4 / 48
第一話 浮世の参拝者
浮世の参拝者 参
しおりを挟む「君は浮世の人間だよね。如何して此処に居るのかい」
「えぇと、すみません。自分でもよく解らないのです」
私は、ここに着た経緯を男性に事細かに説明した。
男性は相槌を打って聞いた後、少し驚いて私に優しく言った。
「此処は君の様な生きた人が、来て良い場所では無いのだよ。君は浮世で生きている人間だ。きっと君は此処に来るまでに多くの妖怪に遭ったのだろう。それで解ったとは思うが、此処は浮世ではないのだよ。君は今すぐ元の浮世に帰らなくてはいけない。私も君が無事に帰れるように協力するから。さぁ、今すぐ浮世に帰ろうか。私が君を浮世まで無事に帰すから」
男性は私に「おいで」と優しく云うと、一つ質問した。
「そう言えば此処で売っている物を食べたかい。露店とか、商店街とかで売っていた物や、誰かから貰った物はちと口だって食べていないよね」
男性は、真っ直ぐに私を見て言った。
露店のものは、何か違法な事でもしていたのか。それとも、引っ越してきたこの田舎は、参拝が終わるまで、何かを食べてはいけない、とかローカルなルールがあるのか。
どうして私が、何か食べてはいけないのだろうか。私には解らなかった。
「えっっと、その、ご、ごめんなさい。あ、あの食べました。綿菓子。その、お腹がすいてしまったので、つい」
彼は、少し驚いた顔をした。
そして顎を片手で軽く囲い、少し考えた。
それから、私を安心させる様に微笑み、言った。
「帰れと言ったけれど前言撤回。君が好ければ綿菓子の効果が切れるまで、私の家に泊まって欲しいのだけどそれでも良いかい。否ならアパートでも探すけど」
「な、なんでですか」
全てがいきなり過ぎて私には、全く理解できない。
「君は、常世の食べ物を食べてしまった。このまま君が浮世で生活すると、君は消滅してしまう訳だ。それに私には常世に迷い込んだ君を守る責任もあるからね」
「消滅? 浮世? ここはどこです? どういうことですか」
ここは『いつも私たちが生活しているところではない』という事なのか。
「嗚呼、ごめんね。いきなり過ぎたね。初めから説明するよ。君は、浮世の人間。つまり此岸、この世で生きている人間だ」
その通りである。私は今もしっかりと生きている。
身体の感覚だって足だってちゃんとある。
「しかし此処は『根の国』と云って君たちで云う『彼岸』あの世だね。まぁ、正確に云うと此処の根の国はまだ完璧な彼岸ではないのだけど」
「完璧な『彼岸』じゃないのなら」
「でもね、完璧な『此岸』でもないのだよ。あの世とこの世の間『常世』だよ」
何だか理性では解らないが、何となくではあるが本能的に解る気がする。
ここは人が来る所じゃないと。そんな厭な感じがする。
「じ、じゃあ、なぜ、此処で売っている物を食べて浮世に戻ると消滅してしまうのですか。す、すみません。質問ばかりで」
「いや、君は浮世の人間だから仕方がないよ。この様な町は人間には知られていない訳だからね。それに、君が謝るのではなく君を此処に迷い込ませてしまった。私が謝らないといけないね」
そう云って彼は頭を下げた。
「あ、いや、あの、頭を上げて下さい。その僕の過失に非がありますから。あと、えっとその、住むって何処にですか?」
彼は申し訳なさそうに微笑むと、根の国について、食べ物について話してくれた。
根の国とは、死者の国で先ほどの男性が言っていた様に彼岸と此岸との間にある国だそうだ。
お化けや妖怪も多く住んでいる。私がコスプレと思っていたのは本物の妖怪やお化けなのだそうだ。
実際に私が妖怪たちに触ったり、突っついたり、叩いたりして本物か確認しても良いと和服の男性は言ってくれた。尤も、妖怪やお化けたちに何かされるのではないかと思うと恐ろしいため確認などしたくは無いのだが。
それと、根の国の食べ物を食べると根の国の住民になってしまう。
そのため、浮世には長く居れなくなり常世に居なくてはならないそうだ。
そうしないと、根の国の食べ物を食べ浮世の住民ではなくなった私は常世から離れて浮世で生活をしているだけで、私の影や存在が少しずつ消えていきいずれ私の存在は消滅してしまうらしい。
私が根の国から離れても消滅しなくなる、即ち常世の食べ物の効果が切れるまでの約一年は、私はこの根の国に住まなくてはいけない事を話してくれた。
「それで、貴方の家に僕が居候させていただくと」
「まぁ、君が嫌なら無理強いはしないし、他のアパートを探すけれど。アヤカシや妖怪の中には人間が好きな者も、いるからな…」
人間が好きなアヤカシや妖怪。それは人間に好意を持っていると云う訳ではなく、好物的な意味合いだろう。アヤカシや妖怪が人間を食べると云う話はよく聞くことだ。
自分がアヤカシに食べられるところは安易に想像できる。
想像しなければ良かったと後悔して鳥肌が立ったことを気付かないふりをした。
「おや、如何したんだい。そんなに真っ青になって。大丈夫かい。嗚呼、私の家だと不安かな。もしくは、男だけの家は暑苦しくて厭だ、と言うことかな」
「あ、いや、その、そうでなくて。その、い、居候させてください。その、僕、食べられたくないです」
「じゃぁ、これから一年間よろしく頼むよ。さぁ、これから君の家になる、私の家に案内するね。ついてきてくれるかい」
そう云うと彼は私を自分の家に案内してくれた。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
あやかし学園
盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。
【完結】陰陽師は神様のお気に入り
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
キャラ文芸
平安の夜を騒がせる幽霊騒ぎ。陰陽師である真桜は、騒ぎの元凶を見極めようと夜の見回りに出る。式神を連れての夜歩きの果て、彼の目の前に現れたのは―――美人過ぎる神様だった。
非常識で自分勝手な神様と繰り広げる騒動が、次第に都を巻き込んでいく。
※注意:キスシーン(触れる程度)あります。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※「エブリスタ10/11新作セレクション」掲載作品
メメント・モリ
キジバト
キャラ文芸
人の魂を管理する、人ならざる者たち。
彼らは魂を発行し、時が来ると回収をする役を担っている。
高岡(タカオカ)は回収を担当とする新人管理者。彼女の配属された課は、回収部のなかでも特に変わった管理者ばかりだとされる「記録管理課」。
記録管理課における高岡の奮闘物語。
春花国の式神姫
石田空
キャラ文芸
春花国の藤花姫は、幼少期に呪われたことがきっかけで、成人と同時に出家が決まっていた。
ところが出家当日に突然体から魂が抜かれてしまい、式神に魂を移されてしまう。
「愛しておりますよ、姫様」
「人を拉致監禁したどの口でそれを言ってますか!?」
春花国で起こっている不可解な事象解決のため、急遽春花国の凄腕陰陽師の晦の式神として傍付きにされてしまった。
藤花姫の呪いの真相は?
この国で起こっている事象とは?
そしてこの変人陰陽師と出家決定姫に果たして恋が生まれるのか?
和風ファンタジー。
・サイトより転載になります。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~
菱沼あゆ
キャラ文芸
普通の甘いものではこの疲れは癒せないっ!
そんなことを考えながら、会社帰りの道を歩いていた壱花は、見たこともない駄菓子屋にたどり着く。
見るからに怪しい感じのその店は、あやかしと疲れたサラリーマンたちに愛されている駄菓子屋で、謎の狐面の男が経営していた。
駄菓子屋の店主をやる呪いにかかった社長、倫太郎とOL生活に疲れ果てた秘書、壱花のまったりあやかしライフ。
「駄菓子もあやかしも俺は嫌いだ」
「じゃあ、なんでこの店やってんですか、社長……」
「玖 安倍晴明の恩返し」完結しました。
【台本置き場】珠姫が紡(つむ)ぐ物語
珠姫
キャラ文芸
セリフ初心者の、珠姫が書いた声劇台本ばっかり載せております。
裏劇で使用する際は、報告などは要りません。
一人称・語尾改変は大丈夫です。
少しであればアドリブ改変なども大丈夫ですが、世界観が崩れるような大まかなセリフ改変は、しないで下さい。
著作権(ちょさくけん)フリーですが、自作しました!!などの扱いは厳禁(げんきん)です!!!
あくまで珠姫が書いたものを、配信や個人的にセリフ練習などで使ってほしい為です。
配信でご使用される場合は、もしよろしければ【Twitter@tamahime_1124】に、ご一報ください。
ライブ履歴など音源が残る場合なども同様です。
覗きに行かせて頂きたいと思っております。
特に規約(きやく)はあるようで無いものですが、例えば舞台など…劇の公演(有料)で使いたい場合や、配信での高額の収益(配信者にリアルマネー5000円くらいのバック)が出た場合は、少しご相談いただけますと幸いです。
無断での商用利用(しょうようりよう)は固くお断りいたします。
何卒よろしくお願い申し上げます!!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる