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第一章:人間編

第7話 仕事帰り

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 地下一階はそこまで広くない。六時間もあれば隅々まで探し回る事が出来る。
 倒したモンスターは時間が経てば復活するので、全部倒しても明日の分は問題ない。

「今日はここまでだ。魔石とスライムゼリーを換金したら、晩飯を食べて家に帰るぞ」
「ふぅー、終わりました」
「まだ終わりじゃない。階段が残っている」
「あっ、そうでした……」

 最後の行き止まりまで、キチンと調べ終わると階段に戻った。
 仕事終わりを教えると、メルはひと安心したが、666段の階段を忘れている。
 長い階段を見上げて絶望すると、諦めて、ゆっくり上り始めた。
 仕方ないから収納鞄だけは持ってやろう。

「ハァ、ハァ……」

 昼休憩に一回ダンジョンから出た後に、もう一度ダンジョンに入った。
 階段は二往復目だ。両足はパンパンになっているから、明日は絶対に動けない。
 
 赤い宝箱は四つあって、四個の神銅を手に入れた。
 手に入れた神銅を三個使って、『ブロンズダガー』を手に入れた。
 アイアンダガーの方が攻撃力は高いから、予備武器として持たせておく。

「うぅぅ、もう一歩も歩けないです」
「じゃあ、ここに泊まるしかないな。風邪引くなよ」
「あぁー、大丈夫です! 歩けます!」

 ダンジョンから出ると、メルが地面に座り込んだ。
 置いて行こうとしたら、慌てて付いて来た。まだ大丈夫そうだ。

「明日もやれそうか?」
「大丈夫です。やれます」
「だったら、明日は地下二階に行くぞ」
「はい、頑張ります」

 夕暮れ時の町中を、換金所に向かって歩いていく。
 明日の予定を話したら、メルは大丈夫だと言った。やる気はあるようだ。
 まあ、この程度で弱音を吐くようなら使いものにならない。

「お前はここまでだ」

 冒険者ギルドが経営している換金所が見えてきた。歩くのをやめて立ち止まった。
 今日の昼にも換金に来たが、冒険者の知り合いがいる場所にはあまり行きたくない。
 俺が子供を連れていたら、馬鹿が冷やかしにやって来る。
 だから、近くの食堂に入って待機してもらう。

「ほら、金をやる。好きな物でも食べて待っていろ」
「はぁーい」

 収納鞄から財布を取り出すと、昼と同じように500ギル渡した。
 あの店の料理なら350ギルもあれば、子供の腹なら腹一杯にしてくれる。
 残りはお小遣いとして持たせておく。お菓子ぐらい買いたいだろう。

「さっさと換金するか」

 メルが食堂に入るのを確認すると、赤茶色の壁の平たい建物に入った。
 白い岩床には冒険者ギルドの模様が黒で塗られている。
 コの字型の仕切りのあるカウンターには、職員が三十人近くも待機している。
 その中で顔見知りの赤毛オヤジのカウンターに収納鞄を置いた。

「換金してくれ」
「また来たのか……しかも、スライムの魔石と素材なんて……どうかしたのか?」
「ただのリハビリだ。用事があるからさっさと換金しろ」
 
 久し振りに現れた俺が、二度もやって来たのが気になるようだ。
 メルの黒い収納鞄から中身を取り出しながら、色々と聞いてくる。

「怪我しているようには見えないな。Eランクのお前がスライム狩りとか笑えないぞ」
「口じゃなくて、手を動かせ。こっちはお前と違って用事があるんだ」
「用事は一人じゃ出来ないぞ。どこかのパーティを紹介してやる。まだ若いんだから、そこでやり直せ」

 赤毛オヤジの見当違いの説教が面倒くさい。
 俺は一度も失敗した事がないから、やり直す必要がない。

「使えない奴なんて邪魔だ。余計なお節介なら他の奴らに焼け。まだ換金できないのか?」
「もう終わる。ほら、持っていけ」
「フン。他人の心配よりも自分の心配をするんだな。仕事が遅過ぎる。クビにされないように頑張るんだな」
「お前こそ余計なお世話だ。さっさと用事に行け」

 カウンターに置かれた九枚の硬貨を掴むと、換金所から出た。
 この程度の額を換金するのに時間がかかり過ぎる。
 お陰で換金に来ていた冒険者に顔を見られてしまった。
 明日には俺が復活したという噂が広がるかもしれない。

「仕方ない。俺だけでもう少し深い階層に行くか」

 食堂に向かいながら考えてみた。冒険者ランクはF~Aまである。
 Eランクになる条件は、11~20階に生息するモンスターの素材を一定数換金する事だ。
 赤毛オヤジの言う通り、Eランク冒険者が一階にいるのは不自然だ。
 怪しまれないように、五階のウルフでも倒すとしよう。

「あそこか」
 
 三十人ぐらいしか入れない小さな食堂に入ると、メルを探した。
 四人用のテーブル席に一人で座っている。少し寂しそうな感じがする。
 早く友達を作った方が良さそうだが、俺が紹介できるわけがない。
 頑張って自分で見つけるんだな。
 
「チキンが好きなのか?」

 昼と同じ骨付きチキン、サラダ、パンが付いたセットメニューを食べていた。
 テーブルに座ると、黒い収納鞄を返しながら聞いた。

「あっ、はい。早く筋肉を付けて、役に立ちたいので」
「そんな事は気にしないで、好きなものを食べればいいんだ。毎日食べていれば自然に大きくなる」
「はい、分かりました」

 俺が肉を食べろと言ったから、それを素直に実行しているようだ。
 自分の子供なら可愛いと思うんだろうが、俺は子育てをしているわけじゃない。
 優秀な冒険者を育てている。言われた事しか出来ない人間は考える力が育たない。

「ほら、今日の報酬だ。1800ギルある。貯金するのも好きな物を買うのもお前の自由だ」
「わぁー、ありがとうございます! 本当に貰っていいんですか?」
「嘘吐いてどうする? 遠慮せずに持っておけ」
「はい! あっ、隊長はどんな物が好きなんですか?」

 テーブルの上に猫が描かれた千ギル銀貨を一枚、鳥が描かれた百ギル銀貨を八枚置いた。
 メルは嬉しそうに受け取ると、ポケットに仕舞いながら、俺の好きな物を聞いてきた。

「特に好きな物はないが、強い武器なら欲しいな」
「武器ですか……分かりました」
「……一応言っておくが、俺に武器をプレゼントしようとか無駄な事は考えるなよ」
「えぇー! 駄目なんですか?」

 もしかしたらと思って聞いたら、予想通りだった。
 いかにも子供が考えそうな事だ。

「強い武器なら持っている。俺に必要なのは強い仲間だ。お前が強くなる方が役に立つ」
「そうなんですね。分かりました。頑張ります」
「ああ、そうしろ。家に帰ったら勉強だ。無駄な事を考えないように教育してやる」
「うぅぅ、よろしくお願いします」

 無駄遣いする前に注意した。俺には姉貴に貰った凄い剣がある。
 余計な事をしないように、家に帰ったら色々と教えてやろう。
 身体がどんなに疲れていても、頭だけは動かせるからな。
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