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第三話 愉快でハイカラな神様
愉快でハイカラな神様 肆
しおりを挟む拝殿の前で月詠さんとそんな話をしていると、輪郭がはっきりしない人が拝殿へとやって来た。
薄い影のような見た目に、目を凝らして辛うじて見える表情。
誰が見ても浮世のものではないと解る、得体の知れない雰囲気。
「アヤカシ」
私はそう呟く。
この町に初めて来た時に出会った、あの少女によく似ている。
青年を見つめていると彼は優しく微笑んだ。
影になっている顔から何とか見える表情は、穏やかなものだった。
「僕を成仏させてください」
そう言うかと思うと、青年は先程の穏やかな表情と一変した真剣な表情に変った。
「ここにこの神社の神主さんはいらっしゃいませんか」
「この神社の神主は私だけれど」
香果さんはにこりと安心させるように微笑むと、彼にゆっくり近づいた。
「ここの神社の神主さんなら僕を成仏させてくれると聞きました。お願いします。僕を成仏させてください」
アヤカシの青年は懇願する。
香果さんは青年の気迫に押されたのか、口に手を添えて困ったように笑う。
「君の希望に副えるか解らないけれど、話してくれるかい」
「はい。ありがとうございます」
「コーカだけズルイぞ。俺もお供させ給え」
月詠さんは「異論は認めんぞ」とでも言うように声を張って言った。
「だって、留守番はつまらないじゃないか」とでも言いたげな表情だ。
それを聞いた藤華さん退屈そうに伸びをしながら云う。
「月の旦那が行くんでしたらオレも行かなきゃじゃねぇですかい」
そしてまだ寝足り無いのか、大きな欠伸をしながら「月の旦那に香果の旦那を任せたら心配で、猫のオレですらビクビクして寝りゃせんですからね」と気だるげに言った。
「別に待っていても良いのだぞ」
月詠さんは面白く無さそうに反論する。
「月の旦那には監視ってもんがひつようでさぁ」
藤華さんは、月詠さんを獲物でも狩るのかと思う程の鋭い力で睨んだ。
「こらこら。二人とも」
香果さんが手馴れた手付きで二人を宥める。
香果さんに宥められた二人は、不満そうに休戦協定を結ぶ。
「八雲君も一緒に手伝ってくれるかい。少し今回は大変そうでね」
香果さんはそう言って藤華さんと月詠さんにチラリと目線を向ける。
「確かに」
この二人の面倒を見ながら、アヤカシの青年の依頼もこなさなければならない。
いくら香果さんでも、重労働だろう。
想像力が無くても厭に解るほど明白なものだった。
「僕なんかで良いなら」
「なんかじゃないと、さっきから言っているだろう」
月詠さんがひょっこりと口を挟む。
「そうだね。八雲君にはいつも助けて貰っているからね」
香果さんはいつもの様に、口に手を添えて笑った。
「いつもありがとう、八雲君。助かるよ」
香果さんは聖母の様に微笑む。
そして青年と私達に向かって言った。
「立ち話も何だし、そこに腰を掛けて話してくれるかい。好ければお茶でも飲みながら」
そう言って温かな春陽の差す床机台を勧めた。
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