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「ちょ、ちょっと、やめてよぉ!」
「凄え、柔らかけぇぞ!」
「俺も俺も」
「あっはは!」

(くだらない)

 授業終わりの休憩時間、クラスで一番太っている男子の野田が、同じクラスの男子の木戸きど、山口、大塚おおつかにおっぱいをめちゃくちゃに揉まれていた。太っちょ眼鏡の野田は嫌がっているようにも見えるけど、本気で抵抗するつもりがあるのならば、背後の山口の身体を掴んで放り投げればいい。野田の力ならそのぐらいは出来るはずだ。

「あっはは。なぁ、本当に柔らかいのかな?」

 涼介が不意に僕に聞いてきた。そんなの揉めば分かるけど、男と女の違いは実際に揉んだ人にしか分からない。つまり僕には分からない。

「興味があるなら揉みに行けばいいだろう」
「いやいや、揉むなら女子でしょ。野田のはおっぱいじゃなくて脂肪だろ」

 僕も野田と女子のおっぱいのどちらか一つを揉んでいいのなら、迷わずに女子のおっぱいを選ぶと思う。でも、女子のおっぱいと涼介とのキス、そのどちらかを選べるのなら、ちょっと答えに迷ってしまう。涼介は小さくて柔らかいそうな唇をしている。
 
「馬鹿だなぁ~、おっぱいも脂肪だろ。野田の脂肪と一緒だよ」
「いやいや、中島、おっぱいと脂肪は全然違うって! ほら、俺の太ももとか尻とか揉んでおっぱいだと思うか? 揉んでみろよ!」
「ちっ、しょうがねぇ。一回だけだぞ」

 もう一人の男友達の中島慎哉なかじましんやが、わざわざ席から立って僕達の元にやって来た。中島が来なければ僕が確かめられていたはずだ。中島は椅子から立ち上がった涼介の太ももと尻を、嫌々ながらも念入りに揉んで確かめている。嫌なら僕が代わりにやりたいぐらいだ。

「きゃあ~♡ 中島さんのエッチ♬」
「やめろ気色悪い。これはおっぱいじゃない。ただの脂肪だ」

 触られながら変な声を上げる涼介の尻をパシィンと中島が叩いた。また涼介が変な声を上げる。その変な声に僕はモヤモヤしながらも反応していた。変な気持ちだ。

「きゃあ♡ ほら、やっぱり脂肪とおっぱいは違うんだよ。あきひともそう思うだろ?」

 涼介の視線だけじゃなく、クラスの女子数人の視線が僕に集まっている。さっきまで尻を揉まれて変な声を上げていた男に話しかけられても困るだけだ。ここは僕だけでもクールに行かないとクラスの立ち位置が変態枠に固定されてしまう。

「ねぇ、二人とも。女子のおっぱい触ったことあるの? ないのにおっぱいと脂肪の違いなんて分かる訳ないでしょう。まずは彼女を作ってから話そうよ。マジで恥ずかしいよ」
「えっ、えっ、あきひと? お前もこっち側だろ?」

 おっぱいと脂肪の違いなんて分かんないけど、こんな話をしている男子高校生は間違いなく彼女が出来たことが一度もない。男子のおっぱいを喜んで触っているあの三人も同じだ。僕はその中に入りたくはない。

「あっはは、高山の言う通りじゃん。確かに揉んだことないと分かる訳ないじゃん。あいつら童貞感半端ないんですけど」
「ちょっと、美波みなみ、やめなよ! 可哀想だよ」
「「「くすくすくす♬」」」

 教室の中に女子達の忍び笑いが木霊する。木戸、山口、大塚の三人は恥ずかしそうに野田から手を離して、自分達の席に戻って行った。これに懲りて、野田のおっぱいが揉まれる回数も減るだろう。

 


 


 
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