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第三話 愉快でハイカラな神様
愉快でハイカラな神様 玖
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「お兄さん待って」
妖怪の子供たちの元気な声が聞こえる。
「これをこうやって。ほら」
「アア、あと少しで取れそうなのに」
「教えるからこっちおいで」
里蓮くんは、妖怪たちと馴染むどころか、サッカーを教えるほど仲が良くなっていた。
彼が馴染めるかと云った心配は杞憂だったらしい。
「ボールが操れるようになったらこんな事もできるよ」
そう言って彼は、軽快にリフティングを始める。
周りの子供たちは目を輝かせて見ている。
「ねぇねぇ、いつかおれ、お兄ちゃんみたいになるよ」
「私はお兄ちゃんより強くなるから」
「はは、これでも俺は小学校入る前からやっているんだ。そう簡単には追いつかれないぞ」
里蓮くんは全てを忘れた様に笑う。
「だったら、じぶんは、お兄ちゃんをひょいと抜かしておどろかせてやる」
「ぼくも、たっくさん練習して、お兄ちゃんに負けないんだから」
「ははは。大口叩けるのもこれまでだ」
彼はこれでもかと、大きく移動すると遠いゴールにシュートを決める。
「ああ、もう。大人気ない」
「勝負するのに手加減して欲しいか」
「それはやだ」
小さい子たちはそう言いつつも健やかに笑う。
それを見てサッカー少年は真っ白な歯を見せて子供らしく笑う。
「お兄ちゃん、おっきくなってもまたサッカーしよう」
「今度は絶対負けないから」
子供たちは小さな胸で、大きく宣戦布告する。
「頑張れよ」
そう言って彼が子供たちの頭を撫でようとしたときだった。
手先や足先からゆっくりと、姿が空気に溶けて逝く。
「ああ、そうか、俺……」
「お兄ちゃん、何処行くの」
子供たちは悲しそうな顔をする。
「またあったらサッカーしようぜ」
若々しいアヤカシはにこりと笑う。
曇りなく澄み切った笑顔は、暖かな春の陽よりも眩しかった。
「香果さん、月詠さん、藤華さん、八雲さん、ありがとうございました。皆さんのお陰で何とかまだ、俺は俺としてやっていけそうです」
「なら良かった。くれぐれも無理はしないでね」
香果さんは我が子を見守る母の様に見送る。
「嗚呼、裁判が終わった後の暫くの間は、慣れないことも多いだろう。とりあえず生活が慣れるまでは俺が面倒を見よう。それにチームへの紹介もあるしな」
月詠さんはいつもの様にウィンクをする。
「ありがとうございます」
「まぁ、裁判を受けるまでも無さそうですがね」
気だるそうに猫は続ける。
「まぁ、何かありゃ旦那にでも会いに来てくだせえな」
「僕は浮世の人間だから、詳しくは無いから判らないけど。でも、きっと里連くんならこれからも大丈夫だと思うよ。だから、安心してね」
「そうだね、八雲君の言うとおり、君は大丈夫だよ。里蓮君。だから、前を向いてね。それと、君が選手になったら試合を見に行っても良いかい」
「ええ、もちろんです。その時はきっと勝ちますから」
里蓮君は曇りなく笑いながら、自信満々に言った。
「本当にお世話になりました。では、またどこかで会ったらその時は」
最後の最後まで言い切らずに姿は泡になって消えた。
「もう、心配は要らなそうだね」
香果さんはそう言っていつもの様に静かに微笑んだ。
「何だ、そこまで心配する必要も無かったじゃないか」
月詠さんは退屈そうに言った。
私はひとつ残った疑問を聞いた。
「これから里蓮くんは何処に行くの」
「彼は裁判、つまりは閻魔大王の所に行くのだよ。まぁ、最初は秦広王のところなのだけれどね。でも、大丈夫。きっと彼なら浄土にいけるから」
香果さんはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。
妖怪の子供たちの元気な声が聞こえる。
「これをこうやって。ほら」
「アア、あと少しで取れそうなのに」
「教えるからこっちおいで」
里蓮くんは、妖怪たちと馴染むどころか、サッカーを教えるほど仲が良くなっていた。
彼が馴染めるかと云った心配は杞憂だったらしい。
「ボールが操れるようになったらこんな事もできるよ」
そう言って彼は、軽快にリフティングを始める。
周りの子供たちは目を輝かせて見ている。
「ねぇねぇ、いつかおれ、お兄ちゃんみたいになるよ」
「私はお兄ちゃんより強くなるから」
「はは、これでも俺は小学校入る前からやっているんだ。そう簡単には追いつかれないぞ」
里蓮くんは全てを忘れた様に笑う。
「だったら、じぶんは、お兄ちゃんをひょいと抜かしておどろかせてやる」
「ぼくも、たっくさん練習して、お兄ちゃんに負けないんだから」
「ははは。大口叩けるのもこれまでだ」
彼はこれでもかと、大きく移動すると遠いゴールにシュートを決める。
「ああ、もう。大人気ない」
「勝負するのに手加減して欲しいか」
「それはやだ」
小さい子たちはそう言いつつも健やかに笑う。
それを見てサッカー少年は真っ白な歯を見せて子供らしく笑う。
「お兄ちゃん、おっきくなってもまたサッカーしよう」
「今度は絶対負けないから」
子供たちは小さな胸で、大きく宣戦布告する。
「頑張れよ」
そう言って彼が子供たちの頭を撫でようとしたときだった。
手先や足先からゆっくりと、姿が空気に溶けて逝く。
「ああ、そうか、俺……」
「お兄ちゃん、何処行くの」
子供たちは悲しそうな顔をする。
「またあったらサッカーしようぜ」
若々しいアヤカシはにこりと笑う。
曇りなく澄み切った笑顔は、暖かな春の陽よりも眩しかった。
「香果さん、月詠さん、藤華さん、八雲さん、ありがとうございました。皆さんのお陰で何とかまだ、俺は俺としてやっていけそうです」
「なら良かった。くれぐれも無理はしないでね」
香果さんは我が子を見守る母の様に見送る。
「嗚呼、裁判が終わった後の暫くの間は、慣れないことも多いだろう。とりあえず生活が慣れるまでは俺が面倒を見よう。それにチームへの紹介もあるしな」
月詠さんはいつもの様にウィンクをする。
「ありがとうございます」
「まぁ、裁判を受けるまでも無さそうですがね」
気だるそうに猫は続ける。
「まぁ、何かありゃ旦那にでも会いに来てくだせえな」
「僕は浮世の人間だから、詳しくは無いから判らないけど。でも、きっと里連くんならこれからも大丈夫だと思うよ。だから、安心してね」
「そうだね、八雲君の言うとおり、君は大丈夫だよ。里蓮君。だから、前を向いてね。それと、君が選手になったら試合を見に行っても良いかい」
「ええ、もちろんです。その時はきっと勝ちますから」
里蓮君は曇りなく笑いながら、自信満々に言った。
「本当にお世話になりました。では、またどこかで会ったらその時は」
最後の最後まで言い切らずに姿は泡になって消えた。
「もう、心配は要らなそうだね」
香果さんはそう言っていつもの様に静かに微笑んだ。
「何だ、そこまで心配する必要も無かったじゃないか」
月詠さんは退屈そうに言った。
私はひとつ残った疑問を聞いた。
「これから里蓮くんは何処に行くの」
「彼は裁判、つまりは閻魔大王の所に行くのだよ。まぁ、最初は秦広王のところなのだけれどね。でも、大丈夫。きっと彼なら浄土にいけるから」
香果さんはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。
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