ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

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第四章:商人編

第140話 帰宅

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 メルの進化が終わるまで、黒炎魔法の使い方を考えてみた。
 一番良さそうなのは炎の矢を作って、弓矢で射つ攻撃だ。
 弓矢をAランクまで強化して射てば、威力は相当に高くなるはずだ。

【名前:メル 年齢:7歳 性別:女 種族:ゾンビ魔人 身長:143センチ 体重:36キロ】
【進化素材:竜水銀七個】【移動可能階層:15~50階】

「うぅっ、痛いです」
「あれ? もう魔人になるのか……」

 進化が終わったらしい。
 茶髪が黒髪に変わり、僅かに赤髪が加わったメルを見た。
 将軍とか、女王になると予想していたのに外れてしまった。

「じゃなかった⁉︎ メル、大丈夫か⁉︎」

 でも、そんな事はどうでもいい。頭を押さえて痛がっている。
 慌てて駆け寄ると声をかけた。

「あれ? 隊長ですか? ここどこですか? 死んだんですか?」
「何も覚えてないのか?」
「うーん、闘技場までは覚えてます」
「そうか、それは良かった」

 周囲を見回して自分が死んだと思っているようだが、何も覚えてないなら都合が良い。
 ここからは厳しい訓練は全て廃止にしよう。思い出さない方がいい事もある。

「ここは49階だ。お前を生き返らせる為に苦労したんだぞ」
「隊長が一人でですか? リエラお姉ちゃんはどこですか?」
「アイツは用事があるといなくなった。今は俺一人だけだ」
「そうですかぁ……」

 とりあえず現在の状況を簡潔に説明した。
 特に俺が命の恩人であり、一人で頑張った事は強調しておく。
 だけど、リエラがいないのが不安なようだ。表情が少し曇った。
 ここは優しい言葉の一つでもかけてやろう。

「まだ動かない方がいいな。その辺に寝転んでいろ」
「隊長、喉がカラカラです。水ないですか?」
「そんな物はない。アメ玉で我慢しろ」
「えぇー」

 ちょっと甘くし過ぎたようだ。調子に乗っている。
 というよりもよく見たら、状態異常の使役化が消えている。
 俺の言う事はもう聞くつもりはないらしい。
 渡したアメ玉を不満そうに口の中に入れて、ガリガリと噛み砕いている。

 さて、Aランクダンジョンで医者を探す必要はなくなったが、困った事になった。
 これから、家に偽メルがいる事と、進化しないと外に出られない事を話さないといけない。
 どちらも俺の所為ではないが、俺がどうにかしないといけない。

「水が飲みたいんだよな?」
「はい、喉がカラカラです」
「よし、任せておけ!」

 だが、話すのは今じゃないと思う。
 混乱しないようにさり気なく話すのがベストだ。
 岩コップを作ると、次に氷剣の剣先に氷塊を作った。
 まずは良い事だけを教えてやろう。

「お前は死を乗り越えた事で、炎魔法が使えるようになった。この氷を溶かして、水にしてみろ」
「何言ってるんですか? そんな事できないです」
「いや、自分の力を信じるんだ。そして、俺を信じろ。さあ、やってみろ!」
「えぇー、出来ないですよぉー」

 俺が信じられないのか、俺を馬鹿にした感じで見ているが、信じてやれば分かる。
 岩コップを強引に左手に持たせて、右手で炎を出して溶かすように指示する。

「はいはい、こんな感じですか?」

 呆れた顔をしているが、喉が渇いているのは本当のようだ。
 右手を氷に向けると、すぐに氷が黒い炎に包まれて溶け出した。

「わ、わあっ⁉︎ 隊長がやったんですか!」
「お前の力だ。調べるで自分を調べてみろ」
「は、はい!」

 溶けた氷の水でコップが満たされていく。
 メルはビックリしているが、これなら余計なものは見ないはずだ。
 言われた通りに調べるLV4を使って、自分を調べ始めた。

「あっ、ゾンビになっている! 隊長がやったんですか!」

 そこは見なくていい部分なのに、見てしまったようだ。
 メルが大声で叫ぶと、信じらないといった顔で俺を見た。
 だが、素直に認めよう。確かにこれは俺がやった。

「そうだ。あのままだと死んでいた。助けるにはゾンビにするしかなかった」
「うぅぅ、臭いゾンビになるなんて……」
「元気を出せ。治療方法はある。まずは最終進化までして、ダンジョンから出られるようになれ」

 俺も最初はゾンビになってショックを受けたが、生きていれば楽しい事はある。
 半泣きになっているメルに、進化素材を優しく手渡した。
 覚悟が出来たら自分で使えばいい。

「これ凄く痛いですよね?」
「いや、全然痛くない。進化したら町に帰れるぞ」
「うぅぅ、町に帰りたいです」

 メルが聞いてきたが、聞く相手が悪い。平気な顔で嘘を吐いた。
 とりあえず予定変更だ。正気に戻ったメルを家に届けよう。
 近くに置いておいても、不満と愚痴しか言いそうにない。
 青い宝箱が復活した頃に連れてこよう。

 ♢

【名前:メル 年齢:7歳 性別:女 種族:ゾンビ魔人 身長:155センチ 体重:45キロ】

 最終進化を終わらせたメルと、夕暮れ時の町に帰ってきた。
 オヤジ達に落とし物を届けて、ついでに病院のヴァン達にも落とし物を届けた。
 午後七時過ぎていたので、宿屋に泊まってから、朝に家に帰るようにメルを説得した。

 午前十時……

 家の前で張り込んでいると、ババアと一緒に偽メルが家から出てきた。
 買い物に出掛けるようだ。

「あれ、誰ですか?」
「金で雇われたお前の替え玉だ」

 偽メルをジッと目で追いかけながら、メルが聞いてきた。
 まずはこの状況を見てもらってから、どうするか考えてもらう。
 本物のメルだと名乗り出てもいいし、偽メルに自分の居場所を譲ってもいい。
 俺はどんな決断でも尊重する。

「帰る家はあるんですよね?」
「ああ、優しい両親に暖かい家がある。お前が現れたら家に帰れる」
「だったら可哀想です。帰してあげましょう」
「それでいいのか?」
「はい、それがいいです」

 あの家の何がいいのか分からないが、メルは帰りたいようだ。
 デカくなっても子供みたいに可愛がられるか微妙だが、本人が決めたのなら仕方ない。

「分かった。事情は俺が話してやる。家に帰るぞ」
「はい!」

 張り込みは終わりだ。誰もいない家に向かった。
 不用心に二階の窓が開いているから、そこから入らせてもらう。
 岩板を浮かせて、メルと一緒に窓から侵入した。

 部屋の掃除をしながら、偽メルが帰宅するのを待つとしよう。
 綺麗に片付けた方が、すぐに引っ越しも終わるからな。

「帰ってきたぞ」
「はぁーい」

 掃除の邪魔にならないように、屋根の上で日向ぼっこしているとババア達が見えた。
 あっちも俺に気づいたのか、偽メルが手を振っている。
 流石は偽者だ。演技が過剰すぎる。本物は見るだけで手は振らない。

「さてと、手を振る意味をただいまから、さよならに変えてやるか」

 俺の出番がやってきた。立ち上がると、ポケットから一万ギル金貨を十三枚取り出した。
 家に入るのはババア一人で十分だ。屋根から飛び降りて、偽メルを解雇する。
 今日までよく頑張りました。早く良い家と良い両親の所に帰るんだな。
 荷物とお土産は忘れるんじゃないぞ。
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