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第7話

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「さて、ルナマリアからの仕送りと手紙が来たのだが、このお金を何に使えばいいのか分からない。またまた、知っている人がいたら教えてほしいのだが……」

 ゲーム発売からもう1か月は経過しています。プレイヤーの中には【娘っち】を攻略した人もチラホラといました。

『ああ、あれは娘に着させる服があるでしょう。あの服を購入するのに使えるんだよ。初期は《訓練服》《冒険者の服》《体操服》しかないけど、仕送りを使えば、《軍服》《セーラー服》《浴衣》とか色々着せられるようになるんだよ。まあ、私は死んだ姉の仕送りの金を、そんな邪な欲望を満たす為には使えなかったけどね』

「確かに、ゲーム開始直後なら喜んで使っただろうけど、今はそんな気持ちはないだろうな。これが噂の母性に目覚めたというものなんだろうな。それに最近なんだが、コーヒーを飲む時に小指を立てて飲むようになったし、トイレも何故だか個室を使うようになったんだよなぁ~。やっぱり性別の違う母親役は男にはキツいよ」

『分かる、分かる! 私も試しにスカートを履いたら、何故だか違和感がなかったんだよ!』『私も最近は髪を伸ばすようになったんだよ!』『分かる、分かる。私もこの間、全身脱毛しに行って、今は全身ツルツルで触り心地が最高なんだよ!』

 おそらく、このフルダイブVRゲームの売れ行きが悪いのは副作用があるからでしょう。男性プレイの多くが《乙女化》しているようです。

 それでも、一部の女性プレイヤー達は花嫁修行と子育ての予行演習としてゲームを使っているようなので、意外と学習面で活躍しているようです。

「さてと、私はルナマリアの冒険を見てくるよ。そろそろ第3ステージに到着するだろうから」

『あぁ、第3ステージまでは楽勝だから安心して見てていいぞ。まあ、訓練終わったから、もう遅いけど、第4ステージは難関なんだよなぁ~』
 
 ネタバレは嫌なので、ほとんど聞き流します。けれども、確かに第4ステージは難関だったようです。第4ステージで多くの娘達が倒されたようです。

 ★

「《ダーク・ウルフ》⁇」

「ええ、最近なんですけど凶暴化した野生動物が多く確認されているのです。通常とは違い身体の色が紫色に変化していて、とにかく凶暴でモンスターさえも倒してしまうんですよ」

 一角栗鼠の角を取って来た事で、ルナマリアは冒険者組合から次のクエストを受ける事が出来ました。今は冒険者組合員のお姉さんからクエストの内容と注意事項を聞かされています。

「その《ダーク・ウルフ》を見つけて倒せばいいんですね?」

「ええ、その通りよ。でも、元はウルフだった所為か、単独行動せずに群れで行動している事が多いの。だから、戦うのなら慎重にね。下手したら数十匹に囲まれるような事になるかもしれないから。分かった?」

「はい、お姉さん。とっても危険だから十分に気を付けるんですね。分かりました」

 ルナマリアは自信のある良い返事で答えました。ママから厳しい訓練を受けたので、どんな可愛い相手でも、怖い相手でも油断せずに戦う事が出来ます。今回の相手は怖い狼です。可愛くないので、手加減は一切するつもりはないでしょう。

 ★

 トコトコトコとルナマリアは指定された場所を目指して進みます。指定された場所は《ジャングル》です。

『コーオ』『コーオ』と、今回は狼以外にも生物がいるようです。おそらくは鳥でしょうが、こんな鳴き声の鳥は知りません。軽くネットで調べてみても、まったくヒットしません。これがゲームの世界の常識なのです。現実と同じと考えるべきではないのです。

「この鳴き声はフクロウさんかな?」

 ルナマリアがそう言うのなら、フクロウで間違いないです。『コーオ』という鳴き声の鳥はフクロウです。

 ガサガサ、ガサガサ‼︎

(何かが近づいて来ている⁈ 木の上から銃で狙撃すれば一方的に倒せるかも……)

 茂みが激しく揺れています。強風が吹いている訳じゃないなら、間違いなく何かが、ルナマリアの方に向かってきている事を意味します。銃の最大の利点である中距離攻撃を活かす為に、ルナマリアは急いで木の上に登って、2丁のベレッタM92の銃口を揺れている茂みに構えました。

『ガルゥ‼︎』『ガルゥ⁉︎』と2匹のダーク・ウルフが飛び出して来ました。クンクンと周囲の匂いを嗅いでいるので、この辺に獲物が隠れていると思っているようです。

《ダーク・ウルフ》 通常の狼よりも身体が大きく、体色は全体的に紫色に変化している。素早い動きと頑丈な身体で、自分か、獲物か、どちらかが死ぬまで戦い続ける。

『ガルゥ!』『ガルゥ⁇』とまだ匂いを頼りに隠れている獲物を探しています。地面の近くを探しても見つかる訳がありません。獲物は木の上です。まあ、どちらが本当の獲物になるかは、すぐに分かります。

(とっても強そうだから、やり過ぎなぐらいがちょうどいいかも……行くよぉ~!)

 ガシャァ、ガシャァ、バァン、バァン、バァン、バァンと弾切れになるまで2丁のベレッタM92の引き金を引き続けます。1丁の装弾数は15発です。それが2丁なので、30発の銃弾の雨がダーク・ウルフ2匹に降り注ぎました。

『キャウン‼︎』『キャウン‼︎』

 いくら頑丈な身体でも、不意打ちで10発近くの弾丸をマトモに喰らえば倒されます。たった2匹のダーク・ウルフを倒しただけですが、とにかく1匹でも倒せばいいのです。これでクエストクリアなのです。

(まだ他にもダーク・ウルフがいるかもしれない。多分絶対にいるはず。銃声に気づいて集まって来る可能性もあるから、どうしたらいいんだろう?)

 もうクエストクリアですが、安全な街に帰るまでがクエストです。ルナマリアが思いついた方法は2つあります。木から下りて、急いで街まで走って帰るか。それとも、木の上で待ち構えて、やってくるダーク・ウルフを全て殲滅させるかです。

(冒険者組合のお姉さんが言ってたけど、数十匹に囲まれたら木の上でも安全じゃないよね。銃弾も足りなくなるだろし……やっぱり、ちょっとは移動しないと駄目だよね)

 スルスルと木の上から下りると、ルナマリアは走り出しました。この場に留まるよりは、少しは遠くに移動した方が大勢に囲まれるリスクは減らせると考えたようです。向かってくるダーク・ウルフに遭遇しない事を祈るばかりです。

 ☆

『ママへ。冒険の旅は順調です。ダーク・ウルフを倒した事でC級冒険者に昇格しました。天国のエステルお姉ちゃんの分まで立派なS級冒険者になれるように頑張ります。少しだけですが仕送りのお金を送ります。ママも元気に待っててくださいね』

「ぐっす、ぐっす、なんて良い娘なの!」

 ルナマリアを厳しく訓練した成果は確実に出ています。この調子ならばS級冒険者も夢ではありません。でも、そんなに簡単にクリア出来るゲームは存在しないのです。

 ★

 


 

 

 


 
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