ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

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第一章:人間編

第17話 ミニトレント

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 地下八階『水中洞窟』……

 無料の護衛達のお陰で戦闘はほとんどない。
 たまに倒し忘れたのが襲ってくるが、一匹ぐらいは問題ない。

「ハァッ!」
「……‼︎」

 剣を抜いて、空飛ぶ紫色の魚『スカイフィッシュ』の胴体を半分に斬り裂いた。
 空魚は葉っぱのような形で、体長は二メートルを超える。
 四枚のヒラヒラした尾びれを羽根のように使って、空中と水中を泳ぎ回る。
 動きは素早いが、身体は柔らかいから倒しやすい。

「とほほ、これだとお金になりませんね」
「大事なのは金だけじゃない。今は経験を積んでいるんだ」
「経験ですか? 世の中、お金だけじゃないですね」
「その通りだ。経験は金に変えられるからな」

 メルが情けない感じに湿った地面に落ちている、80ギルの魔石を拾っている。
 甲斐性なしの俺の所為で、苦労しているとでも言いたいのだろうか?
 誤解を生むから、そんな悲しい顔で落ちている魔石を拾うな。

 モンスターは結構倒しているから、弁当代は稼いでいる。
 アビリティのLV上げと宝箱の回収に来ているから、最悪赤字でも構わない。
 使ったお金はあとで回収できるから、金の心配をする必要もない。
 生きて帰れたら、美味いものを腹一杯食べさせてやるよ。

「経験と言えば、七階の宝箱も一階の宝箱と同じ経験なんですか? 七階なら七倍の経験が欲しいです」
「確かにそうかもしれないな」

 疲れてきたのか、欲張りメルが不満を言ってきた。
 言われてみたら、魔石は一階ごとに買取り金額が10ギルずつ増える。
 七倍の経験は無理でも、中身が変わるタイミングで二倍、三倍にしてほしい。

 だけど、世の中そんなに甘くない。
 せいぜい青い宝箱一個に、赤い宝箱三個分の経験があるぐらいだ。

「古代結晶の値段は神銅の五倍はある。十階なら十倍だ。希望通りに倍になっているから我慢するんだな」
「結局は経験よりもお金なんですね」
「それでも倍になった方が嬉しいだろ。よし、愚痴は終わりだ。無いものはないだ」
「はぁーい」

 俺は金の話は好きだが、手に入らない金の話は嫌いだ。
 不満があるなら、牛乳でも飲みながら、休日の台所でババアと話せばいい。
 結婚と病気と老後の話は、俺の前では絶対にするな。

「少し休憩する。次の階層は暑いからバテるなよ。水は小まめに飲んで、疲れたら休憩しろ」

 黒い湿った岩壁に白い空間が見えてきた。
 九階への階段に入ると、階段に座って小休憩する。

 水中洞窟、ジャングル、沼地と水場が連続で続いている。
 服は湿って重くなるし、体力は奪われやすくなる。
 精神的にも不快指数が急上昇だ。

「隊長、水が無くなったら何を飲めばいいんですか?」
「安心しろ。十階で水を高額で売っている親切な人達がいる。お前ならタダで貰えるぞ」
「わぁー、それなら安心ですね」

 唾でも飲んでいろと普段なら答えるが、もっと良い手があるから教えてやった。
 十階の階段に買取り冒険者がいるから、水以外にも弁当もタダで手に入る。
 いざという時は二人分貰ってきてもらう。悲しい顔はその時にしろ。

 ♢

 地下九階『ジャングル』……
 
 薄茶色の太い木に、植物の太い蔓が巻き付いていたり、ぶら下がっている。
 焦げ茶色の少し柔らかい地面からは、腰の高さまである、剣のような緑色の草が生えている。
 視界は悪く、歩きにくく、暑苦しいと……とにかく厄介な場所だ。

「『ミニトレント』と木を間違えるなよ。色の濃い木は全部モンスターだと思え」
「本物を探すんですね。あれ? 偽物ですか?」
「木の偽物でも、モンスターの本物でもいい。とにかく気をつけろ」

 九階のモンスターは『ミニトレント』という茶色い動く枯れ木だ。
 高さは俺と同じぐらいで動きは遅い。逃げるだけなら簡単に出来る。
 主な攻撃は木の枝の両腕を振り回すだけだ。
 遠距離から弓矢で攻撃するのが一番楽な倒し方だ。

「隊長の魔法なら、一方的に倒せますね」
「その通りだ。ここは護衛はいらないから、俺が直々に倒してやろう」
「やっとお金が稼げますね」

 ミニトレントの簡単な説明を終わらせると、移動を開始した。
 いつまでも他所のパーティを付けていると怪しまれる。
 人目のない場所で襲っているとか変な噂が広がりそうだ。

「ハァ、ハァ……本当に暑いですね。髪の毛がベタベタします」
「それは海水の所為だな」

 メルの髪が風呂上がりのように濡れてペタンとなっている。
 顔からは汗が噴き出していて、赤くなっている。
 これだと汗かきなのか、疲れているのか分からない。

「髪よりも周囲を警戒しろ。そんな気持ちだと死ぬぞ」
「すみません——」

 気の緩んでいるメルを注意していると、木の葉が擦れる音が聞こえてきた。

「シィー、何かいる……」
「‼︎」

 素早く人差し指を口の前に立てて、静かにするように小声で言った。
 ミニトレントなのか、冒険者なのか分からないが、気配を消して待つ事にした。

「……?」
「あれがミニトレントだ。色の濃さを覚えておくんだぞ」
「はい」

 待っていると地面の草を踏み倒しながら、焦げ茶色の枯れ木が現れた。
 直径六十センチ程の幹に、黒い目や口が模様のように付いている。
 こっちには気づいてないようだ。少しずつ接近した。

 五メートル先の地面に魔力を流して、ミニトレントの足元に魔力を溜めていく。
 今回は四角い岩壁を攻撃用に鋭く尖らせて、地面から勢いよく突き出す。
 巨大な岩杭で足から頭の先まで貫通させるイメージだ。
 攻撃準備が出来たので、早速薪割り開始だ。

「食らえ」
「ギィー‼︎」

 バキィン‼︎ 地面から突き出た岩杭が動く薪を縦に割った。
 動く薪が良い声で叫んで、左右に分かれて地面に倒れた。

「凄いです! いつもの壁と違いました!」
「壁は防御用で、岩杭は攻撃用だ。岩の形を変えるぐらいは余裕で出来る」

 ミニトレントを瞬殺した事で、メルが俺の強さを再認識したようだ。
 茶色い瞳をキラキラ輝かせている。ついでに博識なのも教えてやろう。
 地面から魔石と『ミニトレントの板』を回収した。

 この板は厚さ三センチ、縦横三十センチの正方形で鉄板並みに頑丈だ。
 これだけでも盾の代わりに使用できる。
 上着の中に入れておけば、普通の服が鎧に早変わりだ。

「へぇー、そうなんですか。貧乏くさいですね」
「……」

 急激にメルのテンションが下がった気がする。こういう節約術は興味がないらしい。
 この階に宝箱はないし、適当に遭遇したミニトレントを倒して尊敬させるとしよう。

「次が最難関だ。十階の宝箱を回収したら、沼地は見晴らしがいいから、かなり楽だぞ」
「涼しいなら何処でもいいです」

 ミニトレントを七体倒すと、ジャングルの中に白い階段が見えてきた。
 階段の中は涼しいから、身体が冷えるまで休憩しよう。
 汗なのか、水なのか全身水浸しだ。

「タオルがあるから、これで身体を拭け。少しはサッパリするぞ」
「はい、ありがとうございます」

 大人だから使用前のタオルを貸してやった。
 タオルで拭いてもいいが、ほとんど意味はない。
 次もジャングルで、帰りもジャングルを通らないといけない。
 服も収納鞄と同じ防水加工にしたい。

「無理なら言えよ。抱えて帰るのは嫌だからな」

 小休憩を終わらせると階段を下りた。目の前には十階のジャングルが見える。
 これ以上無理なら、メルには階段で待機してもらう。宝箱の回収は俺だけでも出来る。

「大丈夫です。あと少しだから頑張ります」
「そうか。じゃあ、ササっと終わらせるぞ」

 余計なお世話だったようだ。大丈夫だと言われてしまった。
 ただの強がりかもしれないが、本人がやる気なら仕方ない。
 それに階段に一人で置いておくと、変な冒険者に誘拐されそうだ。
 階段も絶対に安全とは言えない。
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