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第三章:魔人編

第128話 称号効果

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「ふぅー、久し振りに熱くなってしまった。まあ、俺相手に頑張った方だな」

 床に深く食い込んでいる剣二本を引っこ抜くと、左腰と背中の鞘に戻した。
 本気を出すとか言っていたが、絶対に疲れ果てていたから、結界と水を維持できなかっただけだ。

「さてと、壊すか」

 普通は負傷者の救助が最優先だが、俺の場合は戦利品の回収が最優先だ。
 巨大イモ虫のような形になっている、竜人を閉じ込めた黒岩の塊を壊していく。
 床に落ちてないから、この中から金色の宝箱が見つかるはずだ。

「おっ! あったあった、大量だな!」

 岩塊の中から赤い魔石、黒い角、黒い爪、紫色の竜鱗、金色の宝箱が見つかった。
 勢いで開けそうになったが、宝箱はメルに開けさせた方がいい。
 黒岩で隠してから、扉の外に探しに行こう。
 小船に乗ったままだったら、遠くまで流されているかもしれないな。

「無いな? 流されたか?」

 宝箱を隠すと、ゴーレムに乗って、炎剣と負傷者が落ちてないか部屋の中を探してみた。
 氷塊の中にも下にも見つからない。やっぱり部屋の外に全員流されたみたいだ。
 
「おっと……上もいないな」

 扉の前の氷塊を撤去しようとしたが、念の為に天井を見上げてみた。
 氷の大地の攻撃で、天井に突き刺さっている可能性も少しはある。
 でも、天井には足は生えてなかったし、何かが潰れたような跡もなかった。
 俺がここまで探してやったんだから、負傷者を見逃しても、誰も文句は言わないだろう。

「回復薬で治せない時は血でも飲ませるか!」

 開いている扉を塞ぐ積み上がった氷塊の山を、ゴーレムで殴り壊していく。
 人が挟まっていたら大変だが、人間と氷塊の違いぐらいは分かる。
 上から崩れ落ちてくる氷塊は気にせずに、どんどん殴り壊して廊下に出た。

「……間違いない。アイツら俺を置いて逃げやがったな」

 水浸しの廊下に出ると誰もいなかった。
 今頃は結界に守られた階段の中で「助かった!」とか言って喜んでいる。

「チッ。まだ助かってないだろうが」

 置いて行かれる前に早く階段に行くとしよう。
 その後はメルに宝箱を開けさせて、負傷者を全員大船に乗せて、町まで急いで連れていく。
 ダンジョンの外に出られるか確認するついでだから、運搬費用は安くしてやろう。

 それに命の恩人ならば大抵の物は要求できる。
 逆に死なれると大抵の物を要求されてしまう。
 ここは助けておいた方が、お得になるのは間違いない。
 助けた恩で一生骨の髄までしゃぶり尽くしてやる。

 ♢

『極地魔法LV8』『強射撃LV8』『斬撃LV5』『剛力LV8』『圧縮LV6』『物理耐性LV8』『魔法耐性LV6』『氷耐性LV5』『聖耐性LV5』『素早さLV5』『自己再生LV8』『識別眼LV8』『防具製造LV2』『眷属使役LV5』『運LV5』——

「かなりLVアップしているな。名前まで変わっている」

 水浸しの廊下に負傷者と炎剣が転がっていないか、探しながら進んでいく。
 ついでに余裕が出来たので、進化後のアビリティを確認した。
 新しいアビリティは『氷耐性』『防具製造』の二つを習得していた。

 どうやらLV8になると、アビリティの名前が変わるのと、変わらないのがあるようだ。
 物理耐性はLV8になっているのに、物理耐性のままだ。
 ゾンビも毒耐性LV9なのに、猛毒耐性みたいな名前ではない。
 耐性系のアビリティは名前が変わらないのだろう。

「意外と使いにくいな」

 試しに名前が『調べる→識別眼』に変わったアビリティを使ってみた。
 触れなくても対象を調べる事が出来るのは便利だが、意識すると見えてしまう。
 アビリティは意識すれば、オンとオフの切り替えが出来るから練習するしかない。

 だが、これだけの力を手に入れた今なら、俺が地魔法使い一位なのは間違いない。
 そして、駄目押しに腕輪を使えば、俺の上には誰も立つ事が出来なくなる。
 まさに称号通りに王に相応しい。

「そういえば、あの称号は何の効果があるんだ?」

 竜人を倒す前は『ダンジョン主候補』『蠱毒の王候補』だった。
 倒した後は候補が消えていた。
 これで正式になったのだろうけど、何かが貰えたわけじゃない。
 身体を調べてから、見えてきたダンジョン主を調べれば分かるのだろうか?

【称号:ダンジョン主】
 獲得方法①:全進化の石を吸収してダンジョン主候補になった者が、ダンジョン主を倒す。
 獲得方法②:ダンジョン主が倒された後、ダンジョン内にいる強化モンスターの中から選ばれる。
 称号効果:1~50階までのダンジョンの地形とモンスター、人間、宝箱の位置が分かるようになる。
 月に一度ランダムでアビリティLVが1上がる。ただし、50階から出られない。

『一度だけ選択可能。就任する? 辞める?』
「はぁ? ブチ殺すぞ‼︎ また閉じ込めるつもりか‼︎」

 思わず立ち止まって絶叫すると、城の壁を全力で殴って破壊した。
 凄い力を手に入れたと喜んでしまったら、最後の方に恐ろしいものが見えた。
 当然、辞めるに決まっている。

「くそ、使えない称号だった! 次だな……」

【称号:蠱毒の王】
 獲得方法:多数のモンスターと冒険者を倒して、50階に到達した嫌われ者の蠱毒の王候補が、最後に同じ境遇の蠱毒な王を倒す。
 称号効果:50階に出現するモンスターを使役できるようになる。ただし、50階から出られない。

『一度だけ選択可能。就任——
「もういい!」

 獲得した嫌がらせ称号は迷わず破棄した。
 ダンジョンから出る為に頑張っていたのに、モンスターと一緒に暮らせるか。

「くそ、効果は微妙に凄いけど、獲得条件が分からないな。称号図鑑なんてあったか?」

 五階には誰も見つからなかったから、ゴーレムから出ると、岩板に乗って階段を下り始めた。
 称号のマイナス効果は最悪だけど、プラス効果は結構凄い。探せば良いのが見つかるかもしれない。

「人の気配がするな」

 一階まで下りると、左翼側から中央ホールを目指した。
 扉が開いて、水と負傷者が出てきたなら、俺なら怪我人を担いでここを目指す。
 階段口の結界を右手がすんなりと通ったので、階段を駆け上がっていく。
 しばらく上っていくと、百五十段辺りでやっとオヤジ達が見えてきた。

「おーい、負傷者はいるか?」
「良かった。お前は生きてたか」
「そんな事はどうでもいい。死にそうなヤツがいないか聞いているんだ」

 水も滴る優しいオヤジだが、こっちは輸血の準備は出来ている。
 死にかけはゾンビにしてやるから、あとで聖水を大量に持って来い。

「少し静かにしろ。負傷者は六人だけだ。残りは手遅れだ」
「手遅れだと? 本当に手遅れなんだな!」
「ああ、そうだ。奇跡が起きないと助からない」
「だったら、俺が絶対に助けてやる!」

 そこまで騒いでないのに怒られた。
 でも、重要なのは手遅れが二人いる事だ。それなら遠慮なくゾンビに出来る。
 右腕を切って、看病オヤジと代わると銀髪の口に押し付けた。

「おい、何するつもりだ! やめろ!」
「邪魔するな!」
「ごぶっ!」
「アレン、絶対に助けてやるからな!」

 輸血を邪魔するオヤジを殴って、必死にアレンに生きろと呼びかける。
 死にかけはアレンと赤髪の魔法曲芸士ブレルの二人だ。
 片方は死んだ方がマシだったと思うぐらいに、徹底的にこき使ってやる。

 五分後……

「ゔゔゔゔっっ‼︎」
「よし、二人とも助かったぞ」
「この悪魔め。お前は地獄に堕ちるぞ!」

 輸血が終わると二人が痙攣を始めた。
 一時間以内にゾンビ化するので、岩塊に閉じ込めておけば問題ない。
 運が良ければ聖水で人間に戻れる。
 でも、一人は運が悪いから一生ゾンビのままだ。

「まあいい。早めに町に戻るぞ! 悪いがお前には、怪我人を町まで運ぶのを手伝ってもらう」
「ああ、いいぜ。報酬はあとで相談させてもらうけどな。でも、一つ用事があるから少し待ってもらう」
「それは構わないが急いでくれよ」
「ああ、分かっている」

 妄想オヤジが予想通りに、俺に負傷者の運搬を頼んできた。
 言われなくても連れて行くつもりだったから、二つ返事で引き受けた。
 
「びしょ濡れだな。着替えないとな」
「ゔゔっ、ゔゔっ」

 階段に濡れた服でメルが座っていた。
 さっさと開かずの扉に連れていって、宝箱を開けてもらおう。

「おいおい、50階に行くつもりか?」
「大丈夫だ。階段の近くで服を着替えさせるだけだ。女の子だぞ。覗くなよ」

 メルを引っ張って階段を下りようとすると、オヤジが心配して聞いてきた。
 俺は手柄を堂々と言うような男じゃない。竜人を倒した事は誰にも言わない。
 ちょっと時間のかかる着替えをさせるだけだ。
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