87 / 172
第二章:ゾンビ編
第87話 間話:ホールド
しおりを挟む
地下二十九階……
「あの女、どこに行きやがった?」
灼熱の溶岩が流れる洞窟にも、飛んでいく筒と一緒に消えた三人組はいなかった。
あの女の腕力は四十階でも通用するぐらいはあったが、頭の方はここまで通用しなかったようだ。
一緒にいた子供が少し気になるが、これ以上は心配するだけ疲れるだけだな。
「ホールド! どこで休憩するか決めるそうだ! どこがいいんだ?」
「三十階でいい! 流石に休みていぇー!」
「分かった! そう伝えておく!」
考え事をやめた途端、後ろの方からギュンターの神経質な大声が聞こえてきた。
あの金髪の小僧にでも聞かれたんだろう。寝る場所まで一緒じゃないと嫌なようだ。
ああいうタイプの人間は、必要ないところまで細かく決めたがる。
「チッ、やっぱり面倒だな」
「ハハッ! そう言わずに気楽に行こうぜ。そんな顔していると契約破棄されるぜ」
「別に契約なんてどうでもいい。いつも通りに安全第一でいいんだよ」
俺が嫌そうな顔をしていると、前を歩くブラハムが笑いながら言ってきた。
今回の探索には、補給と支援だけの契約で同行している。
報酬は手に入れた素材の購入権と、Aランク冒険者になれた後の一年間だけの素材の独占購入権だ。
四十階から先のモンスター素材は、ギルドが販売しないから手に入れるのに苦労する。
だが、俺達の最高到達階層は四十五階の『異薔薇の森』だ。
ハッキリ言って、金を払わされるだけの契約に魅力は感じない。
多数決で念の為に、契約しておこうという話になっただけだ。俺はまだ反対だ。
「素材よりも腕輪の方が欲しいんだがな」
まあ、文句を言ってもどうせ手に入らない。
それに金髪のガキは多分、五十階に何があるか知らない。
知っていれば、素材の一年間の独占購入権とか馬鹿な話は出てこないだろう。
♢
地下三十六階……
「ああ、包帯男と女二人だろ。男が鉄猫を突き落として、この辺の宝箱を根こそぎ取って行ったぞ」
三十五階にゴーレムが現れたと聞いて、近場の冒険者に聞き込みをした。
そしたら、消えた三人組が再び現れた。
「ほぉ……アイツら、凄えな。こんな所まで来やがるなんて」
「何が凄いんだ? ゴーレムの中からその包帯男が出てきたのなら、三十階で冒険者を襲っていた犯人は決まりだ。子供は分からねぇが、女も仲間だろうよ」
感心したようにパウルが言ったが、どう見ても犯罪者二人組だ。
子供もアイツらの子供なのか、その辺の子供を誘拐したのかも分からない。
おそらく俺達の仕事場に来たのも、金目の物があるかの下見に来たんだろう。
「お前達も見つけたら気をつけろよ。子供を人質に使うかもしれねぇからな」
「へぇーい」
他のパーティの連中にも聞こえるように警告した。
今回は厄介な奴が思ったよりも、多く同行しているみたいだ。
さっさと追いつかないと、宝箱が全部荒らされた後かもしれねぇな。
「んっ?」
崖を素材箱と一緒に飛び降りて、三十七階の階段で休憩していると、ヴァン達が謝りに来た。
「すまない。うちのアレンが倒し損ねたようだ」
「えっ‼︎ 俺じゃないですよ! 副隊長とガイですよ!」
赤髪が無理矢理に、銀髪の小僧の頭を掴んで謝らさせている。
何をやりたいのか知らないが、俺に謝られても何の意味もない。
「嘘をやめましょう。あなたじゃないんだから、そんなヘマしませんよ」
「そんなぁー! 副隊長が死んだって言ったじゃ——」
「ゴチャゴチャうるせい‼︎ パーティのミスは全員のミスだ! 目障りだ消えろ!」
金髪は顔色一つ変えずに否定して、銀髪は動揺した感じにそれを否定している。
こっちは休憩しているのに、目の前でくだらない喧嘩を見せられたら、怒鳴りたくもなる。
パーティの隊長と副隊長が揃って、一番下っ端の所為にするなんて、見ていて気分が悪い。
「すみません、助かりました」
「何だ? まだ用でもあるのか?」
仲間三人が謝った後にすぐに離れていったのに、銀髪の小僧だけがヘラヘラ笑って残っている。
こういう芯が弱そうな奴ほど、いざという時に逃げ出すからタチが悪い。
「その……前から武器作りに興味があったんですよ! あの氷剣とか凄いですよね!」
「興味があるなら、薬品から始めてみるんだな。一階のスライムゼリーと三階の薬草に魔石を使えばいい」
「えっ、そんなに簡単に出来るんですか?」
「薬品製造LV1で作れる。上手く出来たら買取ってやるから店に持って来い」
無理だと分かっているが、武器を作るには複数の製造アビリティのLVを鍛えないといけない。
この銀髪が欲しい氷魔法が付与された剣は、武器・薬品・道具のLVが5は必要だ。
最低でも作るのに四年はかかる。まず途中で逃げ出すだろう。
「それもいいんですけど……まずはAランクにならないと、諦めたみたいでカッコ悪いじゃないですか?」
「別に今すぐ来いなんて言ってねえ。ある程度作って、ついでにLV2になってから来い」
「確かにそうですね。じゃあ、また来ます」
「ああ、頑張れ……」
まあ二度と来ないな。
それに冒険者よりも職人の方を町民は必要としているのに、若いヤツは冒険者にしかなりたがらない。
Bランク冒険者が十人死ぬよりも、職人が一人死ぬ方が町にとっては大損害だ。
この鍛えた製造の腕を戦闘で失くすのだけは勘弁してほしいもんだ。
「フフッ」
でも、あの包帯男の筒はなかなか良く出来ていたな。腕が勿体ねぇから牢屋の中で作らせてみるか。
四十年ぐらいはぶち込まれるだろうから、一流の職人になりそうだ。
「あの女、どこに行きやがった?」
灼熱の溶岩が流れる洞窟にも、飛んでいく筒と一緒に消えた三人組はいなかった。
あの女の腕力は四十階でも通用するぐらいはあったが、頭の方はここまで通用しなかったようだ。
一緒にいた子供が少し気になるが、これ以上は心配するだけ疲れるだけだな。
「ホールド! どこで休憩するか決めるそうだ! どこがいいんだ?」
「三十階でいい! 流石に休みていぇー!」
「分かった! そう伝えておく!」
考え事をやめた途端、後ろの方からギュンターの神経質な大声が聞こえてきた。
あの金髪の小僧にでも聞かれたんだろう。寝る場所まで一緒じゃないと嫌なようだ。
ああいうタイプの人間は、必要ないところまで細かく決めたがる。
「チッ、やっぱり面倒だな」
「ハハッ! そう言わずに気楽に行こうぜ。そんな顔していると契約破棄されるぜ」
「別に契約なんてどうでもいい。いつも通りに安全第一でいいんだよ」
俺が嫌そうな顔をしていると、前を歩くブラハムが笑いながら言ってきた。
今回の探索には、補給と支援だけの契約で同行している。
報酬は手に入れた素材の購入権と、Aランク冒険者になれた後の一年間だけの素材の独占購入権だ。
四十階から先のモンスター素材は、ギルドが販売しないから手に入れるのに苦労する。
だが、俺達の最高到達階層は四十五階の『異薔薇の森』だ。
ハッキリ言って、金を払わされるだけの契約に魅力は感じない。
多数決で念の為に、契約しておこうという話になっただけだ。俺はまだ反対だ。
「素材よりも腕輪の方が欲しいんだがな」
まあ、文句を言ってもどうせ手に入らない。
それに金髪のガキは多分、五十階に何があるか知らない。
知っていれば、素材の一年間の独占購入権とか馬鹿な話は出てこないだろう。
♢
地下三十六階……
「ああ、包帯男と女二人だろ。男が鉄猫を突き落として、この辺の宝箱を根こそぎ取って行ったぞ」
三十五階にゴーレムが現れたと聞いて、近場の冒険者に聞き込みをした。
そしたら、消えた三人組が再び現れた。
「ほぉ……アイツら、凄えな。こんな所まで来やがるなんて」
「何が凄いんだ? ゴーレムの中からその包帯男が出てきたのなら、三十階で冒険者を襲っていた犯人は決まりだ。子供は分からねぇが、女も仲間だろうよ」
感心したようにパウルが言ったが、どう見ても犯罪者二人組だ。
子供もアイツらの子供なのか、その辺の子供を誘拐したのかも分からない。
おそらく俺達の仕事場に来たのも、金目の物があるかの下見に来たんだろう。
「お前達も見つけたら気をつけろよ。子供を人質に使うかもしれねぇからな」
「へぇーい」
他のパーティの連中にも聞こえるように警告した。
今回は厄介な奴が思ったよりも、多く同行しているみたいだ。
さっさと追いつかないと、宝箱が全部荒らされた後かもしれねぇな。
「んっ?」
崖を素材箱と一緒に飛び降りて、三十七階の階段で休憩していると、ヴァン達が謝りに来た。
「すまない。うちのアレンが倒し損ねたようだ」
「えっ‼︎ 俺じゃないですよ! 副隊長とガイですよ!」
赤髪が無理矢理に、銀髪の小僧の頭を掴んで謝らさせている。
何をやりたいのか知らないが、俺に謝られても何の意味もない。
「嘘をやめましょう。あなたじゃないんだから、そんなヘマしませんよ」
「そんなぁー! 副隊長が死んだって言ったじゃ——」
「ゴチャゴチャうるせい‼︎ パーティのミスは全員のミスだ! 目障りだ消えろ!」
金髪は顔色一つ変えずに否定して、銀髪は動揺した感じにそれを否定している。
こっちは休憩しているのに、目の前でくだらない喧嘩を見せられたら、怒鳴りたくもなる。
パーティの隊長と副隊長が揃って、一番下っ端の所為にするなんて、見ていて気分が悪い。
「すみません、助かりました」
「何だ? まだ用でもあるのか?」
仲間三人が謝った後にすぐに離れていったのに、銀髪の小僧だけがヘラヘラ笑って残っている。
こういう芯が弱そうな奴ほど、いざという時に逃げ出すからタチが悪い。
「その……前から武器作りに興味があったんですよ! あの氷剣とか凄いですよね!」
「興味があるなら、薬品から始めてみるんだな。一階のスライムゼリーと三階の薬草に魔石を使えばいい」
「えっ、そんなに簡単に出来るんですか?」
「薬品製造LV1で作れる。上手く出来たら買取ってやるから店に持って来い」
無理だと分かっているが、武器を作るには複数の製造アビリティのLVを鍛えないといけない。
この銀髪が欲しい氷魔法が付与された剣は、武器・薬品・道具のLVが5は必要だ。
最低でも作るのに四年はかかる。まず途中で逃げ出すだろう。
「それもいいんですけど……まずはAランクにならないと、諦めたみたいでカッコ悪いじゃないですか?」
「別に今すぐ来いなんて言ってねえ。ある程度作って、ついでにLV2になってから来い」
「確かにそうですね。じゃあ、また来ます」
「ああ、頑張れ……」
まあ二度と来ないな。
それに冒険者よりも職人の方を町民は必要としているのに、若いヤツは冒険者にしかなりたがらない。
Bランク冒険者が十人死ぬよりも、職人が一人死ぬ方が町にとっては大損害だ。
この鍛えた製造の腕を戦闘で失くすのだけは勘弁してほしいもんだ。
「フフッ」
でも、あの包帯男の筒はなかなか良く出来ていたな。腕が勿体ねぇから牢屋の中で作らせてみるか。
四十年ぐらいはぶち込まれるだろうから、一流の職人になりそうだ。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる