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第四章:商人編

第150話 大漁祭り

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「いいか。フェンリル、ウッドエルフ、デーモン、巨人は買取らない。食わないからな」
「はい、気をつけます」

 帰る前にザックスに注文を聞いてみた。赤魔石以外は買取らないそうだ。
 しかも、何でも食べないらしい。牛人間を食べるなら、氷狼も食べろよ。

「あの……ちょっといいですか? モンスター料理に挑戦したいんですけど、魔石の復元が出来ないんですよ。コツとかありませんか?」

 とりあえず、まだ帰るには早い。
 前に手に入れた水リスの魔石を見せて聞いてみた。
 最低でも情報の一つは手に入れて帰りたい。

「知らねぇよ。こんなの子供でも出来るだろ」

 岩箱の中から魔石を一個掴み取ると、簡単に分厚い牛肉ステーキに変えた。
 そして、そのステーキを右手に持ったまま炎で焼き始めた。
 夜食に食べるみたいだけど、美味しいのか分からない。

「ほら、食べろ。興味があるんだろ?」
「は、はい、いただきます……」

 俺が食べないといけないらしい。
 親指と人差し指で摘んで、牛人間ステーキを差し出してきた。
 それを食べたくないから、水リスの魔石を用意したのに最悪だ。

 だが、ここで男の豪快な手料理を断るわけにはいかない。
 男なら出された料理は、黙って食べないといけない時がある。
 両手で受け取ると豪快に齧り付いた。

「むぐっ、むぐっ……美味しいです」
「そうか? コイツは煮込み料理で柔らかくした方が美味いぞ。早めに食堂に届けないとな」

「へぇー、食堂もあるんですね?」という侮辱は、硬い肉と一緒に飲み込んだ。
 ゾンビステーキにはなりたくない。味付けもされてない肉本来の味を味わった。
 久し振りに食事した所為か胃が拒絶している。

「うっぷ……ご馳走様でした。とっても美味しかったです」
「そうか。それなら問題ないな」
「えっ?」

 一キロの不味い肉を食べさせられたけど、常識人だからキチンとお礼を言った。
 すると、ザックスが嫌な笑みを浮かべた。嫌な予感しかしない。

「復元を覚えたいなら、モンスターの肉を食べ続ければいい。手伝ってやるよ」
「いえ、小食なんでお腹一杯です」
「遠慮するなよ。詰め込んでやるよ」

 本当に習得できるなら我慢するけど、危険しか感じない。
 出来ればこの偽金で食堂の美味しい料理を食べたい。
 食堂の料理人が男でも、出来れば美味しい男の手料理が食べたい。

 ♢

「うっぷ……食後の運動も無理だな」

 胃が破裂する前に四枚目で逃げ出した。俺は小食だと言った。
 何枚食えば習得できるか知らないが、一日で習得できるとは思えない。

「くっ……帰る前にちょっと散歩するか」

 このまま家に帰るよりは地下一階を探索する。
 前回倒さなかった銀色の鳥や他のモンスター、町がないか調べる。
 もしかすると、友好的な魔人がいるかもしれない。敵の敵は味方だ。
 魔人の俺ならば、魔人側なら歓迎してくれる。

【名前:太刀鳥 種族:鳥系 体長:150センチ】——鋭い切れ味の白銀の翼を持つ鳥。

 小船を作ると、まずは上空を飛び回る銀色の鳥を目指した。
 両翼を広げた長さは三メートル近くある。意思がある刃が飛んでいるようだ。

「さて、料理するか」

 船首に立つと左腰の鞘から、Aランクの緋色の剣と紫炎の竜剣を抜いた。
 俺の仕事は剣をバツ印に構えるだけだ。向こうから切られに突っ込んでくる。

「ギャァー!」

 俺の予想通り、太刀鳥達が全方向から突っ込んできた。
 正面衝突で一羽ずつ倒す予定だったのに、困った鳥達だ。
 俺が素早く動いて、正面になるように構えないといけない。

 両足に岩板を作って、小船から空中に降りた。
 食後の運動にちょうどいい。どこからでもかかって来い。

「ハァッ、ヤァッ!」

 空中を動き回り、両手を振り回して、向かってくる太刀鳥を一刀両断していく。
 構えて待っている時間はなかった。回避と攻撃をひたすら繰り返す。
 Bランク地下47階の巨人石投げ祭りを思い出すが、五十羽程度なら行ける。

 パパッと倒して、肉に戻して、唐揚げにしてやる。
 俺が大食いしなくても、メルに毎日食べさせればいい。
 料理は昔から女の仕事だと決まっている。

 四分後……

「ふぅー、やっぱり拾うのが面倒だな」

 すぐにお祭りは終わったが、片付け作業が残っている。
 地上に降りて、草原に落ちている魔石と銀の羽根を集めていく。
 壊れた魔石はないが、壊れた魔石が鳥肉になるのか心配だ。

 最後に上空から拾い忘れがないか、赤い光と銀の光がないか確認した。
 やっぱり拾い忘れがあった。赤い光に向かって下りて、魔石を拾った。

 ♢

「次は……湖にするか」

 森の前に湖に行く事にした。魚がいれば唐揚げに出来る。
 鳥肉も魚も冷凍すれば、長期保存が可能で調理も簡単だ。

 湖に向かって、川の上を小船で飛んでいく。何か見つかるかもしれない。
 川幅は120メートル程で、水深10メートルはありそうだ。
 水質は綺麗で川底まで見える。

【名前:レッドクロー 種族:水棲系 体長:180センチ】——頭と両手に鋭い鋏を持つ赤いザリガニ。

「ザリガニか……」

 川底に赤い塊を見つけた。
 エビのピリ辛炒めは好きだが、ザリガニは食べた事がない。
 それに倒しに行くには潜らないといけない。服が濡れてしまう。
 森の木を切って、デカイ竿を作って、ゴーレムで釣り上げたい。

 でも、そんな老後の趣味の時間はない。
 服を脱いで、ゴーレム素潜りで大剣突き漁が基本だ。
 小船を捨てて、ゴーレムになって、川底に飛び込んだ。

 ドボン‼︎ 盛大な水飛沫が上がった。覗き穴から冷たい水が入ってくる。
 こうなるのは分かっていたから、直径20センチの大きめの覗き穴を十二個作った。
 水の中は小さいと見えにくい。

「ごぼぉ……」

 口の中に川の水が入ってきた。少し泥臭いが我慢できる。
 緋色の大剣を右手に持って、赤ザリガニに近づいていく。

「‼︎」

 ザリガニが尾びれで、水を蹴り飛ばして向かってきた。
 素早さはあっちの方が上みたいだ。左手を向けると弾丸を連射した。

「ブガァ‼︎」

 弾丸が水壁を突き破って飛んでいき、鋏をへし折り、頭部を粉砕していく。
 俺は漁業法を守らない男だから、撒き餌として痺れ薬ぐらいは使ってしまう。
 釣る為には手段は選ばない。大剣突き漁から弾丸漁に変更した。

 ♢

「そろそろ湖だな」

 ザリガニを倒しながら、川底を下っていく。
 湖の中には大量のザリガニがいそうだ。
 三百匹捕まえれば、一ヵ月は食べ放題だ。

「うっ!」

 だけど、湖にはザリガニはいないようだ。
 黒い斑点を持つ薄紫色のカエルが大量に泳いでいる。
 伸びた脚も含めると、二メートル近くはある。

【名前:矢毒ガエル 種族:水棲系 全長:60センチ】——身体の表面に猛毒を持ち、口から猛毒の液体を発射するカエル。

「毒なら大丈夫か」

 見た目は悪いが、肉になれば分からない。
 それにゾンビは高い毒耐性を持っている。
 食べるのも捕まえるのも問題ない。
 弾丸漁を開始した。

「グゲェ、グゲェ、グゲェー‼︎」

 弾丸がぶつかるたびに、紫ガエルの身体から紫色の液体が飛び出していく。
 多分、毒液だろうけど、少し見えにくくなるだけだ。
 構わずに毒煙幕に向かって、弾丸を連射する。

「もう終わりか?」

 近場の紫ガエルを倒しまくったら、毒煙幕が消えてしまった。
 水中に黒い斑点がある紫色の皮が浮かんでいる。
 常人には着る事が出来ない、ゾンビ専用の毒の革服が作れそうだ。
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