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第三話 愉快でハイカラな神様
愉快でハイカラな神様 陸
しおりを挟む鳥居を抜けると、そこは住宅街の交差点だった。
鳥居を抜けると目の前に現れた交差点に戸惑いながらも「ここで間違えないです」と確信を持ったように言った。
そこは絵に描いた閑静な住宅街をそのままこの世界に持ってきた。そんなのどかな印象のところだった。
人通りはあまり無く、行き交う車も決して多くは無い。
その為か先程、通った自動車はかなりのスピードで通っていた。
出会い頭にぶつかりでもしたら一大事になることは容易に予想が付く。
私はふと、嫌な予感を覚える。
そしてそのまま手に持っているインターネット端末でこの付近の情報を調べる。
里連くんは高校生だ。
もしやと思い『高校生』『死亡』『交差点』そして町の名前を入れて検索する。
「きた」
私は有益な情報が得られた事で、無意識に声を張り上げた。
「香果さん、詳しくは無いけれどこんな情報があったよ」
「見せてくれるかい」
「俺にも見せ給え」
私は二人に聞こえるようにニュース記事を読む。
「えっと『高校生、交差点で事故。運転士は軽症。高校生(男)は死亡が確認されている』このくらいの内容だけれど」
「すごいなヤクモ。褒めてやろう」
新しい玩具を発見したのか、月詠さんは愉快に溌剌としている。
まぁ、その新しい玩具と云うのは私なのだろう。
藤華さんは依頼をこなすつもりになったのか、やっと人間の姿になった。
しかし目が眠そうに垂れていた。
「里蓮くんは何かこの情報から思い出したことは無いかい」
香果さんが静かに微笑みながら問う。
「事故、ジコ、じこ。何でしょう。あと少しこう、何と言うか、突っかかりが欲しいです」
彼は「すみません」と謝った。
「ん、何だ。何も謝るようなことはしていないじゃないか」
月詠さんは不思議そうに彼を見つめる。
「いや、でも、その、こんなにも皆さんに迷惑かけていますし」
「里蓮君、聴いてくれるかい」
香果さんはいつの様なふんわりとした雰囲気はなく、厳かでありながらも優しい、仏の様な雰囲気を纏っていた。
「里蓮君、これは先ほども言ったが、私がしたい事なのだよ。だから、君は全く気に病む必要は無い。寧ろ沢山頼ってくれる方が嬉しいのだよ」
「そうでさ、癖で謝るってんなら、ごめんやスミマセンをありがとうに変えるんでさあ。毎回謝ってばかりじゃ、感謝は伝わんないでっせ。それこそ、そこに居る月の旦那くらい図々しくっても良いとは思うんですがね」
眠そうな目をした青年は、金髪男性の吸い込まれるほど美しい瞳に目線を刺した。
「おお、藤華が俺を褒めるとは。やっと俺の偉大さがわかったか」
「まぁ、ここまで態度がでかくなるってのも考え物ですがね」
藤華さんは月詠さんにわざと聞こえる様に呟く。
「藤華、それは感心しないぞ」
そう言うと二人の売り喧嘩に買い喧嘩が始まった。
私達三人は子供の喧嘩を見守る母親の様になっていた。
「だからね、里蓮君。あの二人が言うように、何もしていない時は謝らなくても良いのだよ。君が思っている以上に周りはそれ程気にしていないよ。もし癖だというのならゆっくりと藤華の言っていた様に、感謝の言葉に換えていったらどうかい。それに卑屈なままだと窮屈だからね」
そう言って香果さんは天使の様に笑った。
「こら、二人ともそこまでだよ」
香果さんが二人を宥める。
すると、遠くから人影が近づいてきた。
「香果さん、あの人に話しを聞いてみるのはどうかな。地域の人だったら何か知っているかもしれないし」
「そうだね。八雲君、素晴らしい提案だね」
「旦那が良いならかまいやせんがね」
「流石だ、ヤクモ。俺もヤクモの意見に賛成だ」
そう云うことで私達はその通行人に話しを聞く事にした。
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