ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

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第二章:ゾンビ編

第95話 間話:ホールド

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「間違いない。女が主犯だな」

 黒髪の女に投げ飛ばされた包帯男が、地面に落下した瞬間に分かった。
 醜い顔の男が酷い女に利用されたんだろう。
 冒険者を襲って手に入れた大量の貢ぎ物が、階段に置かれた鞄の中に入っていた。

「何だ、こりゃー? 血の池祭りか?」
「ふんっ。魔女が若さを保つ為に血でも浴びていたんだろうよ。半分は牛の凍結、もう半分は包帯男の救助だ」
「おう!」

 闘技場の地面は牛の手足から流れた血で、至る所に血溜りが出来ていた。
 牛が死ねば血の池も消えるから、トドメを刺さずに放置している。
 三人組はイカれた宗教に加入しているようだ。
 女の方はクォーク達四人に任せて、六人で包帯男の救助に向かった。

「うぐっ、俺を物みたいに扱いやがって……」
「自業自得だ。父親と母親に教わらなかったのか? 良い女は金じゃ釣れないってな」

 仰向けに倒れている包帯男が、頭を押さえて苦しんでいる。
 回復薬の調合を教えるから、牢屋の中で作り続けば、ちょっとはマシな顔になるだろう。
 だが、心の傷に効く回復薬はない。流した涙で嫌な思い出を洗い流すんだな。

「この、ジジイ! やめろ、取るな!」
「いいから、大人しくしろ。傷を見てやる……なるほど、腐敗してやがる。先天性の病気か?」

 包帯男の顔の包帯を無理矢理に剥ぎ取ると、青白い顔の一部が腐敗していた。
 確かにこの顔だと普通の女は逃げてしまう。寄ってくるのは優しい女か悪い女だけだろう。

【名前:ゾンビキング(カナン) 年齢:20歳 性別:ゾンビ(男) 身長:181センチ 体重:66キロ】
【移動可能階層:5~40階】

「何だ、これは?」
「どうした? 知っている名前だったのか?」
「いや、何でもない。気にするな」

 俺の調べるはLV7だ。病気の原因でも分かると思って調べたが、結果は予想外のものだった。
 俺の驚いた反応に気づいたブラハムが聞いてきたが、誤魔化しておいた。
 最近、これと同じ症状を二十階で見てなかったら、もっと驚いていただろう。

 とりあえず、コイツがゾンビ化した人間なのは分かった。
 問題は何故、四十階にいるかだ。普通は二十階の中から出られない。
 
 それに気になる点は他にもある。
 状態異常のゾンビ化なら治せるが、コイツにはそれがない。
 ほぼ完全にゾンビの身体になっていると言ってもいい。

 それに習得しているアビリティの数とLVも普通じゃない。
 この男が二十歳なら、余程の才能がないと、このアビリティの数とLVになるのは無理だ。
 ゾンビの名前は行方不明になった男の名前と一緒だから、おそらく本人だろう。
 ギルドのオヤジの話だと、口だけの姉の七光り野朗だと聞いている。
 間違いなく才能はない。だとしたら……

「おい、ホールド。ヤバそうだぜ。若僧四人が苦戦している。加勢に行った方がいいんじゃないのか?」
「チッ、あの腰抜けどもが。ここと牛は四人でいい。二人ずつ加勢してやれ!」

 考え事をしている最中に話しかけられるのは嫌いだが、そんな事を言っている余裕はなさそうだ。
 言われて見てみると、怪力女に赤髪の男が刺されて、蹴り飛ばされていた。

「ヘヘッ! そうこないとな! おい、腕相撲のリベンジだ! そっちからも二人来い!」
「おう! 任せろ!」
「まったく、年寄りのくせに血の気の多いヤツらだ」

 女一人に男八人とは見っともないが、負ける方が見っともない。
 八人がかりなら何とかなるだろう。
 
「さてと……えーっと、どこまで考えていたか忘れちまったな」

 考え中に話しかけられたから、考えが飛んでいやがる。
 確か何で雑魚冒険者が、アビリティをたくさん持っているか、だったな。

 この男の行動は、アビリティ装備と神石と呼ばれる鉱石を奪うのが主だった。
 冒険者カードや金も奪っていたみたいだが、鞄の中に放置されていた。
 おそらく重要なのは、神器を成長させるのに使う神石の方だろう。

「まさか、そういう事なのか?」

 信じたくないが、ある一つの仮説を思いついた。『人体改造』だ。
 そんな事が出来る、出来ないの問題はこの際どうでもいい。普通の人間は思いついてもやらない。

 ゾンビ化させた人間を使い、モンスターの魔石や素材を製造系のアビリティで強引に融合させる。
 ミノタウロスの血の池は輸血用と考えていいだろう。
 魔石と素材をアビリティで融合させて、別の物質に変化させる事が出来るんだ。
 それを動物や人間でやれないわけがない。

「あの女、人間に許された領域を超えやがったな」
「ホールド。その男、大丈夫なのか? 肌と髪の色が変わっていくぞ」

 女の違法な人体実験に気づいたが、少し気づくのが遅かった。
 髭面のバッカスに言われて見てみると、男の髪の毛が生え際から青白く変わり始めていた。
 
「やっぱり副作用があるか。回復魔法が使えるヤツがいただろう。急いで連れて来い!」
「ああ、分かった!」
「おい、しっかりしろ! 地獄に落ちるには早すぎるぞ!」

 男の白くなっていく顔面を叩きながら、頑張るように呼びかける。
 人間に戻す治療方法はないが、回復薬を飲ませて、回復魔法をかけるぐらいは出来る。
 あとはコイツの生きたいと思う気持ちを信じるしかない。

「大丈夫なのかよ。拘束した方がいいんじゃないのか?」
「こういう時は下手なショックは与えない方がいい。このまま放置だ。暴れるようなら倒すしかないがな」

 心配なのか、バッカスが刺した相手を凍結させる魔剣を持って聞いてきた。
 殺すつもりなら最初からやっている。何が起こるか分からないから、今は様子を見るしかない。
 殺すのは理性の無いモンスターのように暴れ出した時だけだ。

【名前:腐っ??人 年齢:20歳 性別:男 種族:魔? 身長:178センチ 体重:62キロ】
【進化素材:虹色魔玉七個】
【移動可能階層:1~45階】

「これは……? 身体が変化しているだと?」

 男の身体を調べ続けていたが、肌と髪の色と一緒に変化を始めた。
 よくは分からないが副作用ではなく、変化している途中と見た方が良さそうだ。

「バッカス、ダルギム、戦闘準備だ。話しが無理なら、殺すつもりじゃなくて、殺しにいくぞ」
「何だよ、結局戦うのかよ。まあいいぜ」

 調べるのを途中でやめると、男から離れて武器を構えた。
 この男は二十階、三十階とキリがいい所で暴れている。
 ここは四十階だ。暴れない可能性の方が低そうだ。

「……」
「気分はどうだ? 俺はルドルフ=ジャン=ホールドだ。お前の名前はカナ——」

 ゆっくりと立ち上がった男に話をしようとしたが、右手を素早く向けてきて、黒い塊を撃ってきた。
 ギィン! と持っていた銀色の剣銃で、拳大の岩を叩き落とした。

「ククッ。そうか、話し合いは無理そうだな。おい、お前達! 牛はいいから、こっちを手伝え!」

 無口な男は嫌いじゃないが、コイツの実力は未知数だ。
 用意できる最大戦力で相手をさせてもらう。
 牛の凍結作業と回復魔法を呼びに行っていた仲間を呼んだ。

「何だよ、平気そうだな。おい、大丈夫か?」
「おい、大丈夫かって聞いてんだ。返事しろよ」
「聞こえないんじゃないのか? もう少し待ってやれよ」
「頷くか、反応するぐらいは出来るだろう」

 これで一対八になった。だが、ヴァン達四人が階段に突っ立っている。
 女と男を逃さない為か、オルファウス達を通さないようにしたいのだろう。
 どっちにしても、戦うつもりがないのは確かだ。

「少し黙ってろ。いいか、生け捕りは難しいから諦めていいぞ。相手は魔術師で地魔法と剣と体術が得意だ。遠近、範囲攻撃、全部警戒しろ!」
「おいおい、それでも隊長かよ。指示ならしっかりしろよ」
「正体不明の相手だ、気をつけろ、よりはマシだと思え。油断していると墓の下に入れられるから頑張れよ」
「へいへい、分かったよ」

 集まった仲間に簡単な指示を出すと、右手の剣銃『閃雷』と左手の剣銃『閃氷』の銃口を男に向けた。
 俺はやられた分は、しっかりと返す男だ。

「それじゃあ、これはさっきのお返しだ。受け取れ」

 閃雷の引き金を引くと、剣と筒がくっ付いた刀身の筒から金色の閃光が発射された。
 地下四十一階の雷蛇と、四十二階の電鳥の素材で作った雷を撃つ銃だ。
 撃つには魔石が必要だが、レッドゴーレムの身体ぐらいは貫通できる威力がある。

 ドガガガッッ‼︎

「……」
「なっ⁉︎ 防いだ!」

 だが、男は右手を金色の閃光に向けると、ゴツゴツした黒い岩の丸盾を出して防いでいる。
 雷の閃光が水のように飛び散って、壊れて空中に消えていく。

「ほぉー、少しは楽しめそうだな」

 どうやら、楽に倒されるつもりはないようだ。
 死ぬ前に魔法が使えるのが、魔法使いだけじゃないと教えてやろう。
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