上 下
11 / 172
第一章:人間編

第11話 盗賊

しおりを挟む
「これは……⁉︎」
「どうかしたんですか?」

 メルが家に暮らし始めて、八日が経過した。
 いつものようにスライムを倒して家に帰ると、寝る前にメルを調べた。
 すると、昨日までなかったものがあった。

「短剣LV1と職業を習得している」
「本当ですか!」
「ああ、本当だ。盗賊になっている」
「えっ、盗賊ですか……」

 喜ぶべきだと思うが、盗賊はちょっと微妙な職業だ。
 職業を教えると、喜んでいたメルが急に複雑そうな顔になった。
 心当たりがあるのだろうか?

 泥棒だから、孤児だからと盗賊になるとは限らない。
 実際に盗んでいたとしても、俺の物を盗まなければ何も問題ない。

「盗賊は優秀な職業だ。短剣と弓と素早い動きが得意で、宝箱とモンスターの位置も分かる」
「へぇー、凄い職業なんですね」

 良い職業はあるけど悪い職業はない。
 盗賊の長所を教えてやると、メルは少し安心したようだ。
 それどころか凄い職業を習得したと思い始めている。

「ああ、その通りだ。それに職業も成長する。俺の魔法使いなら、魔法剣士と魔術師になれる」
「だったら、私も魔法盗賊になれるんですね」
「ああ、可能性はあるぞ」
「わぁーい!」

 魔法盗賊なんて職業は聞いた事ないが、子供も大人も夢を見る事を忘れたらいけない。
 それに職業には上位職業がある。
 魔法使いなら、剣と魔法が得意な『魔法剣士』、さらに強力な魔法が使える『魔術師』がいる。
 どちらか一つしか選べないが、強化されるのは間違いない。

 本棚から職業図鑑を取り出して、盗賊の習得アビリティを調べてみた。
 職業限定の特別なアビリティが存在する。
 盗賊なら宝箱を見つけると、『宝箱探知』というアビリティを習得できるみたいだ。
 まだ戦力として期待できないので、メルには宝箱発見器として活躍してもらおう。

「とりあえず宝箱を開ければいいみたいだ。明日は三階と四階を探してみるか」
「私が三階に付いて行っても大丈夫なんですか?」

 明日の予定を話すと、メルが心配そうに聞いてきた。
 二階の巨大蚊との戦闘を諦めたから、危険だと心配なんだろう。
 戦わせるつもりはないし、週末に七階まで行った。
 子供を護衛しながら四階ぐらいは余裕で行ける。

「三階と四階は見晴らしのいい草原だ。俺から離れないようにすれば問題ない」
「そうですね。いつも通りに隊長が守ってくれるなら安心です」
「当たり前だ。三~四階のモンスターは俺の前ではいないのと一緒だ」

 明日の予定が決まったので、あとは細かな点を話すだけになる。
 命懸けで守るつもりはないが、弱小モンスターを追い払うぐらいはしてやる。
 メルは怯えた子猫のように、俺の後ろに隠れていればいいだけだ。

「昼飯はダンジョンで食べるから、トイレ用の紙を忘れるなよ」
「分かりました。お昼ご飯は私が用意しますね」
「ああ、任せる。変なものは買うんじゃないぞ」
「はい、期待してください!」

 張り切っているメルに昼飯代千ギルを渡した。
 週末に町で遊んで美味しい店でも見つけたのだろう。
 お菓子とケーキ以外なら許してやろう。

 ♢

 一週間経って復活した、一階の宝箱四個は昨日取ってしまった。
 残り三個はバラバラに復活しているから、誰かがたまに宝箱を開けているようだ。
 二階は今日復活しているはずだが、三階と四階に青い宝箱がないか探してみたい。

 青い宝箱にはアビリティ付きの特別な装備品が入っている。
 メルに装備させれば、五階の探索も安全に出来る可能性がある。
 だけど、簡単には手に入らないので期待するだけ無駄だ。
 一階の青い宝箱は見つけられていない。

「今日の昼ご飯は私が作ったんですよ」
「そうか、それは楽しみだな」
「肉団子のスパゲッティです」

 一階はメルを先頭に炭鉱迷路を進んでいく。
 昼飯を買うようにお金を渡したのに、早起きしてババアと一緒に作っていた。
 千ギル程度の端た金を節約する為に時間を使うなら、勉強時間に使った方がいい。
 クソ不味かったらすぐにやめさせてやる。

「宝箱の気配を感じるか?」
「何も感じないです」
「そうか……」

 二階に到着すると先頭を交代して、三階への階段に向かって進んでいく。
 一応宝箱の気配を聞いてみたが、やっぱり感じないようだ。
 宝箱のアビリティを習得するまでは、今まで通りに目視で探すしかない。

「昨日の夜にも説明したが、時間があるからもう一度説明するぞ」
「お願いします」

 冒険者が少し前に通ったのだろう。
 巨大蚊が全然いないので、地下三~四階『縦穴草原』の説明をした。
 縦穴草原は地面に空いた大きな穴に出来た草原だ。
 天候は晴れで、あるのは高い岩壁、緑色の草、地面から突き出た岩と木しかない。

 三階には『ビッグアント』と呼ばれる巨大アリが生息している。
 四階には『ホーンラビット』と呼ばれる、小さな角が頭に生えた白ウサギがいる。
 どちらも大群に襲われると非常に危険なモンスターだ。

「隊長でも危ない時があるんですか?」
「当たり前だ。人間相手でも五対一なら逃げるに決まっている。俺が危ないと思った時は、近くの冒険者に助けを求めて階段に逃げるんだな」
「えぇー! 一緒に逃げましょうよ!」
「逃げられる時は逃げるに決まっている。逃げられない時の話をしているんだ」

 万が一の事態に備えて対処方法を教えた。
 メルと比べれば、俺は超人的な強さかもしれないが、俺は文化系の人間だ。
 体育会系のような馬鹿力は発揮できない。

 人間相手の喧嘩は一対一までしかやらない。
 本当に危険な時は子供を置き去りに全力で逃げる。
 俺はそういう男だ。自分の身は自分で守れるように早く強くなるんだぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~

きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ 追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。 ♢長めあらすじ 100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。 ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。 ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。 主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。 しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。 しかし。その無能スキルは無能スキルではない。 それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。 ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

処理中です...