しないように避けてください」
「はい?」

 差し出した黒岩剣が押し返されたので、特別ルールに変更になった。
 返された剣の柄を握ると、ララの腹に剣を峰打ちで叩き込んだ。

「ごぼっ……‼︎」

 ドフッ‼︎ 朝食を食べてから来たようだ。
 四つん這いに跪いて、教会の地面を汚物で汚している。

「この不届き者め!」
「きゃう⁉︎」

 パシィン‼︎ 今度は水色のスカート越しに尻を叩いた。
 変な悲鳴が上がったが、俺は女子供に容赦しない男だ。
 ここで手を抜いたら、訓練中のガキ共に舐められる。
 動けなくなるまで徹底的に叩きのめす。
 
「ハァッ! ヤァッ!」
「うぐっ、ぎゅぴぃ‼︎」

 三分後……

「お前達、仕事だ。床の汚物を片付けて、この女に回復水と睡眠薬を飲ませろ」
「はい、神様」
「傷が綺麗に消えたら、町の近くに放置していいからな」
「はい、分かりました」

 予定通りに動かなくしてやった。訓練中の子供達に片付けるように命令した。
 身体に証拠が残ってなければ、夢でも見ていた事に出来る。
 
「いいか、雑魚は必要ない! 一ヶ月以内に職業を習得しない雑魚は追い出すからな!」
「はい、神様!」

 この訓練は職業、称号、魔法、進化の四段階の最短最強コースだ。
 進化セットはまだまだ貴重だから、才能のあるヤツだけを選んでいる。
 修道女もさっきの雑魚みたいなのは全てお断りだ。
 選ばれし子供達の中から、さらに厳しい訓練で選ばさせてもらう。

 ♢

「ハァッ! ヤァッ!」
「神父様ですよね? 張り紙を見て来たんですけど……」
「……」

 また来たか。
 昨日の金髪女が張り紙を持ってやって来た。
 女の張り紙は回収したから、また見つけて持ってきたようだ。
 余程の子供好きか、修道女好きなのだろう。
 ここが偽教会で、俺の為の冒険者訓練施設だと教えてやろうか?

 もちろん、そんな馬鹿な真似はしない。
 前と同じように微笑みを浮かべて話を聞いた。

「はい、私が神父のカナンです。何のご用でしょうか?」
「あれ? 前にお会いした事ありませんか?」
「いえ、初めてお会いしましたよ」
「そ、そうですか……?」

 ララは何かを思い出そうとしているが、夢と現実の区別が出来ずに混乱しているようだ。
 二回目は通用しないから、今回は暴力禁止で行くとしよう。

「張り紙を見て来たという事は、修道女に興味があるという事ですね?」
「はい、この町にはダンジョンがあります。そのお陰で豊かな暮らしが出来ています。前々からこの豊かさを、広く分け合いたいと思っていました。そのお手伝いが出来ればと思い、教会にやって来ました」
「素晴らしい慈愛の心をお持ちのようですね。あなたはもう立派な修道女ですよ」
「そ、そんな、とんでもないです!」

 褒め言葉にララは恥ずかしそうに謙遜している。
 この教会には勿体ないぐらいの、まともな人間が来てしまった。
 正直追い出したいが、ヤバイ人間に子供を任せるよりは良いかもしれない。
 冒険者崩れの野蛮な修道女を雇ったら、子供を訓練で殺しそうだ。

「分かりました。よろしかったら、一日だけ子供達のお世話を体験してみませんか?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんです。問題ないようならば、好きなだけ続けてもらって結構ですよ」
「ありがとうございます」
「ユアン、ピット、カルキン、この女性に教会を案内して差し上げなさい」
「はい、神様!」

 やる気だけはあるようだから、しばらく様子見でいいだろう。
 コソ泥三人組に修道女見習いを任せた。
 教会の一日の流れは起床、訓練、食事、訓練、食事、訓練、食事、休憩、就寝だ。
 修道女の仕事は監視と食事の用意だけでいい。

 大型冷蔵庫に復元したモンスター肉があるから、焼いて子供達に食べさせるだけだ。
 怪我した子供には、大量の回復水があるから飲ませればいい。

 超簡単な仕事なので、給料は払わなくてもいいが、俺は二十万ギル払ってやる。
 でも、子供が一人逃げたら、一万ギル減給するから要注意だ。
 逆に一人増えたら、一万ギル増給するから頑張るんだぞ。

 ♢

「よし、餌の出番だな」

 Aランクダンジョンに入れる神器の腕輪を二個持って、職人オヤジの店にやって来た。
 教会を修道女見習い一人に任せるつもりはない。
 職人オヤジ達に頼んで、作業場を教会に移転してもらう。

 魔石や素材は俺が無料提供するから、LV8になった製造アビリティで役立ってもらう。
 昔から子供の世話はジジイと決まっている。店に入ると男店員に案内してもらった。

「社長、奴が会いたいそうです。追い返しますか?」
「チッ。構わない。さっさと入れろ」

 店員が作業場の扉を叩いて聞くと、中からも不機嫌そうな声が返ってきた。
 店員も社長も礼儀がなっていない。俺は大事なお客様だぞ。

「今度は何の用で来た? 安物の回復薬をダンジョンの前で配りやがって。さっさとやめろ! お前の所為で市場価格が下落している!」
「……」

 いきなり社長が怒ってきたが、名誉の為に言うが、あれはメルが勝手にやっているだけだ。
 俺は三万本売れと言っただけで、売る場所は指定していない。
 それにスライム一匹の値段で、回復水が買えるんだから、冒険者達は大喜びだ。
 冒険者達の負傷率もしっかり下がっているぞ。

「何か誤解があるようだ。俺は恵まれない子供達の為に寄付を集めているだけだ」
「はぁ? 嘘吐け、殺すぞ!」

 嘘は吐いてないから殺されない。
 メルが稼いだ金の一部は、子供達の布団代に使われている。

「嘘だと思うだろうけど、Aランクダンジョンに行って、心を改めたんだ。今は廃教会を修繕して、二十人の子供達の神父をやっている」
「はぁー、それはご立派だな。ここにも寄付を集めにきたわけか? おい、あるだけの鉛弾を寄付してやれ」
「人間だと思うな。殺していいからな!」
「くっ!」

 一ミリも信じてないな。
 その痛い寄付は受け取れないので、黒岩の壁で周囲を防御させてもらった。
 ちょっと待ったけど撃ってこないので、お互い無駄な争いはしたくないようだ。
 そろそろ醜い価格競争を終わらせようじゃないか。

「……寄付を頼みに来たんじゃない。腕輪を二人分渡しに来たんだ。子供達の先生に二人来てほしい。職人としての技術を身につけさせたいんだ」

 用件を話すと腕輪を二個、腕を伸ばして岩壁の上から見せた。
 流石に教会に来るまでは渡したりしない。敵地で敵を強くする馬鹿はいない。

「……何を企んでいるか知らねぇが、誰かAランクに行きたいヤツはいるか?」
「ダンジョンまで片道十二時間。二人だけじゃなくて、日帰り観光で全員でもいいぞ」
「お前は黙っていろ!」

 社長が希望者を集めていたので、俺も手助けしてやった。
 でも、余計なお世話だったようだ。怒られてしまった。
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