アヤカシ町雨月神社

藤宮舞美

文字の大きさ
上 下
16 / 48
第二話  マヨヒゴの座敷童

マヨヒゴの座敷童 参

しおりを挟む
 座敷童は、真っ赤な和服を着ていた。
 また顔から髪型、雰囲気まで彼女の全てが市松人形にそっくりだった。
 私は、神池を出て直ぐに気になっている事を香果さんに訊く。
「香果さん、座敷童を探すと言っていたけど、座敷童ってこの子じゃないの」
「座敷童は、二人居るのだよ。双子の姉と妹が。この子は妹で、今私たちが探しているのは姉の方なのだよ」
「成る程」
「お姉ちゃんは、こんな感じだよ」
 座敷童はそう言って手を広げて、ゆっくり回った。
 座敷童は、全身を見れば見るほど、市松人形にそっくりだった。
「お姉ちゃんは、私より少し大きいの。髪も私より少し長くて服は黒だよ」
 彼女と似ているなら探しやすい。双子なのだそうから、似ているのは当然といえば当然か。
「どうして逸れちゃったの」
「お姉ちゃんが、お菓子買ってくるから待っていて、って言っていたから私、半刻くらい待っていたの。でも帰って来ないから心配でお姉ちゃんが行った所で捜したんだけど居なくて」
 少女は縋る様に小さな声で言う。
「もしかしたら、此処に戻っているかなと思って戻って来たんだけど、やっぱり、い、居なくて。それで」
 彼女の目に涙が浮んだ。
 香果さんは「心配しなくても大丈夫だよ。今は私達も付いているから」と優しくあやす。
「お姉ちゃんが何処に行ったか、私達に教えてくれるかい」
「こっち」と座敷童は香果さんの手を、クイッと引張った。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん。何処に居るの」
 鳴きそうな声で少し震えながら言った。
「早く、早く」
 座敷童は一の鳥居を入ってすぐの露店がひしめき合う処に来た。
私達は姉の座敷童を探すため手前の露店から、手掛かりが無いか聞き込みをしていた。
「この座敷童の姉は知りやせんか」
「さぁ、すみません。分からないです」
 藤華さんは、けだるそうに帰ってきた。
「駄目でさぁ。全く情報がありやせんね」
 何店も回っても情報は全く無かった。
 しかし、まだ露店は何店もある。
 希望を捨てるには、まだ早い。
「しかし、これでは…」
 香果さんは、片手で顎を軽く覆って、考えていた。
如何どうしようか、八雲君何か良い考えはあるかい。藤華も何かあれば…」
 香果さんは、藤華さんを見て何かを思い付いたのか口角を上げた。
 藤華さんはそれを見ると何か察したのか苦いものを噛んだ様な表情をした。
「藤華、彼女のお姉ちゃんを」
「へいへい。旦那の頼みとありゃオレは何でも致しやしすぜ」
 藤華さんは香果さんが言い切る前に二つ返事をした。
 そして彼は、あっという間に黒猫になり何、処かへ行ってしまった。
 何処に行ってしまったのだろうか、そう訊こうと私は香果さんの方を見た。
「さて、私達も藤華に負けない様に頑張らなくてはいけないね」
 香果さんはこぶしを握り、キリッと気合を入れた。
 きっと藤華さんが何処に行ったか聞くのは野暮なのだろう。
 そう思わせる程、彼の目はしっかりと前を見ていた。
「八雲君。見ての通り、ここの露店は数が多いのだよ」
 確かにここの露店の数は多い。
 ぱっと見ただけで百、二百はあるだろうか。
 実際はそこまで無いのかも知れない。だが一軒、一軒調べるとなると一日はかかりそうだ。
「だからね、八雲君。座敷童ちゃんの二人組みになって、聞き込みをしてくれるかい。私は一人で聞き込みをしてくるから」
 香果さんはそう言うと「私の方は任せてくれるかい」と悪戯っ子の様に片目を軽く閉じた。
 私達は香果さんの提案に乗った。
 二組に分かれてもきっと時間はかなり掛かるだろう。
 それに加えて、私はまだ神社の地理や妖怪の名前が分かる訳ではないのだ。
 しかし、おろおろしていても仕方が無い。
 私は妹の座敷童と一緒に、露店の人から姉の座敷童の聞き込みを始めたのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...