ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

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第二章:ゾンビ編

第73話 ギルドの追っ手

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「靴はどうしたんですか?」
「はい?」

 溶岩洞窟を歩いていると、前を歩くリエラが話しかけてきた。
 初めて自分から話しかけてきたので、ちょっと驚いてしまった。

「ああ、靴は逃げている途中で脱げて失くしたんですよ。新しいのを買わないといけないな」
「そうでしたか。死んだ仲間の靴を脱がして履けば良かったのに、サイズが合わなかったんですか?」
「えっ? あっ、ああ、そうか! その手があったか! 混乱していて気づかなかった」

 急に喋り出したと思ったら、靴なんてどうでもいい事を聞いてきた、
 確かに死体が靴を履いていたら、履けていたけど、そもそも死体は最初から無いから履けません。
 はい、俺の方が賢いので黙って歩いてください。

「じゃあ、まだ混乱しているんですね」
「えっ? どういう事ですか?」

 適当な嘘で笑って誤魔化したのに、すぐにまた話しかけてきた。
 人とあまり喋らないのだろう。仕方ないから暇潰しに話し相手になるしかない。
 興味がある感じに聞き返した。

「だって、ここの地面、凄く熱いんですよ。包帯を巻いただけの裸足で歩いたら、普通は火傷します。混乱しているから熱くないんでしょ?」
「えっ? えーっと……」

 これはちょっとマズイ質問だ。正直言って、地面の熱さなんて感じない。
 腐った肉の焼ける匂いがすれば分かるかもしれないが、岩の両足だと分からない。
 包帯が燃えているわけでもない。正解の答えが分からない。
 それでも答えを絞り出して言ってみた。

「火耐性の指輪です! 指輪しているから平気なんですよ!」
「なるほど。それで熱くないんですね。すみません、ちょっと気になってしまって」
「いえいえ、俺の方も今気づきましたよ。疑問が解けて何よりです」

 良かった。今ので正解みたいだ。リエラがまた黙って歩き出した。
 とりあえず他に聞かれそうな事は、先に答えを考えておこう。

 そうだな……まずは逃げたのに、何で頭と腕と足を怪我しているかだな。
 これは必死に逃げている時に転んだ事にしよう。

 あとは鞄の中を持ち物検査されない限りは大丈夫だろう。
 万が一調べられた時は、仲間三人を冒険者達を襲っていた強盗にすればいい。
 俺はまったくの無関係を装えば問題ない。
 
 それでも駄目な時は口止め料の出番だ。
 ポケットの中に三十万ギルをソッと入れてやれば、永遠に黙ってくれる。
 いや、むしろ今入れた方がいい。何か気になる事があっても、余計な口を開かなくなる。

「リエラ、護衛の報酬なんだけど、三十万ギルで足りるかな?」
「……いりません」
「はい?」

 まさか断られるとは思わなかった。
 普段から駄目男に金を貢ぎまくっているから、金を貰うと身体が拒否反応を起こすようだ。
 その駄目男に渡していいから、さっさと受け取ってもらう。

「いやいや、命の恩人だから貰ってもらわないと困るよ。報酬じゃなくて、これはお礼だから」
「いえ、貰えないです。死んだ仲間の家族に渡してください」
「くっ……分かった。お言葉に甘えさせてもらうよ。ありがとう」

 右手に握った硬貨を渡そうとするのに、手で押し返される。
 それでも無理矢理に渡そうとしたが、やっぱり拒否された。
 金で買収できないのなら、別の手を用意するしかない。

 しばらく黙って考えていると、やっと階段が見えてきた。
 階段に入って上っていくけど、見張りはいないようだ。それどころか冒険者もいない。

「昨日は怪我した人がたくさん居たんですよ」
「という事は町に担架で運ばれたんですね。もう少し早ければ乗せてもらえたのに残念だ」

 まあ、俺としては人がいない方が助かる。
 リエラが詳しい話をしないから分からないが、おそらくゴーレムは倒された事になっている。
 そうじゃないなら、三十階より下の階にいる、Cランク冒険者を応援に呼んで、三十階は占拠されている。

「そういえば銀髪のBランク冒険者が、仮面を着けた新種のモンスターを倒したそうですよ。確か名前は『ゾンビライト』とか言ってました」
「へぇー、ゾンビライトですか。明るそうな名前ですね」
「逃げようとしたところを剣で手足を切断して、溶岩の中に蹴り飛ばしたそうですよ」

 階段を上っていると、リエラが思い出したように言ってきた。
 色々と訂正したい事があるが我慢した。俺はそんな明るい馬鹿とゾンビとは無関係だ。

 グゥゥー……

「すみません。お腹空きませんか? 実は食糧が無くて、二日も食べてないんですよ。何かありませんか?」
「あぁー、そうでしたか。ちょっと待ってください……」

 お腹の鳴る音が聞こえてきたと思ったら、元気がない感じにリエラが言ってきた。
 悪いが俺の鞄の中には食糧も水も入っていない。何故なら必要ないからだ。

「あれ? おかしいな。入ってないぞ? ゾンビライトが食べたのか?」

 もちろん、そんな馬鹿な事を言えるわけがない。
 三つある鞄を階段に置いて、キチンと探しているフリをする。
 都合の悪い部分は、新種のモンスターの所為にすればいい。

「私も探すのを手伝いま——」
「いやいや、駄目ですよ! 汚い下着とか入ってるんだから!」

 リエラが鞄に触れようとしたから、三つの鞄を急いで抱き寄せた。
 だが、俺の言葉を無視して伸びてきた右手が、三つ並んだ鞄の真ん中を掴んだ。

「遠慮しないでください」
「ちょっ!」

 持ち上げられた鞄を取り戻そうとして、慌てて鞄を掴んだ。
 一瞬左右から引っ張られて鞄がピーンと伸びたが、急にリエラが鞄を離した。
 その所為で鞄上部の取り出し口が地面を向いた。

 バラバラバラ——

「あっ……すみません、あれ? 冒険者カードと装備がこんなにいっぱい?」
「くっ!」

 鞄の中から落ちてきた盗品が地面に転がっている。
 冒険者カード、盾、短剣、指輪と価値が高くて役立ちそうな物を詰め込んだ。
 リエラが四十枚近くある冒険者カードをジッと見ている。
 ここから死んだ仲間が実は四十人だった、は苦しい言い訳になる。

 それに冒険者カードの全員の名前なんて覚えてない。
 ここは記憶にありません。何も知りませんで押し通すしかない。

「えっ? 何だ、これ? 何でこんな物が入っているんだ?」
「そういえば地下二十階辺りで、仮面と包帯で顔を隠した男が冒険者を襲って、倒した冒険者の装備とカードを奪っていたそうですよ」
「えっ? そんな事があったんですか⁉︎ じゃあ、これがその盗まれた物ですか⁉︎」
「……」

 大袈裟に驚いたフリをするが、リエラの目が『お前が犯人だろう?』と言っている気がする。
 リエラの装備は白のロングコートの左右にある長剣二本だけだ。
 この岩の拳になった右手なら、この状態でも流星拳を至近距離で素早くブチ込める。

 だが、油断したら駄目だ。
 もしかするとリエラは、仮面の男を捕まえる為のギルドの追っ手かもしれない。
 包帯を顔を巻いた俺を見つけて、犯人だと疑っている可能性が高い。
 俺が冒険者を襲って、その情報がギルドに届いて、そこから追っ手を出したら、出会うタイミングも合う。
 ここは全力で誤魔化すしかない。

「ああ、そうか! 消えた食糧のお礼かもしれない。食糧を食べたから、そのお礼に盗んだ物を入れたのか」
「……」
「でも、困ったな。盗んだ物は貰えない。ギルドでキチンと調べてもらって、持ち主に返してもらわないと」
「……」

 リエラは黙っているが、気にせずに平常心で落ちた物を鞄に戻していく。
 苦しい言い訳だが、容疑者として真っ黒から黒ぐらいには戻ったはずだ。

「なるほど。そういう事でしたか。悪い事をしているのに、意外としっかりした部分も持っているんですね」
「そうかもしれないですね。すみません、そういう事で、食糧は無いので我慢してください」
「いえいえ、気にしないでください。出会った冒険者の人に聞いてみますから。さあ、行きましょう」

 だったら最初からそうしろよ、と言いたいがこの女の正体は分かった。
 間違いなく、追っ手だ。俺の鞄の中を見たくてワザとばら撒きやがった。
 そんなこやかな作り笑いを浮かべても騙されない。
 逃げられる階まで行ったら、そこでトイレに行くフリをしてお別れだ。
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