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第四話 雨月の祭り
雨月の祭り 壱
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風薫る五月。
私はいつもの様に香果さんの屋敷でゆっくりしていた。
菖蒲の花が気力いっぱいに咲いていた。
彼女たちは風に自分の香りを分け与えては踊っている。
雀がその踊りに合わせて歌って、すっかり茂った葉桜は手拍子を添えていた。
葉から漏れる光は私や他の生き物、妖怪までも癒してくれる。
縁側には黒猫の藤華さんがあくびをしながら伸びていた。
『春眠暁を覚えず』とあるようにこの時期は草木や風に留まらず、太陽までもが心地よい眠りに誘ってくるのだ。
世間ではやれゴールデンウィークだのデートスポットなどと賑やかだが、彼女が居ない私には関係のないものだった。
そんな事よりも私が住んでいる妖怪だらけのこの町では、もうすぐ開催される春の祭りの準備で忙しかった。町一番の働き者の妖怪でも、どんなに日頃ぐうたらな妖怪でも関係なくこの時期はあれやこれやと忙しくなる
あと三十分後には私も香果さんと手伝いを交代する。私が休んでいるときは香果さんが仕事をやり、香果さんが休んでいる間は藤華さんに教わりながら私が仕事をする。要するにシフト制だ。
藤華さんの話によると、二人は雨月神社の祭りを取り仕切っているそうだ。
春祭りは多くのアヤカシが楽しみにしていて、いつも以上に活気に溢れるらしい。とは言え人間の参加者は私一人だが。
この町では春夏秋冬の年に四回祭りをやる。祭りの名前は雨月祭というそうで、この町で祭りと云うとこの雨月祭を指す。
正直に云うと私も祭りの開催が非常に楽しみにしていて、心浮かれているのも事実である。
そんなことを考えながら、ふと時計を見るともう直ぐ交代の時間。まだだらだらしている黒猫に「先に行っているよ」とだけ伝えて屋敷を出た。彼は「にゃお」と短い返事をし、日向ごっこを始めていた。
約束した時間の少し前に交代場所に着いた。ここで準備の手伝いを交代することになっている。
初夏とは言え晴れ晴れとした天気の中ではさぞ暑さも覚えることだろう。
心ばかりだがよく冷やした水分と塩分補給として塩大福を持って香果さんを待っていた。
しばらくすると彼が交代場所にやってきた。
太陽の光に反射する真っ白な肌に、襷掛けした和服姿。
少し滲んだ汗が妙に色っぽかった。
彼は私を見つけると優しく微笑んだ。しかし何故だか、翡翠の様な美しい目にはいつもの様な輝きが見当たらなかった。
「おはよう、八雲くん。いきなりで申し訳ないが、少し手伝って欲しいところがあるのだけれど良いかい」
「僕は大丈夫だけれど、香果さんは休まなくて良いの」
「ここだけやってしまいたくてね。しかしどうしても一人だと出来なくてね」
香果さんはそう言って微笑んだ。
私は彼のお願いにすぐに了承した。
「付いてきてくれるかい」
私は香果さんに着いて行った。
私はいつもの様に香果さんの屋敷でゆっくりしていた。
菖蒲の花が気力いっぱいに咲いていた。
彼女たちは風に自分の香りを分け与えては踊っている。
雀がその踊りに合わせて歌って、すっかり茂った葉桜は手拍子を添えていた。
葉から漏れる光は私や他の生き物、妖怪までも癒してくれる。
縁側には黒猫の藤華さんがあくびをしながら伸びていた。
『春眠暁を覚えず』とあるようにこの時期は草木や風に留まらず、太陽までもが心地よい眠りに誘ってくるのだ。
世間ではやれゴールデンウィークだのデートスポットなどと賑やかだが、彼女が居ない私には関係のないものだった。
そんな事よりも私が住んでいる妖怪だらけのこの町では、もうすぐ開催される春の祭りの準備で忙しかった。町一番の働き者の妖怪でも、どんなに日頃ぐうたらな妖怪でも関係なくこの時期はあれやこれやと忙しくなる
あと三十分後には私も香果さんと手伝いを交代する。私が休んでいるときは香果さんが仕事をやり、香果さんが休んでいる間は藤華さんに教わりながら私が仕事をする。要するにシフト制だ。
藤華さんの話によると、二人は雨月神社の祭りを取り仕切っているそうだ。
春祭りは多くのアヤカシが楽しみにしていて、いつも以上に活気に溢れるらしい。とは言え人間の参加者は私一人だが。
この町では春夏秋冬の年に四回祭りをやる。祭りの名前は雨月祭というそうで、この町で祭りと云うとこの雨月祭を指す。
正直に云うと私も祭りの開催が非常に楽しみにしていて、心浮かれているのも事実である。
そんなことを考えながら、ふと時計を見るともう直ぐ交代の時間。まだだらだらしている黒猫に「先に行っているよ」とだけ伝えて屋敷を出た。彼は「にゃお」と短い返事をし、日向ごっこを始めていた。
約束した時間の少し前に交代場所に着いた。ここで準備の手伝いを交代することになっている。
初夏とは言え晴れ晴れとした天気の中ではさぞ暑さも覚えることだろう。
心ばかりだがよく冷やした水分と塩分補給として塩大福を持って香果さんを待っていた。
しばらくすると彼が交代場所にやってきた。
太陽の光に反射する真っ白な肌に、襷掛けした和服姿。
少し滲んだ汗が妙に色っぽかった。
彼は私を見つけると優しく微笑んだ。しかし何故だか、翡翠の様な美しい目にはいつもの様な輝きが見当たらなかった。
「おはよう、八雲くん。いきなりで申し訳ないが、少し手伝って欲しいところがあるのだけれど良いかい」
「僕は大丈夫だけれど、香果さんは休まなくて良いの」
「ここだけやってしまいたくてね。しかしどうしても一人だと出来なくてね」
香果さんはそう言って微笑んだ。
私は彼のお願いにすぐに了承した。
「付いてきてくれるかい」
私は香果さんに着いて行った。
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