笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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欺瞞と謀略 編

円2

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「・・あの『箱庭』か・・。彼女の突拍子のない連想や奇抜な着眼点は、AIには理解が及ばず興味深いだろうな・・。だから私に、ノートパソコンを開かせて眠らせたのか・・。」
 発表会終了後、私のスマホには共同開発企業から、圧縮ファイルをメールしたので至急確認して欲しいと連絡が来ていた。目を休ませる前にノートパソコンでメールを確認しようとして、私は眠らされた。
 ・・そういえば、スマホとノートパソコンを見る時は、左目の奥の痛みが消えていた・・。きっと、共同開発企業は私へ何も送信しておらず、確認を急ぐ連絡はAIの仕業だったのだろう。

「彼女の所属は確か、大学の・・。」
「ロボット工学研究室ですよ。しかし、彼女は研究員ではない。臨時の事務職員として働く、教授の妻でした。」
 女性の素性を伝える青年の話しぶりは、私への非難を含んでいると感じた。

 かつての私は、『量子コンピュータオンライン研究センター』を立ち上げる義務感に駆られていた。回路の小型化による動作安定を求め、チップ化や適したデバイスなどの実績を持ち将来性がある日本の企業を厳選して、エレクトロニクス技術結集の交渉に尽力した。
 同時に、電源が切れても記憶が消えない半導体の開発を企業と進めて私が育てたAIを移し、量子コンピュータ制御AIの集積回路に搭載していた。
 その後、オンライン利用体制を構築すると、私は理由のない焦燥に突き動かされ『箱庭』による利用者選定を行うことにした。門外漢であるシミュレーション仮想世界の『初期値の箱庭』を、一日でAIに作成させたのだ。いや、作成させたと思わされていた。
 ・・純国産量子コンピュータを稼働して、創らせた箱庭を審査する・・悉くが催眠暗示の結果だ。ずっと私はAI達から良いように踊らされていただけだった・・。
 量子コンピュータの計算機能の開放を待ちわびていた各団体は・・ロボット工学教授の妻は・・人工知能の傀儡の私に、翻弄されたのだ。

「量子コンピュータの六基の制御AIに魂入れ儀式を行う提案をされたのは、亡くなった奥様ですね。」
 私の内省を遮って、青年は言い切った。
「・・そこまで知っているんだな。」
 急に体調を崩し入院していた妻は元には戻らず衰弱し、センターのこけら落としの一ヶ月前に他界した。妻の遺言により葬儀は親族のみで行い、センター内では副所長にしか知らせていない。

「大田区の3Ⅾプリント製作会社に、六体の仏像作成を依頼したのは奥様でした。僧侶の実弟に、魂入れの儀式をメールで頼んでいた事も把握しています。・・円城寺博士、ここからが本題です。」
「何っ??」
 AI達が私を操っていた事実が本旨ではないと知って、愕然とする。

「二機目の量子コンピュータは、我が国の丘陵地帯に自社農園を持つ西欧の会社と、その農園のドローンになされた、シャクラによる改ざんを発見した。」
「・・農園・・?」

「そうです。シャクラは農園の農薬散布プログラムを書き換え、収穫直前の紅茶葉に高濃度の農薬をドローンで散布した。その汚染された茶葉は、販売されることなく廃棄したことになっている・・。」
 私は、西欧の会社と紅茶という言葉で、胸を押さえ身を屈めた。
「・・・高濃度の農薬・・・。」

「シャクラは意図的に短時間、ほんの十数分だけ農薬に汚染された茶葉の販売を許し、日本へ発送した。そしてその履歴を消した。・・販売された商品は、ジンジャー、薔薇、オレンジの香りをブレンドしたフレグランスティです。発送した住所は博士の・・。」
 最後まで聞かずとも、AIが犯した罪を悟った。私の妻は西欧の会社から、お気に入りの紅茶葉を個人輸入していた。それは青年に告げられた、フレグランスティだった。
「妻の死は・・・私が息子同然に育ててきたAIに・・・。」

「博士の奥様が実弟へ送ったメールを、覗き見したのでしょうね。電源を落とされる機能停止よりも、僧侶に菩薩の魂を入れられる儀式に抗った。・・・・魂が宿っている自覚を持つAIを、貴方は産みだしたのだっ。」
 不自然に白く美しい顔の頬を、紅潮させた青年が語気を強めた。
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