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第二話 マヨヒゴの座敷童
マヨヒゴの座敷童 貳
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楼門を出て少し歩いた池があった。
池はとても大きく、水は透き通っていた。
ゆらゆらと、春の陽を反射して少し眩しい。
錦鯉や桜の花弁がゆったりと、優雅に泳いでいる。
池の近くに説明の看板が立っていた。
「えっと、この池は『水月神池』と云う。この池は……」
「その名の通り水月が美しいがためにそう名付けられた、のだよ」
「水月かぁ。見てみたいかも」
水月神池と云うくらいならさぞかし美しい水月なのだろう。
月が好きなので興味がある。
「いやいや、やめた方がいいですぜ八雲さん。ここら辺の夜は百鬼夜行ですぜ」
藤華さんは悪戯好きの笑みを浮かべながら言った。
「うぁぁ僕のテンション下げないでよ」
「では、私と一緒になら如何かい。私も最近、この池の水月を見ていないから」
「うん、付き添いをお願いするよ」
「香果さん、あれは?」
私はふと、池の真ん中にある島を見る。
島まで行くための橋の前に鳥居が建っていた。
「通ってからのお楽しみだよ」と人差し指を唇に近づけ片目を閉じる。
私は、香果に言われるがまま鳥居を潜った。
鳥居を抜けると目を疑った。
其処には、何千本もの桜が咲き誇っていた。
鳥居を潜る前は、何も無かった筈なのに。
夢でも見ている気分だ。
「うわ。桜が満開だぁ。綺麗」
「如何でさぁ、八雲さん」
「知らなかったよ。こんな桜が綺麗な所が在るなんて。良い場所だね」
「八雲君、君に気に入って貰えて何よりだよ」
見渡す限り満開の桜に見惚れていた。
今日は麗らかな、春の日だった。
快い春風が、木の枝に触れて、花弁を空に舞わせる。
風は桜の花弁と同時に、甘く、爽やかな香りを空に香らせる。
美しい緑の鶯が、か細い桜の枝に止まった。
ホー、ホケキョ。ホケキョ。ホーホケキョ。
のどかな春の光が、桜や鶯を優しく照らす。
桜源郷とでも云うべきか。
ここに咲いている桜は浮世離れした美しさだ。
まぁ、実際に浮世離れしているのだが。
「八雲君。此処は季節の草木が見られるのだよ。桜が終れば、奥の藤や躑躅が美しいのだよ。考え事や歌を詠むときなどにお勧めだよ」
「歌は詠まないけど、本を読むときとか良いかも」
私は、この桜に何か違和感を覚えた。
何時も見ている桜とは違い、枝には花と葉で一緒に飾られている。
「あ、そうだ。香果さん。此処の桜の花って、染井吉野ではないの。何かいつも見ていた桜と色が違うなって」
「嗚呼、此処に咲いているのは、山桜だよ。染井吉野はこの山桜の奥に咲いているのだよ。良かったら今度、そこも案内するよ」
「うん。お願いしたいな」
美しく咲き誇る染井吉野もさぞ綺麗なことだろう。
私は、花見が非常に楽しみになった。
「八重桜や枝垂桜、冬桜など旦那は色々な種類の桜を育てているんでさぁ。時期になりゃそりゃぁこの世の物じゃねぇくらい綺麗なんでさぁ」
「まぁ、実際にこの世ではないないしね」
「比喩ってもんでさぁ。全く八雲さんは情緒にかける」
藤華さんはそう言って、プイっと顔を明後日の方向に向けた。
あ、これは猫がよくやる拗ねていますよアピールだ。
まぁ、彼の真の姿は猫だから無理も無い。
「そうだ。そこの休憩所で、桜を見ながら甘味でも戴こうか」
香果さんは、そう言って、よく公園に在る様な屋根付きの休憩場を指で示した。
「家でゆっくりと食べるのも良いけど、こう云う処で食べるお菓子は、何か特別な感じがするなぁ」
私たちは、休憩所で桜を見ながら、甘味を食す事になった。
私たちは、甘味を食べるために、休憩所のベンチまで歩いてきた。
すると其処には、和服を着たおかっぱの女の子が泣いている。
「如何したのかい。座敷童ちゃん」
「香果さん?」
座敷童と呼ばれた女の子は、顔をこちらに上げる。
きっとずっと泣いていたのだろう。目が赤く腫れている。
「香果さん、私、あの子と別れちゃったの」
座敷童は、涙を流しながら言った。
香果さんは、座敷童を優しく宥める。
「大丈夫だよ」と優しく頭を撫でていた。
「大丈夫だよ。私と一緒に彼女を捜そうか」
「うん」
「はい、これをお食べ」
香果さんは、ニッコリと笑う。
そして饅頭を座敷童にあげた。
「美味しい! 香果さん有難う」
私は座敷童が笑顔になって良かったと思った。
「おにーちゃん。何で笑っているの」
「嗚呼、彼がお饅頭を買ってきてくれたのだよ」
「おにーちゃん、おにーちゃん。有難う」
「あ、うん。どういたしまして」
香果さんは、座敷童に手を差し伸べた。
彼は座敷童を安心させる様に、優しく微笑む。
「では、座敷童ちゃんを捜しに行こうか」
座敷童は、香果さんの手を取った。
「うん」
座敷童は元気良く返事をした。
「八雲君、お花見を藤華と先にしていてくれるかい。私は少し、座敷童ちゃんを捜してくるね」
「香果さん、僕も手伝えることって無いかな」
私はあまり香果さんの力になれないが、それでも少しでも役に立ちたかった。
また、妖怪と云えど幼い座敷童をほっとけない。
「八雲君、君は優しいね」
「旦那、八雲さんの言う通りでさぁ。オレも旦那の為に一肌脱ぎますぜ」
「あい、有難う。では、二人とも、世話になるよ」
そう言って私たちは、一度神池を出ることになった。
池はとても大きく、水は透き通っていた。
ゆらゆらと、春の陽を反射して少し眩しい。
錦鯉や桜の花弁がゆったりと、優雅に泳いでいる。
池の近くに説明の看板が立っていた。
「えっと、この池は『水月神池』と云う。この池は……」
「その名の通り水月が美しいがためにそう名付けられた、のだよ」
「水月かぁ。見てみたいかも」
水月神池と云うくらいならさぞかし美しい水月なのだろう。
月が好きなので興味がある。
「いやいや、やめた方がいいですぜ八雲さん。ここら辺の夜は百鬼夜行ですぜ」
藤華さんは悪戯好きの笑みを浮かべながら言った。
「うぁぁ僕のテンション下げないでよ」
「では、私と一緒になら如何かい。私も最近、この池の水月を見ていないから」
「うん、付き添いをお願いするよ」
「香果さん、あれは?」
私はふと、池の真ん中にある島を見る。
島まで行くための橋の前に鳥居が建っていた。
「通ってからのお楽しみだよ」と人差し指を唇に近づけ片目を閉じる。
私は、香果に言われるがまま鳥居を潜った。
鳥居を抜けると目を疑った。
其処には、何千本もの桜が咲き誇っていた。
鳥居を潜る前は、何も無かった筈なのに。
夢でも見ている気分だ。
「うわ。桜が満開だぁ。綺麗」
「如何でさぁ、八雲さん」
「知らなかったよ。こんな桜が綺麗な所が在るなんて。良い場所だね」
「八雲君、君に気に入って貰えて何よりだよ」
見渡す限り満開の桜に見惚れていた。
今日は麗らかな、春の日だった。
快い春風が、木の枝に触れて、花弁を空に舞わせる。
風は桜の花弁と同時に、甘く、爽やかな香りを空に香らせる。
美しい緑の鶯が、か細い桜の枝に止まった。
ホー、ホケキョ。ホケキョ。ホーホケキョ。
のどかな春の光が、桜や鶯を優しく照らす。
桜源郷とでも云うべきか。
ここに咲いている桜は浮世離れした美しさだ。
まぁ、実際に浮世離れしているのだが。
「八雲君。此処は季節の草木が見られるのだよ。桜が終れば、奥の藤や躑躅が美しいのだよ。考え事や歌を詠むときなどにお勧めだよ」
「歌は詠まないけど、本を読むときとか良いかも」
私は、この桜に何か違和感を覚えた。
何時も見ている桜とは違い、枝には花と葉で一緒に飾られている。
「あ、そうだ。香果さん。此処の桜の花って、染井吉野ではないの。何かいつも見ていた桜と色が違うなって」
「嗚呼、此処に咲いているのは、山桜だよ。染井吉野はこの山桜の奥に咲いているのだよ。良かったら今度、そこも案内するよ」
「うん。お願いしたいな」
美しく咲き誇る染井吉野もさぞ綺麗なことだろう。
私は、花見が非常に楽しみになった。
「八重桜や枝垂桜、冬桜など旦那は色々な種類の桜を育てているんでさぁ。時期になりゃそりゃぁこの世の物じゃねぇくらい綺麗なんでさぁ」
「まぁ、実際にこの世ではないないしね」
「比喩ってもんでさぁ。全く八雲さんは情緒にかける」
藤華さんはそう言って、プイっと顔を明後日の方向に向けた。
あ、これは猫がよくやる拗ねていますよアピールだ。
まぁ、彼の真の姿は猫だから無理も無い。
「そうだ。そこの休憩所で、桜を見ながら甘味でも戴こうか」
香果さんは、そう言って、よく公園に在る様な屋根付きの休憩場を指で示した。
「家でゆっくりと食べるのも良いけど、こう云う処で食べるお菓子は、何か特別な感じがするなぁ」
私たちは、休憩所で桜を見ながら、甘味を食す事になった。
私たちは、甘味を食べるために、休憩所のベンチまで歩いてきた。
すると其処には、和服を着たおかっぱの女の子が泣いている。
「如何したのかい。座敷童ちゃん」
「香果さん?」
座敷童と呼ばれた女の子は、顔をこちらに上げる。
きっとずっと泣いていたのだろう。目が赤く腫れている。
「香果さん、私、あの子と別れちゃったの」
座敷童は、涙を流しながら言った。
香果さんは、座敷童を優しく宥める。
「大丈夫だよ」と優しく頭を撫でていた。
「大丈夫だよ。私と一緒に彼女を捜そうか」
「うん」
「はい、これをお食べ」
香果さんは、ニッコリと笑う。
そして饅頭を座敷童にあげた。
「美味しい! 香果さん有難う」
私は座敷童が笑顔になって良かったと思った。
「おにーちゃん。何で笑っているの」
「嗚呼、彼がお饅頭を買ってきてくれたのだよ」
「おにーちゃん、おにーちゃん。有難う」
「あ、うん。どういたしまして」
香果さんは、座敷童に手を差し伸べた。
彼は座敷童を安心させる様に、優しく微笑む。
「では、座敷童ちゃんを捜しに行こうか」
座敷童は、香果さんの手を取った。
「うん」
座敷童は元気良く返事をした。
「八雲君、お花見を藤華と先にしていてくれるかい。私は少し、座敷童ちゃんを捜してくるね」
「香果さん、僕も手伝えることって無いかな」
私はあまり香果さんの力になれないが、それでも少しでも役に立ちたかった。
また、妖怪と云えど幼い座敷童をほっとけない。
「八雲君、君は優しいね」
「旦那、八雲さんの言う通りでさぁ。オレも旦那の為に一肌脱ぎますぜ」
「あい、有難う。では、二人とも、世話になるよ」
そう言って私たちは、一度神池を出ることになった。
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