上 下
144 / 172
第四章:商人編

第144話 Aランクダンジョン

しおりを挟む
「すみません。Aランクダンジョンの入り口は何処にありますか?」

 小船を消すと、その辺にいた若い男にダンジョンの場所を聞いた。
 これで違う町だったら恥ずかしいが、間違いないようだ。

「おっ! あんた、強そうだな。あっちの森の中に古い教会がある。入り口なら教会の中だ。頑張れよ!」
「いえいえ、ありがとうございます」

 装備や身体付きを見ながら、気さくな感じに男が教えてくれた。
 凄腕の冒険者は歓迎されているようだ。早速、教えられた方向に向かった。

「意外と普通の街だな……」

 大きな川が街の真ん中を流れていて、馬車二台が通れる広い岩橋がかかっている。
 赤茶の三角屋根にクリーム色の壁、高さ六メートル程の建物が多い。
 そして、建物に負けないぐらいに、広葉樹の緑色の木がたくさん植えられている。
 住民達は仕事で疲れているのか、癒し効果が大量に必要なようだ。

「姉貴が見つからない時はすぐに帰るぞ。観光はしないからな」
「隊長だけ帰ればいいじゃないですか。私は一人でも大丈夫です」
「子供を一人で置いていけるわけないだろ。今度から休日に連れていってやるから、それで我慢しろ」
「はぁーい。分かりました」

 街中を抜けると、暗い森の中の大きな一本道を歩いていく。
 隣を歩く我儘メルに妥協案を提示してやると、不満そうな声で了承されてしまった。
 小さな子供なら我慢できるが、見た目十五歳ぐらいの女子にやられるとムカツクものだ。
 コイツは七歳と自分に言い聞かせて我慢するしかない。

「それよりも中に入れるんですか? 隊長、Cランクですよね?」
「問題ない。所詮は肩書きだ。必要なのは腕輪だけだ」

 俺をまだ馬鹿にしたいのか、メルがダンジョンに入れるのかと聞いてきた。
 もちろん準備は出来ている。

 AランクダンジョンはBランクダンジョンと違って、資格のない人間は入れない。
 その資格というのが腕輪を嵌めた人間だ。
 魔人には使えないという差別もあるが、腕に嵌める事は出来る。

 これで無理なら夜の街を観光するしかない。
 朝まで人通りは少なく、店も閉まっているが、回復水を作る時間にはちょうどいい。
 大量に作り終えた頃に朝日が昇ってくれるはずだ。

「あれ? 隊長、腕輪は一つしかないですよね?」
「ああ、そうだな。だから、お前は入り口の前でお留守番だ」
「ええー⁉︎ 隊長がお留守番してください!」

 メルが重要な事に気づいたようだが、俺は最初から気づいていた。
 もう一つ腕輪を入手する予定だったが、行きたい行きたいと我儘を言うからこうなる。

「駄目だ。危険な場所に一人で行かせない。だけど、安心しろ。俺が先に入って姉貴を探す。見つけたら連れてきて、腕輪をお前に渡すから入ればいい」
「それならいいですけど、お姉ちゃんがいなかったら、どうするんですか?」
「その時は治療方法を探してくる。そう簡単に見つかるとは思わないけどな」

 我儘メルと違って、俺は計画的に行動する人間だ。
 十二時間の飛行小船の操縦中に、完璧な計画を立ててやった。
 もしも、探すのも危険ならば、身体を自分で傷つけて、探したフリをする。
 危険だと分かれば、二度と入りたいとは言わないだろう。

 ♢

「ボロい教会だな」

 十二メートルはある焦げた外壁の廃教会に到着した。神父も修道女も見当たらない。
 石造りの暗い教会の中を通っていくと、教会中央に天井のない大広間を見つけた。

「わぁー、凄く大きな絵ですね」
「そうだな。巨人でも入れそうな絵だ」

 目の前の巨大な動く絵にメルが素直に驚いている。
 大広間には縦長のアーチ型の絵が一枚置かれている。
 額縁は薄い青色の金属で出来ていて、絵の部分には草原と青空が描かれている。

 だけど、空に浮いている白い雲が動き、絵の中から風が吹いてくる。まるで魔法の絵だ。
 絵の反対側に回ってみたが、同じ絵が描かれていた。どちらからでも入れるようだ。

「よし、やるか」

 まずは絵の中に入れるか、確かめないと何も始まらない。茶剣を作って、絵に突き刺してみた。
 スッと吸い込まれるように、剣が絵の中に入った。反対側に剣先は貫通していない。
 やはり魔法の絵で間違いなさそうだ。

「入っても大丈夫みたいだな」

 茶剣を絵から引き抜いて、壊れてないか調べてみた。
 溶けてもいないし、熱くも冷たくもなっていない。
 変な臭いもしないから、入っても即死する心配はないだろう。

「隊長、まだ入らないんですか?」
「フッ」

 これだから素人は困る。
 慎重に調べている俺に対して、メルが余計な事を聞いてきた。

「お前は馬鹿なのか? 見た事もない料理を出されて、『わぁー、美味しそう!』とか言って食べるのか? 死ぬぞ」
「料理の話なんてしてないです。怖いなら私が入るから、腕輪を貸してください」
「俺に怖いものなんてない。安全を確かめていただけだ。すぐに入る」
 
 勇敢かと思ったが、例え話が分からないから、やっぱり愚か者だ。
 右腕の腕輪を奪い取ろうとする、メルの頭を押さえて突き放した。
 町に帰ったら、どの学年でもいいから、学校に放り込んで勉強させてやる。

「よし」

 安全性は確かめた。階段ではないが、ここで間違いない。
 覚悟を決めると絵の中に飛び込んだ。

「ぐっ……」

 ぶつかるかもしれないと少しだけ思ったが、すんなりと絵の中に入ってしまった。
 足元の地面が柔らかい草に変わっている。少し涼しい風が肌を撫でていく。
 夜から一瞬で日が昇る朝に変わってしまった。

「これは相当に広いな。山も川も森もある」

 周囲を軽く見回しただけでも、絵の中の世界が広いのが分かった。
 灰色と白色の山、楕円形の湖へと流れ川、針葉樹の森が見える。
 水色のリス、白色の狼、赤色の牛、銀色の鳥とモンスターも四種類見つけた。
 地下50階の暗黒城と同じ作りのようだ。

「わぁー、良い空気ですね」
「そうだな……んっ?」

 メルの声が聞こえたから応えたが、すぐにおかしいと思って振り返った。
 絵の外から聞こえたにしては近すぎる。

「……何でいるんだ?」

 予想通りに絵の中にいた。

「ちょっと触ったら入れたから入りました」
「触るのも入るのも駄目だ! さっさと出ていけ!」
「嫌です! 危なくないです!」
「俺が危ないんだよ!」
「きゃあ!」

 俺を怒らせたいのか、俺に怒られたいのか分からないが、やる事は決まっている。
 両肩を掴んで回れ右させると、背中を廃教会の絵に向かって押していく。
 可愛い見た目の水色リスも、恐ろしく凶暴凶悪に決まっている。
 
「まったく……簡単に入らせたら駄目だろうが」

 入れた理由は後で考えるとして、とりあえず廃教会の中にメルを押し返した。
 次に入ってきたら調査せずに、飛行小船に押し込んで町に帰ってやる。

「隊長、酷いです! あのリス倒すから見ててください!」
「ば、馬鹿っ‼︎ やめ——」

 だけど、馬鹿を舐めていた。止める時間もなかった。
 再び絵の中に入ってきたメルが、体長40センチはある水色リスに黒炎の矢を発射した。
 20メートル程先にいる水色リスの背中に、黒炎の矢が突き刺さった。

「やったぁ! ほら、倒しましたよ!」
「……いや、よく見てみろ。火が消えている」
「えっ?」

 メルが馬鹿みたいに喜んでいるが、火の粉が当たっただけで死ぬわけない。
 水色リスは何事もなかったようにケロッとしている。
 それどころか両手を広げて、自分の身体と同じぐらいの水の玉を作った。
 敵だと認識されてしまった。

「早く教会に戻れ。死ぬぞ」
「大丈夫です! まだ始まったばかりです!」

 俺の言う事を聞くつもりはないようだ。
 熱血冒険者になるように育てたつもりはないが、メルが黒炎の矢をまた射った。
 真っ直ぐに飛んでいった黒炎の矢が、当たり前のように水の玉に吸収されて消火された。

「あっ……」
「もういいな? 俺が片付ける」
「むぅー!」

 どう見ても相性が悪すぎる。あれはマグマスライムと同じだ。
 物理攻撃と炎魔法と水魔法は効かないと思った方がいい。
 職人オヤジから貰った氷剣が一番効果的だろう。
 凍らせてバラバラに砕いてやる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~

きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ 追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。 ♢長めあらすじ 100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。 ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。 ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。 主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。 しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。 しかし。その無能スキルは無能スキルではない。 それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。 ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

処理中です...