ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
上 下
73 / 172
第二章:ゾンビ編

第73話 ギルドの追っ手

しおりを挟む
「靴はどうしたんですか?」
「はい?」

 溶岩洞窟を歩いていると、前を歩くリエラが話しかけてきた。
 初めて自分から話しかけてきたので、ちょっと驚いてしまった。

「ああ、靴は逃げている途中で脱げて失くしたんですよ。新しいのを買わないといけないな」
「そうでしたか。死んだ仲間の靴を脱がして履けば良かったのに、サイズが合わなかったんですか?」
「えっ? あっ、ああ、そうか! その手があったか! 混乱していて気づかなかった」

 急に喋り出したと思ったら、靴なんてどうでもいい事を聞いてきた、
 確かに死体が靴を履いていたら、履けていたけど、そもそも死体は最初から無いから履けません。
 はい、俺の方が賢いので黙って歩いてください。

「じゃあ、まだ混乱しているんですね」
「えっ? どういう事ですか?」

 適当な嘘で笑って誤魔化したのに、すぐにまた話しかけてきた。
 人とあまり喋らないのだろう。仕方ないから暇潰しに話し相手になるしかない。
 興味がある感じに聞き返した。

「だって、ここの地面、凄く熱いんですよ。包帯を巻いただけの裸足で歩いたら、普通は火傷します。混乱しているから熱くないんでしょ?」
「えっ? えーっと……」

 これはちょっとマズイ質問だ。正直言って、地面の熱さなんて感じない。
 腐った肉の焼ける匂いがすれば分かるかもしれないが、岩の両足だと分からない。
 包帯が燃えているわけでもない。正解の答えが分からない。
 それでも答えを絞り出して言ってみた。

「火耐性の指輪です! 指輪しているから平気なんですよ!」
「なるほど。それで熱くないんですね。すみません、ちょっと気になってしまって」
「いえいえ、俺の方も今気づきましたよ。疑問が解けて何よりです」

 良かった。今ので正解みたいだ。リエラがまた黙って歩き出した。
 とりあえず他に聞かれそうな事は、先に答えを考えておこう。

 そうだな……まずは逃げたのに、何で頭と腕と足を怪我しているかだな。
 これは必死に逃げている時に転んだ事にしよう。

 あとは鞄の中を持ち物検査されない限りは大丈夫だろう。
 万が一調べられた時は、仲間三人を冒険者達を襲っていた強盗にすればいい。
 俺はまったくの無関係を装えば問題ない。
 
 それでも駄目な時は口止め料の出番だ。
 ポケットの中に三十万ギルをソッと入れてやれば、永遠に黙ってくれる。
 いや、むしろ今入れた方がいい。何か気になる事があっても、余計な口を開かなくなる。

「リエラ、護衛の報酬なんだけど、三十万ギルで足りるかな?」
「……いりません」
「はい?」

 まさか断られるとは思わなかった。
 普段から駄目男に金を貢ぎまくっているから、金を貰うと身体が拒否反応を起こすようだ。
 その駄目男に渡していいから、さっさと受け取ってもらう。

「いやいや、命の恩人だから貰ってもらわないと困るよ。報酬じゃなくて、これはお礼だから」
「いえ、貰えないです。死んだ仲間の家族に渡してください」
「くっ……分かった。お言葉に甘えさせてもらうよ。ありがとう」

 右手に握った硬貨を渡そうとするのに、手で押し返される。
 それでも無理矢理に渡そうとしたが、やっぱり拒否された。
 金で買収できないのなら、別の手を用意するしかない。

 しばらく黙って考えていると、やっと階段が見えてきた。
 階段に入って上っていくけど、見張りはいないようだ。それどころか冒険者もいない。

「昨日は怪我した人がたくさん居たんですよ」
「という事は町に担架で運ばれたんですね。もう少し早ければ乗せてもらえたのに残念だ」

 まあ、俺としては人がいない方が助かる。
 リエラが詳しい話をしないから分からないが、おそらくゴーレムは倒された事になっている。
 そうじゃないなら、三十階より下の階にいる、Cランク冒険者を応援に呼んで、三十階は占拠されている。

「そういえば銀髪のBランク冒険者が、仮面を着けた新種のモンスターを倒したそうですよ。確か名前は『ゾンビライト』とか言ってました」
「へぇー、ゾンビライトですか。明るそうな名前ですね」
「逃げようとしたところを剣で手足を切断して、溶岩の中に蹴り飛ばしたそうですよ」

 階段を上っていると、リエラが思い出したように言ってきた。
 色々と訂正したい事があるが我慢した。俺はそんな明るい馬鹿とゾンビとは無関係だ。

 グゥゥー……

「すみません。お腹空きませんか? 実は食糧が無くて、二日も食べてないんですよ。何かありませんか?」
「あぁー、そうでしたか。ちょっと待ってください……」

 お腹の鳴る音が聞こえてきたと思ったら、元気がない感じにリエラが言ってきた。
 悪いが俺の鞄の中には食糧も水も入っていない。何故なら必要ないからだ。

「あれ? おかしいな。入ってないぞ? ゾンビライトが食べたのか?」

 もちろん、そんな馬鹿な事を言えるわけがない。
 三つある鞄を階段に置いて、キチンと探しているフリをする。
 都合の悪い部分は、新種のモンスターの所為にすればいい。

「私も探すのを手伝いま——」
「いやいや、駄目ですよ! 汚い下着とか入ってるんだから!」

 リエラが鞄に触れようとしたから、三つの鞄を急いで抱き寄せた。
 だが、俺の言葉を無視して伸びてきた右手が、三つ並んだ鞄の真ん中を掴んだ。

「遠慮しないでください」
「ちょっ!」

 持ち上げられた鞄を取り戻そうとして、慌てて鞄を掴んだ。
 一瞬左右から引っ張られて鞄がピーンと伸びたが、急にリエラが鞄を離した。
 その所為で鞄上部の取り出し口が地面を向いた。

 バラバラバラ——

「あっ……すみません、あれ? 冒険者カードと装備がこんなにいっぱい?」
「くっ!」

 鞄の中から落ちてきた盗品が地面に転がっている。
 冒険者カード、盾、短剣、指輪と価値が高くて役立ちそうな物を詰め込んだ。
 リエラが四十枚近くある冒険者カードをジッと見ている。
 ここから死んだ仲間が実は四十人だった、は苦しい言い訳になる。

 それに冒険者カードの全員の名前なんて覚えてない。
 ここは記憶にありません。何も知りませんで押し通すしかない。

「えっ? 何だ、これ? 何でこんな物が入っているんだ?」
「そういえば地下二十階辺りで、仮面と包帯で顔を隠した男が冒険者を襲って、倒した冒険者の装備とカードを奪っていたそうですよ」
「えっ? そんな事があったんですか⁉︎ じゃあ、これがその盗まれた物ですか⁉︎」
「……」

 大袈裟に驚いたフリをするが、リエラの目が『お前が犯人だろう?』と言っている気がする。
 リエラの装備は白のロングコートの左右にある長剣二本だけだ。
 この岩の拳になった右手なら、この状態でも流星拳を至近距離で素早くブチ込める。

 だが、油断したら駄目だ。
 もしかするとリエラは、仮面の男を捕まえる為のギルドの追っ手かもしれない。
 包帯を顔を巻いた俺を見つけて、犯人だと疑っている可能性が高い。
 俺が冒険者を襲って、その情報がギルドに届いて、そこから追っ手を出したら、出会うタイミングも合う。
 ここは全力で誤魔化すしかない。

「ああ、そうか! 消えた食糧のお礼かもしれない。食糧を食べたから、そのお礼に盗んだ物を入れたのか」
「……」
「でも、困ったな。盗んだ物は貰えない。ギルドでキチンと調べてもらって、持ち主に返してもらわないと」
「……」

 リエラは黙っているが、気にせずに平常心で落ちた物を鞄に戻していく。
 苦しい言い訳だが、容疑者として真っ黒から黒ぐらいには戻ったはずだ。

「なるほど。そういう事でしたか。悪い事をしているのに、意外としっかりした部分も持っているんですね」
「そうかもしれないですね。すみません、そういう事で、食糧は無いので我慢してください」
「いえいえ、気にしないでください。出会った冒険者の人に聞いてみますから。さあ、行きましょう」

 だったら最初からそうしろよ、と言いたいがこの女の正体は分かった。
 間違いなく、追っ手だ。俺の鞄の中を見たくてワザとばら撒きやがった。
 そんなこやかな作り笑いを浮かべても騙されない。
 逃げられる階まで行ったら、そこでトイレに行くフリをしてお別れだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔
ファンタジー
【あらすじ】 「龍信、貴様は今日限りで解雇だ。この屋敷から出ていけ」  孫龍信(そん・りゅうしん)にそう告げたのは、先代当主の弟の孫笑山(そん・しょうざん)だった。  数年前に先代当主とその息子を盗賊団たちの魔の手から救った龍信は、自分の名前と道士であること以外の記憶を無くしていたにもかかわらず、大富豪の孫家の屋敷に食客として迎え入れられていた。  それは人柄だけでなく、常人をはるかに超える武術の腕前ゆえにであった。  ところが先代当主とその息子が事故で亡くなったことにより、龍信はこの屋敷に置いておく理由は無いと新たに当主となった笑山に追放されてしまう。  その後、野良道士となった龍信は異国からきた金毛剣女ことアリシアと出会うことで人生が一変する。  とある目的のためにこの華秦国へとやってきたアリシア。  そんなアリシアの道士としての試験に付き添ったりすることで、龍信はアリシアの正体やこの国に来た理由を知って感銘を受け、その目的を達成させるために龍信はアリシアと一緒に旅をすることを決意する。  またアリシアと出会ったことで龍信も自分の記憶を取り戻し、自分の長剣が普通の剣ではないことと、自分自身もまた普通の人間ではないことを思い出す。  そして龍信とアリシアは旅先で薬士の春花も仲間に加え、様々な人間に感謝されるような行動をする反面、悪意ある人間からの妨害なども受けるが、それらの人物はすべて相応の報いを受けることとなる。  笑山もまた同じだった。  それどころか自分の欲望のために龍信を屋敷から追放した笑山は、落ちぶれるどころか人間として最悪の末路を辿ることとなる。  一方の龍信はアリシアのこの国に来た目的に心から協力することで、巡り巡って皇帝にすらも認められるほど成り上がっていく。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜

黒木箱 末宝
ファンタジー
これは、はみ出し者の物語。 現代の地球のとある県のある市に、社会に適合できず、その力と才能を腐らせた男が居た。 彼の名は山城 大器(やましろ たいき)。 今年でニート四年目の、見てくれだけは立派な二七歳の男である。 そんな社会からはみ出た大器が、現代に突如出現した上位存在の侵略施設である迷宮回廊──ダンジョンで自身の存在意義を見出だし、荒ぶり、溺れて染まるまでの物語。 【ハーメル】にも投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか

藤原みけ@雑魚将軍2巻発売中
ファンタジー
小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。 そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。 次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。 サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。 弱ければ、何も得ることはできないと。 生きるためリオルはやがて力を求め始める。 堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。 地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。

処理中です...