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第四章:商人編
第146話 お喋りメル
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「なるほど。小さいけど町だな」
小船を数分飛ばして、草原の中に見つけたシミのような場所を目指した。
到着すると、高級感のある灰色の屋根に、白い壁の建物が250軒以上も建てられていた。
冒険者達の探索用の拠点ではなさそうだ。商店があり、大人以外にも子供が町中を歩いている。
「子供がいるなら安全ですね。隊長、降りてみましょう」
「そ、そうだな……」
いきなり人間の皮を突き破って、昆虫系モンスターは襲って来ないだろう。
罠だと疑いすぎるのは良くない。ゆっくりと小船を降ろしていく。
「止まれ! 見た事がない魔人だな。ここは人間の町だ。何の用で来た?」
「うっ……」
やっぱり町への着陸許可が必要だったみたいだ。すぐに止められてしまった。
屋根の上で両腕を組んでいる灰色髪の男が、警戒心剥き出しの声で聞いてくる。
屋根の上には他にも五人の男達がいる。返答次第では即攻撃されそうな雰囲気しかない。
「えーっと……」
観光、商売、人探しと頭に浮かんだが、どれも怪しさしか感じない。
次の言葉が出ないでいると、メルが勝手に答えた。
「薬が欲しいんです」
「薬だと? 何の薬だ?」
「魔人から人間に戻れる薬です」
「人間に戻る薬だと?」
怒るべきところだが、俺が何か言うよりは、女の方が油断してくれそうだ。
このまま話させよう。灰色髪は話を聞くつもりはあるみたいだ。
「はい、人間に戻りたいんです」
「……事情は知らないがそんな薬はない。必要ない薬は誰も作らないからな」
「そうですか……」
やっぱり俺の予想通り、薬がない可能性が当たっていた。
これ以上話す事はないから、落ち込んでいるメルと町に帰るとしよう。
ゾンビは長生きだから、天才の俺が数百年後に薬を完成させてやる。
「ありが——」
「だが、必要な人間がいるのなら話は別だ。探している薬を作れる保証はないが、それでもいいなら付いて来い」
「えっ、本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」
お礼を言って帰ろうとしたが、まだ早かったみたいだ。灰色髪に歓迎されてしまった。
正直言って、アビリティLV9を持っている人達には歓迎されたくない。
「なかなか可愛いな。俺の女にしてやるよ」「これで有り金全部か?」、みたいな歓迎をされそうだ。
でも、ここから歓迎を断る勇気はない。
女と金は置いていくから、俺の命だけは助けてもらおう。
「俺はゼトス。ここにいる連中と自警団をやっている」
「メルです。こっちが隊長です」
「隊長じゃなくて、カナンです。この町に姉貴のジャンヌがいると思うんですけど、知りませんか?」
小船を茶色の地面に着陸させると、すぐに二十人近くの男達に囲まれてしまった。
路地裏に連れて行かれて襲われる前に、町に家族がいる事をアピールした。
これで少しは襲いにくくなったはずだ。
「この町に魔人は住んでいない」
「いえ、姉貴は人間です。俺達は事故で魔人になった人間です」
「事故か……呪いならば解呪師がいる。試してみるか?」
姉貴がいるのか教えてほしいけど、解呪師がちょっと気になる。
家に呪われた剣があるから、迷剣から名剣に変えてほしい。
「はい、お願いします」
「料金は一人二十万ギルだが問題ないか?」
「あっ、俺はいいです。コイツだけやってください」
「えぇー! 隊長も受けましょうよ!」
「いや、俺はいいよ……」
メルは受けるみたいだが、やっぱり金を要求してきた。
これで解呪が効かなくても、金を請求されるパターン成立だ。
似たようなインチキ商売を聞いた事がある。
「どちらでもいい。案内してやるが、おかしな動きをしたら容赦はしない。気をつけて行動しろ」
これから解呪師の所に案内するみたいだけど、まだ肝心の答えを聞いていない。
町の案内ならば、姉貴にも参加してほしい。
「あの……それで姉貴はいますか? 茶色い髪で二十二歳なんですけど……」
「その女なら二ヶ月以上は見ていない。たまにやって来て、子供達と遊んで帰るだけだ」
「そうですか……じゃあ、姉貴の仲間はいませんか? 名前はリカルドとエルマです」
「この町にはいない。会いたいなら自分で探せ」
役に立たない姉貴に頼るのはやめよう。そう思って姉貴の仲間を頼る事にした。
だけど、こっちも頼れないみたいだ。結局最後に頼れるのは、自分自身しかいない。
「隊長、お姉ちゃんを見つけても呪いは解けないんだから、さっさと行きましょうよ」
「ああ、そうだな。よろしくお願いします」
メルは早く行きたいみたいだが、ゼトスが嘘を吐いている可能性もある。
見ず知らずの他人を簡単に信用するのは危険だぞ。
「こっちにあるが、その前に武器を預からせてもらう。使わないなら問題ないな?」
「はい、全然ないです」
愛剣を全部奪われると、解呪師の所に向かって歩き出した。お金はまだいいみたいだ。
監視が八人に減ったけど、格上相手に勝てる見込みはもうない。
大人しく金を払って、町から自然に出るしかない。
「この町に家族皆んなで住んでいるんですか?」
「ああ、俺達はダンジョンで産まれた人間の子孫だからな。結界の外に出られないから、ここで暮している」
「へぇー、大変そうですね」
「そうでもないさ。外とは結界越しに物資の交流をしている。生活に不便を感じた事はない」
メルを挟んで、二人の会話を盗み聞きする。
結界の外まで逃げれば、町の住民は追いかけて来れないみたいだ。
法外な値段を請求されそうになったら迷わずに、その辺の物を持って逃げるとしよう。
没収された剣の代わりぐらいは手に入れたい。
「あっ! 隊長が腕輪を持っていますよ。あれを付ければ通れますよ!」
「うっ……」
『このお喋り女!』と今すぐに口を塞ぎたいが、もう遅い。
腕輪も寄付するしかない。没収されるよりは心のダメージは少なくて済む。
「その腕輪がBランクの物ならば無理だ。前に試した事がある。俺達の存在はモンスター扱いだ。ここから出るには、このダンジョンの王を倒すしかない」
「ここにもいるんですね。五十階まで行けばいいんですか?」
「それは分からない。この町が出来てから数百年で、七階までしか進めていないからな」
「七階……」
良かった。腕輪はゴミだから寄付しなくていいみたいだ。
だけど、Aランクが攻略不可能なダンジョンだと分かってしまった。
姉貴が子供達と遊んでいるのも、攻略を諦めたからだろう。
数百年で七階は、流石に難易度が高すぎる。
「だったら、隊長にゾンビにしてもらって、進化すれば出れるかもしれないですよ。私はその方法でダンジョンから出られました」
「ほぉー、事故じゃなかったのか?」
メルは住民の為と思って言ったのだろうが、俺の為を思うならもう喋るな。
周囲の敵意が明らかに俺に集中している。誤魔化すには相当の技術がいる。
だが、ここはあえて正直に話すしかない。お喋りメルがいるから嘘がすぐバレる。
死にそうなメルを助ける為に、仕方なくゾンビにしたと話した。
「……なるほど。お前が屑なのは分かった。それにその方法は無理だな。ここには宝箱はない」
「えっ、本当ですか?」
「本当だ。宝箱探知というアビリティがあるみたいだが、外から来た冒険者が反応しないと言っていた」
「へぇー、そうなんですか?」
「はっ⁉︎」
何故か俺が屑認定されたが、どうやらもう一人屑が紛れ込んでいるみたいだ。
メルが視線を逸らしているが、お前の言う事は二度と信用しない。
「着いたぞ。ここだ」
解呪師の所に着いたみたいだ。家の壁にドクロと十字架の看板が付いている。
インチキ解呪に金を払うのは嫌だが、情報料だと思って我慢するしかない。
ゼトスが黒い木扉を開けて中に入ると、その後にメルに続いて入った。
小船を数分飛ばして、草原の中に見つけたシミのような場所を目指した。
到着すると、高級感のある灰色の屋根に、白い壁の建物が250軒以上も建てられていた。
冒険者達の探索用の拠点ではなさそうだ。商店があり、大人以外にも子供が町中を歩いている。
「子供がいるなら安全ですね。隊長、降りてみましょう」
「そ、そうだな……」
いきなり人間の皮を突き破って、昆虫系モンスターは襲って来ないだろう。
罠だと疑いすぎるのは良くない。ゆっくりと小船を降ろしていく。
「止まれ! 見た事がない魔人だな。ここは人間の町だ。何の用で来た?」
「うっ……」
やっぱり町への着陸許可が必要だったみたいだ。すぐに止められてしまった。
屋根の上で両腕を組んでいる灰色髪の男が、警戒心剥き出しの声で聞いてくる。
屋根の上には他にも五人の男達がいる。返答次第では即攻撃されそうな雰囲気しかない。
「えーっと……」
観光、商売、人探しと頭に浮かんだが、どれも怪しさしか感じない。
次の言葉が出ないでいると、メルが勝手に答えた。
「薬が欲しいんです」
「薬だと? 何の薬だ?」
「魔人から人間に戻れる薬です」
「人間に戻る薬だと?」
怒るべきところだが、俺が何か言うよりは、女の方が油断してくれそうだ。
このまま話させよう。灰色髪は話を聞くつもりはあるみたいだ。
「はい、人間に戻りたいんです」
「……事情は知らないがそんな薬はない。必要ない薬は誰も作らないからな」
「そうですか……」
やっぱり俺の予想通り、薬がない可能性が当たっていた。
これ以上話す事はないから、落ち込んでいるメルと町に帰るとしよう。
ゾンビは長生きだから、天才の俺が数百年後に薬を完成させてやる。
「ありが——」
「だが、必要な人間がいるのなら話は別だ。探している薬を作れる保証はないが、それでもいいなら付いて来い」
「えっ、本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」
お礼を言って帰ろうとしたが、まだ早かったみたいだ。灰色髪に歓迎されてしまった。
正直言って、アビリティLV9を持っている人達には歓迎されたくない。
「なかなか可愛いな。俺の女にしてやるよ」「これで有り金全部か?」、みたいな歓迎をされそうだ。
でも、ここから歓迎を断る勇気はない。
女と金は置いていくから、俺の命だけは助けてもらおう。
「俺はゼトス。ここにいる連中と自警団をやっている」
「メルです。こっちが隊長です」
「隊長じゃなくて、カナンです。この町に姉貴のジャンヌがいると思うんですけど、知りませんか?」
小船を茶色の地面に着陸させると、すぐに二十人近くの男達に囲まれてしまった。
路地裏に連れて行かれて襲われる前に、町に家族がいる事をアピールした。
これで少しは襲いにくくなったはずだ。
「この町に魔人は住んでいない」
「いえ、姉貴は人間です。俺達は事故で魔人になった人間です」
「事故か……呪いならば解呪師がいる。試してみるか?」
姉貴がいるのか教えてほしいけど、解呪師がちょっと気になる。
家に呪われた剣があるから、迷剣から名剣に変えてほしい。
「はい、お願いします」
「料金は一人二十万ギルだが問題ないか?」
「あっ、俺はいいです。コイツだけやってください」
「えぇー! 隊長も受けましょうよ!」
「いや、俺はいいよ……」
メルは受けるみたいだが、やっぱり金を要求してきた。
これで解呪が効かなくても、金を請求されるパターン成立だ。
似たようなインチキ商売を聞いた事がある。
「どちらでもいい。案内してやるが、おかしな動きをしたら容赦はしない。気をつけて行動しろ」
これから解呪師の所に案内するみたいだけど、まだ肝心の答えを聞いていない。
町の案内ならば、姉貴にも参加してほしい。
「あの……それで姉貴はいますか? 茶色い髪で二十二歳なんですけど……」
「その女なら二ヶ月以上は見ていない。たまにやって来て、子供達と遊んで帰るだけだ」
「そうですか……じゃあ、姉貴の仲間はいませんか? 名前はリカルドとエルマです」
「この町にはいない。会いたいなら自分で探せ」
役に立たない姉貴に頼るのはやめよう。そう思って姉貴の仲間を頼る事にした。
だけど、こっちも頼れないみたいだ。結局最後に頼れるのは、自分自身しかいない。
「隊長、お姉ちゃんを見つけても呪いは解けないんだから、さっさと行きましょうよ」
「ああ、そうだな。よろしくお願いします」
メルは早く行きたいみたいだが、ゼトスが嘘を吐いている可能性もある。
見ず知らずの他人を簡単に信用するのは危険だぞ。
「こっちにあるが、その前に武器を預からせてもらう。使わないなら問題ないな?」
「はい、全然ないです」
愛剣を全部奪われると、解呪師の所に向かって歩き出した。お金はまだいいみたいだ。
監視が八人に減ったけど、格上相手に勝てる見込みはもうない。
大人しく金を払って、町から自然に出るしかない。
「この町に家族皆んなで住んでいるんですか?」
「ああ、俺達はダンジョンで産まれた人間の子孫だからな。結界の外に出られないから、ここで暮している」
「へぇー、大変そうですね」
「そうでもないさ。外とは結界越しに物資の交流をしている。生活に不便を感じた事はない」
メルを挟んで、二人の会話を盗み聞きする。
結界の外まで逃げれば、町の住民は追いかけて来れないみたいだ。
法外な値段を請求されそうになったら迷わずに、その辺の物を持って逃げるとしよう。
没収された剣の代わりぐらいは手に入れたい。
「あっ! 隊長が腕輪を持っていますよ。あれを付ければ通れますよ!」
「うっ……」
『このお喋り女!』と今すぐに口を塞ぎたいが、もう遅い。
腕輪も寄付するしかない。没収されるよりは心のダメージは少なくて済む。
「その腕輪がBランクの物ならば無理だ。前に試した事がある。俺達の存在はモンスター扱いだ。ここから出るには、このダンジョンの王を倒すしかない」
「ここにもいるんですね。五十階まで行けばいいんですか?」
「それは分からない。この町が出来てから数百年で、七階までしか進めていないからな」
「七階……」
良かった。腕輪はゴミだから寄付しなくていいみたいだ。
だけど、Aランクが攻略不可能なダンジョンだと分かってしまった。
姉貴が子供達と遊んでいるのも、攻略を諦めたからだろう。
数百年で七階は、流石に難易度が高すぎる。
「だったら、隊長にゾンビにしてもらって、進化すれば出れるかもしれないですよ。私はその方法でダンジョンから出られました」
「ほぉー、事故じゃなかったのか?」
メルは住民の為と思って言ったのだろうが、俺の為を思うならもう喋るな。
周囲の敵意が明らかに俺に集中している。誤魔化すには相当の技術がいる。
だが、ここはあえて正直に話すしかない。お喋りメルがいるから嘘がすぐバレる。
死にそうなメルを助ける為に、仕方なくゾンビにしたと話した。
「……なるほど。お前が屑なのは分かった。それにその方法は無理だな。ここには宝箱はない」
「えっ、本当ですか?」
「本当だ。宝箱探知というアビリティがあるみたいだが、外から来た冒険者が反応しないと言っていた」
「へぇー、そうなんですか?」
「はっ⁉︎」
何故か俺が屑認定されたが、どうやらもう一人屑が紛れ込んでいるみたいだ。
メルが視線を逸らしているが、お前の言う事は二度と信用しない。
「着いたぞ。ここだ」
解呪師の所に着いたみたいだ。家の壁にドクロと十字架の看板が付いている。
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