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第一章:人間編
第19話 宝箱探知LV2
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地下十一階『沼地』……
階段の中でしっかり休憩すると、最後の宝物がある沼地にやって来た。
灰色の曇り空に、灰色の泥の地面に、濁った大きな水溜りが点在している。
細長い緑色の草が一束に集まって、ハゲ散らかった頭のように生えている。
気温はジャングルと比べて低く、気温差で風邪を引かないように注意が必要だ。
「くしゅん‼︎ 濡れた服が冷たいです」
「ほら、これを使え。焚き火に使うから捨てるなよ」
「うぅぅ、ありがとうございます」
風邪を引いた後に注意しても遅かったかもしれない。
メルがクシャミをしている。風邪薬はないけど、チリ紙はある。
鼻紙に使った後に、焚き火の火種として使ってやろう。
「黄色い痺れ蛇には注意しろよ。噛まれると身体が痺れて動けなくなる」
「噛まれた場合はどうすればいいんですか?」
「その時は諦めるしかない。片方が丸呑みにされている間に逃げるか、倒すかだ」
地面に靴跡をつけながら、沼地を進んでいく。
黄色い毒蛇は『パラライズスネーク』と呼ばれている。
全長は160センチで、ナメクジのような太った体型をしている。
動きは当然のように遅い。
「隊長、絶対に逃げないでくださいね!」
「安心しろ。痺れているから痛みは感じないぞ」
「痛くなくても、死ぬのは嫌です!」
メルが服を掴んで、必死にお願いしてきた。
別に怖がられせるつもりはない。事実を言っているだけだ。
それに丸呑みにされても、口から頭や手足が飛び出すから大丈夫だ。
痺れ蛇の口から頭や手足が生えていたら、素早く口から引っこ抜けばいい。
生きていれば、二時間程度で痺れが消えて動き出してくれる。
「隊長、いました!」
「分かっている」
痺れるのが怖いみたいだ。キョロキョロと頑張って探している。
向かってきた痺れ蛇を、地面から岩杭を生やして串刺しにした。
あとは動けないところを、剣でトドメを刺すだけだ。
十階で魔力を温存したから、ここでは遠慮なく使わせてもらう。
「ここだ。ここに隠してある」
「ここですか?」
痺れ蛇を楽々倒しながら、宝箱の隠し場所に到着した。
岩壁で宝箱を隠した後に、階段のある方向に矢印を書いてみた。
親切な道案内の看板は、誰も壊そうとは思わなかったみたいだ。
でも、道案内の役目は今日で終わりだ。
両手で岩柱に触れて魔力を流して、ボロボロ崩れさせていく。
これで宝箱を回収できる。
回収したら、あとは帰るだけだ。
時刻は午後九時。頑張ればジャングルを一つ抜けられる。
「あれ? 何かモヤモヤします。隊長は頭がモヤモヤしませんか?」
「モヤモヤ? しないな。ゾクゾクの間違いだろう。気分でも悪いのか?」
宝箱を開けて、神鉄を取り出すと、メルが変な事を言ってきた。
風邪ならば、ゾクゾクと悪寒が走るはずだ。
「気分じゃなくて、頭がモヤモヤするんです」
「意味が分からん。調べるから手を貸せ」
「はい……」
医者じゃないから、頭がモヤモヤすると言われても分からない。
いつもは寝ている時間だから、眠たいのだろうか?
念の為にメルを調べてみた。
「んっ? 宝箱探知のLVが上がっているぞ」
「えっ、本当ですか⁉︎」
調べた結果、宝箱探知のLVが上がっていた。
開けた宝箱が十二個と中途半端な数だが、目標のLV上げを達成できた。
「本当だ。宝箱を開けた後にモヤモヤしたのなら、これが原因で間違いない。この階の宝箱を全部開けたら、モヤモヤも消えるかもしれないな」
「全部開けないと消えないなら、ダンジョンの中はずっとモヤモヤ状態ですね」
「階段と町の中なら平気だろう。そんなに深刻な問題じゃない」
メルにLVが上がった事を教えると、ついでにモヤモヤの原因も教えてやった。
ここまで苦労して来たのだから、この辺の宝箱を探してみよう。
次もここまで来れる保証はない。
「よし、予定変更だ。宝箱を探しながら十二階を目指すぞ」
「えっ、焚き火は?」
「もうちょっと我慢しろ」
姉貴から貰った冒険者手帳を開いて、階段の位置を確認すると、新しい予定を教えた。
メルがちょっと顔を引きつらせているけど、たったの一階だ。
ちょっと頑張るだけで終わる。
「モヤモヤに強弱がある時は教えるんだぞ。それで宝箱との距離が分かるかもしれない」
「あのぉ……モヤモヤが消えました」
「はい?」
まだ三歩しか歩いてないのに、モヤモヤが消えたそうだ。
まさかとは思いたいが、疲れたから嘘を使って、休もうとしているんじゃないだろうか?
だとしたら、仕方ない。冒険者を辞めると言われる前に休ませてやる。
「分かった。十二階の階段まで行くぞ。そこで晩ご飯を食べて寝るとしよう。無理は禁物だからな」
「すみません。お腹が空いたのかもしれないです」
「そうかもしれないな」
メルの空腹耐性は高いから、お腹空いたは考えられない。
やはり仮病の可能性大だな。所詮は子供だな。
「あっ、隊長! またモヤモヤしてきました!」
「本当にモヤモヤするのか?」
階段に向かって歩いていると、メルがまた言ってきた。
仮病の可能性を疑っているから、本当なのか聞き返した。
「はい、少しモヤモヤします。でも、多分気の所為です」
「そうかもな。晩ご飯を食べて休んでも消えないようなら、別の原因があるんだろう。さあ、行くぞ」
「はい」
俺も気の所為だと思う。
本格的に調べるのはあとでも出来るから、今は安全地帯の階段を目指そう。
予想通り、ちょっと歩くと「モヤモヤが消えた」と言ってきた。
過酷な環境に、精神的なストレスでも強く感じているのかもしれない。
十分に休ませれば、体調も良くなるだろう。
「休憩は六時間だ。食べたら早く寝るんだぞ」
「はい、いただきます」
痺れ蛇を倒しながら、やっと階段に到達した。
すでに階段には寝ている冒険者が何人かいる。
近くに人がいない場所に座ると、鞄から弁当を取り出してメルに渡した。
残りの弁当は二食分だから、十二階から先は無理そうだな。
階段の中でしっかり休憩すると、最後の宝物がある沼地にやって来た。
灰色の曇り空に、灰色の泥の地面に、濁った大きな水溜りが点在している。
細長い緑色の草が一束に集まって、ハゲ散らかった頭のように生えている。
気温はジャングルと比べて低く、気温差で風邪を引かないように注意が必要だ。
「くしゅん‼︎ 濡れた服が冷たいです」
「ほら、これを使え。焚き火に使うから捨てるなよ」
「うぅぅ、ありがとうございます」
風邪を引いた後に注意しても遅かったかもしれない。
メルがクシャミをしている。風邪薬はないけど、チリ紙はある。
鼻紙に使った後に、焚き火の火種として使ってやろう。
「黄色い痺れ蛇には注意しろよ。噛まれると身体が痺れて動けなくなる」
「噛まれた場合はどうすればいいんですか?」
「その時は諦めるしかない。片方が丸呑みにされている間に逃げるか、倒すかだ」
地面に靴跡をつけながら、沼地を進んでいく。
黄色い毒蛇は『パラライズスネーク』と呼ばれている。
全長は160センチで、ナメクジのような太った体型をしている。
動きは当然のように遅い。
「隊長、絶対に逃げないでくださいね!」
「安心しろ。痺れているから痛みは感じないぞ」
「痛くなくても、死ぬのは嫌です!」
メルが服を掴んで、必死にお願いしてきた。
別に怖がられせるつもりはない。事実を言っているだけだ。
それに丸呑みにされても、口から頭や手足が飛び出すから大丈夫だ。
痺れ蛇の口から頭や手足が生えていたら、素早く口から引っこ抜けばいい。
生きていれば、二時間程度で痺れが消えて動き出してくれる。
「隊長、いました!」
「分かっている」
痺れるのが怖いみたいだ。キョロキョロと頑張って探している。
向かってきた痺れ蛇を、地面から岩杭を生やして串刺しにした。
あとは動けないところを、剣でトドメを刺すだけだ。
十階で魔力を温存したから、ここでは遠慮なく使わせてもらう。
「ここだ。ここに隠してある」
「ここですか?」
痺れ蛇を楽々倒しながら、宝箱の隠し場所に到着した。
岩壁で宝箱を隠した後に、階段のある方向に矢印を書いてみた。
親切な道案内の看板は、誰も壊そうとは思わなかったみたいだ。
でも、道案内の役目は今日で終わりだ。
両手で岩柱に触れて魔力を流して、ボロボロ崩れさせていく。
これで宝箱を回収できる。
回収したら、あとは帰るだけだ。
時刻は午後九時。頑張ればジャングルを一つ抜けられる。
「あれ? 何かモヤモヤします。隊長は頭がモヤモヤしませんか?」
「モヤモヤ? しないな。ゾクゾクの間違いだろう。気分でも悪いのか?」
宝箱を開けて、神鉄を取り出すと、メルが変な事を言ってきた。
風邪ならば、ゾクゾクと悪寒が走るはずだ。
「気分じゃなくて、頭がモヤモヤするんです」
「意味が分からん。調べるから手を貸せ」
「はい……」
医者じゃないから、頭がモヤモヤすると言われても分からない。
いつもは寝ている時間だから、眠たいのだろうか?
念の為にメルを調べてみた。
「んっ? 宝箱探知のLVが上がっているぞ」
「えっ、本当ですか⁉︎」
調べた結果、宝箱探知のLVが上がっていた。
開けた宝箱が十二個と中途半端な数だが、目標のLV上げを達成できた。
「本当だ。宝箱を開けた後にモヤモヤしたのなら、これが原因で間違いない。この階の宝箱を全部開けたら、モヤモヤも消えるかもしれないな」
「全部開けないと消えないなら、ダンジョンの中はずっとモヤモヤ状態ですね」
「階段と町の中なら平気だろう。そんなに深刻な問題じゃない」
メルにLVが上がった事を教えると、ついでにモヤモヤの原因も教えてやった。
ここまで苦労して来たのだから、この辺の宝箱を探してみよう。
次もここまで来れる保証はない。
「よし、予定変更だ。宝箱を探しながら十二階を目指すぞ」
「えっ、焚き火は?」
「もうちょっと我慢しろ」
姉貴から貰った冒険者手帳を開いて、階段の位置を確認すると、新しい予定を教えた。
メルがちょっと顔を引きつらせているけど、たったの一階だ。
ちょっと頑張るだけで終わる。
「モヤモヤに強弱がある時は教えるんだぞ。それで宝箱との距離が分かるかもしれない」
「あのぉ……モヤモヤが消えました」
「はい?」
まだ三歩しか歩いてないのに、モヤモヤが消えたそうだ。
まさかとは思いたいが、疲れたから嘘を使って、休もうとしているんじゃないだろうか?
だとしたら、仕方ない。冒険者を辞めると言われる前に休ませてやる。
「分かった。十二階の階段まで行くぞ。そこで晩ご飯を食べて寝るとしよう。無理は禁物だからな」
「すみません。お腹が空いたのかもしれないです」
「そうかもしれないな」
メルの空腹耐性は高いから、お腹空いたは考えられない。
やはり仮病の可能性大だな。所詮は子供だな。
「あっ、隊長! またモヤモヤしてきました!」
「本当にモヤモヤするのか?」
階段に向かって歩いていると、メルがまた言ってきた。
仮病の可能性を疑っているから、本当なのか聞き返した。
「はい、少しモヤモヤします。でも、多分気の所為です」
「そうかもな。晩ご飯を食べて休んでも消えないようなら、別の原因があるんだろう。さあ、行くぞ」
「はい」
俺も気の所為だと思う。
本格的に調べるのはあとでも出来るから、今は安全地帯の階段を目指そう。
予想通り、ちょっと歩くと「モヤモヤが消えた」と言ってきた。
過酷な環境に、精神的なストレスでも強く感じているのかもしれない。
十分に休ませれば、体調も良くなるだろう。
「休憩は六時間だ。食べたら早く寝るんだぞ」
「はい、いただきます」
痺れ蛇を倒しながら、やっと階段に到達した。
すでに階段には寝ている冒険者が何人かいる。
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