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グラニテ 2
名探偵の生前
しおりを挟む「今回も中々に趣味の悪いスープだね」
「ええ、勿論です。日々精進致しております。名探偵に美味な料理を味わって頂くために」
夢野は不敵に微笑んだ。
「さて、出しますよ。お次の料理を」
「なんだか嫌な予感がするのですが」
日本の名探偵は容疑者を少し睨んだ。
『チャカポコチャカポコ、スカラカチャカポコ』
「夢野さん、本編ではないからとふざけてはいけませんよ」
「あら、乱歩さんは釣れないお方ですね」
「ワタクシが乗ってしまったら、ドイルさんの負担が探偵助手並みになってしまいますからね」
乱歩と目が合ったドイルは軽く一礼した。
「済まないね、私はワトソン君の様に突っ込むのが苦手でね」
「あら、そんな事ありませんよ。お解りですか。如何してこのお二人を名探偵とお呼びしているか」
「それは、一応ではあるが名探偵の生みの親だからではないのかい」
紳士は不思議そうにそれ以外にあるのかと云う様に答えた。
「いいえ、お二人とも名探偵ですからですよ」
郵便局長は二人の名探偵をさも意味ありげに見つめた。
「私はホームズの様な推理力はないよ」
「ワタクシも明智の様な能力はありませんよ」
「いいえ、お二人とも探偵経験者ではありませんか。そして迷探偵ではなく名探偵。解決しているではないですか。いくつもの事件を」
「乱歩君も探偵の様な事をしたことあるのかい」
ホームズは興味しかないと云った目で明智を見た。
「いえ、作家になる前は中々長続きしなくて職を転々としていたのです。その時に探偵事務所の仕事をしたいた程度です。ドイルさんの様に本格的ではないですよ」
「いや、私は私の正義に従っただけだ。不当な冤罪や私利私欲にまみれた傷のなめ合い、かばい合いが嫌だっただけだよ。それに乱歩君の様に事務所に勤めていた訳でもないからね。あくまで私個人の行動さ」
「そう言えば乱歩さん。一度落ちていましたよね。探偵事務所の面接」
探偵作家は銃を撃ち込まれたような顔をした。
「夢野さん、そう言うことは言わなくて良いのです。何はともあれ政府からも居依頼を受けるような日本のホームズが居る岩井三郎事務所に所属できたのです。ですから、そう毎回ワタクシの傷を抉らなくても良いのですよ。夢野さん」
「酷いですよ、乱歩さん。私はこれだけを楽しみにしていたのに。貴男を弄ることだけを」
夢野は猫なで声で甘ったるく言った。
「夢野さん。『だけ』ではないでしょう」
「流石の乱歩さんです。本当ですね。推理力には自信があると云うのは」
夢野は悪戯っ子の様に妖しげな笑みを浮かべた。
「しかし、私にとってはどちらも名探偵です。甲乙つけがたい程の。そして有数のミステリ作家、探偵作家でもある」
夢野は勿体気に「しかし」と続けた。
「作家だけでは小説は書けません。優秀な編集者の方が居なくては」
夢野はチラリと威風堂々と図書館の中央に立っている豪華絢爛な時計台に視線を送った。
「飽きてしまわないか心配だったのです。元々少人数での食事会なので美食家の方に。ですので助かりました。ドイルさんが参加して下さったことは。 そして飽きてしまわない様に招待したのです。もう一人の美食愛好家を。もう直ぐ約束の時間なのですが」
主催者がそう云う人気作家達の後ろからとある作家が良く知っている声が聞こえてきた。
声がした方を見ると貧相な身体にもじゃもじゃの髪。皴々の和服にボストンバック。走って来たのか少し切れ気味の息。それは案の定新青年作家には馴染みのある編集者だった。
「はじめまして、A・C・ドイルさん。そしてご無沙汰ですなあ、平井太郎君」
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ありがとうございます!
私もミステリが好きで楽しく書いております。気に入って頂き光栄です。これからも応援よろしくお願い致します。