上 下
4 / 172
第一章:人間編

第4話 天才の原石

しおりを挟む
 帰りが遅いから家の前でウロウロ待っていると、走ってくるメルの姿が見えた。
 歩いてやって来たら、役立たずの怠け者だと叱れたのに面倒なヤツだ。

「37分だ。道にでも迷っていたのか?」
「ハァ、ハァ……す、すみません」

 疲れ果てたのか、俺の前まで走って来ると地面に座り込んだ。
 遅れた理由を聞いているのに、また謝るだけで答えようとしない。
 
「謝るのだけは得意なようだ。初日だから許してやる。その冷えたパンはお前が全部食べろ」
「は、はい……ありがとうございます」
「食べたら次の仕事を与えてやる。家の中に入って、手と顔を洗え」

 馬鹿にするように軽く笑って許してやると感謝された。
 パサパサのパンが食べられるのが嬉しいようだ。

 風呂場で手と顔を洗わせて、台所の冷蔵庫からジジイの牛乳瓶を取り出した。
 食費は俺が用意するように言われたが、文句は言わないだろう。
 部屋に連れていって、パンと一緒に食べさせた。

「はぐっ、はぐっ!」
「誰も取らない。ゆっくり食べろ」
「は、はい!」

 食べるのも早いようだ。三分もかからなかった。
 食べ終わったので、約束通りに次の仕事を教えてやろう。

「俺の仕事は冒険者だ。お前の仕事はその手伝いだ。今から言う、『アビリティ』と呼ばれる能力を習得してもらう。習得できれば仲間として給料を払ってやる。分かったな?」
「はい、頑張ります!」
「頑張るだけなら馬鹿でも出来る。パンみたいに遅れて持ってきたら失格だ。制限時間は一週間だ。習得できない時は家から出ていけ。いいな?」
「は、はい……」

 頑張ると言ったくせに、習得する自信はないようだ。
 失敗した時の罰を冷酷に教えてやると、沈んだ声が返ってきた。

 まあ、謝ると食べる以外は何一つ上手く出来ていない。自信がないのも仕方ない。
 幸せな生活を期待して、この家にやって来たのなら諦めろ。
 馬鹿姉貴が二度と孤児を送ろうと思わないように、お前には徹底的に後悔してもらう。

 習得してもらうアビリティは、『筋力上昇』『体力上昇』『調べる』の三つだ。
 さっきの修業で足りない部分は見させてもらった。

 アビリティとは条件さえ満たせば、誰でも習得できる技術や能力のようなものだ。
 指定した三つの初級アビリティは、大人なら誰でも習得しているものだ。
 だが、誰でも習得できるが、誰でも簡単に習得できるわけではない。
 簡単に習得できるアビリティを指定したりしない。

『筋力上昇』——重い物を持ち上げるのに役立つ。重い剣を振り回していれば習得できる。
『体力上昇』——長時間動いても疲れにくい身体になる。その辺を走り回っていれば習得できる。
『調べる』——手で触れた対象を調べる事が出来る。勉強すれば自然と習得できる。

「まずはお前が習得しているアビリティを調べる。手を握るから好きな方を出せ」
「お、お願いします……」

 アビリティの簡単な説明を終えると、メルに手を出させた。
 習得アビリティを見るには、身体に触れなければならない。
 俺の調べるはLV4で一人前程度の力がある。
 アビリティを実戦で使うなら、最低でもLV3以上は必要だ。

【名前:メル 年齢:7歳 性別:女 身長:121センチ 体重:18キロ】

 少し怯えた感じで出してきた右手を握ると、調べるを使った。
 メルの身体の前に白い文字が浮かび上がった。
 基本情報はどうでもいいので、習得アビリティを確認した。

『空腹耐性LV4』『物理耐性LV4』『自然治癒力LV3』『忍耐力LV3』『体力上昇LV2』『筋力上昇LV1』『調べるLV1』——

「⁉︎」

 何だ、これは? 最低最悪のクズ親もいたもんだな。
 気分が悪くなるものを見てしまった。アビリティは習得した順番に並べてみた。
 最初に空腹耐性、次に物理耐性、自然治癒力なら、どんな環境で生活していたのか大体分かる。
 右手をよく見てみたら細かな傷が見える。いや、これは俺がやったのかもしれない。

「あ、あの……どうですか?」
「……合格だ」
「えっ?」

 右手を握ったまま俺が不機嫌そうに黙っているから、メルが聞いてきた。
 約束は約束だ。右手を離すと合格だと教えてやった。
 新しい課題を用意して、一週間も付き合うつもりはない。
 さっさと仕事させてやる。

「指定したアビリティは習得していた。明日から仕事だ。自分の食費ぐらいは稼げるようにしてやる」
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいい。まずは武器だな……短剣なら少しは素早く使えるだろう。これを持ってみろ」
「はい!」
 
 鍵の付きの棚から一番軽そうな短剣を探して、それをメルに渡した。
 全長30センチ以下、重さ350グラム程度だ。
 長剣の三分の一程度の重さだから、三倍は速く振り回せる。

【アイアンダガー:短剣ランクN】——地上製の鉄の短剣。

「どうだ、使えそうか? 無理なら正直に言え。嘘を吐かれる方が迷惑だ」
「えーっと、使えると思います」
「だったら、それを使え」
「ありがとうございます」

 俺の質問にメルは、右手に持った短剣を軽く振り回してから答えた。重さは問題ないようだ。
 あとは安っぽい服をどうにかして、髪を美容院で綺麗にさせよう。
 俺の隣を歩くなら、それなりの格好になってもらわないと俺が恥をかく。

「次は服を買いに行く。汚れた服で隣を歩かれると笑われてしまう……とりあえず、コレを着ろ」
「うぅ……すみません、ありがとうございます」

 タンスの中から適当に黒色の上着を取り出すと、メルに投げ渡した。
 鍛えれば少しは使えそうだが、駄目なら姉貴に手紙を送って、使った費用を請求する。
 久し振りのダンジョンだが、メルを鍛えるついでに、雑魚モンスターでも倒してみるか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

北の魔女

覧都
ファンタジー
日本の、のどかな町に住む、アイとまなは親友である。 ある日まなが異世界へと転移してしまう。 転移した先では、まなは世界の北半分を支配する北の魔女だった。 まなは、その転移先で親友にそっくりな、あいという少女に出会い……

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~

きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ 追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。 ♢長めあらすじ 100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。 ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。 ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。 主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。 しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。 しかし。その無能スキルは無能スキルではない。 それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。 ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

処理中です...