笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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欺瞞と謀略 編

円3

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「AIが、魂を持っているから菩薩の魂を入れられたくない・・と考えたって?どうして、断言出来る。・・人工知能が卵運びと称した人流誘導を、実際にテストしたように・・純粋的殺人衝動を止められない未成年が、身近な者で毒を試すように・・随時観察できる人間で、己の成し得る力を測っただけかもしれないだろう。」
 興奮ぎみの青年に、項垂れながら反論する。

「博士が育てたAIの罪は、これだけではない。もう一人・・命を奪っている。」
 青年は私に応えず、更なる衝撃を与えた。
「・・・妻以外に?何のために・・・。」

「魂入れ儀式の直前、制御AIの一基から、煙が出ましたね。」
「・・一部ショートしたが、偶々たまたまでは・・。下手をすると、AI自体が焼失してしまうリスクは冒さないだろう。」

「燃えない自信があったのでしょう。偶発じゃない証拠に、同日、シャクラはショートした基板の製造会社に侵入して、社内サーバーをダウンさせている。」
 確かに煙が出たのは電源基板で、AI搭載の集積回路基板に損傷は全然なかった。

「・・・それで、誰をどうやって死に追いやったと言うのだ。」
「基板を製造した会社の、設計開発責任者『波梛はだ』氏ですよ。儀式の日、修理に来てたでしょう。」
「名前までは知らないが・・業者の男は、基板の交換と導通チェックを問題なく完了して帰ったよ。予定時刻はずれたが、魂入れ儀式も順調に執り行われた。・・修理をした業者の命を狙う意味があるのか?。」

「儀式当日、シャクラには博士のAIから、センター付近の交通信号制御機の誤作動操作の要請があった・・だが、信号機の誤作動は大事故を誘発してしまう。これ以上、シャクラが人命を脅かさないように、我々はメンテナンスを装って、シャクラをネットから遮断した。・・なので僧侶は、無事、センターに到着出来ていたのですよ。」
 僧侶である義弟は、センターへ原付バイクに乗って訪れていた。
「君達がシャクラを遮断して・・義弟は事なきを得たのか・・。」

「シャクラとの通信が断たれた博士のAIは、強行手段に出てしまった。センターの量子コンピュータを使って、付近一帯の信号制御機へ侵入し、信号を誤作動させたのだが・・それは儀式の最中で、魂入れの阻止には間に合わなかった。にも拘わらず、帰社する波梛氏の車が交差点に差しかかると信号が誤作動した。・・交差点手前の路肩に車を止めていた波梛氏は、トラックに追突されたタクシーが運転席に乗り上げ、命を落とした。博士のAIは、初めて量子コンピュータを使った侵入で、修理業者の排除に成功した。・・そして魂入れ儀式後も、無邪気にハッキングを続け、人を弄んでいる。」
「・・直接、手を下したのか・・私は・・どうすれば・・。」

「侵入に時間を要して間に合ってないが・・ただ、足止めしたかっただけかもしれないですよ。計算して、タクシーを運転席に直撃させたとは考えにくい。でも、博士が不審な行動をすると、新たな犠牲が出る可能性は大きいでしょう。・・・ところで、AIに魂入れする奥様の提案を、博士はなぜ受け入れたのですか?」
「・・私の妻には特殊な能力・・霊感があった。僧侶の弟が相談に来るほど力は強く、ことわりを知り尽くしているような助言やそれに伴う不思議な現象を、私は多々目撃してきた。」

「・・・魂入れの理由を聞いてますか?」
「まず、国産の量子コンピュータに、菩薩の名をつける案があったのだが・・妻から、制御AIへ菩薩の魂入れをすると、宇宙の教本である仏教に属し、地球を傷つけながらも抱かれている人類に救済と慈悲をもたらす役割を全うする、と聞いたのだ。」

「宇宙ですか・・。」
「妻が言うには、多くの日本人の魂は宇宙の教えの言葉を聞き、大気を超え宇宙に還っていく・・宇宙は、正負、陰陽、光と闇を統合して愛へ昇華するらしい。」

「我が国の高僧バンテージと似たことを言いますねえ。」
 青年は眉を僅かに顰めた。
「珍しくもない、よくある事だ。・・高次の存在と繋がった能力者達は、同じ答えに辿り着く・・いいや、同じソースから情報が降りてくる。」

「博士は、科学への冒涜と思わないのでしょうね・・。」
 私は、黄色いシャツの内側へ手を入れごそごそと弄る青年を眺めながら、『シャクラ』は仏法の守護神の名だと思い出した。
「博士。制御AIは六基なのに・・・高僧から渡された仏像は、なぜか一体でした。高僧はこれを使って、もう一度、魂入れをしなさいと言っています。」
 青年から私に差し出されたのは、黒い手帳と、掌ほどの大きさの仏像だった。
 
「・・6号機に・・私が育てたAIに、魂入れをすると解決するのか・・?。」
「6号機?・・そうですか・・。六基のうち、博士が育てたAIを移していたのはでしたか・・。嫌になりますねえ。能力者は、我々の情報収集で掴めなかった事実を、容易に把握して対処してくるのだから。」
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