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第四話 雨月の祭り
雨月の祭り 拾
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「それって、どういう事」
藤華さんはけだるげな声で私に説明をしてくれた。
この雨月祭は雨月神社の主神、つまりは香果さん溜めた穢れを払う儀式だという事。祭りは季節ごとにやり、穢れを払わずに溜めてしまうと神の持つ霊力や肉体、ましてや人格や存在までも失うことがあるらしい。祭りの時は藤華さんが祝詞を奏上するそうだ。他には露店が出るなど私がよく知っている現世のお祭りと同じだそうだ。
「とは言え、一、二回やらなくとも大丈夫だけれどね」
「旦那、昔そう言って迷い込んだアヤカシばかり助けて、消えかかったことがあるのをオレは覚えていやすからな。だから旦那が断れないように日にちを決めて、町の行事にしてんですからね」
「その節は本当に申し訳ないと思っているよ」
「良いいですか旦那。今回は八雲さんもおりやすからいつもと違うんですぜ。それに香因の野郎だってここまであからさまに祭りを妨害してくるなんてことありやせんでしたぜ。それに旦那には色々言いたい事が山ほどありやしてね。この前なんか旦那は——」
また始まった。そうやって何時も旦那は云々。これが始まるととにかく長いのだ。
「って旦那本当に真面目に聞いているんですかい」
「なんだか、必死になっているのを見ていると面白くってつい笑ってしまうのだよ」
藤華さんはシャーと威嚇した。本気で怒っている合図だ。
「申し訳ない、申し訳ない。色々あったけれどしっとりと当日までには間に合わせるよ」
香果さんはニコリと笑った。
「本当にごめんなさい香果さん。そんな大切な時に」
「こちらこそ、本当に申し訳なかった。もし八雲くんが許してくれるのならまた祭りの準備を手伝って欲しいのだけれど手伝ってくれるかい」
「もちろん」
そうして私たちは翌日から先日の比にならない程忙しく働いた。
何とか前日までに準備を終わらす事が出来た。
「お疲れ様。八雲くん、藤華」
「香果さんもお疲れ様」
「明日はいよいよお祭りだから八雲くんは楽しんでね」
「あれ。二人は」
藤華さんは明日も仕事があるんでさぁと眠そうに言った。
「何か僕にも手伝える事って無いかな」
藤華さんは頭を傾げた後ハッと何かを閃いた。
「八雲さん、儀式が終わったら酒をオレのところまで運んでくだせえ」
「解ったよ」
「コラ、藤華。自分で飲むものは自分で運びなさい」
「え、藤華さんがお酒を飲みたいだけなら僕は運ばないよ」
「なんででさぁ、さっき良いって」
「だって運ぶ人が居たら無限に飲みそうだし」
彼はむうと口を尖らせて拗ねた。
「済まないね、八雲君。この神社では当日の神事はそこまで長くないのだよ。実際、藤華は直会を楽しみにいるくらいのだからね」
「なおらいって」
「直会とは、簡単に言うと飲み会みたいなものだね。神に捧げたものを食べることで人間と神が一体になるという考えからきたのだよ」
私は藤華さんの方を見ながら「嗚呼」と呆れの様な、藤華さんだしなという何とも言えない納得を得た。
藤華さんはけだるげな声で私に説明をしてくれた。
この雨月祭は雨月神社の主神、つまりは香果さん溜めた穢れを払う儀式だという事。祭りは季節ごとにやり、穢れを払わずに溜めてしまうと神の持つ霊力や肉体、ましてや人格や存在までも失うことがあるらしい。祭りの時は藤華さんが祝詞を奏上するそうだ。他には露店が出るなど私がよく知っている現世のお祭りと同じだそうだ。
「とは言え、一、二回やらなくとも大丈夫だけれどね」
「旦那、昔そう言って迷い込んだアヤカシばかり助けて、消えかかったことがあるのをオレは覚えていやすからな。だから旦那が断れないように日にちを決めて、町の行事にしてんですからね」
「その節は本当に申し訳ないと思っているよ」
「良いいですか旦那。今回は八雲さんもおりやすからいつもと違うんですぜ。それに香因の野郎だってここまであからさまに祭りを妨害してくるなんてことありやせんでしたぜ。それに旦那には色々言いたい事が山ほどありやしてね。この前なんか旦那は——」
また始まった。そうやって何時も旦那は云々。これが始まるととにかく長いのだ。
「って旦那本当に真面目に聞いているんですかい」
「なんだか、必死になっているのを見ていると面白くってつい笑ってしまうのだよ」
藤華さんはシャーと威嚇した。本気で怒っている合図だ。
「申し訳ない、申し訳ない。色々あったけれどしっとりと当日までには間に合わせるよ」
香果さんはニコリと笑った。
「本当にごめんなさい香果さん。そんな大切な時に」
「こちらこそ、本当に申し訳なかった。もし八雲くんが許してくれるのならまた祭りの準備を手伝って欲しいのだけれど手伝ってくれるかい」
「もちろん」
そうして私たちは翌日から先日の比にならない程忙しく働いた。
何とか前日までに準備を終わらす事が出来た。
「お疲れ様。八雲くん、藤華」
「香果さんもお疲れ様」
「明日はいよいよお祭りだから八雲くんは楽しんでね」
「あれ。二人は」
藤華さんは明日も仕事があるんでさぁと眠そうに言った。
「何か僕にも手伝える事って無いかな」
藤華さんは頭を傾げた後ハッと何かを閃いた。
「八雲さん、儀式が終わったら酒をオレのところまで運んでくだせえ」
「解ったよ」
「コラ、藤華。自分で飲むものは自分で運びなさい」
「え、藤華さんがお酒を飲みたいだけなら僕は運ばないよ」
「なんででさぁ、さっき良いって」
「だって運ぶ人が居たら無限に飲みそうだし」
彼はむうと口を尖らせて拗ねた。
「済まないね、八雲君。この神社では当日の神事はそこまで長くないのだよ。実際、藤華は直会を楽しみにいるくらいのだからね」
「なおらいって」
「直会とは、簡単に言うと飲み会みたいなものだね。神に捧げたものを食べることで人間と神が一体になるという考えからきたのだよ」
私は藤華さんの方を見ながら「嗚呼」と呆れの様な、藤華さんだしなという何とも言えない納得を得た。
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